集積点
距離空間\(\left( X,d\right) \)が与えられているものとします。つまり、\(X\)は非空集合であるとともに、距離関数\(d:X\times X\rightarrow \mathbb{R} \)が以下の4つの公理\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \forall x,y\in X:d\left( x,y\right) \geq 0 \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall x,y\in X:\left[ d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y\right] \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall x,y\in X:d(x,y)=d\left( y,x\right) \\
&&\left( M_{4}\right) \ \forall x,y,z\in X:d\left( x,z\right) \leq d\left(
x,y\right) +d\left( y,z\right)
\end{eqnarray*}を満たすということです。
距離空間の点\(a\in X\)と正の実数\(\varepsilon >0\)をそれぞれ任意に選んだとき、点\(a\)を中心とする半径\(\varepsilon \)の近傍とは、点\(a\)からの距離が\(\varepsilon \)よりも小さい場所にある\(X\)の点からなる集合\begin{equation*}N_{\varepsilon }\left( a\right) =\left\{ x\in X\ |\ d\left( x,a\right)
<\varepsilon \right\}
\end{equation*}です。距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が与えられたとき、点\(a\in X\)の任意の近傍が\(a\)とは異なる\(A\)の要素を持つ場合には、すなわち、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap \left(
A\backslash \left\{ a\right\} \right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立つならば、\(a\)を\(A\)の集積点(accumulation point)や極限点(limit point)などと呼びます。つまり、点\(a\)が集合\(A\)の集積点であることとは、点\(a\)からいくらでも近い場所に\(a\)とは異なる\(A\)の点が必ず存在することを意味します。上の定義において、点\(a\)は\(A\)の要素であるとまでは指定されていません。つまり、\(A\)の集積点は\(A\)の要素である場合とそうではない場合の両方が起こり得るということです。
逆に、点\(a\in X\)が集合\(A\)の集積点でないこととは、\begin{equation*}\exists \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap \left(
A\backslash \left\{ a\right\} \right) =\phi
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、点\(a\)が集合\(A\)の集積点でないこととは、点\(a\)から十分近い場所に\(a\)とは異なる\(A\)の点が存在しないことを意味します。
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)のすべての集積点からなる集合を\(A\)の導集合(derived set)と呼び、\begin{equation*}A^{d}
\end{equation*}で表記します。定義より、任意の点\(x\in X\)に対して、以下の関係\begin{equation*}x\in A^{d}\Leftrightarrow \forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon }(x)\cap
\left( A\backslash \{x\}\right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立ちます。
集合\(A\subset X\)の集積点\(a\in A^{d}\)が与えられたとき、定義より、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap \left(
A\backslash \left\{ a\right\} \right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立ちます。\(A\backslash\left\{ a\right\} \subset A\)であることを踏まえると、このとき、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap A\not=\phi
\end{equation*}もまた明らかに成り立ちますが、これは点\(a\)が集合\(A\)の触点であることの定義に他なりません。つまり、\(a\in A^{a}\)です。ただし、\(A^{a}\)は集合\(A\)の閉包です。以上より、\begin{equation*}A^{d}\subset A^{a}
\end{equation*}であることが明らかになりました。集合\(A\)の集積点は必ず\(A\)の触点であるということです。さらに、触点は内点もしくは境界点であるため、すなわち、\begin{equation*}A^{a}=A^{i}\cup A^{f}
\end{equation*}が成り立つため、\begin{equation*}
A^{d}\subset A^{i}\cup A^{f}
\end{equation*}を得ます。ただし、\(A^{i}\)は\(A\)の内部であり、\(A^{f}\)は\(A\)の境界です。集合\(A\)の集積点は必ず\(A\)の内部または境界点であるということです。
結論をまとめると以下の命題を得ます。
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(A^{d}\)は\(A\)の導集合であり、\(A^{a}\)は\(A\)の閉包であり、\(A^{i}\)は\(A\)の内部であり、\(A^{f}\)は\(A\)の境界である。
