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常微分方程式

人口増減とマルサス成長モデル(微分方程式の応用例)

目次

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マルサス成長モデル(人口変化率が一定の場合の人口増減モデル)

時間が経過するにともない人口が変化する状況を想定します。人口を\(P\in \mathbb{R} _{+}\)で表記し、時間を\(t\in \mathbb{R} _{+}\)で表記します。2つの変数\(P,t\)の関係が、\begin{equation*}P=P\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。つまり、時点\(t\)における人口が\(P\left( t\right) \)であるということです。このとき、微分\begin{equation*}\frac{dP}{dt}=\frac{dP\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}は、時点\(t\)における人口の瞬間変化率に相当します。

マルサスの成長モデル(Malthusian growth model)では、各時点\(t\)における人口の瞬間変化率\(\frac{dP\left(t\right) }{dt}\)は、その時の人口のサイズ\(P\left( t\right) \)に比例するものとみなします。加えて、時間\(t\)の経過とともに人口\(P\left( t\right) \)が変化した場合でも、人口の瞬間変化率\(\frac{dP\left( t\right) }{dt}\)は常に一定であるものと仮定します。つまり、何らかの定数\(r\in \mathbb{R} \)が存在して、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)について、\begin{equation}\frac{dP\left( t\right) }{dt}=rP\left( t\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}すなわち、\begin{equation*}
\frac{dP}{dt}=rP
\end{equation*}が成り立つ状況を想定するということです。初期時点\(0\)における人口を\(P_{0}\in \mathbb{R} _{+}\)で表記するのであれば、微分方程式\(\left( 1\right) \)の初期条件は、\begin{equation*}P\left( 0\right) =P_{0}
\end{equation*}となります。

微分方程式\(\left( 1\right) \)に含まれる定数\(r\)を1人当たり人口増加率(per capita population growth rate)と呼びます。\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}r=\frac{\frac{dP\left( t\right) }{dt}}{P\left( t\right) }
\end{equation*}を得ます。つまり、1人当たり増加率\(r\)は人口の瞬間変化率\(\frac{dP\left(t\right) }{dt}\)を人口\(P\left( t\right) \)で割ることにより得られる値であるため、これは全体の人口を\(1\)とみなした場合の人口の瞬間変化率に相当します。全体の人口を\(1\)へと基準化した指標を利用することにより、人口サイズが異なる複数の集団の人口の変化速度を比べられるようになります。

例(1人当たり増加率)
集団\(A\)の人口は\(100\)であり、集団\(B\)の人口は\(1000\)であるものとします。ある時点\(t\)において集団\(A,B\)に\(100\)人ずつ加わった場合、集団\(A\)の人口は\(200\)に変化し、集団\(B\)の人口は\(1100\)に変化します。つまり、増えた人数は同じですが、集団\(A\)の人口は\(2\)倍になった一方で、集団\(B\)の人口は\(1.1\)倍になったにすぎません。人口の瞬間増加率\(\frac{dP}{dt}\)を利用した場合、集団\(A\)と集団\(B\)の瞬間増加率はともに\(100\)と評価されてしまうため、人口の増加速度の違いを上手く表現できません。一方、1人当たり増加率\(r\)を利用した場合、集団\(A\)の1人増加率は\(\frac{100}{100}=1\)である一方で、集団\(B\)の1人増加率は\(\frac{100}{1000}=0.1\)であるため、人口の増加速度の違いを上手く表現できます。1人当たり増加率を用いれば、人口が異なる集団間の人口の変化速度を比べられます。

マルサスの成長モデルでは1人当たり人口増加率\(r\)は常に一定であるものと仮定します。人口\(P\left( t\right) \)が変化しても、1人当たり人口増加率\(r\)は変化しないということです。\(r>0\)の場合には人口が増加し続けることを意味し、\(r<0\)の場合には人口が減少し続けることを意味します。

マルサスの成長モデルはマルサスモデル(Malthusian model)とも呼ばれます。この名称はイギリスの経済学者トマス・ロバート・マルサス(Thomas Robert Malthus)の名に由来しています。マルサスの成長モデルは指数モデル(exponential model)と呼ばれることもありますが、その理由は後ほど明らかになります。

 

マルサスモデルの解

マルサスモデルの解は以下の通りです。

命題(マルサスモデルの解)
時間\(t\in \mathbb{R} _{+}\)と人口\(P\in \mathbb{R} _{+}\)の関係が、\begin{equation*}P=P\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとする。加えて、常微分方程式\begin{equation*}
\frac{dP}{dt}=rP
\end{equation*}が与えられているものとする。ただし、\(r\in \mathbb{R} _{+}\)は定数である。この微分方程式の一般解は、\begin{equation*}P=Ce^{rt}
\end{equation*}である。したがって、初期条件\begin{equation*}
P\left( 0\right) =P_{0}
\end{equation*}のもとでの初期値問題の解は、\begin{equation*}
P\left( t\right) =P_{0}e^{rt}
\end{equation*}である。

証明

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1人当たり増加率\(r\)を一定とみなすマルサスモデルのもとでは、時点\(t\)における人口が、\begin{equation*}P\left( t\right) =P_{0}e^{rt}
\end{equation*}と定まることが明らかになりました。つまり、人口は指数関数的に増加するということです。マルサスモデルが指数モデルと呼ばれる理由は以上の通りです。

例(マルサスモデル)
1人当たり人口増加率が、\begin{equation*}
r=0.02
\end{equation*}である場合のマルサスモデルは、\begin{equation*}
\frac{dP}{dt}=0.02P
\end{equation*}となります。先の命題より、この微分方程式の一般解は、\begin{equation*}
P\left( t\right) =Ce^{0.02t}
\end{equation*}です。初期条件\begin{equation*}
P\left( 0\right) =1000
\end{equation*}のもとでの初期値問題の解は、\begin{equation*}
P\left( t\right) =1000e^{0.02t}
\end{equation*}です。したがって、時点\(t=10\)における人口は、\begin{eqnarray*}P\left( 10\right) &=&1000e^{0.2} \\
&\approx &1221.4
\end{eqnarray*}です。

 

演習問題

問題(人口の初期値を特定する)
細胞を培養しています。細胞の数\(P\)と経過時間\(t\)の関係が、\begin{equation*}P=P\left( t\right)
\end{equation*}と表現されているものとします。ただし、\(t\)の単位は「日」です。以下の条件\begin{eqnarray*}P\left( 1\right) &=&1000 \\
P\left( 2\right) &=&3000
\end{eqnarray*}が成り立つものとします。マルサスモデルを想定を想定した上で、初期時点\(0\)における細胞数\(P_{0}\)を特定してください。
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問題(人口が2倍になるまでにかかる時間)
バクテリアの個体数\(P\)と経過時間\(t\)の関係が、\begin{equation*}P=P\left( t\right)
\end{equation*}と表現されているものとします。ただし、\(t\)の単位は「時間」です。個体の増加速度は個体数に比例するものと仮定します。個体数を観測したところ、最初の\(2\)時間で\(500\)から\(2000\)まで増加しました。以下の問いに答えてください。

  1. 微分方程式を立式した上で、初期値問題を解いてください。
  2. \(12\)時間後のバクテリアの個体数を求めてください。
  3. 初期時点\(0\)を出発点として、バクテリアの個体数が\(2\)倍になるまでにかかる時間を求めてください。
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