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単一財オークション

競り上げ式公開オークション

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競り上げ式公開オークション

オークションの主催者が最低値から価格を段階的に上げていき、最後の1人を除いたすべての入札者が脱落した時点で売買が成立し、落札者は最後の脱落者が脱落した価格に相当する金額を支払うオークションを競り上げ式公開オークション(ascending open bid auction)と呼びます。

例(競り上げ式公開オークション)
単一財オークション環境において非外部性、準線型性、リスク中立性、私的価値の仮定が成り立つ場合、入札者\(i\in I\)が状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)において結果\(\left( a,t\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)から得る利得は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}となります。入札者集合は\(I=\left\{ 1,2,3\right\} \)であり、彼らはそれぞれ、オークションの主催者による提示額が以下の金額に達した瞬間に脱落する意思があるものとします。\begin{equation*}\hat{\theta}_{I}=\left( \hat{\theta}_{1},\hat{\theta}_{2},\hat{\theta}_{3}\right) =\left( 10,9,8\right)
\end{equation*}例えば、入札者が最低値\(0\)から価格を段階的に上げていくと、価格が\(8\)に達した時点において入札者\(3\)が脱落し、続いて価格が\(9\)に達した時点において入札者\(2\)が脱落して売買が成立するため、競り上げ式公開オークションの配分ルール\(a\)が定める配分は、\begin{equation*}a\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 1,0,0\right)
\end{equation*}であり、移転ルール\(t\)が定める所得移転は、\begin{equation*}t\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 9,0,0\right)
\end{equation*}となります。したがって、状態が\(\theta _{I}=\left( \theta_{1},\theta _{2},\theta _{3}\right) \)であるとき、以上の結果からそれぞれの入札者が得る利得は、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{1}-t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\theta _{1}-9 \\
u_{2}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{2}-t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0 \\
u_{3}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{3}-t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0
\end{eqnarray*}となります。

 

競り上げ式オークションと第二価格封印オークションの関係

復習になりますが、単一財オークション環境におけるメカニズム\(\left( a,t\right) \)のもとで入札者たちが直面する戦略的状況はベイジアンゲーム\(G\left( a,t\right) \)として記述されるとともに、プレイヤーに相当する入札者たちは以下のルールのもとで意思決定を行うことが想定されています。

  1. 自身の真のタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)を知っているが他の入札者たちの真のタイプを知らないそれぞれの入札者\(i\in I\)は自身のタイプ集合\(\mathcal{\Theta }_{i}\)の中から特定の支払い意思額\(\hat{\theta}_{i}\)を選択してそれを入札する。その際、他の入札者たちによる入札額を観察できない。入札者\(i\)による入札額\(\hat{\theta}_{i}\)は自身の真のタイプ\(\theta _{i}\)と一致するとは限らない。
  2. 入札者たちによる入札額の組\(\hat{\theta}_{I}\in \mathcal{\Theta }_{I}\)に対して、メカニズム\(\left( a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)が結果\(\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right),t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)を定める。
  3. 真の状態\(\theta _{I}\)と入札者たちが選択した行動の組\(\hat{\theta}_{I}\)に応じて、それぞれの入札者\(i\)は利得関数\(u_{i}\left[ \theta _{I}\right] \)のもとで先の結果\(\left(a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \)を評価する。

特に、第二価格封印オークション\(\left( a,t\right) :\Theta_{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)とは、入札者たちが表明するタイプの組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)に対して、以下の結果\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}>\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right) \\
0 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}<\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right)
\end{array}\right. \\
&&\left( b\right) \ t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in I\backslash \left\{ i\right\}
\right\} & \left( if\ \hat{\theta}_{i}>\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\
j\in I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right) \\
0 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}<\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}を定めるメカニズムです。第二価格封印オークションのもとで入札者たちが直面する戦略的状況は先のような静学ゲーム\(G\left( a,t\right) \)であることが想定されています。

