連続複利
資金を複利で運用する状況を想定します。元利合計を\(A\in \mathbb{R} _{+}\)で表記し、時間を\(t\in \mathbb{R} _{+}\)で表記します。2つの変数\(A,t\)の関係が、\begin{equation*}A=A\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。つまり、時点\(t\)における元利合計が\(A\left( t\right) \)であるということです。このとき、微分\begin{equation*}\frac{dA}{dt}=\frac{dA\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}は、時点\(t\)における元利合計の瞬間変化率に相当します。
複利を想定しているため、各時点\(t\)における元利合計の瞬間変化率\(\frac{dP\left( t\right) }{dt}\)は、その時点の元利合計\(P\left(t\right) \)と金利の積として定まります。元利合計\(P\left( t\right) \)が変わっても金利の水準は一定であるものと仮定するのであれば、単位時間当たりの金利に相当する定数\(r\in \mathbb{R} \)が存在して、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)について、\begin{equation}\frac{dA\left( t\right) }{dt}=rA\left( t\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}すなわち、\begin{equation*}
\frac{dA}{dt}=rA
\end{equation*}が成り立ちます。初期時点\(0\)における元本合計、すなわち元本を\(A_{0}\in \mathbb{R} _{+}\)で表記するのであれば、微分方程式\(\left( 1\right) \)の初期条件は、\begin{equation*}A\left( 0\right) =A_{0}
\end{equation*}となります。
時間\(t\)の単位として「年」を採用する場合の金利\(r\)は「年利」であり、時間\(t\)の単位として「月」を採用する場合の金利\(r\)は「月利」です。時間\(t\)の単位を「日」や「時間」や「秒」などいくらでも細かくしても同様の議論が成立するため、このようなモデルを連続複利(continuously compounded interest)と呼びます。
微分方程式\(\left( 1\right) \)を変形することにより、\begin{equation*}r=\frac{\frac{dA\left( t\right) }{dt}}{A\left( t\right) }
\end{equation*}を得ます。つまり、金利\(r\)は元本合計の瞬間変化率\(\frac{dA\left( t\right) }{dt}\)を元本合計\(A\left( t\right) \)で割ることにより得られる値であるため、これは元本合計を\(1\)とみなした場合の元本合計の瞬間変化率に相当します。元本合計を\(1\)へ基準化した指標を利用することにより、元本合計が異なる複数の状況における元本合計の増加速度を比べられるようになります。
連続複利の解
連続複利の解は以下の通りです。
\end{equation*}と記述されているものとする。加えて、常微分方程式\begin{equation*}
\frac{dA}{dt}=rA
\end{equation*}が与えられているものとする。ただし、\(r\in \mathbb{R} \)は定数である。この微分方程式の一般解は、\begin{equation*}A=Ce^{rt}
\end{equation*}である。したがって、初期条件\begin{equation*}
A\left( 0\right) =A_{0}
\end{equation*}のもとでの初期値問題の解は、\begin{equation*}
A\left( t\right) =A_{0}e^{rt}
\end{equation*}である。
元本が\(A_{0}\)であり単位時間当たりの金利が\(r\)である場合の連続複利モデルにおいて、時点\(t\)における元利合計が、\begin{equation}A\left( t\right) =A_{0}e^{rt} \quad \cdots (1)
\end{equation}と定まることが明らかになりました。つまり、元本は時間\(t\)の経過とともに指数関数的に増加するということです。
連続複利の解\(\left( 1\right) \)において時間\(t\)は任意の非負の実数を値としてとり得ることに注意してください。したがって、例えば、時間\(t\)の単位として「年」を採用した場合、年単位での元利合計の変遷\(A\left( 1\right) ,A\left( 2\right) ,A\left(3\right) ,\cdots \)を計算できるだけでなく、半年ごと(\(\frac{1}{2}\)年ごと)の元利合計の変遷\(A\left( \frac{1}{2}\right) ,A\left( \frac{2}{2}\right) ,A\left( \frac{3}{2}\right) ,\cdots \)や、1日ごと(\(\frac{1}{365}\)年ごと)の元利合計の変遷\(A\left( \frac{1}{365}\right) ,A\left( \frac{2}{365}\right) ,A\left( \frac{3}{365}\right) ,\cdots \)を計算することもできます。他の単位を採用した場合にも同様です。
\end{equation*}と表現されているものとします。元本の\(200\)万円を連続複利で運用します。ただし、時間\(t\)の単位は「年」であり、年利\(r\)は\(6.5\)パーセントです。連続複利のモデルは、以下の初期値問題\begin{equation*}\frac{dA}{dt}=0.065A,\quad A\left( 0\right) =2000000
\end{equation*}として表現されます。先の命題より、この問題の解は、\begin{equation*}
A\left( t\right) =2000000e^{0.065t}
\end{equation*}です。したがって、\(8\)カ月後(\(\frac{8}{12}\)年後)の元本合計は、\begin{eqnarray*}A\left( \frac{8}{12}\right) &=&2000000e^{0.065\cdot \frac{8}{12}} \\
&\approx &2088600
\end{eqnarray*}であり、\(18\)カ月後(\(\frac{18}{12}\)年後)の元本合計は、\begin{eqnarray*}A\left( \frac{18}{12}\right) &=&2000000e^{0.065\cdot \frac{18}{12}} \\
