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単一財オークション

単一財オークションにおけるメカニズム

目次

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インセンティブの問題

分割不可能な1つの商品が売りに出される単一財オークションが環境\begin{equation*}
\left( I,\left\{ \theta _{i}\right\} _{i\in I},A\times \mathbb{R} ^{n},\left\{ u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) \right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}として表現されているものとします。ただし、\(I\)は入札者集合、\(\theta _{i}\)は入札者\(i\)にとっての商品の評価額、\(A\times \mathbb{R} ^{n}\)は結果集合、\(u_{i}\left( \cdot,\theta _{I}\right) \)は入札者\(i\)が結果どうしを比較する利得関数です。特に、入札者の利得関数に関して準線型性、リスク中立性、私的価値を仮定する(準線型環境)場合には、入札者\(i\)が結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)から得る利得を、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =v_{i}\left( a_{I},\theta
_{i}\right) -t_{i}
\end{equation*}と表現できます。ただし、\(v_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) :A\rightarrow \mathbb{R} \)は配分の金銭価値を特定する評価関数です。また、準線型性、リスク中立性、私的価値の仮定に加えて非外部性を仮定する場合には、入札者\(i\)が結果\(\left( a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)から得る利得を、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}と表現できます。

単一財オークションを以上のように定式化しましたが、続いて問題になるのは、どの入札者に商品を落札させいくら支払わせるか、その最適な結果を特定し実行することです。ただ、話がそう単純ではないことを以下で順番に解説します。

それぞれの入札者は商品に対する評価額を持っていますが、これは自分だけが知っている情報であり、他の入札者たちやオークションの主催者はそれを事前に観察できません。仮に、オークションが行われる前にある入札者が他の人たちに対して自身にとっての評価額を打ち明けたとしましょう。しかし、それを聞いた他の人たちは、その発言の真偽を確認する術がありません。その入札者は嘘をついているかもしれないし、本当のことを言っているかもしれない。入札者にとっての商品の評価額はその人の頭の中にある情報であるため、その人の発言が嘘であるか見破ることは原理的に不可能です。すべて入札者について同様の議論が成り立ちます。このとき、それぞれの入札者にとって商品の評価額は私的情報(private information)であると言います。それぞれの入札者にとっての真の評価額はその人だけが私的に持っている情報であり、他の人たちはそれを事前に知ることはできないということです。一般に、市場参加者の中に私的情報を持つプレイヤーが存在する場合、その市場では情報の非対称性(asymmetric information)が成立していると言います。単一財オークション市場ではプレイヤーの間に情報の非対称性が成立しています。

オークションのルールを設計する主催者は、何らかの意味において社会的に望ましい結果を実現しようとします。仮に主催者が入札者たちにとっての真の評価額を観察できるならば、観察した評価額を基準に社会的に望ましい結果を特定し、それを遂行すればよいことになります。しかし、実際には、先に解説したような情報の非対称性が成立しているため、主催者は入札者たちにとっての真の評価額を観察できず、したがって社会的に望ましい結果を事前に特定できません。主催者は入札者たちに評価額を入札させた上で、入札額を基準に社会的に望ましい結果を特定し、それを遂行せざるを得ません。ただ、それぞれの入札者による入札額は、その入札者にとっての真の評価額と一致するとは限りません。入札者はより望ましい結果(例えば、より安く落札する)を実現するために戦略的に行動しますが、その一環として、偽りの評価額を入札する可能性があるからです。入札者にとって真の評価額は私的情報であるため、入札者が嘘をついて真の評価額とは異なる金額を入札しても、主催者はそれが嘘であるかどうかを知る術がないのです。入札者たちが偽りの評価額を入札する場合、主催者は偽りの評価額を基準に結果を決定することとなり、それは真の意味で社会的に望ましい結果とは異なるものになってしまう可能性があります。情報の非対称性に起因するこのような問題をインセンティブの問題(incentive problem)と呼びます。

インセンティブの問題を引き起こす原因が情報の非対称性である以上、問題を解決するためには何らかの方法を通じて情報の非対称性を解消する必要があります。つまり、何らかの方法を通じて、それぞれの入札者にとっての真の評価額を特定する必要があります。ただ、繰り返しになりますが、入札者は正直に入札するとは限りませんし、そもそも正直に入札しているかどうかを判別する術が存在しません。

