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非分割財の交換経済

非分割財の交換問題における競争均衡メカニズム

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競争均衡

非分割財の交換問題はエージェントたちが金銭などの分割可能な交換媒体を使うことができない状況を想定したモデルですが、仮に、非分割財の交換問題に対して何らかの価格体系を便宜的に導入した場合、競争均衡(competitive equilibrium)に相当する概念をどのような形で表現できるでしょうか。このような問題について考える上で参考になるのは市場均衡理論に登場する純粋交換問題(pure exchange economy)のモデルです。

純粋交換問題モデルの構成要素は消費者と経済資源です。初期時点においてすべての経済資源は消費者たちによって所有されています。また、消費者は資源配分どうしを比較する選好関係を持っています。仮に、すべての経済資源がある市場価格のもとで取引可能である場合、純粋交換問題における競争均衡(competitive equilibrium)とは、直感的には、以下の条件をともに満たす資源配分と価格体系の組を指します。

  1. それぞれの消費者は、与えられた価格体系と自身の初期保有によって規定される予算制約のもとで、自身の選好に照らし合わせて最良の資源配分を達成している。
  2. すべての商品市場において需要と供給が均衡している。

非分割財の交換問題はエージェントたちが金銭を用いずに商品を交換する状況を想定したモデルですが、モデルの基本構造は純粋交換問題と同じです。そこで、非分割財の交換問題において何らかの価格体系を便宜的に導入した場合、そこでの競争均衡はどのような形で特徴づけられるか以下で考察します。

非分割財の交換問題の私的価値モデルでは、任意のエージェント\(i\in I\)と任意の配分\(a_{I},a_{I}^{\prime }\in A\)に対して、\begin{equation*}a_{I}\succsim _{i}^{A}[\succsim _{I}]\ a_{I}^{\prime }\Leftrightarrow
a_{i}\succsim _{i}a_{i}^{\prime }
\end{equation*}という関係が成り立つため、エージェント\(i\)が配分どうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{A}[\succsim _{I}]\)について考えるかわりに、エージェント\(i\)が商品どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)について考えても一般性は失われません。以上を踏まえると、非分割財の交換問題の私的価値モデルを、\begin{equation*}\left( I,\left\{ h_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in I},A\right)
\end{equation*}と記述することができます。ただし、\(I\)はエージェント集合、\(h_{i}\)はエージェント\(i\in I\)が初期保有する商品、\(\succsim _{i}\)はエージェント\(i\)が商品どうしを比較する選好関係であり、これは商品集合\(H=\left\{ h_{i}\right\} _{i\in I}\)上に定義された二項関係です。また、\(A\)は配分集合であり、それぞれの配分\(a_{I}=\left( a_{i}\right) _{i\in I}\in A\)は以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:a_{i}\in H \\
&&\left( b\right) \ \bigcup\limits_{i\in I}\left\{ a_{i}\right\} =H \\
&&\left( c\right) \ \forall i,j\in I:\left( i\not=j\Rightarrow
a_{i}\not=a_{j}\right)
\end{eqnarray*}をすべて満たします。条件\(\left( a\right) \)は、配分においてそれぞれのエージェントに割り当てられる商品は、初期時点において自分を含めた誰かが所有していた商品でなければならないことを意味します。条件\(\left( b\right) \)は、配分においてそれぞれの商品は必ず誰かに割り当てられる必要があることを意味します。条件\(\left( c\right) \)は、配分において同じ商品が異なるエージェントに割り当てられてはならないことを意味します。組\(a_{I}\)が配分である場合、すなわち\(a_{I}\)が以上の条件をすべて満たす場合、それぞれのエージェント\(i\)に対して商品\(a_{i}\)を割り当てることが物理的に可能です。

以上の経済に価格体系を導入します。それぞれの商品\(h\in H\)の価格を\(p_{h}\in \mathbb{R} _{+}\)で表記するのであれば、すべての商品の価格からなるベクトルが、\begin{equation*}p_{H}=\left( p_{h}\right) _{h\in H}\in \mathbb{R} _{+}^{\left\vert H\right\vert }
\end{equation*}として得られます。純粋交換問題における競争均衡が資源配分と価格ベクトルの組として表現されるのと同様、非分割財の交換問題における競争均衡もまた、配分と価格ベクトルの組\begin{equation*}
\left( a_{I},p_{H}\right) \in A\times \mathbb{R} _{+}^{\left\vert H\right\vert }
\end{equation*}として表現します。では、競争均衡はどのような性質を満たす組\(\left( a_{I},p_{H}\right) \)として特徴づけられるでしょうか。

まず、非分割財の交換問題における需給均衡条件について考えます。非分割財の交換問題が与えられたとき、初期配分\(h_{I}\in A\)では商品集合\(H\)に属するすべての商品がエージェント集合\(I\)に属するエージェントたちに1つずつ配分されています。他の任意の配分\(a_{I}\in A\)においても同様であるため、資源配分の候補を配分集合\(A\)から選ぶ限りにおいて、その配分は自動的に市場の需給均衡条件を満たしています。

