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単一財オークション

単一財オークションにおける誘因両立的メカニズム

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誘因両立的なメカニズム

単一財オークション環境におけるメカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left(a,t\right) \)において純粋戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)が均衡になる場合には(均衡の具体的な内容は後述)、状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)を任意に選んだとき、それぞれの入札者\(i\in I\)は自身の均衡戦略\(s_{i}\)にもとづいて最適な評価額\(s_{i}\left( \theta _{i}\right) \in \Theta _{i}\)を入札するため、入札者たちが均衡において入札する評価額からなる組は、\begin{equation*}s_{I}\left( \theta _{I}\right) =\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right)
\right) _{i\in I}\in \Theta _{I}
\end{equation*}であり、これに対してメカニズム\(\left( a,t\right) \)は以下の結果\begin{equation*}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left(
\theta _{I}\right) \right) \right) =\left( \left( a_{i}\left( s_{I}\left(
\theta _{I}\right) \right) \right) _{i\in I},\left( t_{i}\left( s_{I}\left(
\theta _{I}\right) \right) \right) _{i\in I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を選択します。このとき、メカニズム\(\left(a,t\right) \)は状態\(\theta _{I}\)において上の結果を遂行する(implement)と言います。また、上の結果を状態\(\theta _{I}\)における均衡結果(equilibrium outcome)と呼びます。

一般に、メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)に均衡は存在するとは限りません。しかし、仮にオークションの主催者が、ゲーム\(G\left( a,t\right) \)に均衡が存在するようなメカニズム\(\left( a,t\right) \)の設計に成功したとしましょう。均衡\(s_{I}\)はそれぞれの入札者たちにとって最適な純粋戦略からなる組であるため、入札者たちが自身にとってより望ましい結果を達成するために利己的に行動することを前提とした場合においても、そのようなメカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでは、それぞれの状態\(\theta _{I}\)において、主催者は均衡結果\(\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left(\theta _{I}\right) \right) \right) \)を遂行できることになります。言い換えると、均衡\(s_{I}\)が存在するようなメカニズム\(\left( a,t\right) \)の設計に成功すれば、入札者たちの行動を均衡へ導くことに成功し、それぞれの状態\(\theta _{I}\)において均衡結果\(\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left(\theta _{I}\right) \right) \right) \)が実現することを理論的に予測できるようになります。

では、主催者は入札者たちをどのような均衡へ誘導すべきでしょうか。単一財オークション市場においてインセンティブの問題が発生する原因は、入札者たちが商品への真の評価額を私的情報として持っていることにあります。インセンティブの問題を解決するためには何らかの方法を通じて情報の非対称性を解消する必要があります。具体的には、それぞれの入札者にとって、自分にとっての評価額を正直に入札することが得であるようなメカニズムを設計すれば、そのようなメカニズムのもと、入札者たちは真の評価額を自ら進んで正直に入札するため、結果として情報の非対称性は解消されます。

繰り返しになりますが、メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において、それぞれの入札者\(i\in I\)の純粋戦略は写像\(s_{i}:\Theta _{i}\rightarrow \Theta _{i}\)として定式化されます。この純粋戦略\(s_{i}\)のもとで、入札者\(i\)は自分のタイプが\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)である場合に評価額\(s_{i}\left( \theta_{i}\right) \in \Theta _{i}\)を入札します。特に、入札者\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が以下の条件\begin{equation*}\forall \theta _{i}\in \Theta _{i}:s_{i}\left( \theta _{i}\right) =\theta
_{i}
\end{equation*}を満たすとき、すなわち、入札者\(i\)が純粋戦略\(s_{i}\)のもとで常に真の評価額をそのまま正直に入札する場合、このような\(s_{i}\)を正直戦略(honest strategy)と呼びます。仮に、メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)においてすべての入札者\(i\)が正直戦略\(s_{i}\)を選択することが均衡になるのであれば、それぞれの状態\(\theta _{I}\)において、入札者たちが入札する評価額からなる組は、\begin{eqnarray*}s_{I}\left( \theta _{I}\right) &=&\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right)
\right) _{i\in I} \\
&=&\left( \theta _{i}\right) _{i\in I}\quad \because s_{i}\text{は正直戦略} \\
&=&\theta _{I}
\end{eqnarray*}となり、これは真の状態と一致します。つまり、正直戦略の組が均衡になるようなメカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでは、それぞれの状態\(\theta _{I}\)において、任意の入札者\(i\)が真の評価額\(\theta _{i}\)をそのまま正直に表明することが最適になるため、結果として、情報の非対称性が解消されます。そこで、このようなメカニズム\(\left(a,t\right) \)を誘因両立的(incentive compatible)なメカニズムと呼びます。単一財オークション市場におけるインセンティブの問題を解消するため、オークションの主催者は誘因両立的なメカニズムを設計する必要があります。

 