ただ、それぞれの入札者にとって、自分にとっての真の評価額を正直に入札することが最も得であるようなオークションルールを設計すれば、そのようなルールのもと、入札者たちは自身にとっての真の評価額を自ら進んで正直に入札するため、結果として情報の非対称性は解消されます。さらに、そのオークションルールが同時に、申告された入札額を基準に社会的に望ましい結果を導くような形で設計されていれば、真の意味で社会的に望ましい結果を遂行できることになります。では、そのようなオークションルールを設計することは可能なのでしょうか。また、可能である場合、具体的にはどのようなルールがそのような要件を満たすのでしょうか。このような問題への解を得ることが私たちの目標です。

情報の非対称性が成立する市場において、私的情報を持っている参加者をエージェント(agent)と呼びます。市場において情報の非対称性が成立する場合、エージェントが自身の利益を最大化するために戦略的に振る舞う結果、その市場ではインセンティブの問題が発生します。インセンティブの問題を解消することを目的として設計される資源配分ルールをメカニズム(mechanism)と呼び、メカニズムを設計する主体をプリンシパル(principal)と呼びます。プリンシパルは適切なメカニズムを設計することを通じて、エージェントたちの行動を社会的に望ましい方向へ誘導しようとします。単一財オークションにおけるエージェントは入札者たちです。入札者は商品への評価額を私的情報として持っています。入札者たちが自身にとってより望ましい結果を実現するために真の評価額とは異なる金額を入札する結果、単一財オークション市場ではインセンティブの問題が発生します。そこで、オークションの主催者はプリンシパルとして適切なメカニズム、すなわちオークションルールを設計し、入札者たちの行動を社会的に望ましい方向へ誘導しようとします。以上の視点を踏まえた上で、単一財オークションを描写するモデルを見直します。

 

タイプと状態

単一財オークションにおいて、それぞれの入札者は商品への評価額を私的情報として持つエージェントです。入札者\(i\in I\)が持つ私的情報を入札者\(i\)のタイプ(type)と呼びます。具体的には、それぞれの入札者\(i\)のタイプは、自身にとっての商品の評価額\(\theta _{i}\)として集約的に表現できるものとみなします。

入札者\(i\)の真のタイプ、すなわち真の評価額は1つだけですが、それを観察できるのは入札者\(i\)だけであり、他の任意の入札者やオークションの主催者はそれを事前に観察できません。このような事情をモデル化するために、入札者\(i\)にとっての評価額\(\theta _{i}\)は様々な値を取り得るものとし、その中の真の値を知っているのは入札者\(i\)自身だけであるものとみなします。具体的には、入札者\(i\)にとっての評価額がとり得る値からなる集合を、\begin{equation*}\Theta _{i}
\end{equation*}で表記し、これを入札者\(i\)のタイプ集合(type set)と呼びます。\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)です。入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)はタイプ集合\(\Theta _{i}\)に属する様々な値を取り得ますが、\(\theta _{i}\)の真の値を知っているのは入札者\(i\)だけです。他の任意の入札者やオークションの主催者は、\(\theta _{i}\)がとり得る値の範囲\(\Theta _{i}\)を知っていますが、その中のどの値が真の値であるかは知らないものと仮定することにより、入札者\(i\)による評価額が私的情報である状況を表現するということです。

入札者\(i\)のタイプ集合、すなわち商品への評価額\(\theta _{i}\)がとり得る値からなる集合を有界閉区間\begin{equation*}\Theta _{i}=\left[ \underline{\theta }_{i},\overline{\theta }_{i}\right] \subset \mathbb{R} \end{equation*}とみなします。つまり、\(\theta _{i}\)は\(\underline{\theta }_{i}\)以上\(\overline{\theta }_{i}\)以下の任意の実数を値としてとり得るということです。多くの場合、任意の入札者\(i\)について、\begin{equation*}\underline{\theta }_{i}=0
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。つまり、評価額が負の実数になる可能性を排除するということです。この場合、\begin{equation*}
\Theta _{i}=\left[ 0,\overline{\theta }_{i}\right] \subset \mathbb{R} \end{equation*}となります。