続いて、非分割財の交換問題におけるエージェントの選好最大化条件について考えます。非分割財の交換問題が与えられたとき、配分と価格ベクトルの組\(\left( a_{I},p_{H}\right) \)が競争均衡であるためには、まず、それぞれのエージェントの予算制約が満たされている必要があります。具体的には、与えられた価格体系\(p_{H}\)のもとでエージェント\(i\)が初期保有する商品\(h_{i}\)を販売すれば、エージェント\(i\)はその商品の価格\(p_{h_{i}}\)に相当する所得を得ます。一方、配分\(a_{I}\)においてエージェント\(i\)に割り当てられる商品\(a_{i}\)を価格体系\(p_{H}\)のもとで購入するためには、その商品の価格\(p_{a_{i}}\)に相当する金額を支払う必要があります。したがって、価格体系\(p_{H}\)のもとで配分\(a_{I}\)が予算制約を満たすことは、\begin{equation*}\forall i\in I:p_{a_{i}}\leq p_{h_{i}}
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。さらに、価格体系\(p_{H}\)と配分\(a_{I}\)のもとで任意のエージェント\(i\)の選好が最大化されていることとは、エージェント\(i\)が自身の選好\(\succsim _{i}\)に照らし合わせて、\(a_{I}\)のもとで自身に割り当てられる商品\(a_{i}\)を、価格体系\(p_{H}\)のもとで自身が入手可能な任意の商品以上に評価していること、すなわち、\begin{equation*}\forall i\in I,\ \forall h\in H:\left( p_{h}\leq p_{h_{i}}\Rightarrow
a_{i}\succsim _{i}h\right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。競争均衡とは、以上の2つの条件を満たす配分と価格ベクトルの組\(\left( a_{I},p_{H}\right) \)として特徴づけられます。

議論を整理しましょう。非分割財の交換問題の私的価値モデルが与えられたとき、状態\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)において配分と価格ベクトルの組\(\left( a_{I},p_{H}\right) \in A\times \mathbb{R} _{+}^{\left\vert H\right\vert }\)が競争均衡(competitive equilibrium)であることとは、以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:p_{a_{i}}\leq p_{h_{i}} \\
&&\left( b\right) \ \forall i\in I,\ \forall h\in H:\left( p_{h}\leq
p_{h_{i}}\Rightarrow a_{i}\succsim _{i}h\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つこととして定義されます。ただし、\(\left( a\right) \)は予算制約であり、\(\left(b\right) \)は選好最大化の条件です。また、状態\(\succsim _{I}\)と配分\(a_{I}\)をそれぞれ任意に選んだとき、\(\succsim _{I}\)において\(\left(a_{I},p_{H}\right) \)が競争均衡になるような価格ベクトル\(p_{H}\)が存在する場合には、\(\succsim _{I}\)において\(a_{I}\)は競争的(competitive)であると言います。

例(競争均衡)
非分割財の交換問題の私的価値モデルにおいて、エージェント集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3,4\right\}
\end{equation*}であるとき、商品集合は、\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3},h_{4}\right\}
\end{equation*}となります。ただし、\(h_{i}\)はエージェント\(i\)が初期保有する商品です。任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim_{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim_{I}\)が以下の表で与えられているものとします。

$$\begin{array}{ccccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{2} & h_{4} & h_{1} \\ \hline
2 & h_{4} & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{4} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
4 & h_{3} & h_{2} & h_{1} & h_{4} \\ \hline
\end{array}$$

