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単一財オークション

最低落札価格を導入した第二価格封印オークション(セカンドプライス・オークション)

目次

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最低落札価格を導入した第二価格封印オークション

分割不可能な1つの商品が売りに出される単一財オークションが環境\begin{equation*}
\left( I,\left\{ \theta _{i}\right\} _{i\in I},A\times \mathbb{R} ^{n},\left\{ u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) \right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}として表現されているものとします。ただし、\(I\)は入札者集合、\(\theta _{i}\)は入札者\(i\)にとっての商品の評価額、\(A\times \mathbb{R} ^{n}\)は結果集合、\(u_{i}\left( \cdot,\theta _{I}\right) \)は入札者\(i\)が結果どうしを比較する利得関数です。特に、入札者の利得関数に関して準線型性、リスク中立性、私的価値を仮定する場合には、入札者\(i\)が結果\(\left( a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)から得る利得を、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =v_{i}\left( a_{I},\theta
_{i}\right) -t_{i}
\end{equation*}と表現できます。ただし、\(v_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) :A\rightarrow \mathbb{R} \)は配分の金銭価値を特定する評価関数です。また、準線型性、リスク中立性、私的価値の仮定に加えて非外部性を仮定する場合には、入札者\(i\)が結果\(\left( a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)から得る利得を、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}と表現できます(準線型環境)。

入札者たちが表明するタイプからなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)が以下の条件\begin{equation*}\forall i,j\in I:\left( i\not=j\Rightarrow \hat{\theta}_{i}\not=\hat{\theta}_{j}\right)
\end{equation*}を満たすものとします。全員の入札額が異なる状況を想定するということです。この場合、第二価格封印オークション\(\left(a,t\right) :\Theta _{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)定める結果\(\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \)において入札者\(i\in I\)が直面する配分\(a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)および所得移転\(t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}>\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right) \\
0 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}<\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right)
\end{array}\right. \\
&&\left( b\right) \ t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in I\backslash \left\{ i\right\}
\right\} & \left( if\ \hat{\theta}_{i}>\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\
j\in I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right) \\
0 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}<\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}と定まります。条件\(\left( a\right) \)より、第二価格封印オークションのもとでは、最高額を入札した入札者が商品を確率\(1\)で入手し、それ以外の入札者は商品を手に入れられません。条件\(\left( b\right) \)より、商品を落札した入札者は2番目に高い入札額に相当する金額を支払う必要がある一方で、それ以外の入札者に所得移転は課されません。

現実には売り手が一定の価格以上でのみ商品を販売したいと考えている状況は起こり得るため、そのような状況に対処できるよう、メカニズムを修正する必要があります。そこで、まずはオークションの主催者が最低落札価格を設定し、それを入札者に提示した上で、第二価格封印オークションを実施します。2人以上の入札者が最低落札価格を上回る入札額を提示した場合、最高額を提示した入札者が落札者となり、2番目に高い入札額に相当する金額を支払います。最低落札価格を上回る入札額を提示した入札者が1人だけである場合、その入札者が落札者となり、最低落札価格と一致する金額を支払います。最低落札価格を上回る入札額を提示した入札者がいなかった場合、商品は売却されません。正確には以下の通りです。