すべての入札者のタイプからなる組を、\begin{equation*}
\theta _{I}=(\theta _{i})_{i\in I}
\end{equation*}で表記し、これをタイププロファイル(type profile)と呼びます。入札者\(i\)以外の入札者たちのタイプからなる組を、\begin{equation*}\theta _{-i}=\left( \theta _{j}\right) _{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }
\end{equation*}で表記します。\(\theta _{I}=\left(\theta _{i},\theta _{-i}\right) \)です。

すべての入札者のタイプ集合からなる直積を、\begin{equation*}
\Theta _{I}=\prod_{i\in I}\Theta _{i}
\end{equation*}で表記します。\(\theta _{I}\in\Theta _{I}\)です。また、入札者\(i\)以外の入札者たちのタイプ集合の直積を、\begin{equation*}\Theta _{-i}=\prod_{j\in I\backslash \{i\}}\Theta _{j}
\end{equation*}で表記します。\(\theta _{-i}\in\Theta _{-i}\)です。

入札者たちのタイプからなる組\(\theta _{I}\)は、問題としているオークション市場の状態(state of the world)とも呼ばれます。すべての入札者たちの真のタイプから構成される状態\(\theta _{I}\)は、そのオークション市場の真の状態(true state)に相当します。ただ、それぞれの入札者\(i\)が知っているのは自身の真のタイプ\(\theta _{i}\)だけであり、真の状態\(\theta _{I}\)を構成する残りの要素\(\theta _{-i}\)については正確に知らず、\(\theta _{-i}\)がとり得る値の範囲\(\mathcal{\Theta }_{-i}\)だけを知っています。つまり、評価額\(\theta _{i}\)を持つ入札者\(i\)が直面し得る状態からなる集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( \theta _{i},\theta _{-i}\right) \right\} _{\theta _{-i}\in
\Theta _{-i}}
\end{equation*}であり、入札者\(i\)はこのことを認識しています。他の任意の入札者についても同様の議論が成り立ちます。

 

メカニズム

仮にオークションの主催者が問題としているオークション市場の真の状態\(\theta _{I}\)を観察できるならば、観察した\(\theta _{I}\)を基準に社会的に望ましい結果を結果集合\(A\times \mathbb{R} ^{n}\)の中から選び取ることが原理的に可能であるため、インセンティブの問題は発生しません。しかし、実際には、主催者は真の状態\(\theta _{I}\)を事前に観察できず、状態がとり得る値の範囲\(\Theta _{I}\)だけを知っています。このような状況においてインセンティブの問題を解消するために、主催者は何らかのオークションルール、すなわちメカニズム設計する必要があります。

具体的には、主催者は入札者たちにタイプを申告させる(評価額を入札させる)と同時に、申告されたタイプの組に応じて特定の結果を選択するルールをあらかじめ設計します。単一財オークションにおける結果は配分と所得移転の組であるため、ここでは2つのルールが必要になります。つまり、入札者たちが申告するタイプの組に対して配分を定めるルールと、所得移転を定めるルールです。

入札者たちが申告するタイプ(入札額)からなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)に対して、何らかの配分\begin{equation*}a\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) _{i\in I}\in A
\end{equation*}を1つずつ定める写像\begin{equation*}
a:\Theta _{I}\rightarrow A
\end{equation*}を配分ルール(allocation rule)や配分関数(allocation function)などと呼びます。ただし、\(a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)は配分ルールが定める配分\(a\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)のもとで入札者\(i\)が商品を入手する確率であるため、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \in \left[ 0,1\right] \\
&&\left( b\right) \ \sum_{i\in I}a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \leq 1
\end{eqnarray*}を満たす必要があります。配分ルールが定める配分\(a\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)のもとで商品がいかなる落札者によっても落札されない(商品が売れ残る)確率は、\begin{equation*}1-\sum_{i\in I}a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\end{equation*}となります。