ベイジアンナッシュ均衡誘因両立的なメカニズム

メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において、入札者\(i\in I\)が他の入札者たちの純粋戦略\(s_{-i}\in S_{-i}\)に直面した状況を想定します。仮に他の入札者たちのタイプが\(\theta _{-i}\in \Theta _{-i}\)である場合、彼らの入札額からなる組は\(s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \in \Theta _{-i}\)となります。仮に入札者\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\in\Theta _{i}\)であり、なおかつ純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)を選ぶのであれば、入札者\(i\)による入札額は\(s_{i}\left( \theta_{i}\right) \in \Theta _{i}\)となります。全員の入札額からなる組を、\begin{equation*}s_{I}\left( \theta _{I}\right) =\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right)
,s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \in \Theta _{I}
\end{equation*}と表記するのであれば、これに対してメカニズム\(\left( a,t\right) \)が定める結果は、\begin{equation*}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left(
\theta _{I}\right) \right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}となります。以上のタイプの組から構成される状態\(\theta _{I}=\left( \theta_{i},\theta _{-i}\right) \)における入札者\(i\)の利得関数は\(u_{i}\left(\cdot ,\theta _{I}\right) \)であるため、以上の想定のもとで入札者\(i\)が得る利得は、\begin{equation}u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right) \in \mathbb{R} \quad \cdots (1)
\end{equation}であり、入札者\(i\)はこの利得を事前に把握しています。入札者\(i\)は他の入札者たちのタイプ\(\theta _{-i}\)がとり得る値の集合\(\Theta _{-i}\)を把握しているため、\(\Theta _{-i}\)に属するそれぞれの\(\theta _{-i}\)に対して利得\(\left(1\right) \)を計算できます。加えて、プレイヤー\(i\)は、他のプレイヤーたちのタイプ\(\theta _{-i}\)がしたがう分布に関する予想をタイプ\(\theta _{i}\)のもとでの信念\(f_{i}\left( \cdot |\theta_{i}\right) :\Theta _{-i}\rightarrow \mathbb{R} \)として持っているものとします。共通事前分布を仮定する場合、これは共有知識である共通事前分布\(f^{\ast }\)と整合的なものとして定義されます。以上を踏まえたとき、他の入札者たちが\(s_{-i}\)にしたがって入札するという前提のもとで自身は\(s_{i}\)を選ぶ場合、信念\(f_{i}\left( \cdot |\theta_{i}\right) \)を持つタイプ\(\theta _{i}\)の入札者\(i\)が直面する中間期待利得は、\begin{equation*}E_{\theta _{-i}}\left[ u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right)
\right) ,t\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right)
\ |\ \theta _{i}\right] =\int_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}\left[
u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right) \cdot f_{i}\left(
\theta _{-i}|\theta _{i}\right) \right] d\theta _{-i}
\end{equation*}となります。入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)が変われば先の純粋戦略\(s_{i}\)のもとで自身が提示する入札額\(s_{i}\left( \theta _{i}\right) \)が変わり、自身のタイプにもとづく信念\(f_{i}\left(\cdot |\theta _{i}\right) \)も変わるため、入札者\(i\)が直面する中間期待利得もまた変化します。ただ、他の入札者たちが\(s_{-i}\)を選ぶという前提のもとで自身は\(s_{i}\)を選ぶ場合、自身のタイプ\(\theta _{i}\)によらず、自身の信念\(f_{i}\)のもとで中間期待利得を常に最大化できる場合には、すなわち、入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)と入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}E_{\theta _{-i}}\left[ u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right)
\right) ,t\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right)
\ |\ \theta _{i}\right] \geq E_{\theta _{-i}}\left[ u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,t\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,\theta _{I}\right) \ |\
\theta _{i}\right] \end{equation*}が成り立つ場合には、\(s_{i}\)を\(s_{-i}\)に対する中間最適反応(interim best response)と呼びます。つまり、メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(\left( a,t\right) \)において入札者\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が他の入札者たちの純粋戦略\(s_{-i}\)に対する中間最適反応であることとは、他の入札者たちが\(s_{-i}\)にしたがって入札することを前提とした場合、さらに自身が信念\(f_{i}\)にもとづいて他のプレイヤーたちのタイプを予想する場合、自分は\(s_{i}\)にしたがって入札すれば、自身のタイプ\(\theta _{i}\)によらず、自身が直面する中間期待利得を常に最大化できることを意味します。

例(準線型環境における中間最適反応)
単一財オークションにおいて入札者の利得関数に関して準線型性、リスク中立性、私的価値、非外部性を仮定する場合、入札者\(i\in I\)の利得関数\(u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) :A\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して定める値は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}となります。したがって、入札者\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が他の入札者たちの純粋戦略\(s_{-i}\)に対する中間最適反応であることとは、入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\in \Theta_{i}\)と入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}E_{\theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right)
\cdot \theta _{i}-t_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \ |\
\theta _{i}\right] \geq E_{\theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \cdot \theta _{i}-t_{i}\left(
\hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \ |\ \theta _{i}\right] \end{equation*}が成り立つことを意味します。

