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関係

二項関係の反射律

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反射律を満たす二項関係

集合\(A\)上の二項関係\(R\)が与えられているものとします。つまり、\begin{equation*}R\subset A\times A
\end{equation*}です。集合\(A\)上の二項関係\(R\)が以下の条件\begin{equation*}\forall x\in A:\left( x,x\right) \in R
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall x\in A:R\left( x,x\right)
\end{equation*}を満たす場合には、つまり、\(A\)の要素\(x\)を任意に選んだとき、\(R\)のもとで\(x\)が自身\(x\)と関係を持つことが保証される場合には、\(R\)は反射律(reflexive law)を満たすといいます。

以下は反射律を満たす二項関係の例です。

例(集団への所属関係)
ある学校の生徒からなる集合\(A\)が与えられたとき、任意の生徒\(x,y\in A\)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x\text{は}y\text{と同じ学年}
\end{equation*}を満たすものとして\(A\)上の二項関係\(R\)を定義します。学生\(x\in A\)を任意に選んだとき、\(x\)は\(x\)自身と同学年であるため\(R\left( x,x\right) \)が成り立ちます。したがって\(R\)は反射律を満たします。
例(実数の相等関係)
すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x=y
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(x=x\)すなわち\(R\left( x,x\right) \)が成り立ちます。したがって\(R\)は反射律を満たします。
例(実数の大小関係)
すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x\leq y
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(x\leq x\)すなわち\(R\left( x,y\right) \)が成り立ちます。したがって\(R\)は反射律を満たします。
例(集合の包含関係)
集合\(X\)のべき集合\(2^{X}\)が与えられたとき、\(X\)の任意の部分集合\(A,B\in 2^{X}\)に対して、\begin{equation*}R\left( A,B\right) \Leftrightarrow A\subset B
\end{equation*}を満たすものとして\(2^{X}\)上の二項関係\(R\)を定義します。集合\(A\in 2^{X}\)を任意に選んだとき、\(A\subset A\)すなわち\(R\left( A,A\right) \)が成り立ちます。したがって\(R\)は反射律を満たします。
例(三角形の相似関係)
平面上のすべての三角形からなる集合\(A\)が与えられたとき、任意の三角形\(x,y\in A\)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x\text{と}y\text{は相似}
\end{equation*}を満たすものとして\(A\)上の二項関係\(R\)を定義します。三角形\(x\in A\)を任意に選んだとき、\(x\)は\(x\)自身と相似であるため\(R\left( x,x\right) \)が成り立ちます。したがって\(R\)は反射律を満たします。
例(全体関係)
関係\(R\)が集合\(A\)上の全体関係であるものとします。つまり、\begin{equation*}R=A\times A
\end{equation*}です。\(x\in A\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\left( x,x\right) \in A\times A
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left( x,x\right) \in R
\end{equation*}が成り立つため\(R\)は反射律を満たします。
例(恒等関係)
集合\(A\)上の恒等関係\(\Delta_{A}\)が与えられているものとします。つまり、任意の\(x,y\in A\)に対して、\begin{equation*}\Delta _{A}\left( x,y\right) \Leftrightarrow x=y
\end{equation*}が成り立つということです。\(x\in A\)を任意に選んだとき、\(x=x\)すなわち\(\Delta _{A}\left( x,y\right) \)が成り立ちます。したがって\(\Delta _{A}\)は反射律を満たします。

 

反射律を満たさない二項関係

集合\(A\)上の二項関係\(R\)が反射律を満たすことは、\begin{equation*}\forall x\in A:\left( x,x\right) \in R
\end{equation*}を満たすこととして定義されます。したがって、集合\(A\)上の二項関係\(R\)が反射律を満たさないこととは、この命題の否定に相当する以下の命題\begin{equation*}\exists x\in A:\left( x,x\right) \not\in R
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\exists x\in A:\lnot R\left( x,x\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、\(A\)の要素\(x\)の中に、\(R\)のもとで\(x\)が自身\(x\)と関係を持たないものが存在する場合には\(R\)は反射律を満たしません。

以下は反射律を満たさない二項関係の例です。

例(実数の狭義大小関係)
すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x<y
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(x<x\)すなわち\(R\left( x,x\right) \)は成り立たないため\(R\)は反射律を満たしません。
例(実数の非相等関係)
すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x\not=y
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(x\not=x\)すなわち\(R\left( x,x\right) \)は成り立たないため\(R\)は反射律を満たしません。
例(空関係)
関係\(R\)が集合\(A\)上の空関係であるものとします。つまり、\begin{equation*}R=\phi
\end{equation*}です。\(x\in A\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\left( x,x\right) \not\in \phi
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left( x,x\right) \not\in R
\end{equation*}が成り立つため\(R\)は反射律を満たしません。