例(配分ルール)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、入札額からなる組が、\begin{equation*}
\hat{\theta}_{I}=\left( \hat{\theta}_{1},\hat{\theta}_{2},\hat{\theta}_{3}\right) =\left( 10,9,8\right)
\end{equation*}であるものとします。配分ルール\(a:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「最高金額を入札した者を勝者と定める」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) =\left(
1,0,0\right)
\end{equation*}となります。別の配分ルール\(a^{\prime }:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「入札額に関係なくランダムに等確率で勝者を決める」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{2}^{\prime }\left(
\hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( \frac{1}{3},\frac{1}{3},\frac{1}{3}\right)
\end{equation*}となります。

入札者たちが申告するタイプからなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)に対して、何らかの所得移転\begin{equation*}t\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) _{i\in I}\in \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を1つずつ定める写像\begin{equation*}
t:\Theta _{I}\rightarrow \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を移転ルール(transfer rule)や支払い関数(payment function)などと呼びます。ただし、\(t_{i}\left( \theta_{I}\right) \)は移転ルールが定める所得移転\(t\left( \theta _{I}\right) \)のもとで入札者\(i\)に課される所得移転であるため、以下の条件\begin{equation*}\forall i\in I:t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}を満たす必要があります。移転ルールが定める所得移転\(t\left( \theta_{I}\right) \)のもとでオークションの主催者に課される所得移転は、\begin{equation*}\sum_{i\in I}t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\end{equation*}となります。

例(移転ルール)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、入札額からなる組が、\begin{equation*}
\hat{\theta}_{I}=\left( \hat{\theta}_{1},\hat{\theta}_{2},\hat{\theta}_{3}\right) =\left( 10,9,8\right)
\end{equation*}であるものとします。移転ルール\(t:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「最高金額を入札した者だけが入札額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) =\left(
10,0,0\right)
\end{equation*}となります。別の配分ルール\(t^{\prime }:\Theta _{I}\rightarrow A\)が「最高金額を入札した者だけが2番目に高い入札額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( t_{1}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{2}^{\prime }\left(
\hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 9,0,0\right)
\end{equation*}となります。

単一財オークションにおいて、配分ルール\(a:\Theta _{I}\rightarrow A\)と移転ルール\(t:\Theta _{I}\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)からなる組を、\begin{equation*}\left( a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}で表記し、これをメカニズム(mechanism)や直接メカニズム(direct mechanism)もしくは結果関数(outcome function)などと呼びます。入札者たちが申告するタイプからなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta_{I}\)に対して、メカニズム\(\left( a,t\right) \)は結果\begin{equation*}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を1つずつ定めます。この結果において入札者\(i\)は商品を確率\(a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)を入手し、その対価として所得移転\(t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)が課されます。また、この結果において商品がいかなる落札者によっても落札されない(商品が売れ残る)確率は、\begin{equation*}1-\sum_{i\in I}a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\end{equation*}であり、オークションの主催者に課される所得移転は、\begin{equation*}
\sum_{i\in I}t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\end{equation*}となります。

例(メカニズム)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、入札額からなる組が、\begin{equation*}
\hat{\theta}_{I}=\left( \hat{\theta}_{1},\hat{\theta}_{2},\hat{\theta}_{3}\right) =\left( 10,11,7\right)
\end{equation*}であるものとします。メカニズム\(\left( a,t\right) :\Theta_{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)が「最高金額を入札した者を勝者にし、勝者が自身の入札額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) =\left( 0,1,0,0,11,0\right)
\end{equation*}となります。別のメカニズム\(\left( a^{\prime },t^{\prime }\right):\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)が「最高金額を入札した者を勝者にし、勝者が2番目の入札金額に等しい金額を支払う」というものであるならば、\begin{equation*}\left( a_{1}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{2}^{\prime }\left(
\hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,t_{1}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{2}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}^{\prime }\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right)
=\left( 0,1,0,0,10,0\right)
\end{equation*}となります。