例(中間最適反応)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。タイプ\(\theta _{1}\)の入札者\(1\)の信念\(f_{1}\left( \cdot |\theta _{1}\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{2}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{1}\left( \theta _{2}|\theta _{1}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{2}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。準線型環境を想定します。メカニズム\(\left( a,t\right) \)が「最高金額を入札者した者を勝者にし、勝者が自身の入札額に等しい金額を支払う」というものであるものとします。入札者\(2\)の純粋戦略\(s_{2}\)が、\begin{equation*}\forall \theta _{2}\in \Theta _{2}:s_{2}\left( \theta _{2}\right) =\theta
_{2}
\end{equation*}を満たすものとします。以上の想定のもと、入札者\(1\)が純粋戦略\(s_{1}\)を選んだ場合に直面する中間期待利得は、\begin{eqnarray*}&&E_{\theta _{2}}\left[ u_{1}\left( a\left( s_{1}\left( \theta _{1}\right)
,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) ,t\left( s_{1}\left( \theta
_{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) \right) \ |\ \theta _{1}\right] \\
&=&E_{\theta _{2}}\left[ \theta _{1}\cdot a_{1}\left( s_{1}\left( \theta
_{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) -t_{1}\left( s_{1}\left(
\theta _{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) \ |\ \theta _{1}\right] \quad \because \text{準線型環境} \\
&=&\int_{\theta _{2}\in \Theta _{2}}\left[ \theta _{1}\cdot a_{1}\left(
s_{1}\left( \theta _{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right)
-t_{1}\left( s_{1}\left( \theta _{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right)
\right) \right] \cdot f_{1}\left( \theta _{2}|\theta _{1}\right) d\theta
_{2}\quad \because \text{中間期待利得の定義} \\
&=&\int_{0}^{100}\left[ \theta _{1}\cdot a_{1}\left( s_{1}\left( \theta
_{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) -t_{1}\left( s_{1}\left(
\theta _{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) \right] \cdot
\frac{1}{100}d\theta _{2}\quad \because \Theta _{2}\text{および}f_{1}\left( \cdot |\theta _{1}\right) \text{の定義} \\
&=&\frac{\theta _{1}}{100}\int_{0}^{100}a_{1}\left( s_{1}\left( \theta
_{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) d\theta _{2}-\frac{1}{100}\int_{0}^{100}t_{1}\left( s_{1}\left( \theta _{1}\right) ,s_{2}\left(
\theta _{2}\right) \right) d\theta _{2} \\
&=&\frac{\theta _{1}}{100}\int_{0}^{s_{1}\left( \theta _{1}\right) }1d\theta
_{2}-\frac{1}{100}\int_{0}^{s_{1}\left( \theta _{1}\right) }s_{1}\left(
\theta _{1}\right) d\theta _{2} \\
&=&\frac{\theta _{1}}{100}\cdot s_{1}\left( \theta _{1}\right) -\frac{\left[
s_{1}\left( \theta _{1}\right) \right] ^{2}}{100} \\
&=&\frac{\theta _{1}s_{1}\left( \theta _{1}\right) -\left[ s_{1}\left(
\theta _{1}\right) \right] ^{2}}{100}
\end{eqnarray*}となります。自身の入札額\(s_{1}\left( \theta _{1}\right) \)を変数とみなした上で、\begin{equation*}\hat{\theta}_{1}=s_{1}\left( \theta _{1}\right)
\end{equation*}とおき、さらに上の中間期待利得を、\begin{equation*}
f\left( \hat{\theta}_{1}\right) =\frac{\theta _{1}\hat{\theta}_{1}-\hat{\theta}_{1}^{2}}{100}
\end{equation*}とおくと、\begin{eqnarray*}
f^{\prime }\left( \hat{\theta}_{1}\right) &=&\frac{1}{100}\left( \theta
_{1}-2\hat{\theta}_{1}\right) \\
f^{\prime \prime }\left( \hat{\theta}_{1}\right) &=&\frac{1}{100}\left(
-2\right) <0
\end{eqnarray*}を得ます。つまり、\(f\)は狭義凹関数であるため、\begin{equation*}f^{\prime }\left( \hat{\theta}_{1}\right) =0
\end{equation*}を満たす\(\hat{\theta}_{1}\)のもとで\(f\)は最大化されます。具体的には、\begin{equation*}\frac{1}{100}\left( \theta _{1}-2\hat{\theta}_{1}\right) =0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\hat{\theta}_{1}=\frac{\theta _{1}}{2}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
s_{1}\left( \theta _{1}\right) =\frac{\theta _{1}}{2}
\end{equation*}のもとで入札者\(1\)は中間期待利得を最大化できます。つまり、自身の信念\(f_{1}\left( \cdot |\theta_{1}\right) \)と相手の先の純粋戦略\(s_{2}\)を前提としたとき、入札者\(1\)の中間最適反応\(s_{1}\)は、\begin{equation*}\forall \theta _{1}\in \Theta _{1}:s_{1}\left( \theta _{1}\right) =\frac{\theta _{1}}{2}
\end{equation*}を満たすということです。

メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において、純粋戦略の組\(s_{I}=\left( s_{i}\right)_{i\in I}\)がお互いに中間最適反応になっているのであれば、すなわち、入札者\(i\in I\)とそのタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)および入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation}E_{\theta _{-i}}\left[ u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right)
\right) ,t\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right)
\ |\ \theta _{i}\right] \geq E_{\theta _{-i}}\left[ u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,t\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,\theta _{I}\right) \ |\
\theta _{i}\right] \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つのであれば、そのような純粋戦略の組\(s_{I}\)をベイジアンナッシュ均衡(Bayesian Nash equilibrium)や中間ベイジアンナッシュ均衡(interim Bayesian Nash equilibrium)などと呼びます。

純粋戦略の組\(s_{I}=\left( s_{i}\right)_{i\in I}\)が正直戦略の組である場合には、\begin{equation}\forall i\in I,\ \forall \theta _{i}\in \Theta _{i}:s_{i}\left( \theta
_{i}\right) =\theta _{i} \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立つため、正直戦略の組\(s_{I}\)がベイジアンナッシュ均衡であることとは、\(\left(1\right) \)および\(\left( 2\right) \)より、入札者\(i\in I\)とそのタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)および入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}E_{\theta _{-i}}\left[ u_{i}\left( a\left( \theta _{I}\right) ,t\left(
\theta _{I}\right) ,\theta _{I}\right) \ |\ \theta _{i}\right] \geq
E_{\theta _{-i}}\left[ u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{i},\theta
_{-i}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) ,\theta
_{I}\right) \ |\ \theta _{i}\right] \end{equation*}が成り立つことを意味します。そこで、以上の条件が成り立つとき、すなわち、メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において正直戦略の組がベイジアンナッシュ均衡になる場合、メカニズム\(\left( a,t\right) \)はベイジアンナッシュ均衡誘因両立的(Bayesian Incentive Compatible:BIC)であると言います。

メカニズム\(\left( a,t\right) \)がベイジアンナッシュ均衡誘因両立的である場合、任意の入札者は、他の入札者たちが正直戦略にしたがって入札することを前提とした場合、自身もまた正直戦略にしたがって入札すれば常に中間期待利得を最大化できます。つまり、他の入札者たちが正直戦略にしたがう場合、自身もまた正直戦略にしたがうことが最適であり、そこから逸脱する動機を持たないということです。

