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インセンティブの問題

1つの商品をめぐって複数の買い手たちが入札を行うオークションを単一財オークションと呼ばれる環境として定式化しました。続いて問題になるのは、どの入札者に商品を落札させいくら支払わせるか、その最適な配分を特定し実行することです。ただ、話がそう単純ではないことを以下で順を追って解説します。

それぞれの入札者は商品に対する支払い意思額を持っていますが、これは自分だけが知っている情報であり、他の入札者たちやオークションの主催者はそれを事前に観察できません。仮に、ある入札者が他の人たちに対して、オークションに参加する前に自身の支払い意思額を打ち明けたとしましょう。しかし、それを聞いた他の人たちは、その発言の真偽を確認する術がありません。その入札者は嘘をついているかもしれないし、本当のことを言っているかもしれない。入札者にとって支払い意思額は自身の頭の中にある情報である以上、その入札者が事前に伝えてきた支払い意思額の真偽を他の人たちが判定することは原理的に不可能です。これは全ての入札者の支払い意思額について当てはまります。このとき、それぞれの入札者にとって自身が持つ支払い意思額は私的情報(private information)であると言います。それぞれの入札者が考える支払い意思額はその人だけが私的に持っている情報であり、他の人たちはそれを事前に知ることはできないということです。また、市場参加者の中に私的情報を持つプレイヤーが存在するとき、その市場では情報の非対称性(asymmetric information)が成立していると言います。単一財オークション市場ではプレイヤーの間に情報の非対称性が成立しています。

オークションのルールを設計するオークションの主催者は、何らかの意味において社会的に望ましい結果を実現しようとします。仮に主催者が入札者たちにとっての真の支払い意思額を観察できるならば、観察した真の支払い意思額の組を基準に社会的に望ましい結果を特定し、それを遂行すればよいことになります。しかし、実際には、先に解説したような情報の非対称性が成立しているため、マッチメイカーは入札者たちにとっての支払い意思額を観察できず、したがって社会的に望ましい結果を事前に特定することはできません。マッチメイカーは入札者たちに自身にとっての支払い意思額を入札させた上で、申告された入札額の組を基準に社会的に望ましい結果を特定し、それを遂行せざるを得ません。ただ、それぞれの入札者が申告する入札額は、その入札者による真の支払い意思額と一致するとは限りません。入札者はより望ましい結果(例えば、より安く落札する)を実現するために戦略的に行動しますが、その一環として、偽りの支払い意思額を入札する可能性があるからです。入札者にとっての支払い意思額は私的情報であるため、入札者が嘘をついて真の支払い意思額とは異なる入札を行っても、オークションの主催者はそれが嘘であるかどうかを知る術がないのです。入札者たちが偽りの支払い意思額を入札する場合、マッチメイカーは偽りの支払い意思額の組を基準に結果を決定することとなり、それは真の意味で社会的に望ましい結果とは異なるものになってしまう可能性があります。情報の非対称性に起因するこのような問題をインセンティブの問題(incentive problem)と呼びます。

インセンティブの問題を引き起こす原因が情報の非対称性である以上、インセンティブの問題を解決するためには、何らかの方法を通じて情報の非対称性を解消する必要があります。言い換えると、何らかの方法を通じて、それぞれの入札者にとっての真の支払い意思額を収集する必要があります。ただ、繰り返しになりますが、入札者は正直に入札するとは限りませんし、そもそも正直に答えているかどうかを判別する方法が存在しません。

ただ、それぞれのプレイヤーにとって、自分にとっての真の支払い意思額を正直に入札することが最も得であるようなオークションルールを設計すれば、そのようなルールのもと、入札者たちは自分にとっての真の支払い意思額を自ら進んで正直に入札するため、結果として情報の非対称性は解消されます。さらに、そのオークションルールが同時に、申告された入札額の組を基準に社会的に望ましい結果を導くような形で設計されていれば、真の意味で社会的に望ましい結果を遂行できることになります。ただ、そもそも、そのようなオークションルールを設計することは可能なのでしょうか。また、可能である場合、具体的にはどのようなルールがそのような要件を満たすのでしょうか。このような問題への解を得ることが私たちの目標です。

