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常微分方程式

原子核の崩壊と半減期(微分方程式の応用例)

目次

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原子核の放射性崩壊

あらゆる物質は原子(atom)によってできています。原子が結びついて1つのまとまりになった粒子を分子(molecule)と呼びます。分子が連なることにより様々な物質(気体・液体・個体)が作り出されます。具体例を挙げると、2つの水素原子と1つの酸素原子が結びつくと水の分子ができ、さらに水の分子が連なることにより水ができます。

原子は原子核(nucleus)と電子(electron)からできており、原子核はさらに陽子(proton)と中性子(neutron)という2種類の粒子によってできています。原子核の種類は陽子と中性子の数によって決まります。具体例を挙げると、水素原子の原子核は1個の陽子だけで構成されており、酸素原子の原子核は8個の陽子と8個の中性子によって構成されています。

陽子と中性子の数のバランスによっては、原子核は不安定な状態になります。この場合、原子核は不安定な状態を解消するために粒子や電磁波を外部に放出し、その結果、不安定であった原子核はより安定的な原子核へと変化します。このような現象を原子核の放射性崩壊(radioactive decay)や壊変(disintegration)などと呼びます。放射性崩壊のプロセスにおいて原子核から放出される粒子や電磁波を放射線(radiation)と呼びます。また、放射線を放出する能力のことを放射能(radioactivity)と呼び、放射能を持つ物質を放射性物質(radioactive material)と呼びます。

天然に存在する原子核の多くは安定的ですが、人工的に生成された原子核のほとんどは不安定であり、したがって放射能を持つ放射性物質です。

 

放射性崩壊の法則

放射能を持つ同一種類の原子核が放射性崩壊を起こす様子を観察します。問題としている種類の原子核の個数を\(N\in \mathbb{R} _{+}\)で表記し、時間を\(t\in \mathbb{R} _{+}\)で表記します。2つの変数\(N,t\)の関係が、\begin{equation*}N=N\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。つまり、時点\(t\)において残存している原子核の個数が\(N\left( t\right) \)であるということです。このとき、微分\begin{equation*}\frac{dN}{dt}=\frac{dN\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}は、時点\(t\)における原子核の個数の瞬間変化率に相当します。

放射性崩壊の法則(radioactive decay law)とは、各時点\(t\)における原子核の個数の瞬間変化率\(\frac{dN\left( t\right) }{dt}\)は、その時の原子核の個数\(N\left( t\right) \)に比例するという主張です。加えて、時間\(t\)の経過とともに原子核の個数\(P\left( t\right) \)が変化した場合でも、原子核の個数の瞬間変化率\(\frac{dN\left( t\right) }{dt}\)は常に一定であるものとみなします。つまり、何らかの正の定数\(\lambda >0\)が存在して、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)について、\begin{equation}\frac{dN\left( t\right) }{dt}=-\lambda N\left( t\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}すなわち、\begin{equation*}
\frac{dN}{dt}=-\lambda N
\end{equation*}が成り立つということです。初期時点\(0\)における原子核の個数を\(N_{0}\in \mathbb{R} _{+}\)で表記するのであれば、微分方程式\(\left( 1\right) \)の初期条件は、\begin{equation*}N\left( 0\right) =N_{0}
\end{equation*}となります。

時間の経過にともない放射性崩壊が進むにつれて、問題としている原子核はより安定的な核種へ変化していくため、時間の経過にともない問題としている原子核の個数は減少していきます。微分方程式\(\left( 1\right) \)の右辺にマイナス符号がついている理由は以上の通りです。

微分方程式\(\left( 1\right) \)に含まれる定数\(\lambda \)を崩壊定数(decay constant)と呼びます。\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\lambda =-\frac{\frac{dN\left( t\right) }{dt}}{N\left( t\right) }
\end{equation*}を得ます。つまり、崩壊定数は原子核の個数の瞬間変化率\(\frac{dN\left( t\right) }{dt}\)を原子核の残存数\(N\left( t\right) \)で割ることにより得られる値であるため、これは残存数を\(1\)とみなした場合の原子核の個数の瞬間変化率に相当します。したがって、\(\lambda \)の水準を残存する個々の原子核が各時点において崩壊する確率とみなすことができます。放射性崩壊の法則のもとでは、原子核の個数が変化しても崩壊定数の値は一定です。また、崩壊定数\(\lambda \)の水準は問題としている核種に依存します。つまり、それぞれの時点\(t\)において個々の原子核が崩壊する確率は核種ごとに決まっているということです。

例(放射性崩壊の法則)
時間\(t\in \mathbb{R} _{+}\)と放射性物質の残存量\(N\in \mathbb{R} _{+}\)の関係が、\begin{equation*}N=N\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。ただし、\(t\)の単位は「時間」であり、\(N\)の単位は「グラム」です。崩壊定数が、\begin{equation*}\lambda =0.056
\end{equation*}である場合、以下の微分方程式\begin{equation*}
\frac{dN\left( t\right) }{dt}=-0.056N\left( t\right)
\end{equation*}が得られます。