以上の命題より、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)の集積点は\(A\)の内点または境界点のどちらか一方であることが明らかになりました。では、逆の主張は成り立つでしょうか。つまり、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)の内点や境界点は集積点であると結論付けることはできるでしょうか。順番に考えます。
絶対値にもとづく通常の距離を導入した実数空間において、部分集合の内点は集積点でもあります。
\end{equation*}と定めるものとする。\(\mathbb{R} \)の任意の部分集合\(A\)に対して、\begin{equation*}A^{i}\subset A^{d}
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(A^{d}\)は\(A\)の導集合であり、\(A^{i}\)は\(A\)の内部である。
ユークリッド空間においても同様の主張が成り立ちます。
x_{i}-y_{i}\right) ^{2}}
\end{equation*}と定める。\(\mathbb{R} ^{n}\)の任意の部分集合\(A\)に対して、\begin{equation*}A^{i}\subset A^{d}
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(A^{d}\)は\(A\)の導集合であり、\(A^{i}\)は\(A\)の内部である。
一般には、距離空間の部分集合の内点は集積点であるとは限りません。以下の例より明らかです。
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ x=y\right) \\
1 & \left( if\ x\not=y\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}と定めます。非空の部分集合\(A\subset X\)を任意に選んだとき、その内部は、\begin{equation*}A^{i}=A
\end{equation*}です。したがって、\(A\)上のすべての点が\(A\)の内点です。そこで、点\(a\in A\)を任意に選びます。先の議論より\(a\)は\(A\)の内点です。その一方で、半径が\(\varepsilon =\frac{1}{2}\)であるような点\(a\)の近傍に注目したとき、\begin{eqnarray*}N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap \left( A\backslash \left\{ a\right\}
\right) &=&N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap \left( A\backslash \left\{
a\right\} \right) \quad \because \varepsilon =\frac{1}{2} \\
&=&\left\{ a\right\} \cap \left( A\backslash \left\{ a\right\} \right) \quad
\because d\text{の定義} \\
&=&\phi
\end{eqnarray*}となるため、\(a\)は\(A\)の集積点ではありません。
以上より、距離空間の部分集合の内点は集積点であるとは限らないことが明らかになりました。境界点についても同様です。つまり、距離空間の部分集合の境界点は集積点であるとは限りません。以下の例より明らかです。
\end{equation*}と定めます。実数\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、それだけを要素として持つ\(\mathbb{R} \)の部分集合\begin{equation*}\left\{ a\right\}
\end{equation*}をとります。半径\(\varepsilon>0\)を任意に選んだとき点\(a\)を中心とする近傍\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)は\(a\)を要素として持つため\(\left\{ a\right\} \)と交わります。同時に、\(\varepsilon >0\)であることから\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)は\(\mathbb{R} \backslash \left\{ a\right\} \)とも交わります。したがって点\(a\)は\(\left\{ a\right\} \)の境界点です。その一方で、\(\left\{ a\right\} \)は\(a\)以外の要素を持たないため、\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)は\(a\)とは異なる\(\left\{ a\right\} \)の点を要素として持ちません。したがって\(a\)は\(\left\{ a\right\} \)の集積点ではありません。
ただし、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)の境界点が\(A\)の要素ではない場合には、\(A\)の集積点になることが保証されます。
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(A^{d}\)は\(A\)の導集合であり、\(A^{f}\)は\(A\)の境界点である。
これまでの議論を整理しましょう。距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が与えられたとき、\(A\)の集積点は\(A\)の内点または境界点になることが保証されるため、集積点を探す際には内点と境界点だけを候補とすることができます。その一方で、\(A\)の内点や境界点は\(A\)の集積点であるとは限りません。ただし、\(A\)の要素ではない\(A\)の境界点は\(A\)の集積点になることが保証されます。したがって、\(X\)の部分集合\(A\)のすべての集積点を特定する上で以下の指針が役に立ちます。
- \(A\)の内点は\(A\)の集積点である場合とそうではない場合がある。
- \(A\)の要素である\(A\)の境界点は\(A\)の集積点である場合とそうでない場合がある。
- \(A\)の要素ではない\(A\)の境界点はいずれも\(A\)の集積点である。
- それ以外には\(A\)の集積点は存在しない。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な開区間\begin{equation*}\left( a,b\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a<x<b\right\}
\end{equation*}を定義します。導集合は、\begin{equation*}