一般に、情報の非対称性が成立する市場において、私的情報を持っている参加者をエージェント(agent)と呼びます。市場において情報の非対称性が成立するとき、エージェントが自身の利益を最大化するために戦略的に振る舞う結果、その市場ではインセンティブの問題が発生します。インセンティブの問題を解消することを目的に設計されるルールをメカニズム(mechanism)と呼び、メカニズムを設計する主体をプリンシパル(principal)と呼びます。プリンシパルは適切なメカニズムを設計することを通じて、エージェントたちの行動を社会的に望ましい方向へ誘導しようとします。単一財オークションにおけるエージェントは入札者たちです。入札者は商品への支払い意思額を私的情報として持っています。入札者たちが自身にとってより望ましい結果を実現するために真の支払い意思額とは異なる金額を入札する結果、単一財オークション市場ではインセンティブの問題が発生します。そこで、マッチメイカーはプリンシパルとして適切なメカニズム、すなわちオークションルールを設計し、入札者たちの行動を社会的に望ましい方向へ誘導しようとします。以上の視点を踏まえた上で、単一財オークションを描写するモデルを見直します。

 

タイプと状態

単一財オークションにおいて、それぞれの入札者は支払い意思額を私的情報として持つエージェントです。入札者\(i\in I\)が持つ私的情報を入札者\(i\)のタイプ(type)と呼びます。具体的には、それぞれの入札者\(i\)のタイプは、自身にとっての商品への支払い意思額\(\theta _{i}\)として集約的に表現できるものとみなします。

入札者\(i\)の真のタイプ、すなわち真の支払い意思額は1つだけですが、それを観察できるのは入札者\(i\)だけであり、他の任意の入札者やオークションの主催者はそれを事前に観察できません。このような事情をモデル化するために、入札者\(i\)の支払い意思額\(\theta _{i}\)は様々な値を取り得るものとし、その中の真の値を知っているのは入札者\(i\)自身だけであるものとみなします。具体的には、入札者\(i\)の支払い意思額がとり得る値からなる集合を\(\Theta _{i}\)で表し、これを入札者\(i\)のタイプ集合(type set)と呼びます。\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)です。入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)はタイプ集合\(\mathcal{\Theta }_{i}\)に属する様々な値を取り得ますが、\(\theta _{i}\)の真の値を知っているのは入札者\(i\)だけです。他の任意の入札者やオークションの主催者は、\(\theta _{i}\)のとり得る値の範囲\(\Theta _{i}\)を知っていますが、その中のどの値が真の値であるかは知らないものと仮定することで、入札者\(i\)による支払い意思額が私的情報であるという状況を表現するということです。

すべての入札者のタイプからなる組を\(\theta_{I}=(\theta _{i})_{i\in I}\)で表記し、これをタイププロファイル(type profile)などと呼びます。入札者\(i\)以外の入札者たちのタイプからなる組を\(\theta_{-i}=\left( \theta _{j}\right) _{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }\)で表記します。\(\theta _{I}=\left(\theta _{i},\theta _{-i}\right) \)です。

すべての入札者のタイプ集合からなる集合を\(\left\{ \Theta _{i}\right\} _{i\in I}\)で表記し、その直積集合を\(\mathcal{\Theta }_{I}=\prod_{i\in I}\Theta _{i}\)で表記します。\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)です。また、入札者\(i\)以外の入札者たちのタイプ集合の直積を\(\mathcal{\Theta }_{-i}=\prod_{j\in I\backslash \{i\}}\Theta _{j}\)で表記します。\(\theta _{-i}\in \Theta _{-i}\)です。