 

放射性崩壊モデルの解

放射性崩壊の法則にもとづく微分方程式の解は以下の通りです。

命題(放射性崩壊モデルの解)
時間\(t\in \mathbb{R} _{+}\)と原子核の個数\(N\in \mathbb{R} _{+}\)の関係が、\begin{equation*}N=N\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとする。加えて、常微分方程式\begin{equation*}
\frac{dN}{dt}=-\lambda N
\end{equation*}が与えられているものとする。ただし、\(\lambda \in \mathbb{R} _{++}\)は定数である。この微分方程式の一般解は、\begin{equation*}N=Ce^{-\lambda t}
\end{equation*}である。したがって、初期条件\begin{equation*}
N\left( 0\right) =N_{0}
\end{equation*}のもとでの初期値問題の解は、\begin{equation*}
N\left( t\right) =N_{0}e^{-\lambda t}
\end{equation*}である。

証明

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崩壊定数\(r\)を一定とみなす放射性崩壊の法則のもとでは、時点\(t\)において残存する原子核の個数が、\begin{equation*}N\left( t\right) =N_{0}e^{-\lambda t}
\end{equation*}と定まることが明らかになりました。つまり、放射能を持つ原子核は指数関数的に減少するということです。このような事情を踏まえた上で、放射性崩壊を指数関数的減衰(exponential decay)と呼ぶ場合もあります。崩壊定数\(r\)の水準は核種ごとに異なるため、放射能を持つ原子核が減少する速度も核種によって異なります。

例(放射性崩壊の法則)
時間\(t\in \mathbb{R} _{+}\)と放射性物質の残存量\(N\in \mathbb{R} _{+}\)の関係が、\begin{equation*}N=N\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。ただし、\(t\)の単位は「時間」であり、\(N\)の単位は「グラム」です。崩壊定数が、\begin{equation*}\lambda =0.056
\end{equation*}の微分方程式は、\begin{equation*}
\frac{dN\left( t\right) }{dt}=-0.056N\left( t\right)
\end{equation*}です。初期条件が、\begin{equation*}
N_{0}=100
\end{equation*}である場合、初期値問題の解は、\begin{eqnarray*}
N\left( t\right) &=&N_{0}e^{-\lambda t} \\
&=&100e^{-0.056t}
\end{eqnarray*}です。したがって、\(4\)時間後の放射性物質の残存量は、\begin{eqnarray*}N\left( 4\right) &=&100e^{-0.056\cdot 4} \\
&\approx &80
\end{eqnarray*}です。

 

半減期

放射能を持つ原子核が壊変して別の原子核になるとき、その個数が半分になるまでの時間を半減期(half life)と呼びます。放射性崩壊の法則のもとでは以下の関係\begin{equation*}
N\left( t\right) =N_{0}e^{-\lambda t}
\end{equation*}が成り立つため、半減期は以下の条件\begin{equation*}
N\left( t\right) =\frac{1}{2}N_{0}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
N_{0}e^{-\lambda t}=\frac{1}{2}N_{0}
\end{equation*}を満たす\(t\)の値に他なりません。これを解くことにより、\begin{equation*}e^{-\lambda t}=\frac{1}{2}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
-\lambda t=\ln \left( \frac{1}{2}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{eqnarray*}
t &=&-\frac{1}{\lambda }\ln \left( 2^{-1}\right) \\
&=&\frac{1}{\lambda }\ln \left( 2\right)
\end{eqnarray*}を得ます。

例(半減期)
時間\(t\in \mathbb{R} _{+}\)と放射性物質の残存量\(N\in \mathbb{R} _{+}\)の関係が、\begin{equation*}N=N\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。ただし、\(t\)の単位は「時間」であり、\(N\)の単位は「グラム」です。初期条件が、\begin{equation}N_{0}=100 \quad \cdots (1)
\end{equation}であり、\(4\)時間後の残存量が、\begin{equation}N\left( 4\right) =80 \quad \cdots (2)
\end{equation}であるものとします。初期値問題の解は、\begin{eqnarray*}
N\left( t\right) &=&N_{0}e^{-\lambda t} \\
&=&100e^{-\lambda t}\quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}であるため、これと\(\left( 2\right) \)より、\begin{equation*}80=100e^{-4\lambda }
\end{equation*}を得ます。これを\(\lambda \)について解くと、\begin{eqnarray*}\lambda &=&-\frac{1}{4}\ln \left( \frac{4}{5}\right) \\
&\approx &0.056
\end{eqnarray*}であるため、半減期は、\begin{eqnarray*}
t &=&\frac{1}{\lambda }\ln \left( 2\right) \\
&\approx &\frac{1}{0.056}\ln \left( 2\right) \\
&=&12.43
\end{eqnarray*}となります。

 

演習問題

問題(半減期)
ある放射性物質の半減期が\(400\)年であるものとします。その物質が\(1000\)グラムあるものとします。\(750\)年後の残存量を求めてください。
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