 

反射律と恒等関係の関係

集合\(A\)上の恒等関係\(\Delta_{A}\)とは、任意の\(x,y\in A\)に対して、\begin{equation*}\Delta _{A}\left( x,y\right) \Leftrightarrow x=y
\end{equation*}を満たすものとして定義される\(A\)上の二項関係です。つまり、集合\(A\)の2つの要素\(x,y\)が任意に与えられたとき、それらが一致する場合、そしてその場合にのみ\(\Delta _{A}\)のもとで\(x\)と\(y\)は関係を持ちます。

集合\(A\)上の二項関係\(R\)が与えられたとき、\(R\)が反射律を満たすという事実を、恒等関係\(\Delta _{A}\)を用いて以下のように表現できます。

命題(反射律と恒等関係の関係)
集合\(A\)上の二項関係\(R\)について、\begin{equation*}\Delta _{A}\subset R
\end{equation*}が成り立つことは、\(R\)が反射律を満たすための必要十分条件である。ただし\(\Delta _{A}\)は\(A\)上の恒等関係である。
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つまり、集合\(A\)上の二項関係\(R\)が反射律を満たすことと、それが恒等関係を部分集合として持つことは必要十分です。

上の命題は二項関係が反射律であるための必要十分条件を与えているため、二項関係が反射律を満たさないことを示す上でも有用です。つまり、集合\(A\)上の二項関係\(R\)について、\begin{equation*}\Delta _{A}\not\subset R
\end{equation*}が成り立つことは、すなわち恒等関係\(\Delta _{A}\)が\(R\)の部分集合ではないことは、\(R\)が二項関係を満たさないことと必要十分です。

恒等関係の定義を踏まえると、先の命題を以下のように表現することもできます。

命題(反射律と恒等関係の関係)
集合\(A\)上の二項関係\(R\)が与えられたとき、任意の\(x,y\in A\)について、\begin{equation*}x=y\Rightarrow R\left( x,y\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\(R\)が反射律を満たすための必要十分条件である。

つまり、集合\(A\)の2つの要素\(x,y\)を任意に選んだとき、それらが一致する場合には\(R\)のもとで\(x\)と\(y\)が関係を持つことを保証されるのであれば、\(R\)は反射律を満たします。

上の命題は二項関係が反射律であるための必要十分条件を与えているため、二項関係が反射律を満たさないことを示す上でも有用です。つまり、集合\(A\)上の二項関係\(R\)について、何らかの\(x,y\in A\)のもとで、\begin{equation*}x=y\wedge \lnot R\left( x,y\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\(R\)が二項関係を満たさないことと必要十分です。つまり、\(x\)と\(y\)は等しいにもかかわらず\(R\)のもとで\(x\)が\(y\)と関係を持たないような\(x,y\)が存在する場合、\(R\)は反射律を満たしません。

例(実数の大小関係)
すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x\leq y
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。先に示したように\(R\)は反射律を満たします。実際、\(x=y\)が成り立つ場合には\(x\leq y\)もまた成り立つため、先の命題より\(R\)は反射律を満たします。
例(実数の狭義大小関係)
すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x<y
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。先に示したように\(R\)は反射律を満たしません。実際、\(x=y\)であることは\(x<y\)を含意しないため、先の命題より\(R\)は反射律を満たしません。

 

反射律と関係の演算

反射律を満たす二項関係どうしの共通関係もまた反射律を満たすことが保証されます。

命題(反射律と共通関係)
集合\(A\)上の二項関係\(R,S\)がともに反射律を満たす場合、共通関係\(R\cap S\)もまた反射律を満たす。
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反射律を満たす二項関係どうしの和関係もまた反射律を満たすことが保証されます。

命題(反射律と和関係)

集合\(A\)上の二項関係\(R,S\)がともに反射律を満たす場合、和関係\(R\cup S\)もまた反射律を満たす。

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反射律を満たす二項関係の補関係は反射律を満たしません。以下の例より明らかです。