オークションの主催者は最低落札価格\begin{equation*}
r>0
\end{equation*}を設定し、それを入札者たちに提示します。最低落札価格\(r\)を観察した入札者たちは、オークションへ参加するかを決定します。オークションへ参加することを選んだ入札者からなる集合を\(I\)で表記します。入札者たちが表明する入札額からなる組\(\hat{\theta}_{I}\in \Theta _{I}\)に対して、最低落札価格を導入した第二価格封印オークション\(\left( a,t\right) :\Theta_{I}\rightarrow A\times \mathbb{R} ^{n}\)は結果\(\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right),t\left( \hat{\theta}_{I}\right) \right) \)を定めますが、この結果において入札者\(i\in I\)が直面する配分\(a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)および所得移転\(t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \)は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ a_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}>\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \wedge \hat{\theta}_{i}\geq r\right)
\\
0 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}<\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \vee \hat{\theta}_{i}<r\right)
\end{array}\right. \\
&&\left( b\right) \ t_{i}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in I\backslash \left\{ i\right\}
\right\} \cup \left\{ r\right\} & \left( if\ \hat{\theta}_{i}>\max \left\{
\hat{\theta}_{j}\ |\ j\in I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \wedge \hat{\theta}_{i}\geq r\right) \\
0 & \left( if\ \hat{\theta}_{i}<\max \left\{ \hat{\theta}_{j}\ |\ j\in
I\backslash \left\{ i\right\} \right\} \vee \hat{\theta}_{i}<r\right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}と定まります。条件\(\left( a\right) \)より、最低落札価格以上かつ最高額を入札した入札者が商品を確率\(1\)で入手し、それ以外の入札者は商品を手に入れられません。条件\(\left( b\right) \)より、2番目に高い入札額と最低落札額を比べた上で、大きい方に相当する金額を落札者は支払う一方で、それ以外の入札者に所得移転は課されません。

例(最低落札価格を導入した第二価格封印オークション)
単一財オークション環境において準線型性、リスク中立性、私的価値、非外部性の仮定が成り立つものとします。つまり、入札者\(i\in I\)が状態\(\theta_{I}\in \Theta _{I}\)において結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)から得る利得が、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I},\theta _{I}\right) =a_{i}\cdot \theta _{i}-t_{i}
\end{equation*}であるということです。入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、状態が、\begin{equation*}
\theta _{I}=\left( \theta _{1},\theta _{2},\theta _{3}\right)
\end{equation*}であり、最低落札価格が、\begin{equation*}
r=8
\end{equation*}であり、入札額が、\begin{equation*}
\hat{\theta}_{I}=\left( \hat{\theta}_{1},\hat{\theta}_{2},\hat{\theta}_{3}\right) =\left( 10,9,8\right)
\end{equation*}であるものとします。入札者\(1\)が最低落札価格\(8\)以上かつ最高額を入札しているとともに、2番目に高い入札額\(9\)が最低落札価格\(8\)以上であるため、最低落札価格を導入した第二価格封印オークションの配分ルール\(a\)が定める配分は、\begin{equation*}a\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 1,0,0\right)
\end{equation*}であり、移転ルール\(t\)が定める所得移転は、\begin{equation*}t\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 9,0,0\right)
\end{equation*}となります。したがって、以上の結果からそれぞれの入札者が得る利得は、\begin{eqnarray*}
u_{1}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{1}-t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\theta _{1}-9 \\
u_{2}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{2}-t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0 \\
u_{3}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{3}-t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0
\end{eqnarray*}となります。続いて、最低落札価格が、\begin{equation*}
r=9
\end{equation*}であり、入札額が、\begin{equation*}
\hat{\theta}_{I}=\left( \hat{\theta}_{1},\hat{\theta}_{2},\hat{\theta}_{3}\right) =\left( 10,8,7\right)
\end{equation*}であるものとします。入札者\(1\)が最低落札価格\(9\)を上回る最高額を入札しているとともに、2番目に高い入札額\(8\)が最低落札価格\(9\)を下回っているため、最低落札価格を導入した第二価格封印オークションの配分ルール\(a\)が定める配分は、\begin{equation*}a\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 1,0,0\right)
\end{equation*}であり、移転ルール\(t\)が定める所得移転は、\begin{equation*}t\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 9,0,0\right)
\end{equation*}となります。先の例とは異なり、落札者の支払額は最低落札価格であることに注意してください。以上の結果からそれぞれの入札者が得る利得は、\begin{eqnarray*}
u_{1}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{1}-t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\theta _{1}-9 \\
u_{2}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{2}-t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0 \\
u_{3}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{3}-t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0
\end{eqnarray*}となります。続いて、最低落札価格が、\begin{equation*}
r=10
\end{equation*}であり、入札額が、\begin{equation*}
\hat{\theta}_{I}=\left( \hat{\theta}_{1},\hat{\theta}_{2},\hat{\theta}_{3}\right) =\left( 9,8,7\right)
\end{equation*}であるものとします。最低落札価格\(10\)以上の価格を入札した入札者がいないため、最低落札価格を導入した第二価格封印オークションの配分ルール\(a\)が定める配分は、\begin{equation*}a\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 0,0,0\right)
\end{equation*}であり、移転ルール\(t\)が定める所得移転は、\begin{equation*}t\left( \hat{\theta}_{I}\right) =\left( t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right)
\right) =\left( 0,0,0\right)
\end{equation*}となります。以上の結果からそれぞれの入札者が得る利得は、\begin{eqnarray*}
u_{1}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{1}-t_{1}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0 \\
u_{2}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{2}-t_{2}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0 \\
u_{3}\left( a\left( \hat{\theta}_{I}\right) ,t\left( \hat{\theta}_{I}\right)
,\theta _{I}\right) &=&a_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) \cdot \theta
_{3}-t_{3}\left( \hat{\theta}_{I}\right) =0
\end{eqnarray*}となります。