表:エージェントの選好

以下の配分\begin{equation*}
a_{I}=\left( a_{1},a_{2},a_{3},a_{4}\right) =\left(
h_{3},h_{4},h_{2},h_{1}\right)
\end{equation*}が先の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)において競争的であることを示します。具体的には、以下の価格体系\begin{equation*}p_{H}=\left( p_{h_{1}},p_{h_{2}},p_{h_{3}},p_{h_{4}}\right) =\left(
3,2,3,2\right)
\end{equation*}について考えます。このとき、\begin{eqnarray*}
p_{a_{1}} &=&p_{h_{3}}=3\leq 3=p_{h_{1}} \\
p_{a_{2}} &=&p_{h_{4}}=2\leq 2=p_{h_{2}} \\
p_{a_{3}} &=&p_{h_{1}}=3\leq 3=p_{h_{3}} \\
p_{a_{4}} &=&p_{h_{2}}=2\leq 2=p_{h_{4}}
\end{eqnarray*}が成り立つため、\(\left(a_{I},p_{H}\right) \)が予算制約を満たすことが明らかになりました。続いて、選好最大化の条件の確認です。まず、エージェント\(1\)について、\(p_{h}<p_{h_{1}}\)を満たす商品\(h\)は\(h_{1},h_{2},h_{3},h_{4}\)ですが、\begin{equation*}a_{1}=h_{3}\succ _{1}h_{2}\succ _{1}h_{4}\succ _{1}h_{1}
\end{equation*}が成り立つため、選好最大化が実現しています。エージェント\(2\)については、\(p_{h}<p_{h_{2}}\)を満たす商品\(h\)は\(h_{4}\)ですが、\begin{equation*}a_{2}=h_{4}\sim _{2}h_{4}
\end{equation*}が成り立つため、選好最大化が実現しています。エージェント\(3\)については、\(p_{h}<p_{h_{3}}\)を満たす商品\(h\)は\(h_{1},h_{2},h_{3},h_{4}\)ですが、\begin{equation*}a_{3}=h_{1}\succ _{3}h_{4}\succ _{3}h_{3}\succ _{3}h_{2}
\end{equation*}が成り立つため、選好最大化が実現しています。エージェント\(4\)については、\(p_{h}<p_{h_{4}}\)を満たす商品\(h\)は\(h_{2}\)ですが、\begin{equation*}a_{4}=h_{2}\sim _{4}h_{2}
\end{equation*}が成り立つため、選好最大化が実現しています。したがって、\(\left( a_{I},p_{H}\right) \)が選好最大化の条件を満たすことが明らかになりました。以上により、\(\left( a_{I},p_{H}\right) \)が競争均衡であること、すなわち\(a_{I}\)が\(\succsim _{I}\)のもとで競争的であることが明らかになりました。

 

競争均衡メカニズム

非分割財の交換問題の私的価値モデルにおいて、メカニズム\(\phi \)が何らかの純粋戦略の組を均衡として遂行可能であるものとします。ただし、表明原理より、正直戦略の組が均衡になるケース、すなわち誘因両立的なメカニズムに対象を限定しても一般性は失われません。状態が\(\succsim _{I}\)である場合、誘因両立的なメカニズム\(\phi \)のもとではエージェントたちは正直戦略にもとづいて\(\succsim _{I}\)を申告し、その申告に対してメカニズムは配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)を定めますが、この配分が\(\succsim _{I}\)のもとで競争的であることが保証される場合、このメカニズム\(\phi \)は競争均衡メカニズム(competitiveequilibrium mechanism)であると言います。

メカニズムを設計する段階において、制度設計者はどの状態が真の状態であるか分からないため、誘因両立的なメカニズムが競争均衡メカニズムであることを保証するためには、起こり得るあらゆる状態において、そこでの均衡配分が競争的であることを保証する必要があります。したがって、誘因両立的なメカニズム\(\phi \)が競争均衡メカニズムであることとは、状態\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:p_{\phi _{i}\left( \succsim _{I}\right)
}\leq p_{h_{i}} \\
&&\left( b\right) \ \forall i\in I,\ \forall h\in H:\left[ p_{h}\leq
p_{h_{i}}\Rightarrow \phi _{i}\left( \succsim _{I}\right) \succsim _{i}h\right] \end{eqnarray*}を満たす価格ベクトル\(p_{H}\in \mathbb{R} _{+}^{\left\vert H\right\vert }\)が存在することを意味します。つまり、状態\(\succsim _{I}\)がいかなるものであるかに関わらず、任意のエージェント\(i\)は自身の真の選好\(\succsim _{i}\)を正直に表明することが均衡になるとともに、均衡配分\(\phi \left( \succsim_{I}\right) \)が\(\succsim _{I}\)のもとで競争的になるということです。

メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)に均衡が存在することを前提としない場合にはどうなるでしょうか。この場合、メカニズム\(\phi \)が競争的であることとは、エージェントたちが申告する選好プロファイル\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)を任意に選んだとき、それに対して\(\phi \)が定める配分\(\phi \left( \succsim_{I}\right) \)が\(\succsim _{I}\)のもとで競争的であることを意味します。具体的には、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:p_{\phi _{i}\left( \succsim _{I}\right)
}\leq p_{h_{i}} \\
&&\left( b\right) \ \forall i\in I,\ \forall h\in H:\left[ p_{h}\leq
p_{h_{i}}\Rightarrow \phi _{i}\left( \succsim _{I}\right) \succsim _{i}h\right] \end{eqnarray*}を満たす価格ベクトル\(p_{H}\in \mathbb{R} _{+}^{\left\vert H\right\vert }\)が存在するということです。これは誘因両立的なメカニズム\(\phi \)が競争的であることを意味する先の条件と形式的には一致します。ただし、この場合、メカニズム\(\phi \)は誘因両立的であるとは限らないため、メカニズムが定める配分はエージェントたちが申告する選好プロファイルのもとで競争的である一方で、エージェントたちの真の選好のもとで競争的であるとは限りません。つまり、真の意味で競争的な配分を遂行するためには、メカニズムは競争均衡メカニズムであるとともに誘因両立的である必要があるということです。

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