例(準線型環境におけるベイジアンナッシュ均衡)
単一財オークションにおいて入札者の利得関数に関して準線型性、リスク中立性、私的価値、非外部性を仮定する場合、入札者\(i\in I\)の利得関数\(u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) :A\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して定める値は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}となります。したがって、メカニズムのもとでのゲーム\(\left( a,t\right) \)において純粋戦略の組\(s_{I}\)がベイジアンナッシュ均衡であることは、入札者\(i\in I\)とそのタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{I}\)および入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}E_{\theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right)
\cdot \theta _{i}-t_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \ |\
\theta _{i}\right] \geq E_{\theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \cdot \theta _{i}-t_{i}\left(
\hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \ |\ \theta _{i}\right] \end{equation*}が成り立つことを意味します。以上を踏まえると、メカニズム\(\left( a,t\right) \)がベイジアンナッシュ均衡誘因両立的であることは、入札者\(i\in I\)とそのタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{I}\)および入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation}E_{\theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( \theta _{I}\right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( \theta _{I}\right) \ |\ \theta _{i}\right] \geq E_{\theta
_{-i}}\left[ a_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \ |\ \theta _{i}\right] \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つことを意味します。ちなみに、\(\left( 1\right) \)の左辺を具体的に表現すると、\begin{eqnarray*}&&E_{\theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( \theta _{I}\right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( \theta _{I}\right) \ |\ \theta _{i}\right] \\
&=&\int_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( \theta _{I}\right)
\cdot \theta _{i}-t_{i}\left( \theta _{I}\right) \right] \cdot f_{i}\left(
\theta _{-i}|\theta _{i}\right) d\theta _{-i} \\
&=&\theta _{i}\cdot \int_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}a_{i}\left( \theta
_{i},\theta _{-i}\right) \cdot f_{i}\left( \theta _{-i}|\theta _{i}\right)
d\theta _{-i}-\int_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}t_{i}\left( \theta
_{i},\theta _{-i}\right) \cdot f_{i}\left( \theta _{-i}|\theta _{i}\right)
d\theta _{-i}
\end{eqnarray*}となり、\(\left( 1\right) \)の右辺を具体的に表現すると、\begin{eqnarray*}&&E_{\theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right)
\cdot \theta _{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \ |\
\theta _{i}\right] \\
&=&\int_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}\left[ a_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \cdot \theta _{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \right] \cdot f_{i}\left( \theta _{-i}|\theta
_{i}\right) d\theta _{-i} \\
&=&\theta _{i}\cdot \int_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}a_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \cdot f_{i}\left( \theta _{-i}|\theta
_{i}\right) d\theta _{-i}-\int_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}t_{i}\left(
\hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \cdot f_{i}\left( \theta _{-i}|\theta
_{i}\right) d\theta _{-i}
\end{eqnarray*}となります。

例(ベイジアンナッシュ均衡)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。タイプ\(\theta _{1}\)の入札者\(1\)の信念\(f_{1}\left( \cdot |\theta _{1}\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{2}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{1}\left( \theta _{2}|\theta _{1}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{2}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定め、タイプ\(\theta _{2}\)の入札者\(2\)の信念\(f_{2}\left( \cdot|\theta _{2}\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{1}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{2}\left( \theta _{1}|\theta _{2}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{1}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。準線型環境を想定します。メカニズム\(\left( a,t\right) \)が「最高金額を入札者した者を勝者にし、勝者が自身の入札額に等しい金額を支払う」というものであるものとします。入札者\(2\)の純粋戦略\(s_{2}\)が、\begin{equation*}\forall \theta _{2}\in \Theta _{2}:s_{2}\left( \theta _{2}\right) =\theta
_{2}
\end{equation*}を満たすものとします。先に明らかにしたように、この純粋戦略に対する入札者\(1\)の中間最適反応\(s_{1}\)は、\begin{equation*}\forall \theta _{1}\in \Theta _{1}:s_{1}\left( \theta _{1}\right) =\frac{\theta _{1}}{2}
\end{equation*}を満たします。つまり、入札者\(2\)の正直戦略\(s_{2}\)に対する入札者\(1\)の最適反応\(s_{1}\)は正直戦略ではありません。したがって、与えられたメカニズム\(\left(a,t\right) \)のもとで正直戦略の組はベイジアンナッシュ均衡ではなく、したがって\(\left( a,t\right) \)はベイジアンナッシュ均衡誘因両立的ではありません。ちなみに、このメカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとで、以下の条件\begin{eqnarray*}\forall \theta _{2} &\in &\Theta _{2}:s_{2}\left( \theta _{2}\right) =\frac{\theta _{2}}{2} \\
\forall \theta _{1} &\in &\Theta _{1}:s_{1}\left( \theta _{1}\right) =\frac{\theta _{1}}{2}
\end{eqnarray*}を満たす純粋戦略の組\(\left( s_{1},s_{2}\right) \)はベイジアンナッシュ均衡になります(演習問題)。

ベイジアンナッシュ均衡誘因両立的なメカニズムは正直戦略の組がベイジアンナッシュ均衡になるようなメカニズムであるという意味において特殊なベイジアンナッシュ均衡メカニズムです。一方、正直戦略の組であるとは限らない純粋戦略の組をベイジアンナッシュ均衡として遂行するメカニズムに対して、その均衡結果と同じ結果を遂行するベイジアンナッシュ均衡誘因両立的なメカニズムが存在することを保証できます。これを表明原理(revelation principle)と呼びます。

命題(ベイジアンナッシュ均衡に関する表明原理)
単一財オークション環境において、メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとで純粋戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)がベイジアンナッシュ均衡であるものとする。これに対して、任意の状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)において、先のメカニズム\(\left( a,t\right) \)が遂行する均衡結果\(\left( a\left( s_{I}\left( \theta_{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \right) \)を遂行するベイジアンナッシュ均衡誘因両立的メカニズムが存在する。すなわち、\begin{equation*}\forall \theta _{I}\in \Theta _{I}:\left( a^{\prime }\left( \theta
_{I}\right) ,t^{\prime }\left( \theta _{I}\right) \right) =\left( a\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left( \theta
_{I}\right) \right) \right)
\end{equation*}を満たすベイジアンナッシュ均衡誘因両立的メカニズム\(\left( a^{\prime},t^{\prime }\right) \)が存在する。
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以上の命題より、ベイジアンナッシュ均衡誘因両立的なメカニズムのもとで遂行可能な結果は、誘因両立的であるとは限らないメカニズムによってベイジアンナッシュ均衡として遂行される結果の全体を網羅していることが明らかになりました。したがって、ベイジアンナッシュ均衡メカニズムについて考える際には、ベイジアンナッシュ均衡誘因両立的なメカニズムに対象を限定しても一般性は失われません。

 

