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常微分方程式

空気抵抗を考慮した物体の落下(微分方程式の応用例)

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空気抵抗を考慮した落下運動の微分方程式

重力の影響を受けて垂直方向に落下する物体の位置を観察します。ただし、物体には重力に加えて空気抵抗の力も作用しているものとします。空気抵抗は重力とは逆向きの力、すなわち物体を真上に押し上げる力です。加えて、空気抵抗の大きさは物体の速度に比例するものとします。つまり、物体が落下する速度が大きいほど空気抵抗は大きくなるということです。

垂直落下を想定しているため、物体の高度の変化だけが問題になります。そこで、数直線を時計回りに90度回転した上で、数直線の原点\(0\)の位置を物体の初期地点と合致させます。物体の位置を\(y\in \mathbb{R} \)で表記し、時間を\(t\in \mathbb{R} _{+}\)で表記します。2つの変数\(y,t\)の関係が、\begin{equation*}y=y\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとします。つまり、時点\(t\)における物体の位置が\(y\left( t\right) \)であるということです。初期時点\(0\)における位置は、\begin{equation}y\left( 0\right) =0 \quad \cdots (1)
\end{equation}であることに注意してください。したがって、\(y\left( t\right) \)の値は時点\(t\)までの物体の落下距離と一致します。

時点\(t\)における点の速度(velocity)は、\begin{equation}v\left( t\right) =\frac{dy\left( t\right) }{dt} \quad \cdots (2)
\end{equation}であり、時点\(t\)における点の加速度(acceleration)は、\begin{equation}a\left( t\right) =\frac{dv\left( t\right) }{dt}=\frac{d^{2}y\left( t\right)
}{dt^{2}} \quad \cdots (3)
\end{equation}です。物体が動く、止まる、加速する、減速するなど、運動の状態が変化するということは、その物体の加速度の変化として記述されます。

ニュートンの運動の第2法則より、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)において、\begin{equation}m\left( t\right) a\left( t\right) =F\left( t\right) \quad \cdots (4)
\end{equation}すなわち、\begin{equation*}
a\left( t\right) =\frac{F\left( t\right) }{m\left( t\right) }
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、\(m\left( t\right) \)は時点\(t\)における物体の質量(mass)であり、\(a\left(t\right) \)は時点\(t\)における物体の加速度(acceleration)であり、\(F\left( t\right) \)は時点\(t\)において物体に作用する(force)です。つまり、物体の加速度\(a\left( t\right) \)は物体に作用する力\(F\left( t\right) \)に比例し、物体の質量\(m\left( t\right) \)に反比例します。

物体の質量は時間が変化しても一定であるため、定数\(m>0\)が存在して、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)において、\begin{equation}m\left( t\right) =m \quad \cdots (5)
\end{equation}が成り立ちます。また、物体に作用する力\(F\left( t\right) \)は重力(gravity)と空気抵抗(air resistance)から構成されます。質量\(m\)の物体に働く重力の大きさは、重力定数\(g>0\)を用いて\(mg\)と記述されます。時間\(t\)の経過とともに物体が位置を変えても重力定数\(g\)はほぼ一定であるため、それぞれの時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)における重力の大きさは、\begin{equation*}mg
\end{equation*}です。仮定より空気抵抗は物体の落下速度と比例するため、それぞれの時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)における空気抵抗の大きさは、何らかの定数\(k>0\)を用いて、\begin{equation*}-kv\left( t\right)
\end{equation*}と表現されます。空気抵抗は重力と逆向きの力であるため負の記号がついています。物体に作用する力\(F\left( t\right) \)は重力と空気抵抗であるため、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)において、\begin{equation}F\left( t\right) =mg-va\left( t\right) \quad \cdots (6)
\end{equation}が成り立ちます。\(\left(4\right) ,\left( 5\right) ,\left( 6\right) \)より、\begin{equation*}ma\left( t\right) =mg-kv\left( t\right)
\end{equation*}を得ます。これと\(\left(2\right) ,\left( 3\right) \)より、\begin{equation}m\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}=mg-k\frac{dy\left( t\right) }{dt}
\quad \cdots (7)
\end{equation}を得ます。この微分方程式の初期条件は、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}y\left( 0\right) =0
\end{equation*}です。以上により、空気抵抗を考慮した落下運動を記述する微分方程式および初期値問題が得られました。

物体の質量は\(m>0\)を満たすため、\(\left( 7\right) \)の両辺を\(m\)で割ることができ、その結果、\begin{equation*}\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}=g-\frac{k}{m}\frac{dy\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}を得ます。\(k,m\)はともに正の定数であるため、新たな定数\begin{equation*}c=\frac{k}{m}>0
\end{equation*}を定義すれば、先の微分方程式を、\begin{equation*}
\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}=g-c\frac{dy\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}と表現することもできます。つまり、空気抵抗を考慮する場合の加速度は、重力\(g\)よりも\(c\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)だけ小さくなります。しかも、空気抵抗の影響\(c\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)の値は時間\(t\)に関する関数であるため、物体が落下していく中で加速度もまた変化します。これは、空気抵抗を考慮しない自由落下では物体の加速度が常に\(g\)で一定であることと対照的な結果です。

 