入札者たちのタイプの組\(\theta _{I}\)は、問題としている単一財オークション市場の状態(state of the world)とも呼ばれます。すべての入札者たちの真のタイプから構成される状態\(\theta _{I}\)は、そのオークション市場の真の状態(true state)に相当します。ただ、それぞれの入札者\(i\)が知っているのは自身の真のタイプ\(\theta _{i}\)だけであり、真の状態\(\theta _{I}\)を構成する残りの要素\(\theta _{-i}\)については正確に知らず、\(\theta _{-i}\)がとり得る値の範囲\(\mathcal{\Theta }_{-i}\)だけを知っています。つまり、支払い意思額\(\theta _{i}\)を持つ入札者\(i\)が直面し得る状態からなる集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( \theta _{i},\theta _{-i}\right) \right\} _{\theta _{-i}\in
\Theta _{-i}}
\end{equation*}であり、入札者\(i\)はこのことを認識しています。他の任意の入札者についても同様です。

 

メカニズム

仮にオークションの主催者が問題としているオークション市場の真の状態\(\theta _{I}\)を観察できるならば、観察した\(\theta _{I}\)を基準に社会的に望ましい結果を結果集合\(A\times \mathbb{R} ^{n}\)の中から選び取ることが原理的に可能であるため、インセンティブの問題は発生しません。しかし、実際には、主催者は真の状態\(\theta _{I}\)を事前に観察できず、状態がとり得る値の範囲\(\Theta _{I}\)だけを知っています。このような状況においてインセンティブの問題を解消するために、主催者は何らかのオークションルール、すなわちメカニズム設計する必要があります。

具体的には、主催者は入札者たちにタイプを申告させる(支払い意思額を入札させる)と同時に、申告されたタイプの組に応じて特定の結果を選択するルールをあらかじめ設計します。単一財オークションにおける結果は配分と所得移転の組であるため、ここでは2つのルールが必要になります。つまり、入札者たちが申告するタイプの組に対して配分を定めるルールと、所得移転を定めるルールです。

入札者たちが申告するタイプの組\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)に対して、何らかの配分\begin{equation*}a\left( \theta _{I}\right) =\left( a_{1}\left( \theta _{I}\right) ,\cdots
,a_{n}\left( \theta _{I}\right) \right) \in A
\end{equation*}を定める写像\(a:\Theta _{I}\rightarrow A\)を配分ルール(allocationrule)や配分関数(allocation function)などと呼びます。ただし、\(a_{i}\left( \theta_{I}\right) \)は配分ルールが定める配分\(a\left( \theta _{I}\right) \)のもとで入札者\(i\)が商品を入手する確率であるため、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:a_{i}\left( \theta _{I}\right) \in \left[
0,1\right] \\
&&\left( b\right) \ \sum_{i=1}^{n}a_{i}\left( \theta _{I}\right) \leq 1
\end{eqnarray*}をともに満たす必要があります。配分ルールが定める配分\(a\left(\theta _{I}\right) \)のもとで商品がいかなる落札者によっても落札されない(商品が売れ残る)確率は、\begin{equation*}1-\sum_{i=1}^{n}a_{i}\left( \theta _{I}\right)
\end{equation*}となります。

例(配分ルール)
入札者集合が\(I=\left\{ 1,2,3\right\} \)であり、それぞれの入札者が入札する支払い意思額が、\begin{equation*}\theta _{I}=\left( \theta _{1},\theta _{2},\theta _{3}\right) =\left(
10,9,8\right)
\end{equation*}であるものとします。配分ルール\(a:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「最高金額を入札した者を勝者と定める」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}\left( \theta _{I}\right) ,a_{2}\left( \theta _{I}\right)
,a_{3}\left( \theta _{I}\right) \right) =\left( 1,0,0\right)
\end{equation*}となります。別の配分ルール\(a^{\prime }:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「入札額に関係なくランダムに勝者を決める」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}^{\prime }\left( \theta _{I}\right) ,a_{2}^{\prime }\left(
\theta _{I}\right) ,a_{3}^{\prime }\left( \theta _{I}\right) \right) =\left(
\frac{1}{3},\frac{1}{3},\frac{1}{3}\right)
\end{equation*}となります。