競り上げ式公開オークションに話を戻しましょう。競り上げ式公開オークションにおいて、それぞれの入札者\(i\)は主催者による提示額が\(\hat{\theta}_{i}\)に達した瞬間に脱落する意思があるものとします。仮に、入札者\(i\)が脱落する価格\(\hat{\theta}_{i}\)が最高額であるならば、すなわち、\begin{equation*}\hat{\theta}_{i}>\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in I\backslash \left\{
i\right\} \right\}
\end{equation*}が成り立つ場合には、主催者が最低値から価格を段階的に上げていき、\begin{equation}
\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in I\backslash \left\{ i\right\}
\right\} \quad \cdots (1)
\end{equation}に到達したときに入札者\(i\)以外の入札者たちが全員脱落して売買が成立します。その結果、入札者\(i\)が確率\(1\)で商品を得るとともに、対価として\(\left(1\right) \)に相当する金額を支払います。他の任意の入札者は商品を入手できず、所得移転は課されません。つまり、競り上げ式公開オークションにおいて入札者たちが脱落する価格の組\(\hat{\theta}_{I}\)を第二価格オークションにおける入札額の組と同一視した場合、競り上げ式公開オークションがもたらす結果は、第二価格封印オークション\(\left( a,t\right) \)が定める結果\(\left(a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \)と一致します。つまり、競り上げ式交換オークションと第二価格封印オークションはメカニズムとして等しいということです。

ただ、第二価格封印オークションのもとで入札者たちが直面するベイジアンゲームは静学ゲームであるのに対し、競り上げ式公開オークションのもとで入札者たちが直面するゲームは動学ゲームであることから、それぞれにおいて入札者がアクセス可能な情報が異なります。アクセス可能な情報が変われば入札者による最適な戦略も変わり得るため、2つのオークションを同一視することはできません。

第二価格封印オークションのもとで入札者が直面する戦略的状況は静学ゲームであるため、それぞれの入札者は、他の入札者による真の支払い意思額を知らないまま意思決定を行う必要があります。競り上げ式公開オークションにおいても、それぞれの入札者は、他の入札者による真の支払い意思額を知らないまま意思決定を行う必要があります。ただ、競り上げ式公開オークションは動学的なプロセスあり、プロセスが進むにつれて入札者たちが次々と脱落していき、残された入札者たちはその状況を観察できます。つまり、プロセスが進行する中で他の入札者たちのタイプに関する情報を収集でき、その情報を活用しながら意思決定を行うことができます。逆に言えば、第二価格封印オークションにおいて入札者たちはより不確かな状況下で意思決定を行う必要があります。以上の理由により、一般的には、2つのオークションを同一視することはできません。ただし、以下のような例外もあります。

競り上げ式公開オークションに参加する入札者が2人だけであるような状況を想定します。この場合、一方の入札者が脱落した段階でオークションが終わってしまうため、落札者は観察した情報を活用する余地がありません。したがって、このような場合には、競り上げ式オークションと第二価格封印オークションの双方において、入札者がアクセス可能な情報は一致します。

続いて、単一財オークション環境において、入札者たちの利得関数に関して私的価値の仮定が成り立つとともに、タイプに関して分布独立性の仮定が成り立つものとします。私的価値の仮定より、それぞれの入札者の利得関数の形状は、他の入札者たちのタイプに依存しません。また、分布独立性の仮定より、ある入札者のタイプを観察できた場合でも、他の入札者のタイプに関する情報は得られません。以上の仮定を満たす環境において競り上げ式公開オークションを行った場合、誰かが脱落し、脱落者のタイプに関する情報が明らかになった場合でも、その情報の中には離脱せずに残っている入札者たちの利得関数を推測する上で役立つ情報は含まれていないため、残された入札者たちの意思決定に影響を与えません。したがって、このような場合にも、競り上げ式オークションと第二価格封印オークションの双方において、入札者がアクセス可能な情報は一致します。

議論を整理します。単一財オークション環境において、入札者の人数が2人である場合や、私的価値と分布独立性の仮定が成り立つ場合などには、競り上げ式公開オークションと第二価格封印オークションの双方において、入札者たちがアクセス可能な情報は等しくなります。加えて、競り上げ式オークションにおける離脱価格の組\(\hat{\theta}_{I}\)を第二価格オークションにおける入札額の組と同一視した場合、競り上げ式公開オークションがもたらす結果は、第二価格封印オークション\(\left( a,t\right) \)が定める結果\(\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \)と一致します。以上の意味において2つのメカニズムは戦略的に同等(strategically equivalent)であると言われます。両メカニズムが戦略的に同等であることは、競り上げ式公開オークションにおいて入札者たちが直面する戦略的状況を分析するかわりに、第二価格封印オークションのもとでの戦略的状況を分析しても一般性は失われないことを意味します。