\left( a,d\right) ^{d}=\left[ a,d\right] \end{equation*}となります(演習問題)。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な閉区間\begin{equation*}\left[ a,b\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}を定義します。導集合は、\begin{equation*}
\left[ a,b\right] ^{d}=\left[ a,d\right] \end{equation*}となります(演習問題)。
\end{equation*}と定めます。実数空間\(\mathbb{R} \)の導集合は、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{d}=\mathbb{R} \end{equation*}となります(演習問題)。
\end{equation*}と定めます。実数空間\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が、\begin{eqnarray*}A &=&\left\{ \pm \frac{1}{n}\ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \\
&=&\left\{ -1,-\frac{1}{2},-\frac{1}{3},\cdots ,\frac{1}{3},\frac{1}{2},1\right\}
\end{eqnarray*}で与えられているとき、導集合は、\begin{equation*}
A^{d}=\left\{ 0\right\}
\end{equation*}となります(演習問題)。これは\(A\)の集積点が\(A\)の点ではない例です。
\end{equation*}と定めます。実数空間\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が、\begin{eqnarray*}A &=&\left\{ \pm \frac{1}{n}\ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \cup \left\{ 0\right\} \\
&=&\left\{ -1,-\frac{1}{2},-\frac{1}{3},\cdots ,0,\cdots ,\frac{1}{3},\frac{1}{2},1\right\}
\end{eqnarray*}で与えられているとき、導集合は、\begin{equation*}
A^{d}=\left\{ 0\right\}
\end{equation*}となります(演習問題)。これは\(A\)の集積点が\(A\)の点である例です。
\end{equation*}が成り立ちます(演習問題)。
点列を用いた集積点の定義
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が与えられたとき、点\(a\in X\)が\(A\)の集積点であることを判定する方法としては、集積点の定義にもとづいて確認する方法や、先の指針にもとづいて確認する方法などがあります。ただ、集積点は点列の極限を用いて表現することもでき、そちらの定義を利用した方が集積点であることを容易に判定できる場合があります。順を追って説明します。
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)と点\(a\in X\)をそれぞれ任意に選びます。一般に、\(A\)の点を項とするとともに、すべて項が点\(a\)とは異なり、なおかつ点\(a\)に収束する点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は存在するとは限りません。つまり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall n\in \mathbb{N} :x_{n}\in A\backslash \left\{ a\right\} \\
&&\left( b\right) \ \lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=a
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は存在するとは限らないということです。しかし、点\(a\)が集合\(A\)の集積点である場合には、以上の性質を満たす点列\(\left\{x_{n}\right\} \)が必ず存在します。
上の命題の逆もまた成立します。つまり、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)と点\(a\in X\)をそれぞれ任意に選んだとき、\(A\)の点を項とするとともに任意の項が点\(a\)とは異なり、なおかつ点\(a\)へ収束する点列が存在する場合には、すなわち、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall n\in \mathbb{N} :x_{n}\in A\backslash \left\{ a\right\} \\
&&\left( b\right) \ \lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=a
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が存在する場合、この点\(a\)は集合\(A\)の集積点になることが保証されます。
以上の2つの命題より、集積点という概念は点列の収束概念を用いて以下のように特徴づけられることが明らかになりました。
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)の要素を項とするとともに任意の項が\(a\)とは異なり、なおかつ点\(a\)へ収束する点列\(\left\{x_{n}\right\} \)が存在する場合、極限に相当する点\(a\)のいくらでも近い場所に\(a\)とは異なる\(\left\{x_{n}\right\} \)の点が無数に存在します。したがって、\(a\)が\(A\)の集積点であることは、\(a\)とは異なる\(A\)上の点をたどりながら点\(a\)へ限りなく近づくことが可能であることを意味します。
点列を用いて集積点であることを判定する
先の命題より、集積点に関する議論を点列の収束に関する議論に置き換えることができます。つまり、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が与えられたとき、点\(a\in X\)が\(A\)の集積点であることを示すためには、\(A\)の要素を項とするとともに任意の項が\(a\)とは異なり、なおかつ\(a\)へ収束する点列を具体的に提示すればよいということになります。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な開区間\begin{equation*}\left( a,b\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a<x<b\right\}
