分布対称性の仮定
単一財オークション環境において入札者の総数が\(n\)であるとともに入札者たちのタイプ集合\(\Theta _{1},\cdots ,\Theta _{n}\)が数直線\(\mathbb{R} \)上の区間のような非可算集合である場合、タイプ\(\theta _{i}\)の入札者\(i\)の信念は条件付き同時確率密度関数\begin{equation*}f_{i}\left( \cdot |\theta _{i}\right) :\mathbb{R} ^{n-1}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として定義されます。また、これに対応する条件付き同時分布関数を、\begin{equation*}
F_{i}\left( \cdot |\theta _{i}\right) :\mathbb{R} ^{n-1}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}で表記します。つまり、入札者\(i\)は自身のタイプが\(\theta _{i}\)であるとき、他の入札者たちのタイプが\(\theta _{-i}\)以下である確率(自身とは異なる任意の入札者\(j\)のタイプの値が\(\theta_{j}\)以下である確率)を\(F_{i}\left( \theta _{-i}|\theta _{i}\right) \)と予想するということです。入札者\(i\)の信念とは、自身のそれぞれのタイプのもとでの信念からなる体系\begin{equation*}f_{i}=\{f_{i}\left( \cdot |\theta _{i}\right) \}_{\theta _{i}\in \Theta _{i}}
\end{equation*}として定義されます。
加えて、共通事前分布を仮定する場合、それぞれの入札者\(i\)の信念\(f_{i}\)は共通事前分布\(f^{\ast }:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)と整合的です。つまり、入札者\(i\in I\)とそのタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)および他の入札者たちのタイプ\(\theta _{-i}\in \Theta _{-i}\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}f_{i}\left( \theta _{-i}|\theta _{i}\right) =\frac{f^{\ast }\left( \theta
_{i},\theta _{-i}\right) }{\int\limits_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}f^{\ast
}\left( \theta _{i},\theta _{-i}\right) d\theta _{-i}}
\end{equation*}が成り立ちます。さらにこのとき、入札者\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\in \Theta_{i}\)である確率は、\(f^{\ast }\)から得られる\(\theta _{i}\)に関する周辺確率密度関数\(f^{\ast }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}f^{\ast }\left( \theta _{i}\right) =\int_{\theta _{-i}\in \Theta
_{-i}}f^{\ast }\left( \theta _{i},\theta _{-i}\right) d\theta _{-i}
\end{equation*}と記述できます。一般に、同一の共通事前分布\(f^{\ast }\)から導かれる各変数\(\theta _{1},\cdots ,\theta _{n}\)に関する周辺確率密度関数\(f^{\ast }\left( \theta _{1}\right) ,\cdots ,f^{\ast }\left(\theta _{n}\right) \)は等しいとは限りません。一方、オークション理論では多くの場合、すべての入札者のタイプ集合\(\Theta _{1},\cdots ,\Theta _{n}\)が等しく、なおかつ、それぞれの入札者のタイプ\(\theta _{1},\cdots ,\theta _{n}\)がしたがう周辺確率密度関数\(f^{\ast}\left( \theta _{1}\right) ,\cdots ,f^{\ast }\left( \theta _{n}\right) \)もまた等しいものと仮定します。このような仮定を対称性(symmetric)の仮定と呼びます。
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるものとします。入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ\(\theta_{1},\theta _{2}\)がともにタイプ集合\(\left[ 0,100\right] \)上の連続一様分布にしたがう場合、これは対称性の仮定と整合的です。
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるものとします。入札者たちのタイプ集合が、\begin{eqnarray*}
\Theta _{1} &=&\left[ 0,80\right] \\
\Theta _{2} &=&\left[ 0,100\right] \end{eqnarray*}であるとともに、入札者\(1\)のタイプ\(\theta _{1}\)はタイプ集合\(\left[ 0,80\right] \)上の連続一様分布にしたがい、入札者\(2\)のタイプ\(\theta _{2}\)はタイプ集合\(\left[0,100\right] \)上の連続一様分布にしたがう場合、これは対称性の仮定と反します。
共通事前分布と分布独立性と分布対称性の仮定の含意
単一財オークション環境において共通事前分布と分布独立性の仮定が成り立つ場合には、入札者たちのタイプとその分布を以下のように記述できます。
- 入札者たちのタイプ集合\(\Theta _{1},\cdots ,\Theta _{n}\)は共有知識である一方で、それぞれの入札者\(i\in I\)の真のタイプは私的情報である。
- 共通事前分布に相当する同時確率密度関数\(f_{I}:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する。それに対応する同時分布関数を\(F_{I}:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記する。つまり、状態が\(\theta _{I}\)以下である確率(任意の入札者\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\)以下である確率)は\(F\left(\theta _{I}\right) \)である。\(f_{I}\)と\(F_{I}\)は共有知識である。
- それぞれの入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)の分布は、共通事前分布の周辺確率密度関数\(f_{i}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)によって記述される。それに対応する周辺分布関数を\(F_{i}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)で表記する。つまり、入札者\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\)以下である確率は\(F_{i}\left( \theta _{i}\right) \)である。\(f_{i}\)と\(F_{i}\)は共有知識である。
- 入札者たちのタイプ\(\theta _{1},\cdots ,\theta _{n}\)は独立である。つまり、任意の状態\(\theta _{I}\in \left( \theta _{1},\cdots ,\theta_{n}\right) \in \Theta _{I}\)に対して、\begin{equation*}f(\theta _{I})=f_{1}(\theta _{1})\times \cdots \times f_{n}(\theta _{n})
\end{equation*}が成り立つ。
以上の仮定に加えて分布対称性を認める場合、すべての入札者が同一のタイプ集合とその分布を共有するため、入札者たちのタイプとその分布を以下のように記述できます。
- 入札者たちのタイプ集合\(\Theta _{1},\cdots ,\Theta _{n}\)は共有知識である一方で、それぞれの入札者\(i\in I\)の真のタイプは私的情報である。