入札者たちが申告するタイプの組\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)に対して、何らかの所得移転\begin{equation*}t\left( \theta _{I}\right) =\left( t_{1}\left( \theta _{I}\right) ,\cdots
,t_{n}\left( \theta _{I}\right) \right) \in \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を定める写像\(t:\Theta _{I}\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)を移転ルール(transfer rule)や支払い関数(payment function)などと呼びます。ただし、\(t_{i}\left( \theta_{I}\right) \)は移転ルールが定める所得移転\(t\left( \theta _{I}\right) \)のもとで入札者\(i\)に課される所得移転であるため、\begin{equation*}\forall i\in I:t_{i}\left( \theta _{I}\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}が成り立ちます。移転ルールが定める所得移転\(t\left( \theta _{I}\right) \)のもとでオークションの主催者に課される所得移転は、\begin{equation*}\sum_{i=1}^{n}t_{i}\left( \theta _{I}\right)
\end{equation*}となります。

例(移転ルール)
入札者集合が\(I=\left\{ 1,2,3\right\} \)であり、それぞれの入札者が入札する支払い意思額が、\begin{equation*}\theta _{I}=\left( \theta _{1},\theta _{2},\theta _{3}\right) =\left(
10,9,8\right)
\end{equation*}であるものとします。移転ルール\(t:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「最高金額を入札した者だけが入札額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( t_{1}\left( \theta _{I}\right) ,t_{2}\left( \theta _{I}\right)
,t_{3}\left( \theta _{I}\right) \right) =\left( 10,0,0\right)
\end{equation*}となります。別の配分ルール\(t^{\prime }:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「最高金額を入札した者だけが2番目に高い入札額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( t_{1}^{\prime }\left( \theta _{I}\right) ,t_{2}^{\prime }\left(
\theta _{I}\right) ,t_{3}^{\prime }\left( \theta _{I}\right) \right) =\left(
9,0,0\right)
\end{equation*}となります。

単一財オークションにおいて、配分ルール\(a:\Theta _{I}\rightarrow A\)と移転ルール\(t:\Theta _{I}\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)の組を、\begin{equation*}\left( a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}と表記し、これをメカニズム(mechanism)や直接メカニズム(direct mechanism)もしくは結果関数(outcome function)などと呼びます。入札者たちが申告するタイプの組\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)に対して、メカニズム\(\left( a,t\right) \)は結果\begin{equation*}\left( a\left( \theta _{I}\right) ,t\left( \theta _{I}\right) \right)
=\left( a_{1}\left( \theta _{I}\right) ,\cdots ,a_{n}\left( \theta
_{I}\right) ,t_{1}\left( \theta _{I}\right) ,\cdots ,t_{n}\left( \theta
_{n}\right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を定めます。この結果において商品がいかなる落札者によっても落札されない(商品が売れ残る)確率は、\begin{equation*}
1-\sum_{i=1}^{n}a_{i}\left( \theta _{I}\right)
\end{equation*}と定まり、オークションの主催者に課される所得移転は、\begin{equation*}
\sum_{i=1}^{n}t_{i}\left( \theta _{I}\right)
\end{equation*}となります。

例(メカニズム)
入札者集合が\(I=\left\{ 1,2,3\right\} \)であり、それぞれの入札者が入札する支払い意思額が、\begin{equation*}\theta _{I}=\left( \theta _{1},\theta _{2},\theta _{3}\right) =\left(
10,11,7\right)
\end{equation*}であるものとします。メカニズム\(\left( a,t\right) :\Theta_{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)が「最高金額を入札した者を勝者にし、勝者が自身の入札額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}\left( \theta _{I}\right) ,a_{2}\left( \theta _{I}\right)
,a_{3}\left( \theta _{I}\right) ,t_{1}\left( \theta _{I}\right) ,t_{2}\left(
\theta _{I}\right) ,t_{3}\left( \theta _{I}\right) \right) =\left(
0,1,0,0,11,0\right)
\end{equation*}となります。別のメカニズム\(\left( a^{\prime },t^{\prime }\right):\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)が「最高金額を入札した者を勝者にし、勝者が2番目の入札金額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}^{\prime }\left( \theta _{I}\right) ,a_{2}^{\prime }\left(
\theta _{I}\right) ,a_{3}^{\prime }\left( \theta _{I}\right) ,t_{1}^{\prime
}\left( \theta _{I}\right) ,t_{2}^{\prime }\left( \theta _{I}\right)
,t_{3}^{\prime }\left( \theta _{I}\right) \right) =\left(
0,1,0,0,10,0\right)
\end{equation*}となります。