空気抵抗を考慮した落下運動の微分方程式の解

空気抵抗を考慮した落下運動の微分方程式の解は以下の通りです。

命題(空気抵抗を考慮した落下運動の微分方程式の解)
重力と空気抵抗を受けて落下する物体の位置\(y\in \mathbb{R} \)と時間\(t\in \mathbb{R} _{+}\)の関係が、\begin{equation*}y=y\left( t\right)
\end{equation*}と記述されているものとする。加えて、微分方程式\begin{equation*}
m\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}=mg-k\frac{dy\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}が与えられているものとする。ただし、\(g>0\)および\(k>0\)は定数である。以下の初期条件\begin{equation*}y\left( 0\right) =0
\end{equation*}のもとでの初期値問題の解は、\begin{equation*}
y\left( t\right) =\frac{mg}{k}t+\frac{m^{2}g}{k^{2}}\left( e^{-\frac{k}{m}t}-1\right)
\end{equation*}である。したがって、速度\(v\left( t\right) =\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)について、\begin{equation*}v\left( t\right) =\frac{mg}{k}\left( 1-e^{-\frac{k}{m}t}\right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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終端速度

空気抵抗を考慮した落下運動を描写する微分方程式を、\begin{equation}
\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}=g-c\frac{dy\left( t\right) }{dt}
\quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化しました。ただし、\begin{equation*}
c=\frac{k}{m}>0
\end{equation*}です。

\(\left( 1\right) \)の右辺に注目します。初期時点\(0\)における速度は\(\frac{dy\left( 0\right) }{dt}=0\)であるため、\begin{equation*}g>c\frac{dy\left( 0\right) }{dt}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、初期時点において重力が空気抵抗を上回るため、物体は落下します。重力が空気抵抗を上回る間は、すなわち、時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)において、\begin{equation*}g>c\frac{dy\left( t\right) }{dt}
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation}\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}>0 \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。つまり、この段階において物体の加速度は正であるため、物体は加速しながら落下を続けます。

\(\left( 2\right) \)が成り立つ場合には速度\(\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)が増加し続けます。その一方で\(g\)と\(c\)は正の定数であるため、何らかの時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)において、\begin{equation}g=c\frac{dy\left( t\right) }{dt} \quad \cdots (3)
\end{equation}が成り立つ事態が起こり得るのであれば、重力と空気抵抗の大きさが釣り合うことになるため、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}=0
\end{equation*}となります。つまり、この段階において物体の加速度が\(0\)になるため、物体の落下速度は変化しません。

さらに時間\(t\)が経過して、\begin{equation}g<c\frac{dy\left( t\right) }{dt} \quad \cdots (4)
\end{equation}が成り立つ事態が起こり得るのであれば、空気抵抗の大きさが重力を上回ることになるため、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}<0
\end{equation*}となります。つまり、この段階において物体の加速度は負であるため、物体は減速します。

ただし、実際に起こり得るのは\(\left( 2\right) \)だけであり、\(\left( 3\right) \)および\(\left( 4\right) \)は起こり得ません。つまり、物体が落下するにつれて空気抵抗の力は重力に限りなく近づくものの、空気抵抗の力が重力を超える事態は起こり得ないということです。理由は以下の通りです。

\(\left( 4\right) \)の両辺を\(c>0\)で割ると、\begin{equation}\frac{g}{c}<\frac{dy\left( t\right) }{dt} \quad \cdots (5)
\end{equation}を得ます。先の命題から明らかになったように、\begin{equation*}
v\left( t\right) =\frac{mg}{k}\left( 1-e^{-\frac{k}{m}t}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\frac{dy\left( t\right) }{dt}=\frac{mg}{k}\left( 1-e^{-\frac{k}{m}t}\right)
\end{equation*}であるため、\(t\rightarrow +\infty \)の場合の極限をとると、\begin{eqnarray*}\lim_{t\rightarrow +\infty }\frac{dy\left( t\right) }{dt} &=&\lim_{t\rightarrow +\infty }\frac{mg}{k}\left( 1-e^{-\frac{k}{m}t}\right) \\
&=&\frac{mg}{k}\lim_{t\rightarrow +\infty }\left( 1-e^{-\frac{k}{m}t}\right)
\\
&=&\frac{mg}{k}\left( 1-0\right) \\
&=&\frac{mg}{k} \\
&=&\frac{g}{c}
\end{eqnarray*}を得ます。以上より、初期時点\(0\)において\(\frac{dy\left( 0\right) }{dt}=0\)であるとともに、初期段階において\(\frac{d^{2}y\left( t\right) }{dt^{2}}>0\)が成り立つため\(\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)の値は増加していき、最終的に\(\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)の値は\(\frac{g}{c}\)へ限りなく近づくことが明らかになりました。したがって、\(\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)が\(\frac{g}{c}\)を超える事態は起こり得ないため、\(\left(5\right) \)すなわち\(\left( 4\right) \)は成立しません。以上の議論より、空気抵抗が重力を上回る事態は起こり得ないことが明らかになりました。

結論を整理します。重力と空気抵抗を受けながら落下する物体の速度\(\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)は時間\(t\)の経過とともに増加していくとともに、以下の値\begin{equation}\frac{g}{c}=\frac{mg}{k} \quad \cdots (6)
\end{equation}へ限りなく近づいていきます。また、物体の速度\(\frac{dy\left( t\right) }{dt}\)が\(\left( 6\right) \)を超えることはありません。そこで、\(\left( 6\right) \)を終端速度(terminal velocity)と呼びます。重力と空気抵抗を受けながら落下する物体の速度は最終的に終端測度に限りなく近づくため、近似的には重力と空気抵抗がつり合い、物体の落下速度は一定になります。

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