- 共通事前分布に相当する同時確率密度関数\(f_{I}:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する。それに対応する同時分布関数を\(F_{I}:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記する。つまり、状態が\(\theta _{I}\)以下である確率(任意の入札者\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\)以下である確率)は\(F_{I}\left(\theta _{I}\right) \)である。\(f_{I}\)と\(F_{I}\)は共有知識である。
- すべての入札者のタイプ\(\theta _{i}\)の分布は、共通事前分布の周辺確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)によって記述される。この\(f\)はすべてのタイプについて共通する。また、\(f\)に対応する周辺分布関数を\(F:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)で表記する。つまり、入札者\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\)以下である確率は\(F\left( \theta _{i}\right) \)である。\(f\)と\(F\)は共有知識である。
- 入札者たちのタイプ\(\theta _{1},\cdots ,\theta _{n}\)は独立である。つまり、任意の状態\(\theta _{I}\in \left( \theta _{1},\cdots ,\theta_{n}\right) \in \Theta _{I}\)に対して、\begin{equation*}f_{I}(\theta _{I})=f(\theta _{1})\times \cdots \times f(\theta _{n})\end{equation*}が成り立つ。同様に、\begin{equation*}
F_{I}(\theta _{I})=F(\theta _{1})\times \cdots \times F(\theta _{n})
\end{equation*}が成り立つ。
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。共通事前分布と分布対称性と分布独立性を仮定します。仮定より2人のタイプは同一の確率分布にしたがって分布しています。それがタイプ集合\(\Theta _{i}=\left[ 0,100\right] \)上の連続一様分布であるならば、その確率分布を表す確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\theta _{i}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( \theta _{i}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{100} & \left( if\ 0\leq \theta _{i}\leq 100\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。加えて、共通事前分布\(f_{I}^{\ast }:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの状態\(\left(\theta _{1},\theta _{2}\right) \in \Theta _{I}\)に対して定める値は、\begin{equation*}f_{I}^{\ast }\left( \theta _{1},\theta _{2}\right) =f\left( \theta
_{1}\right) \times f\left( \theta _{2}\right)
\end{equation*}となります。
SIPVモデル
単一オークション環境において入札者たちの利得関数に関して非外部性、準線型性、リスク中立性、私的価値を仮定するとともに、入札者たちのタイプに関して共通事前分布、分布独立性、分布対称性を仮定する場合、そのような環境をSIPVモデル(symmetric independent private value model)と呼びます。具体的には、SIPVモデルの要素は以下の通りです。
- 入札者集合は\(I=\left\{ 1,\cdots,n\right\} \)である。
- 結果集合は\(A\times \mathbb{R} ^{n}\)であり、その要素であるそれぞれの結果は、\begin{equation*}\left( a_{I},t_{I}\right) =\left( a_{1},\cdots ,a_{n},t_{1},\cdots,t_{n}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}である。結果\(\left( a_{I},t_{I}\right) \)において入札者\(i\)は商品を確率\(a_{i}\)で入手する一方、その対価として所得移転\(t_{i}\)が課せられる。 - 入札者のタイプは商品への支払い意思額であり、すべての入札者が同一のタイプ集合\begin{equation*}\Theta =\left[ \underline{\theta },\overline{\theta }\right] \subset \mathbb{R} \end{equation*}を共有する。
- 状態\(\theta _{I}\)の分布が同時確率密度関数\(f_{I}:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)によって記述され、任意の入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)の分布は\(f_{I}\)の周辺確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)によって記述される。ただし、任意の入札者について\(f\)は同一である。\(f_{I}\)に対応する同時分布関数を\(F_{I}:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記し、\(f\)に対応する分布関数を\(F:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)で表記する。さらに、入札者たちのタイプ\(\theta _{1},\cdots ,\theta _{n}\)は互いに独立である。すなわち、任意の状態\(\theta _{I}\in\left( \theta _{1},\cdots ,\theta _{n}\right) \in \Theta ^{n}\)に対して、\begin{equation*}f_{I}(\theta _{I})=f(\theta _{1})\times \cdots \times f(\theta _{n})\end{equation*}が成り立つ。同様に、\begin{equation*}
F_{I}(\theta _{I})=F(\theta _{1})\times \cdots \times F(\theta _{n})
\end{equation*}が成り立つ。 - 入札者\(i\in I\)が状態\(\theta_{I}\in \Theta ^{n}\)において結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)から得る利得は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}\end{equation*}であり、オークションの主催者が得る利得は、\begin{equation*}
\sum_{i\in I}t_{i}
\end{equation*}である。
演習問題
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるとともに、入札者たちのタイプ集合が、\begin{equation*}
\Theta _{1}=\Theta _{2}=\left[ 0,100\right] \end{equation*}であるものとします。SIPVモデルを想定します。2人の入札者のタイプはいずれもタイプ集合\(\left[ 0,100\right] \)上の連続一様分布にしたがって分布しているものとします。メカニズム\(\left( a,t\right) \)は「最高額の入札者が落札者であり、落札者だけが自身の入札額に等しい金額を支払う」というルールであるものとします。タイプ\(\theta _{1}\)の入札者\(1\)による入札額が\(\hat{\theta}_{1}\)であるときに自身が直面する中間期待利得と、タイプ\(\theta _{2}\)の入札者\(2\)による入札額が\(\hat{\theta}_{2}\)であるときに自身が直面する中間期待利得をそれぞれ求めてください。
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