事後均衡誘因両立的なメカニズム

メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において、入札者\(i\in I\)が他の入札者たちの純粋戦略\(s_{-i}\in S_{-i}\)に直面した状況を想定します。仮に他の入札者たちのタイプが\(\theta _{-i}\in \Theta _{-i}\)である場合、彼らの入札額からなる組は\(s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \in \Theta _{-i}\)となります。仮に入札者\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\in\Theta _{i}\)であり、なおかつ純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)を選ぶのであれば、入札者\(i\)による入札額は\(s_{i}\left( \theta_{i}\right) \in \Theta _{i}\)となります。全員の入札額からなる組を、\begin{equation*}s_{I}\left( \theta _{I}\right) =\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right)
,s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \in \Theta _{I}
\end{equation*}と表記するのであれば、これに対してメカニズム\(\left( a,t\right) \)が定める結果は、\begin{equation*}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left(
\theta _{I}\right) \right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}となります。以上のタイプの組から構成される状態\(\theta _{I}=\left( \theta_{i},\theta _{-i}\right) \)における入札者\(i\)の利得関数は\(u_{i}\left(\cdot ,\theta _{I}\right) \)であるため、以上の想定のもとで入札者\(i\)が得る利得は、\begin{equation*}u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}であり、入札者\(i\)はこの利得を事前に把握しています。他の入札者たちが\(s_{-i}\)を選ぶという前提のもとで自身は\(s_{i}\)を選ぶ場合、状態\(\theta _{I}\)によらず、利得を常に最大化できる場合には、すなわち、状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)と入札者\(i\)による入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right) \geq u_{i}\left(
a\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,t\left(
\hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,\theta
_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(s_{i}\)を\(s_{-i}\)に対する事後最適反応(ex-post best response)と呼びます。つまり、メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(\left( a,t\right) \)において入札者\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が他の入札者たちの純粋戦略\(s_{-i}\)に対する事後最適反応であることとは、他の入札者たちが\(s_{-i}\)にしたがって入札することを前提とした場合、自分は\(s_{i}\)にしたがって入札すれば、全員のタイプ\(\theta _{I}\)によらず、自身が直面する利得を常に最大化できることを意味します。したがって、入札者\(i\)が\(s_{-i}\)に対する事後最適反応\(s_{i}\)を持つ場合、入札者\(i\)は自身を含めた全員のタイプについて何も考える必要はなく、他の入札者たちが\(s_{-i}\)にしたがって入札する限りにおいて、自分は常に\(s_{i}\)にしたがって入札することが最適になります。

例(準線型環境における事後最適反応)
単一財オークションにおいて入札者の利得関数に関して準線型性、リスク中立性、私的価値、非外部性を仮定する場合、入札者\(i\in I\)の利得関数\(u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) :A\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して定める値は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}となります。したがって、入札者\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が他の入札者たちの純粋戦略\(s_{-i}\)に対する事後最適反応であることとは、状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)と入札者\(i\)による入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta_{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}a_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \geq a_{i}\left(
\hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。

例(事後最適反応)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。準線型環境を想定します。メカニズム\(\left( a,t\right) \)が「最高金額を入札者した者を勝者にし、勝者が相手の入札額に等しい金額を支払う」というものであるものとします。入札者\(2\)の純粋戦略\(s_{2}\)が、\begin{equation*}\forall \theta _{2}\in \Theta _{2}:s_{2}\left( \theta _{2}\right) =\theta
_{2}
\end{equation*}を満たすものとします。以上の想定のもと、入札者\(1\)が純粋戦略\(s_{1}\)を選んだ場合に直面する利得は、\begin{eqnarray*}a_{1}\left( s_{1}\left( \theta _{1}\right) ,s_{2}\left( \theta _{2}\right)
\right) \cdot \theta _{1}-t_{1}\left( s_{1}\left( \theta _{1}\right)
,s_{2}\left( \theta _{2}\right) \right) &=&a_{1}\left( s_{1}\left( \theta
_{1}\right) ,\theta _{2}\right) \cdot \theta _{1}-t_{1}\left( s_{1}\left(
\theta _{1}\right) ,\theta _{2}\right) \\
&=&\left\{
\begin{array}{cc}
\theta _{1}-\theta _{2} & \left( if\ s_{1}\left( \theta _{1}\right) \geq
\theta _{2}\right) \\
0 & \left( if\ s_{1}\left( \theta _{1}\right) <\theta _{2}\right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}となります。自身の入札額\(s_{1}\left( \theta _{1}\right) \)を変数とみなした上で、\begin{equation*}\hat{\theta}_{1}=s_{1}\left( \theta _{1}\right)
\end{equation*}とおき、さらに上の利得を、\begin{equation*}
f\left( \hat{\theta}_{1}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\theta _{1}-\theta _{2} & \left( if\ \hat{\theta}_{1}\geq \theta _{2}\right)
\\
0 & \left( if\ \hat{\theta}_{1}<\theta _{2}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}とおきます。\(\theta _{1}\geq \theta _{2}\)が成り立つ場合、\(\hat{\theta}_{1}\geq \theta _{2}\)を満たす任意の\(\hat{\theta}_{1}\)のもとで\(f\left( \hat{\theta}_{1}\right) \)は最大化されます。\(\theta _{1}<\theta _{2}\)が成り立つ場合、\(\hat{\theta}_{1}<\theta _{2}\)を満たす任意の\(\hat{\theta}_{1}\)のもとで\(f\left( \hat{\theta}_{1}\right) \)は最大化されます。どちらの場合においても\(\hat{\theta}_{1}=\theta _{1}\)のもとで\(f\left( \hat{\theta}_{1}\right) \)は最大化されるため、これは\(s_{1}\)に対する事後最適反応の1つです。つまり、相手の先の純粋戦略\(s_{2}\)を前提としたとき、以下の条件\begin{equation*}\forall \theta _{1}\in \Theta _{1}:s_{1}\left( \theta _{1}\right) =\theta
_{1}
\end{equation*}を満たす\(s_{1}\)は\(s_{2}\)に対する事後最適反応の1つです。

メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において、純粋戦略の組\(s_{I}=\left( s_{i}\right)_{i\in I}\)がお互いに事後最適反応になっているのであれば、すなわち、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および入札者\(i \)による入札額\(\hat{\theta}_{i}\in\Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation}u_{i}\left( a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,\theta _{I}\right) \geq u_{i}\left(
a\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,t\left(
\hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) ,\theta _{I}\right)
\quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つのであれば、そのような純粋戦略の組\(s_{I}\)を事後均衡(ex-post equilibrium)と呼びます。