 

最低落札価格を提示された入札者にとっての最適戦略

通常の第二価格オークションにおけるプレイヤーは入札者たちであり、オークションの主催者(もしくは商品の売り手)はプレイヤーとはみなされません。主催者はメカニズムの運用主体として位置付けられます。一方、最低落札価格を導入する場合、主催者は最低落札価格の水準を決定するプレイヤーとなります。つまり、ゲームの第1ステージにおいて主催者が最低落札価格を設定した上で、ゲームの第2ステージにおいて、最低落札価格を観察した入札者たちはオークションへ参加するかどうかを決定し、その上で、参加者たちが入札を行います。最低落札価格を導入した第二価格オークションが想定する戦略的状況は、主催者と入札者をプレイヤーとする以上のような動学ゲームです。

ゲームを後ろから解きます。オークションの主催者が提示した最適落札価格を所与とした場合に、オークションの参加者たちはどのように入札することが最適でしょうか。通常の第二価格封印オークションは耐戦略性を満たすため、すべての入札者にとって、商品の評価額をそのまま正直に入札することが広義の支配戦略です。実は、最低落札価格が導入された場合においても、すべての入札者にとって、正直戦略は広義の支配戦略であり続けます。しかも、以上の事実は最低落札価格の水準に影響されません。

命題(最低落札価格を導入した第二価格封印オークションの耐戦略性)
単一財オークション環境において準線型性、リスク中立性、私的価値、非外部性の仮定が成り立つものとする。最低落札価格を導入した第二価格封印オークションにおいて、最低落札価格\(r>0\)の水準がいかなるものであっても、すべての入札者にとって正直戦略が広義の支配戦略である。
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最低落札価格を提示された入札者にとって、正直戦略は広義の支配戦略であることが明らかになりました。つまり、すべての入札者にとって、商品の評価額をそのまま正直に入札することが最適です。なぜでしょうか。通常の第二価格封印オークションが耐戦略性を満たすという命題は、入札者の人数とは関係なく成立します。最低落札価格を導入することは、最低落札価格を入札額として提示する入札者が1人増えたことと実質的に同じです。したがって、最低落札価格を導入しても均衡は変わりません。

 

入札者の最適行動を踏まえた場合のオークションへの参加者

入札者が最低落札価格を導入した第二価格オークションへ参加する場合には、商品の評価額を正直に入札することが最適であることが明らかになりました。では、以上の事実を踏まえた場合、どの入札者がオークションへ参加するのでしょうか。

入札者\(i\)の評価額が\(\theta_{i}\)である状況を想定します。彼がオークションへ参加する場合、評価額\(\theta _{i}\)を正直に入札することになります。

評価額\(\theta _{i}\)が最低落札価格\(r\)以上である場合(\(\theta _{i}\geq r\))、オークションの結果とは関係なく彼は非負の利得を獲得できます。一方、オークションへ参加しない場合に得られる利得は\(0\)であるため、オークションへ参加したほうが得です。

評価額\(\theta _{i}\)が最低落札価格\(r\)を下回る場合(\(\theta _{i}<r\))、オークションへ参加しても負けることが確定しており、その結果として利得\(0\)が得られます。一方、オークションへ参加しない場合に得られる利得は\(0\)であるため、オークションへ参加することと参加しないことは無差別です。