オークションの主催者はメカニズム\(\left( a,t\right) \)を利用して以下の流れのもとで資源配分を行います。

  1. オークションの主催者はメカニズム\(\left(a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)を設計し、それを入札者たちに提示する。
  2. それぞれの入札者\(i\in I\)は提示されたメカニズム\(\left( a,t\right) \)に同意すれば次のステップへ進む。同意しない場合にはオークションに参加しない。
  3. メカニズム\(\left( a,t\right) \)に同意したそれぞれの入札者\(i\)は、自身のタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)を主催者へ申告する(支払い意思額を入札する)。その際、他の入札者たちが申告するタイプを観察することはできない。また、入札者は真のタイプを正直に申告するとは限らない(真の支払い意思額を正直に入札するとは限らない)。
  4. 仮にすべての入札者がメカニズム\(\left( a,t\right) \)に同意する場合、主催者は全員が申告してきたタイプからなる組\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)を得る。そこで、それに対して先に提示したメカニズム\(\left( a,t\right) \)にもとづいて配分\(\left( a\left( \theta _{I}\right) ,t\left(\theta _{I}\right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)を選び取り、これを遂行する。その結果、それぞれのエージェント\(i\)は配分\(a_{i}\left( \theta_{I}\right) \)と所得移転\(t_{i}\left( \theta_{I}\right) \)に直面する(確率\(a_{i}\left( \theta _{I}\right) \)で商品を入手する対価として所得移転\(t_{i}\left( \theta _{I}\right) \)が課される)。

ここでの1つ目のポイントは、オークションの主催者は入札者たちに交渉の余地のないオファー(take-it-or-leave-it offer)をしているという点です。つまり、入札者たちは提示されたメカニズムに同意するか否かの二択に直面しており、メカニズムの内容に対して主催者と交渉する余地は与えられていません。

2つ目のポイントは、主催者は自身が最初に提示したメカニズムを後で撤回し、別のメカニズムを再提示することはできないという点です。このとき、主催者は自身が提示したメカニズムにコミット(commit)していると言います。

3つ目のポイントは、主催者は入札者たちにとってのタイプ(真の支払い意思額)を事前に観察できないため、直接メカニズムは入札者が申告するタイプの組(入札額)に対して結果を定める形にならざるを得ないということです。しかも、それぞれの入札者たちが入札する金額は自身にとっての真の支払い意思額と一致するとは限りません。入札者は偽りの金額を入札することが得であると判断するならば戦略的に嘘をつく可能性があるからです。しかも、支払い意思額は入札者の私的情報である以上、入札者が表明する入札額が真の支払い意思額と一致するかどうかを第三者は判定できません。ただ、主催者がメカニズムを巧みに設計すれば、入札者たちが真の支払い意思額をそのまま正直に入札するよう誘導できるとともに、社会的に望ましい結果を実現できる可能性があります。この点については後述します。

4つ目のポイントは、契約不履行(breach of contract)の可能性を考慮する必要があるという点です。例えば、商品の落札者が支払いを拒否したり、逆に、主催者が落札者に対してメカニズムが定める支払額よりも高い金額を不当に請求するなどの問題が発生し得るため、事前に対策を講じておく必要があります。メカニズムが定める結果の履行が裁判所など第三者によって強制され得るのであれば、契約不履行の可能性は排除されているものとみなすこともできます。一方、初期の周波数オークションにおいて、落札後に返済不履行が生じた場合の手続きが準備されていなかったため、携帯電話事業がなかなかスタートしなかったという事例もあります。

次回はメカニズムのもとで入札者たちが直面する戦略的状況をゲームとして整理します。

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