\end{equation*}を定義します。先に示したように、\begin{equation*}
\left( a,d\right) ^{d}=\left[ a,d\right] \end{equation*}であるため、\(\left( a,b\right) \)上の任意の点は\(\left( a,b\right) \)の集積点です。同じことを点列を用いて示します。そこで、点\(c\in \left( a,b\right) \)を任意に選んだ上で、一般項が、\begin{equation*}x_{n}=c+\frac{b-c}{n+1}
\end{equation*}で与えられる点列\(\left\{x_{n}\right\} \)に注目します。この点列の任意の項は\(\left( a,b\right) \)の要素であるとともに\(c\)とは異なり、なおかつその極限は、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n} &=&\lim_{n\rightarrow \infty }\left( c+\frac{b-c}{n+1}\right) \\
&=&c+0 \\
&=&c
\end{eqnarray*}であるため、先の命題より\(c\)は\(\left( a,b\right) \)の集積点です。\(\left( a,b\right) \)の任意の点\(c\)について同様の議論が成立するため、\(\left( a,b\right) \)の任意の点が\(\left( a,b\right) \)の集積点であることが明らかになりました。続いて、点\(a\)が\(\left( a,b\right) \)の集積点であることを示します。一般項が、\begin{equation*}x_{n}=a+\frac{b-a}{n+1}
\end{equation*}で与えられる点列\(\left\{x_{n}\right\} \)に注目します。この数列の任意の項は\(\left( a,b\right) \)の要素であるとともに\(a\)とは異なり、なおかつその極限は、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n} &=&\lim_{n\rightarrow \infty }\left( a+\frac{b-a}{n+1}\right) \\
&=&a+0 \\
&=&a
\end{eqnarray*}となるため、先の命題より\(a\)は\(\left( a,b\right) \)の集積点です。点\(b\)が\(\left(a,b\right) \)の集積点であることの証明も同様です。
点列を用いて集積点ではないことを判定する
繰り返しになりますが、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)と点\(a\in X\)について、\(a\)が\(A\)の集積点であることは、\(A\)の要素を項とするとともに任意の項が\(a\)とは異なり、なおかつ\(a\)へ収束する点列が存在することと必要十分です。したがって、\(A\)の要素を項とするとともに任意の項が\(a\)とは異なり、なおかつ\(a\)へ収束する点列が存在しないことを示せば、\(a\)が\(A\)の集積点ではないことを示したことになります。もしくは、\(A\)の要素を項とするとともに任意の項が\(a\)とは異なり、なおかつ\(a\)へ収束する点列が存在するものと仮定して矛盾を導けば、背理法より、\(a\)は\(A\)の集積点ではないことになります。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な開区間\begin{equation*}\left( a,b\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a<x<b\right\}
\end{equation*}を定義します。有界な閉区間\(\left[ a,b\right] \)に属さない点、すなわち補集合\(\left[ a,b\right] ^{c}=\left( -\infty ,a\right) \cup \left(b,+\infty \right) \)の任意の要素が\(\left( a,b\right) \)の集積点でないことを示します。そこで、\(c\in \left[ a,b\right] ^{c}\)を任意に選びます。その上で、\(c\)が\(\left( a,b\right) \)の集積点であるものと仮定して、すなわち、任意の項が\(\left( a,b\right) \)の要素であるとともに\(c\)とは異なり、なおかつ\(c\)へ収束する点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が存在するものと仮定して矛盾を導きます。仮定より、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall n\in \mathbb{N} :a<x_{n}<b \\
&&\left( b\right) \ \forall n\in \mathbb{N} :x_{n}\not=c \\
&&\left( c\right) \ \lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=c
\end{eqnarray*}をすべて満たす点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が存在します。\(\left( a\right) \)より、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :a\leq x_{n}\leq b
\end{equation*}が成り立つため、この点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の極限についても、\begin{equation*}a\leq \lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}\leq b
\end{equation*}が成り立ちますが、これと\(\left( c\right) \)より、\begin{equation*}a\leq c\leq b
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