最低落札価格を導入した第二価格オークションが耐戦略性を満たすという事実を踏まえた場合、すべての入札者がオークションへ参加するものとみなしても問題ないことが以上の議論より明らかになりました。

 

入札者の最適行動を踏まえた主催者の最適戦略

入札者たちが評価額を正直に入札するという行動を見据えた場合、オークションの主催者は最低落札価格をどの水準に設定すべきでしょうか。ただし、主催者の目的は収入もしくは期待収入の最大化であるものとします。

先の命題において明らかになったように、入札者たちの入札行動は最低落札価格の水準に影響されません。提示された最低落札価格がいかなる水準であったとしても、すべての入札者にとって、商品の評価額をそのまま正直に入札することが最適です。言い換えると、主催者が最低落札価格を調整しても、入札者たちの行動に影響を与えることはできません。最低落札価格を調整すれば入札行動が活性化されて収入が増えるというシナリオは、理論的には起こり得ないということです。これは第一価格封印オークションとは対照的な結果です。

その一方で、主催者が入札者たちにとっての商品の評価額を過剰に高く見積もり、最低落札価格を過剰に高く設定してしまった場合、落札者がいなくなってしまう恐れがあります。最低落札価格を調整しても入札者たちによる入札額が変わらないのであれば、最低落札価格を過剰に高く設定する行為は落札候補者を減少させるネガティブな効果しかもたらしません。

ただし、主催者が入札者たちにとっての評価額を把握している場合には事情が変わります。主催者が上位2人の評価額\(\theta _{1},\theta_{2}\)を把握しているものとします。ただし、\(\theta _{1}>\theta _{2}\)です。最低落札価格を設定しない場合、落札者が支払う金額は\(\theta _{2}\)です。その一方で、\(\theta _{1}\geq r>\theta _{2}\)を満たす最低落札価格\(r\)を設定すれば、落札者が支払う金額は\(r\)となり、これは\(\theta _{2}\)を上回ります。

主催者が入札者たちにとっての評価額を正確に把握していない場合でも、評価額がしたがう確率分布を把握している場合には、最適落札価格を適切な水準に設定することにより、最低落札価格を導入しない場合よりも期待収入を高めることができます。以下が具体例です。

例(最低落札価格の最適水準)
2人の入札者が参加する単一財オークションがSIPVモデルとして記述されているものとします。ただし、入札者たちのタイプ\(\theta_{1},\theta _{2}\)が区間\(\left[ 0,1\right] \)上の連続一様分布にしたがって分布しているものとします。つまり、確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
1 & \left( if\ 0\leq x\leq 1\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right. \quad \cdots (1)
\end{equation}を定めるとともに、分布関数\(F:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}F\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
0 & \left( if\ x<0\right) \\
x & \left( if\ 0\leq x<1\right) \\
1 & \left( if\ x\geq 1\right)
\end{array}\right. \quad \cdots (2)
\end{equation}を定めるということです。最低落札価格を導入しない場合、第二価格封印オークションにおいて主催者が直面する期待収入は、\begin{equation}
\frac{1}{3} \quad \cdots (1)
\end{equation}です。その一方で、最低落札価格\(r\)を導入した場合に直面する期待収入は、\begin{equation*}\frac{1+3r^{2}-4r^{3}}{3}
\end{equation*}です。この期待収入は、\begin{equation*}
r=\frac{1}{2}
\end{equation*}のもとで最大化されるとともに、最大化された期待収入の値は、\begin{equation}
\frac{1+3\cdot \left( \frac{1}{2}\right) ^{2}-4\cdot \left( \frac{1}{2}\right) ^{3}}{3}=\frac{5}{12} \quad \cdots (2)
\end{equation}です。\(\left( 2\right) \)は\(\left( 1\right) \)を上回るため、最低落札価格を導入することにより期待収入が増加することが明らかになりました(演習問題)。

 