&\approx &2204800
\end{eqnarray*}であり、\(21\)年後の元利合計は、\begin{eqnarray*}A\left( 21\right) &=&2000000e^{0.065\cdot 21} \\
&\approx &7831400
\end{eqnarray*}であり、\(100\)年後の元利合計は、\begin{eqnarray*}A\left( 100\right) &=&2000000e^{0.065\cdot 100} \\
&\approx &1330300000
\end{eqnarray*}です。
連続複利と通常の複利の関係
年利\(r\)で元本の\(A_{0}\)円を\(t\)年間複利で運用すると、\(t\)年後の元利合計は、\begin{equation*}A_{0}\left( 1+r\right) ^{t}
\end{equation*}となります。つまり、この場合には\(t\)年間で元本が\(\left( 1+r\right) ^{t}\)倍になります。
金利を\(r\)の\(\frac{1}{2}\)に相当する\(\frac{r}{2}\)に下げる代わりに\(\frac{1}{2}\)年ごとに金利がつく条件のもとで元本の\(A_{0}\)円を複利で運用すると、\(t\)年後の元利合計は、\begin{equation*}A_{0}\left( 1+\frac{r}{2}\right) ^{2t}
\end{equation*}となります。つまり、この場合には\(t\)年間で元本が\(\left( 1+\frac{r}{2}\right) ^{2t}\)倍になります。
金利を\(r\)の\(\frac{1}{3}\)に相当する\(\frac{r}{3}\)に下げる代わりに\(\frac{1}{3}\)年ごとに金利がつく条件のもとで元本の\(A_{0}\)円を複利で運用すると、\(t\)年後の元利合計は、\begin{equation*}A_{0}\left( 1+\frac{r}{2}\right) ^{3t}
\end{equation*}となります。つまり、この場合には\(T\)年間で元本が\(\left( 1+\frac{r}{2}\right) ^{3t}\)倍になります。
議論を一般化します。金利を\(r\)の\(\frac{1}{n}\)に相当する\(\frac{r}{n}\)に下げる代わりに\(\frac{1}{n}\)年ごとに金利がつく条件のもとで元本の\(A_{0}\)円を複利で運用すると、\(t\)年後の元利合計は、\begin{equation*}A_{0}\left( 1+\frac{r}{n}\right) ^{nt}
\end{equation*}となります。つまり、この場合には\(t\)年間で元本が\(\left( 1+\frac{r}{n}\right) ^{nt}\)倍になります。つまり、数列\begin{equation}\left\{ A_{0}\left( 1+\frac{r}{n}\right) ^{nt}\right\} \quad \cdots (1)
\end{equation}の項\(A_{0}\left( 1+\frac{r}{n}\right) ^{nt}\)は、\(\frac{1}{n}\)年ごとの金利\(\frac{r}{n}\)のもとで元本\(A_{0}\)を\(t\)年間複利で運用した場合の元本合計を表しています。
ネイピア数の定義より、\begin{equation}
e=\lim_{n\rightarrow \infty }\left( 1+\frac{1}{n}\right) ^{n} \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立つことを踏まえた上で、数列\(\left(1\right) \)の\(n\rightarrow +\infty \)の場合の極限をとります。つまり、金利\(\frac{r}{n}\)を限りなく小さくするとともに、金利の発生期間\(\frac{1}{n}\)を限りなく短くする状況を想定するということです。計算の便宜上、\begin{equation}T=\frac{n}{r} \quad \cdots (3)
\end{equation}と定めます。\(r>0\)ゆえに、\begin{equation}n\rightarrow +\infty \Leftrightarrow T\rightarrow +\infty \quad \cdots (4)
\end{equation}が成り立つため、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow +\infty }A_{0}\left( 1+\frac{r}{n}\right) ^{nt}
&=&A_{0}\lim_{n\rightarrow +\infty }\left( 1+\frac{r}{n}\right) ^{nt} \\
&=&A_{0}\lim_{n\rightarrow +\infty }\left[ \left( 1+\frac{r}{n}\right) ^{\frac{n}{r}}\right] ^{rt} \\
&=&A_{0}\lim_{T\rightarrow +\infty }\left[ \left( 1+\frac{1}{T}\right) ^{T}\right] ^{rt}\quad \because \left( 3\right) ,\left( 4\right) \\
&=&A_{0}\left[ \lim_{T\rightarrow +\infty }\left( 1+\frac{1}{T}\right) ^{T}\right] ^{rt} \\
&=&A_{0}e^{rt}\quad \because \left( 2\right)
\end{eqnarray*}を得ますが、これは連続複利モデルの初期値問題の解\begin{equation*}
A\left( t\right) =A_{0}e^{rt}
\end{equation*}と一致します。
以上の議論より、単位時間あたりの金利が\(r\)である状況において元本\(A_{0}\)を連続複利で運用した場合に時点\(t\)において得られる元本合計は、\(\frac{1}{n}\)年ごとに金利が\(\frac{r}{n}\)だけ発生する場合に元本\(A_{0}\)を\(t\)年間複利で運用することで得られる元本合計の\(n\rightarrow +\infty \)の場合の極限と一致することが明らかになりました。つまり、連続複利とは、金利の発生期間を限りなく短くするとともに各期に発生する金利の水準を限りなく低くする状況を想定した複利であるということです。
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