c\in \left[ a,b\right] \end{equation*}を得ますが、これは\(c\in \left[ a,b\right] ^{c}\)と矛盾です。したがって背理法より、\(c\)は\(\left( a,b\right) \)の集積点でないことが明らかになりました。
導集合を用いた閉集合の定義
閉包と導集合の関係を整理します。距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が与えられたとき、\(A\)のすべての集積点に\(A\)のすべての要素を加えれば\(A\)のすべての触点が得られます。
\end{equation*}が成り立つ。
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)について、\begin{equation*}A^{a}=A
\end{equation*}が成り立つことは\(A\)が\(X\)上の閉集合であるための必要十分条件ですが、先の命題を踏まえると、このとき、\begin{eqnarray*}A^{a}=A &\Leftrightarrow &A\cup A^{d}=A\quad \because A^{a}=A\cup A^{d} \\
&\Leftrightarrow &A\cup A^{d}\subset A\quad \because A\subset A\cup A^{d}\text{は恒真} \\
&\Leftrightarrow &A^{d}\subset A
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
A^{a}=A\Leftrightarrow A^{d}\subset A
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、\(A\)の導集合が\(A\)の部分集合であることと\(A\)が閉集合であることは必要十分です。
\end{equation*}が成り立つことと、\(A\)が\(X\)上の閉集合であることは必要十分である。
以上の命題は、閉集合という概念が導集合という概念から定義可能であることを示唆します。つまり、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)に対して、その導集合\(A^{d}\)が定義されていれば、以下の条件\begin{equation*}A\text{は}X\text{上の閉集合}\Leftrightarrow A^{d}\subset A
\end{equation*}を満たすものとして閉集合の概念を間接的に定義できるということです。
導集合を用いた閉集合であることの判定
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}A\text{は}X\text{上の閉集合}\Leftrightarrow A^{d}\subset A
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。したがって、\(X\)の部分集合\(A\)が閉集合であることを示すためには、\(A\)の導集合\(A^{d}\)を特定した上で、それが\(A\)の部分集合であることを示せばよいということになります。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な閉区間\begin{equation*}\left[ a,b\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}について考えます。この集合の導集合は、\begin{equation*}
\left[ a,b\right] ^{d}=\left[ a,b\right] \end{equation*}です。つまり、\begin{equation*}
\left[ a,b\right] ^{d}\subset \left[ a,b\right] \end{equation*}となるため、\(\left[ a,b\right] \)は\(\mathbb{R} \)上の閉集合です。
\end{equation*}と定めます。\(\mathbb{R} \)の導集合は、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{d}=\mathbb{R} \end{equation*}であるため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{d}\subset \mathbb{R} \end{equation*}が成り立ちます。したがって\(\mathbb{R} \)は\(\mathbb{R} \)上の閉集合です。
\end{equation*}と定めます。\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が、\begin{eqnarray*}A &=&\left\{ \pm \frac{1}{n}\ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \cup \left\{ 0\right\} \\
&=&\left\{ -1,-\frac{1}{2},-\frac{1}{3},\cdots ,0,\cdots ,\frac{1}{3},\frac{1}{2},1\right\}
\end{eqnarray*}で与えられているとき、導集合は、\begin{equation*}
A^{d}=\left\{ 0\right\}
\end{equation*}であるため、\begin{equation*}
A^{d}\subset A
\end{equation*}が成り立ちます。したがって\(A\)は\(\mathbb{R} \)上の閉集合です。
\end{equation*}であるため、\begin{equation*}
\phi ^{d}\subset \phi
\end{equation*}が成り立ちます。したがって\(\phi \)は\(X\)上の閉集合です。
導集合を用いた閉集合ではないことの判定
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}A\text{は}X\text{上の閉集合}\Leftrightarrow A^{d}\subset A
\end{equation*}が成り立つのであれば、以下の関係\begin{equation*}
A\text{は}X\text{上の閉集合ではない}\Leftrightarrow A^{d}\not\subset A
\end{equation*}もまた成立します。したがって、\(X\)の部分集合\(A\)が閉集合ではないことを示すためには、\(A\)の集積点の中に\(A\)の要素ではないものが存在することを示せばよいということになります。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な開区間\begin{equation*}\left( a,b\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a<x<b\right\}