純粋戦略の組\(s_{I}=\left( s_{i}\right)_{i\in I}\)が正直戦略の組である場合には、\begin{equation}\forall i\in I,\ \forall \theta _{i}\in \Theta _{i}:s_{i}\left( \theta
_{i}\right) =\theta _{i} \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立つため、正直戦略の組\(s_{I}\)が事後均衡であることとは、\(\left( 1\right) \)および\(\left( 2\right) \)より、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および入札者\(i \)による入札額\(\hat{\theta}_{i}\in\Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}u_{i}\left( a\left( \theta _{I} \right) ,t\left(
\theta _{I} \right) ,\theta _{I}\right) \geq u_{i}\left(
a\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) ,\theta _{I}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。そこで、以上の条件が成り立つとき、すなわち、メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において正直戦略の組が事後均衡になる場合、メカニズム\(\left( a,t\right) \)は事後均衡誘因両立的(incentive compatible in ex post equilibrium:EPIC)であると言います。

メカニズム\(\left( a,t\right) \)が事後均衡誘因両立的である場合、任意の入札者は、自身を含めた全員のタイプがいかなるものであるかに関わらず、他の入札者たちが正直戦略にしたがって入札することを前提とした場合、自分もまた正直戦略にしたがって入札すれば常に利得を最大化できます。つまり、入札者は自身を含めた全員のタイプについて何も考える必要はなく、他の入札者たちが正直戦略にしたがう場合、自分もまた正直戦略にしたがうことが最適であり、そこから逸脱する動機を持たないということです。

例(準線型環境における事後均衡)
単一財オークションにおいて入札者の利得関数に関して準線型性、リスク中立性、私的価値、非外部性を仮定する場合、入札者\(i\in I\)の利得関数\(u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) :A\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して定める値は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}となります。したがって、メカニズムのもとでのゲーム\(\left( a,t\right) \)において純粋戦略の組\(s_{I}\)が事後均衡であることは、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および入札者\(i\)による入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}a_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \geq a_{i}\left(
\hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{i},s_{-i}\left( \theta _{-i}\right) \right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。以上を踏まえると、メカニズム\(\left( a,t\right) \)が事後均衡誘因両立的であることは、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および入札者\(i\)による入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta_{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}a_{i}\left( \theta _{I}\right) \cdot \theta _{i}-t_{i}\left( \theta
_{I}\right) \geq a_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right) \cdot
\theta _{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{i},\theta _{-i}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。

例(事後均衡)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。準線型環境を想定します。メカニズム\(\left( a,t\right) \)が「最高金額を入札者した者を勝者にし、勝者が相手の入札額に等しい金額を支払う」というものであるものとします。純粋戦略の組\(\left(s_{1},s_{2}\right) \)が、\begin{eqnarray*}\forall \theta _{1} &\in &\Theta _{1}:s_{1}\left( \theta _{1}\right) =\theta
_{1} \\
\forall \theta _{2} &\in &\Theta _{2}:s_{2}\left( \theta _{2}\right) =\theta
_{2}
\end{eqnarray*}を満たすものとします。先に明らかにしたように、\(s_{1}\)は\(s_{2}\)に対する事後最適反応の1つです。同様に、\(s_{2}\)は\(s_{1}\)に対する事後最適反応の1つです。したがって、\(\left( s_{1},s_{2}\right) \)は先のメカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとでの事後均衡です。加えて、\(\left(s_{1},s_{2}\right) \)は正直戦略の組であるため、\(\left( a,t\right) \)は事後均衡誘因両立的メカニズムです。

事後均衡誘因両立的なメカニズムは正直戦略の組が事後均衡になるようなメカニズムであるという意味において特殊な事後均衡メカニズムです。一方、正直戦略の組であるとは限らない純粋戦略の組を事後均衡として遂行するメカニズムに対して、その均衡結果と同じ結果を遂行する事後均衡誘因両立的なメカニズムが存在することを保証できます。これは事後均衡に関する表明原理です。

命題(事後均衡に関する表明原理)
単一財オークション環境において、メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとで純粋戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)が事後均衡であるものとする。これに対して、任意の状態\(\theta _{I}\in\Theta _{I}\)において、先のメカニズム\(\left( a,t\right) \)が遂行する均衡結果\(\left( a\left( s_{I}\left(\theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \right) \)を遂行する事後均衡誘因両立的メカニズムが存在する。すなわち、\begin{equation*}\forall \theta _{I}\in \Theta _{I}:\left( a^{\prime }\left( \theta
_{I}\right) ,t^{\prime }\left( \theta _{I}\right) \right) =\left( a\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left( \theta
_{I}\right) \right) \right)
\end{equation*}を満たす事後均衡誘因両立的メカニズム\(\left( a^{\prime },t^{\prime }\right) \)が存在する。
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以上の命題より、事後均衡誘因両立的なメカニズムのもとで遂行可能な結果は、誘因両立的であるとは限らないメカニズムによって事後均衡として遂行される結果の全体を網羅していることが明らかになりました。したがって、事後均衡メカニズムについて考える際には、事後均衡誘因両立的なメカニズムに対象を限定しても一般性は失われません。

メカニズム\(\left( a,t\right) \)が事後均衡誘因両立的であるものとします。この場合、入札者たちのタイプの分布とは関係なく、正直戦略どうしの組が最適反応の組になっています。したがって、タイプの分布を任意に選んだ場合にも正直戦略どうしの組が最適反応の組になっているはずですが、これはメカニズム\(\left(a,t\right) \)がベイジアンナッシュ均衡誘因両立的であることを意味します。つまり、事後均衡誘因両立的なメカニズムはベイジアンナッシュ均衡誘因両立的でもあります。

命題(事後均衡誘因両立性とベイジアンナッシュ均衡誘因両立的の関係)
単一財オークション環境におけるメカニズム\(\left( a,t\right) \)が事後均衡誘因両立性を満たすならば、\(\left( a,t\right) \)はベイジアンナッシュ均衡誘因両立性を満たす。
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耐戦略的なメカニズム

メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において、入札者\(i\in I\)が他の入札者たちの入札\(\hat{\theta}_{-i}\in \Theta _{-i}\)に直面した状況を想定します。仮に状態が\(\theta _{I}=\left( \theta _{i},\theta _{-i}\right) \in \Theta _{I}\)であり、なおかつ入札者\(i\)が純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)を選ぶのであれば、入札者\(i\)による入札額は\(s_{i}\in \left( \theta _{i}\right) \in \Theta _{i}\)となります。全員の入札額からなる組は、\begin{equation*}\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) \in \Theta
_{I}
\end{equation*}であるため、これに対してメカニズム\(\left(a,t\right) \)が定める結果は、\begin{equation*}\left( a\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right)
,t\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) \right)
\in A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}となります。以上の状態\(\theta _{I}\)における入札者\(i\)の利得関数は\(u_{i}\left(\cdot ,\theta _{I}\right) \)であるため、以上の想定のもとで入札者\(i\)が得る利得は、\begin{equation*}u_{i}\left( a\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right)
,t\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) ,\theta
_{I}\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}であり、入札者\(i\)はこの利得を事前に把握しています。入札者\(i\)が\(s_{i}\)を選ぶ場合、他の入札者たちによる入札額\(\hat{\theta}_{-i}\)や状態\(\theta_{I}\)によらず、利得を常に最大化できる場合には、すなわち、状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)と他の入札者たちの入札額\(\hat{\theta}_{-i}\in \Theta _{-i}\)および自身の入札額\(\hat{\theta}_{i}\in \Theta _{i}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}u_{i}\left( a\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right)
,t\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) ,\theta
_{I}\right) \geq u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{i},\hat{\theta}_{-i}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{i},\hat{\theta}_{-i}\right) ,\theta
_{I}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
u_{i}\left( a\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right)
,t\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) ,\theta
_{I}\right) \geq u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,\theta _{I}\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(s_{i}\)を支配戦略(dominant strategy)と呼びます。つまり、メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(\left( a,t\right) \)において入札者\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が支配戦略であることとは、自身のタイプ\(\theta _{i}\)や他の入札者たちのタイプ\(\theta _{-i}\)がいかなるものであるかに関わらず、また、他の入札者たちによる入札額\(\hat{\theta}_{-i}\)がいかなるものであるかに関わらず、自身は\(s_{i}\)にしたがって入札すれば常に自身が直面する利得を最大化できることを意味します。したがって、入札者\(i\)が支配戦略\(s_{i}\)を持つ場合、入札者\(i\)は自身を含めた全員のタイプや他の入札者たちによる入札額について何も考える必要はなく、常に\(s_{i}\)にしたがって入札することが最適になります。

メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において、純粋戦略の組\(s_{I}=\left( s_{i}\right) _{i\in I}\)がお互いに支配戦略になっているのであれば、すなわち、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および全員の入札額からなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation}u_{i}\left( a\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right)
,t\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) ,\theta
_{I}\right) \geq u_{i}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,\theta _{I}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つのであれば、そのような純粋戦略の組\(s_{I}\)を支配戦略均衡(dominant strategy equilibrium)と呼びます。

純粋戦略の組\(s_{I}=\left( s_{i}\right)_{i\in I}\)が正直戦略の組である場合には、\begin{equation}\forall i\in I,\ \forall \theta _{i}\in \Theta _{i}:s_{i}\left( \theta
_{i}\right) =\theta _{i} \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立つため、正直戦略の組\(s_{I}\)が支配戦略均衡であることとは、\(\left( 1\right) \)および\(\left(2\right) \)より、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および全員の入札額からなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}u_{i}\left( a\left( \theta _{i},\hat{\theta}_{-i}\right) ,t\left( \theta
_{i},\hat{\theta}_{-i}\right) ,\theta _{I}\right) \geq u_{i}\left( a\left(
\hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,\theta _{I}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。そこで、以上の条件が成り立つとき、すなわち、メカニズムのもとでのベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)において正直戦略の組が支配戦略均衡になる場合、メカニズム\(\left( a,t\right) \)は耐戦略的(strategy-proof)であるとか支配戦略均衡誘因両立的(incentive compatible indominant strategy equilibrium:DIC)であると言います。

メカニズム\(\left( a,t\right) \)が耐戦略的である場合、任意の入札者は、自身を含めた全員のタイプがいかなるものであるかに関わらず、また、他の入札者たちの入札額がいかなるものであるかに関わらず、自分は正直戦略にしたがって入札すれば常に利得を最大化できます。つまり、入札者は自身を含めた全員のタイプについて何も考える必要はなく、また、他の入札者たちの入札について何も考える必要もなく、自分は正直戦略にしたがうことが常に最適であるということです。

例(準線型環境の場合)
単一財オークションにおいて入札者の利得関数に関して準線型性、リスク中立性、私的価値、非外部性を仮定する場合、入札者\(i\in I\)の利得関数\(u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) :A\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して定める値は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}となります。したがって、メカニズムのもとでのゲーム\(\left( a,t\right) \)において純粋戦略の組\(s_{I}\)が支配戦略均衡であることは、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および全員の入札額からなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}a_{i}\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) \cdot
\theta _{i}-t_{i}\left( s_{i}\left( \theta _{i}\right) ,\hat{\theta}_{-i}\right) \geq a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。以上を踏まえると、メカニズム\(\left( a,t\right) \)が耐戦略的であることは、入札者\(i\in I\)と状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)および全員の入札額からなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}a_{i}\left( \theta _{i},\hat{\theta}_{-i}\right) \cdot \theta
_{i}-t_{i}\left( \theta _{i},\hat{\theta}_{-i}\right) \geq a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta _{i}-t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。

耐戦略的なメカニズムは正直戦略の組が支配戦略均衡になるようなメカニズムであるという意味において特殊な支配戦略均衡メカニズムです。一方、正直戦略の組であるとは限らない純粋戦略の組を支配戦略均衡として遂行するメカニズムに対して、その均衡結果と同じ結果を遂行する耐戦略的なメカニズムが存在することを保証できます。これは支配戦略均衡に関する表明原理です。