例(反射律と補関係)
集合\(A=\left\{ 1,2,3\right\} \)上の二項関係\(R\)が、\begin{equation*}R=\left\{ \left( 1,1\right) ,\left( 2,2\right) ,\left( 3,3\right) \right\}
\end{equation*}を満たすものとします。\(R\)は明らかに反射律を満たします。\(R\)の補関係は、\begin{equation*}R^{c}=\left\{ \left( 1,2\right) ,\left( 1,3\right) ,\left( 2,1\right)
,\left( 2,3\right) ,\left( 3,1\right) ,\left( 3,2\right) \right\}
\end{equation*}となりますが、例えば、\begin{equation*}
\left( 1,1\right) \not\in R^{c}
\end{equation*}が成り立つため\(R^{c}\)は反射律を満たしません。

反射律を満たす二項関係の差関係は反射律を満たしません。以下の例より明らかです。

例(反射律と差関係)
集合\(A=\left\{ 1,2,3\right\} \)上の二項関係\(R\)が、\begin{eqnarray*}R &=&\left\{ \left( 1,1\right) ,\left( 1,2\right) ,\left( 2,2\right) ,\left(
3,3\right) \right\} \\
S &=&\left\{ \left( 1,1\right) ,\left( 2,1\right) ,\left( 2,2\right) ,\left(
3,3\right) \right\}
\end{eqnarray*}を満たすものとします。\(R\)と\(S\)は明らかに反射律を満たします。\(R\)と\(S\)の差関係は、\begin{eqnarray*}R\backslash S &=&\left\{ \left( 1,2\right) \right\} \\
S\backslash R &=&\left\{ \left( 2,1\right) \right\}
\end{eqnarray*}となりますが、例えば、\begin{eqnarray*}
\left( 1,1\right) &\not\in &R\backslash S \\
\left( 1,1\right) &\not\in &S\backslash R
\end{eqnarray*}が成り立つため\(R\backslash S\)と\(S\backslash R\)は反射律を満たしません。

 

演習問題

問題(反射律)
集合\(A=\left\{ 1,2,3\right\} \)上に定義された二項関係\(R\)が、\begin{equation*}R=\left\{ \left( 1,1\right) ,\left( 1,2\right) ,\left( 2,2\right) ,\left(
3,3\right) ,\left( 3,1\right) \right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。\(R\)は反射律を満たすでしょうか。議論してください。
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問題(反射律)
集合\(A=\left\{ 1,2,3\right\} \)上に定義された二項関係\(R\)が、\begin{equation*}R=\left\{ \left( 1,1\right) ,\left( 1,2\right) ,\left( 2,3\right) ,\left(
3,3\right) ,\left( 3,1\right) \right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。\(R\)は反射律を満たすでしょうか。議論してください。
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問題(整数の合同関係)
すべての整数からなる集合\(\mathbb{Z} \)が与えられたとき、それぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{Z} \times \mathbb{Z} \)に対して、\begin{equation*}R\left( x,y\right) \Leftrightarrow x\equiv y\ \left( \mathrm{mod}\ 2\right)
\end{equation*}を満たすものとして\(R\)を定義します。ただし、\(x\equiv y\ \left( \mathrm{mod}\ 2\right) \)は\(x-y\)が\(2\)の整数倍であること(\(x\)が\(2\)を法として\(y\)と合同である)ことを表します。\(R\)は反射律を満たすでしょうか。議論してください。
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問題(有理数の相等関係)
すべての有理数からなる集合\(\mathbb{Q} \)は、\begin{equation*}\mathbb{Q} =\left\{ \frac{z}{n}\ |\ z\in \mathbb{Z} \wedge n\in \mathbb{N} \right\} \end{equation*}と定義されます。このとき、それぞれの順序対\(\left( \frac{z_{1}}{n_{1}},\frac{z_{2}}{n_{2}}\right) \in \mathbb{Q} \times \mathbb{Q} \)に対して、\begin{equation*}R\left( \frac{z_{1}}{n_{1}},\frac{z_{1}}{n_{2}}\right) \Leftrightarrow
z_{1}n_{2}=z_{2}n_{1}
\end{equation*}を満たすものとして\(R\)を定義します。\(R\)は反射律を満たすでしょうか。議論してください。
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問題(有向線分の相等関係)
平面上の点\(A\)を始点とし、点\(B\)を終点とする有向線分を\(\overrightarrow{AB}\)で表します。平面上のすべての有向線分からなる集合\(X\)が与えられたとき、それぞれの順序対\(\left( \overrightarrow{AB},\overrightarrow{CD}\right) \in X\times X\)に対して、\begin{equation*}\overrightarrow{AB}\ R\ \overrightarrow{CD}\Leftrightarrow \overrightarrow{AB}\text{を平行移動すると}\overrightarrow{CD}\text{に重なる}
\end{equation*}を満たすものとして\(R\)を定義します。\(R\)は反射律を満たすでしょうか。議論してください。
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