\end{equation*}について考えます。この集合の導集合は、\begin{equation*}
\left( a,b\right) ^{d}=\left[ a,b\right] \end{equation*}であるため、\begin{equation*}
\left( a,b\right) ^{d}\subset \left( a,b\right)
\end{equation*}は成り立ちません。したがって\(\left( a,b\right) \)は\(\mathbb{R} \)上の閉集合ではありません。
\end{equation*}と定めます。\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が、\begin{eqnarray*}A &=&\left\{ \pm \frac{1}{n}\ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \\
&=&\left\{ -1,-\frac{1}{2},-\frac{1}{3},\cdots ,\frac{1}{3},\frac{1}{2},1\right\}
\end{eqnarray*}で与えられているとき、導集合は、\begin{equation*}
A^{d}=\left\{ 0\right\}
\end{equation*}であるため、\begin{equation*}
A^{d}\subset A
\end{equation*}は成り立ちません。したがって\(A\)は\(\mathbb{R} \)上の閉集合ではありません。
演習問題
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な開区間\begin{equation*}\left( a,b\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a<x<b\right\}
\end{equation*}を定義します。このとき、\begin{equation*}
\left( a,b\right) ^{d}=\left[ a,b\right] \end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な閉区間\begin{equation*}\left[ a,b\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}を定義します。このとき、\begin{equation*}
\left[ a,b\right] ^{d}=\left[ a,b\right] \end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}と定めます。すべての有理数からなる集合\(\mathbb{Q} \)の導集合は、\begin{equation*}\mathbb{Q} ^{d}=\mathbb{R} \end{equation*}であることを証明してください。
\end{equation*}と定めます。すべての無理数からなる集合\(\mathbb{R} \backslash \mathbb{Q} \)の導集合は、\begin{equation*}\left( \mathbb{R} \backslash \mathbb{Q} \right) ^{d}=\mathbb{R} \end{equation*}であることを証明してください。
\end{equation*}と定めます。\(\mathbb{R} \)の導集合は、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{d}=\mathbb{R} \end{equation*}であることを証明してください。
\end{equation*}であることを証明してください。
\end{equation*}と定めます。\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が、\begin{eqnarray*}A &=&\left\{ \pm \frac{1}{n}\ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \\
&=&\left\{ -1,-\frac{1}{2},-\frac{1}{3},\cdots ,\frac{1}{3},\frac{1}{2},1\right\}
\end{eqnarray*}として与えられているものとします。導集合\(A^{d}\)を求めてください。
\end{equation*}と定めます。\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が、\begin{eqnarray*}A &=&\left\{ \pm \frac{1}{n}\ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \cup \left\{ 0\right\} \\
&=&\left\{ -1,-\frac{1}{2},-\frac{1}{3},\cdots ,0,\cdots ,\frac{1}{3},\frac{1}{2},1\right\}
\end{eqnarray*}として与えられているものとします。導集合\(A^{d}\)を求めてください。
\end{equation*}と定めます。\(a<b\)を満たす\(a,b\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、これらを端点とする有界な閉区間\begin{equation*}\left[ a,b\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}について考えます。このとき、\begin{equation*}
\left[ a,b\right] ^{d}=\left[ a,b\right] \end{equation*}が成り立つことを点列を用いて証明してください。
\end{equation*}と定めます。\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が、\begin{equation*}A=\left\{ \pm \frac{1}{n}\ |\ n\in \mathbb{N} \right\}
\end{equation*}として与えられているものとします。点\(0\)が\(A\)の集積点であることを点列を用いて証明してください。
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}は成り立つとは限らないことを証明してください。
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