最低落札価格に付随する収入最大化と効率性のトレードオフ

入札者たちにとっての評価額がしたがう確率分布をある程度予測できる場合には、最適落札価格を導入することにより、最低落札価格を導入しない場合よりも期待収入を高められる余地があることが明らかになりました。ただし、期待収入を最大化するような選択をした場合でも、実際に実現する結果においてより高い収入を確実に得られるわけではありません。評価額の分布はランダムに決定されるため、最低落札価格を設定した場合に実現する収入が、最低落札価格を導入しない場合に実現する収入を下回る事態は起こり得ます。以下の例より明らかです。

例(収入最大化と効率性のトレードオフ)
2人の入札者が参加する単一財オークションがSIPVモデルとして記述されているものとします。ただし、入札者たちのタイプ\(\theta_{1},\theta _{2}\)が区間\(\left[ 0,1\right] \)上の連続一様分布にしたがって分布しているものとします。先に明らかにしたように、最低落札価格を導入しない場合、第二価格封印オークションにおいて主催者が直面する期待収入が\(\frac{1}{3}\)である一方で、最低落札価格\(r=\frac{1}{2}\)を導入した第二価格封印オークションにおいて主催者が直面する期待収入は\(\frac{5}{12}\)です。したがって、期待収入を判断基準とするのであれば、主催者は最低落札価格を導入した方がよいという結論になります。では、実際の評価額が、\begin{equation*}\left( \theta _{1},\theta _{2}\right) =\left( \frac{1}{3},\frac{1}{4}\right)
\end{equation*}である場合には何が起こるでしょうか。最低落札価格を導入しない場合、入札者\(1\)が落札者となり\(\frac{1}{4}\)だけ支払います。したがって、この場合の主催者の収入もまた\(\frac{1}{4}\)です。一方、最低落札価格\(r=\frac{1}{2}\)を導入した場合、2人の入札額はともに最低落札価格を下回るため、取引は成立せず、主催者が得る収入は\(0\)です。このような事態が起こり得ることを踏まえると、最低落札価格を導入しないという意思決定にも合理性があります。最低落札価格を通じて期待収入を高められる余地はありますが、その反面、一定の確率で商品が売れ残ってしまうというリスクもあります。

通常の第二価格封印オークションのもとでは、商品を最も高く評価する入札者が落札者になるため、実現する結果は効率的です。一方、先の例が示唆するように、最低落札価格を導入した第二価格封印オークションのもとでは、取引が成立しない事態が一定の確率のもとで起こり得るため、実現する結果は効率的であるとは限りません。

最低落札価格を導入した第二価格封印オークションのもとで取引が成立する場合、通常の第二価格封印オークションの結果と比べて、主催者はより多くの収入を得られます。一方、最低落札価格を導入した第二価格封印オークションのもとでは取引が成立しない事態が起こり得るため、その場合の結果は効率的ではありません。どちらが実現するかはランダムに決定されます。つまり、最低落札価格を導入する場合、主催者は「収入の最大化」と「効率性の実現」という2つの目的の間のトレードオフに直面します。

 

演習問題

問題(最低落札価格の最適水準)
2人の入札者が参加する単一財オークションがSIPVモデルとして記述されているものとします。ただし、入札者たちのタイプ\(\theta_{1},\theta _{2}\)が区間\(\left[ 0,1\right] \)上の連続一様分布にしたがって分布しているものとします。つまり、確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
1 & \left( if\ 0\leq x\leq 1\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right. \quad \cdots (1)
\end{equation}を定めるとともに、分布関数\(F:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}F\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
0 & \left( if\ x<0\right) \\
x & \left( if\ 0\leq x<1\right) \\
1 & \left( if\ x\geq 1\right)
\end{array}\right. \quad \cdots (2)
\end{equation}を定めるということです。以下の問いに答えてください。

  1. 最低落札価格を導入しない場合、第二価格封印オークションの均衡において主催者が直面する期待収入を求めてください。
  2. 最低落札価格\(r\)を導入する場合、第二価格封印オークションの均衡において主催者が直面する期待収入を求めてください。
  3. 問2で求めた期待収入を最大化する最低落札価格\(r\)の水準と、最適な\(r\)の水準のもとでの期待収入を求めてください。
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