オークションの主催者はメカニズムを利用して以下の流れのもとで資源配分を行います。

  1. オークションの主催者はメカニズム\(\left(a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)を設計し、それを入札者たちに提示する。
  2. それぞれの入札者\(i\in I \)は提示されたメカニズム\(\left( a,t\right) \)に同意すれば次のステップへ進む。同意しない場合にはオークションに参加しない。
  3. メカニズム\(\left( a,t\right) \)に同意したそれぞれの入札者\(i\)は、自身のタイプ\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)を主催者へ申告する(商品への評価額を入札する)。その際、他の入札者たちが申告するタイプを観察することはできない。また、入札者は真のタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)を正直に申告するとは限らない(真の評価額を正直に入札するとは限らない)。
  4. 仮にすべての入札者がメカニズム\(\left( a,t\right) \)に同意する場合、主催者は全員が申告してきたタイプからなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)を得るため、それに対して先に提示したメカニズム\(\left( a,t\right) \)にもとづいて結果\(\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)を選び取り、これを遂行する。その結果、それぞれの入札者\(i\)は配分\(a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)と所得移転\(t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)に直面する(確率\(a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)で商品を入手する対価として所得移転\(t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)が課される)。また、確率\(1-\sum_{i\in I}a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)で商品が売れ残り、主催者は所得移転\(\sum_{i\in I}t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)に直面する。
  5. 以上の結果からそれぞれの入札者\(i\)は利得\(u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,\theta _{I}\right) \)を得る。特に、準線型環境の場合には、\begin{eqnarray*}u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right),\theta _{I}\right) &=&v_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,\theta
    _{i}\right) -t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \quad \because \text{準線型性・リスク中立性・私的価値} \\
    &=&a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta _{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \quad \because \text{準線型性・リスク中立性・私的価値・非外部性}
    \end{eqnarray*}となる。

ここでの1つ目のポイントは、オークションの主催者は入札者たちに交渉の余地のないオファー(take-it-or-leave-it offer)をしているという点です。つまり、入札者たちは提示されたメカニズムに同意するか否かの二択に直面しており、メカニズムの内容に関して主催者と交渉する余地はありません。

2つ目のポイントは、主催者は自身が最初に提示したメカニズムを後で撤回し、別のメカニズムを再提示することはできないという点です。このとき、主催者は自身が提示したメカニズムにコミット(commit)していると言います。

3つ目のポイントは、主催者は入札者たちにとっての真の評価額\(\theta _{I}\)を事前に観察できないため、直接メカニズムは入札者が入札する評価額からなる組\(\hat{\theta}_{I}\)に対して結果を定める形にならざるを得ないということです。それぞれの入札者\(i\)が入札する評価額\(\hat{\theta}_{i}\)は真の評価額\(\theta _{i}\)と一致するとは限りません。入札者は偽りの評価額を入札することが得であると判断するならば戦略的に嘘をつく可能性があるからです。しかも、真の評価額は入札者の私的情報である以上、入札者が嘘をついているか第三者は判定できません。ただ、主催者がメカニズムを巧みに設計すれば、入札者たちが真の評価額\(\theta _{i}\)をそのまま正直に入札するよう誘導できるとともに、社会的に望ましい結果を実現できる可能性があります。この点については後述します。

4つ目のポイントは、契約不履行(breach of contract)の可能性を考慮する必要があるという点です。例えば、落札者が支払いを拒否したり、逆に、主催者が落札者に対してメカニズムが定める支払額よりも高い金額を不当に請求するなどの問題が発生し得るため、事前に対策を講じておく必要があります。メカニズムが定める結果の履行が裁判所など第三者によって強制され得るのであれば、契約不履行の可能性は排除されているものとみなすこともできます。

 

演習問題

問題(メカニズムの具体例)
単一財オークション環境におけるメカニズム\(\left( a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)が「単独で最高額を入札した者が商品を確実に入手し、落札者だけが自身の入札額に等しい金額を支払う」というルールであるものとします。入札者たちの入札額が\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)であるときに、これに対してメカニズム\(\left( a,t\right) \)が定める配分\(\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)を定式化してください。ただし、入札額の組\(\hat{\theta}_{I}\)のもとで全員の入札額が異なるものと仮定します。
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問題(メカニズムの具体例)
単一財オークション環境におけるメカニズム\(\left( a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)が「ランダムかつ等確率で1人の落札者を選び、落札者の入札額を全員で等分した金額を各々が支払う」というルールであるものとします。入札者たちの入札額が\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)であるときに、これに対してメカニズム\(\left( a,t\right) \)が定める配分\(\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)を定式化してください。ただし、入札者の人数は\(n\in \mathbb{N} \)であるものとします。
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