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常微分方程式

噂の拡散(微分方程式の応用例)

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噂の拡散を表す微分方式

集団の中で噂が拡散していく状況を想定します。噂を聞いた人の数を\(S\in \mathbb{R} _{+}\)で表記し、時間を\(t\in \mathbb{R} _{+}\)で表記します。2つの変数\(S,t\)の関係が、\begin{equation*}S=S\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。つまり、時点\(t\)において\(S\left( t\right) \)人の間に噂が広がっているということです。このとき、微分\begin{equation*}\frac{dS}{dt}=\frac{dS\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}は、時点\(t\)における噂を知っている人数の瞬間変化率に相当します。

集団の合計人数を\(N\in \mathbb{N} \)で表記します。時点\(t\)において噂を知っている人の数は\(S\left( t\right) \)人ですが、その各々が単位時間あたり\(r>0\)人と出会い、出会った人に必ず噂を聞かせるものとします。つまり、時点\(t\)において新たに噂を聞かされる人数は\(rS\left( t\right) \)です。ただし、この中には噂をすでに知っている人も含まれているることも注意してください。時点\(t\)において初めて噂を聞いた人数\(\frac{dS\left( t\right) }{dt}\)を特定するためには、時点\(t\)において噂を聞かされた人数\(rS\left( t\right) \)と、時点\(t\)において噂を聞いたことがない人の割合\(\frac{N-S\left( t\right) }{N}=1-\frac{S\left( t\right) }{N}\)の積をとる必要があります。以上の議論より、以下の微分方程式\begin{equation*}\frac{dS\left( t\right) }{dt}=rS\left( t\right) \left[ 1-\frac{S\left(
t\right) }{N}\right] \end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\frac{dS}{dt}=rS\left( 1-\frac{S}{N}\right)
\end{equation*}が得られることが明らかになりました。これをロジスティック微分方程式(logistic differential equation)と呼びます。初期時点において噂を知っている人数を\(S_{0}\in \mathbb{R} _{+}\)で表記する場合、初期条件は、\begin{equation*}S\left( 0\right) =S_{0}
\end{equation*}となります。以上より、噂の拡散プロセスを記述する微分方程式および初期値問題が得られました。

 

噂の拡散を表す微分方程式

噂の拡散を表す微分方程式および初期値問題の解は以下の通りです。

命題(噂の拡散を表す微分方式の解)
時間\(t\in \mathbb{R} _{+}\)と噂を聞いた人数\(S\in \mathbb{R} _{+}\)の関係が、\begin{equation*}S=S\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとする。加えて、常微分方程式\begin{equation*}
\frac{dS}{dt}=rS\left( 1-\frac{S}{N}\right)
\end{equation*}が与えられているものとする。ただし、\(r\in \mathbb{R} _{++}\)および\(N\in \mathbb{N} \)は定数である。初期条件\begin{equation*}S\left( 0\right) =S_{0}
\end{equation*}のもとでの初期値問題の解は、

\begin{equation*}
S\left( t\right) =\frac{N}{1+\left( \frac{N}{S_{0}}-1\right) e^{-rt}}
\end{equation*}である。

証明

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環境収容力としての総人口

噂の拡散をロジスティック微分方程式\begin{equation}
\frac{dS}{dt}=rS\left( 1-\frac{S}{N}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}として記述した場合、初期条件\(S\left( 0\right) =S_{0}\)のもとでの初期値問題の解が、\begin{equation}S\left( t\right) =\frac{N}{1+\left( \frac{N}{S_{0}}-1\right) e^{-rt}}
\quad \cdots (2)
\end{equation}であることが明らかになりました。

初期時点において噂を知っている人数\(S_{0}\)が集団の人口\(N\)と比べて大幅に小さい場合、\(\frac{S_{0}}{N}\)は\(0\)にほぼ等しいため、ロジスティック微分方程式\(\left( 1\right) \)は、\begin{equation*}\frac{dS}{dt}=rS
\end{equation*}と近似的に等しくなります。つまり、初期時点においてロジスティック微分方程式はマルサスの成長モデルと近似的に等しくなるため、初期時点において噂は指数関数的に拡散されます。

集団の人口\(N\)は定数であるため、噂を聞いた人数\(S\left( t\right) \)が増加するにつれて\(\frac{S\left( t\right) }{N}\)は増加します。\(1>\frac{S\left( t\right) }{N}\)すなわち、\begin{equation*}S\left( t\right) <N
\end{equation*}が成立する間は\(\left( 1\right) \)の右辺は正であるため、噂は広がり続けます。時間を限りなく進めた場合、\(\left( 2\right) \)より\(S\left( t\right) \)は\(t\)に関する増加関数であるとともに、\begin{eqnarray*}\lim_{t\rightarrow +\infty }S\left( t\right) &=&\lim_{t\rightarrow +\infty }\frac{N}{1+\left( \frac{N}{S_{0}}-1\right) e^{-rt}}\quad \because \left(
2\right) \\
&=&\frac{N}{1+0} \\
&=&N
\end{eqnarray*}となるため、最終的には、噂を聞いた人数\(S\left( t\right) \)は集団の人口\(N\)に限りなく近づきます。

 

演習問題

問題(噂の拡散)
ある学校の全校生徒は\(1000\)人であるものとします。午前\(8\)時の段階で\(80\)人の学生がある噂を知っていましたが、正午の時点では半数の学生が噂を知っていました。\(9\)割の学生が噂を知るに至る時間を特定してください。
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