 

競り上げ式公開オークションの性質

単一財オークション環境において、入札者の人数が2人である場合や、私的価値と分布独立性の仮定が成り立つ場合などには、競り上げ式公開オークションは第一価格封印オークションと戦略的に同等であることが明らかになりました。以上に加えて、単一財オークション環境において非外部性、準線型性、リスク中立性、私的価値の仮定が成り立つ場合には第二価格封印オークションが耐戦略性、事後効率性、事後個人合理性を満たすことを踏まえると以下を得ます。

命題(競り上げ式公開オークションの性質)
単一財オークション環境において非外部性、準線型性、リスク中立性、私的価値の仮定が成り立つものとする。以上の仮定に加えて、入札者の人数が2人である場合や、もしくは分布独立性の仮定が成り立つ場合には、競り上げ式公開オークションは耐戦略性、事後効率性、事後個人合理性を満たす。

非外部性、準線型性、リスク中立性、私的価値の仮定の仮定に加えて非単一エージェント効果の仮定が成り立つ場合、第二価格封印オークションが弱予算均衡を満たすことを踏まえると以下を得ます。

命題(競り上げ式公開オークションの性質)
単一財オークション環境において非外部性、準線型性、リスク中立性、私的価値、非単一エージェント効果の仮定が成り立つものとする。以上の仮定に加えて、入札者の人数が2人である場合や、もしくは分布独立性の仮定が成り立つ場合には、競り上げ式公開オークションは弱予算均衡を満たす。

例(競り上げ式公開オークションの性質)
単一財オークション環境において非外部性、準線型性、リスク中立性、私的価値、分布独立性の仮定が成り立つものとします。入札者集合は\(I=\left\{ 1,2,3\right\} \)であり、彼らの真のタイプが、\begin{equation*}\theta _{I}=\left( \theta _{1},\theta _{2},\theta _{3}\right) =\left(
10,9,8\right)
\end{equation*}であるものとします。競り上げ式公開オークションは耐戦略的であるため、入札者たちが真のタイプを表明するものと仮定すると、競り上げ式公開オークションの配分ルール\(a\)は、\begin{equation*}a\left( \theta _{I}\right) =\left( a_{1}\left( \theta _{I}\right)
,a_{2}\left( \theta _{I}\right) ,a_{3}\left( \theta _{I}\right) \right)
=\left( 1,0,0\right)
\end{equation*}を定め、移転ルール\(t\)が定める所得移転\(t\left(\theta _{I}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\)は、\begin{eqnarray*}t_{1}\left( \theta _{I}\right) &=&9-0=9 \\
t_{2}\left( \theta _{I}\right) &=&10-10=0 \\
t_{3}\left( \theta _{I}\right) &=&10-10=0
\end{eqnarray*}を定めます。入札者たちが得る利得は、\begin{eqnarray*}
a_{1}\left( \theta _{I}\right) \cdot \theta _{1}-t_{1}\left( \theta
_{I}\right) &=&10-9=1 \\
a_{2}\left( \theta _{I}\right) \cdot \theta _{2}-t_{2}\left( \theta
_{I}\right) &=&0-0=0 \\
a_{3}\left( \theta _{I}\right) \cdot \theta _{3}-t_{3}\left( \theta
_{I}\right) &=&0-0=0
\end{eqnarray*}ですが、これは競り上げ式公開オークションが事後個人合理的であることと整合的です。オークションの主催者が得る利得は、\begin{eqnarray*}
t_{1}\left( \theta _{I}\right) +t_{2}\left( \theta _{I}\right) +t_{3}\left(
\theta _{I}\right) &=&9+0+0 \\
&=&9
\end{eqnarray*}ですが、これは競り上げ式公開オークションが弱予算均衡を満たすことと整合的です。社会的余剰はこれらの総和である\(10\)ですが、競り上げ式公開オークションの事後効率性より、これは実現可能な社会的余剰の最大値です。

次回は競り上げ式公開オークションのバリエーションである日本式オークションとイギリス式オークションについて解説します。

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