命題(支配戦略均衡に関する表明原理)
単一財オークション環境において、メカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとで純粋戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)が支配戦略均衡であるものとする。これに対して、任意の状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)において、先のメカニズム\(\left( a,t\right) \)が遂行する均衡結果\(\left(a\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) \right) \)を遂行する耐戦略的なメカニズムが存在する。すなわち、\begin{equation*}\forall \theta _{I}\in \Theta _{I}:\left( a^{\prime }\left( \theta
_{I}\right) ,t^{\prime }\left( \theta _{I}\right) \right) =\left( a\left(
s_{I}\left( \theta _{I}\right) \right) ,t\left( s_{I}\left( \theta
_{I}\right) \right) \right)
\end{equation*}を満たす耐戦略的メカニズム\(\left( a^{\prime },t^{\prime }\right) \)が存在する。
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以上の命題より、耐戦略的なメカニズムのもとで遂行可能な結果は、誘因両立的であるとは限らないメカニズムによって支配戦略均衡として遂行される結果の全体を網羅していることが明らかになりました。したがって、支配戦略均衡メカニズムについて考える際には、耐戦略的なメカニズムに対象を限定しても一般性は失われません。

メカニズム\(\left( a,t\right) \)が耐戦略的であるものとします。この場合、任意の入札者にとって、入札者たちのタイプの分布や他の入札者による入札額とは関係なく、正直戦略が最適になっています。したがって、入札者たちのタイプの分布とは関係なく、他の入札者たちが正直戦略を採用することを仮定した場合にも、任意の入札者にとって正直戦略は最適であるはずですが、これはメカニズム\(\left( a,t\right) \)が事後均衡誘因両立的であることを意味します。つまり、耐戦略的なメカニズムは事後均衡誘因両立的でもあります。

命題(耐戦略性と事後均衡誘因両立性の関係)
単一財オークション環境におけるメカニズム\(\left( a,t\right) \)が耐戦略性を満たすならば、\(\left(a,t\right) \)は事後均衡誘因両立性を満たす。
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上の命題の逆は成り立つとは限りません。つまり、事後均衡誘因両立的なメカニズムは耐戦略的であるとは限りません。ただ、入札者たちの利得関数に関して私的価値の仮定が成り立つ場合には、事後均衡誘因両立的なメカニズムは耐戦略的でもあります。

命題(耐戦略性と事後均衡誘因両立性の関係)
単一財オークション環境において私的価値の仮定が成り立つ場合、メカニズム\(\left(a,t\right) \)が事後均衡誘因両立性を満たすならば、\(\left( a,t\right) \)は耐戦略性を満たす。
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以上の2つの命題より、私的価値の仮定のもとでは、メカニズムの耐戦略性と事後均衡誘因両立性は概念として一致することが明らかになりました。

命題(耐戦略性と事後均衡誘因両立性の関係)
単一財オークション環境において私的価値の仮定が成り立つ場合、メカニズム\(\left(a,t\right) \)が事後均衡誘因両立的であることと耐戦略的であることは必要十分である。

 

演習問題

問題(ベイジアンナッシュ均衡)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。準線型環境を想定します。タイプ\(\theta _{1}\)の入札者\(1\)の信念\(f_{1}\left( \cdot|\theta _{1}\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{2}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{1}\left( \theta _{2}|\theta _{1}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{2}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。同様に、タイプ\(\theta _{2}\)の入札者\(2\)の信念\(f_{2}\left( \cdot |\theta _{2}\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{1}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{2}\left( \theta _{1}|\theta _{2}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{1}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。メカニズム\(\left( a,t\right) \)は「最高額の入札者が落札者であり、落札者だけが自身の入札額に等しい金額を支払う」というルールであるものとします。2人の純粋戦略の中でも、\begin{eqnarray*}\forall \theta _{1} &\in &\Theta _{1}:s_{1}^{\ast }\left( \theta _{1}\right)
=\frac{\theta _{1}}{2} \\
\forall \theta _{2} &\in &\Theta _{2}:s_{2}^{\ast }\left( \theta _{2}\right)
=\frac{\theta _{2}}{2}
\end{eqnarray*}を満たすもの\(\left( s_{1}^{\ast},s_{2}^{\ast }\right) \)に注目したとき、これはベイジアンナッシュ均衡になることを示してください。
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問題(表明原理)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。準線型環境を想定します。タイプ\(\theta _{1}\)の入札者\(1\)の信念\(f_{1}\left( \cdot|\theta _{1}\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{2}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{1}\left( \theta _{2}|\theta _{1}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{2}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。同様に、タイプ\(\theta _{2}\)の入札者\(2\)の信念\(f_{2}\left( \cdot |\theta _{2}\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{1}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{2}\left( \theta _{1}|\theta _{2}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{1}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。メカニズム\(\left( a,t\right) \)は「最高額の入札者が落札者であり、落札者だけが自身の入札額に等しい金額を支払う」というルールであるものとします。先に示したように、以下の条件\begin{eqnarray*}\forall \theta _{1} &\in &\Theta _{1}:s_{1}^{\ast }\left( \theta _{1}\right)
=\frac{\theta _{1}}{2} \\
\forall \theta _{2} &\in &\Theta _{2}:s_{2}^{\ast }\left( \theta _{2}\right)
=\frac{\theta _{2}}{2}
\end{eqnarray*}を満たす純粋戦略の組\(\left( s_{1}^{\ast },s_{2}^{\ast }\right) \)はベイジアンナッシュ均衡です。これは正直戦略の組ではないため、\(\left( a,t\right) \)はベイジアンナッシュ均衡誘因両立性を満たしません。ただ、表明原理によると、任意の状態\(\left( \theta _{1},\theta _{2}\right) \in \Theta _{1}\times \Theta _{2}\)において\(\left( a,t\right) \)が均衡において遂行する結果と同じ結果を遂行する誘因両立的メカニズムが存在するはずです。そのような誘因両立的メカニズムを特定してください。
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