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距離空間上の点列

ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が成り立たない距離空間の例

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ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理

ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理について簡単に復習します。

実数空間\(\mathbb{R} \)において、収束する数列の任意の部分列は収束します。その一方で、収束しない数列に関しては、部分列が収束するケースと収束しないケースがともに起こり得ます。ただ、有界な数列に関しては、たとえそれが収束しない場合でも、必ず収束する部分列を持つことが保証されます。以上がボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理の主張です。

命題(ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理)
実数空間\(\mathbb{R} \)における距離関数\(d:\mathbb{R} \times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}d\left( x,y\right) =\left\vert x-y\right\vert
\end{equation*}を定める。以上の距離\(d\)のもとでは、\(\mathbb{R} \)上の任意の有界な数列は\(\mathbb{R} \)上の点へ収束する部分列を持つことが保証される。

ユークリッド空間においても同様の主張が成り立ちます

命題(ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)における距離関数\(d:\mathbb{R} \times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}d\left( x,y\right) =\sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}-y_{i}\right) ^{2}}
\end{equation*}を定める。以上の距離\(d\)のもとで、\(\mathbb{R} ^{n}\)上の任意の有界な点列は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の点へ収束する部分列を持つことが保証される。

以上の2つの空間\(\left( \mathbb{R} ,d\right) ,\left( \mathbb{R} ^{n},d\right) \)はともに距離空間です。したがって、これらの距離空間を議論の対象とした場合にはボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理は成立します。では、任意の距離空間について同様の議論は成立するのでしょうか。

 

距離空間においてボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理は成り立たない

距離空間\(\left( X,d\right) \)が与えられているものとします。つまり、\(X\)は非空集合であるとともに、距離関数\(d:X\times X\rightarrow \mathbb{R} \)が以下の4つの公理\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \forall x,y\in X:d\left( x,y\right) \geq 0 \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall x,y\in X:\left[ d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y\right] \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall x,y\in X:d(x,y)=d\left( y,x\right) \\
&&\left( M_{4}\right) \ \forall x,y,z\in X:d\left( x,z\right) \leq d\left(
x,y\right) +d\left( y,z\right)
\end{eqnarray*}を満たすということです。

距離空間を満たす対象は様々ですが、すべての距離空間においてボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が成り立つとは言えません。つまり、何らかの距離空間\(X\)のもとでは、\(X\)上の有界な点列は\(X\)の点へ収束する部分列を持つとは限りません。以下の例より明らかです。

例(任意の部分列が収束しない有界点列)
離散距離\(\left( X,d\right) \)は距離空間であり、離散距離\(d:X\times X\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in X\times X\)に対して、\begin{equation*}d\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ x=y\right) \\
1 & \left( if\ x\not=y\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。特に、以下の集合\begin{equation*}
X=\mathbb{R} \end{equation*}上に定義された離散空間\(\left( \mathbb{R} ,d\right) \)に注目します。その上で、一般項が、\begin{equation*}x_{n}=n
\end{equation*}で与えられる\(\mathbb{R} \)上の点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)に注目します。つまり、\begin{equation*}\left\{ x_{n}\right\} =\left\{ 1,2,3,4,\cdots \right\}
\end{equation*}です。この点列は有界である一方で、その任意の部分列が収束しないことを示します。まずは、この点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が有界であること、すなわち、\begin{equation*}\exists \varepsilon >0,\ \forall n,m\in \mathbb{N} :d\left( x_{n},x_{m}\right) <\varepsilon
\end{equation*}が成り立つことを示します。\(n,m\in \mathbb{N} \)を任意に選んだとき、\(d\)の定義より、\begin{equation*}d\left( x_{n},x_{m}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ n=m\right) \\
1 & \left( if\ n\not=m\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}が成り立つため、\begin{equation*}
\exists 2>0,\ \forall n,m\in \mathbb{N} :d\left( x_{n},x_{m}\right) <2
\end{equation*}が成り立ちます。したがって\(\left\{ x_{n}\right\} \)が有界であることが示されました。続いて点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の任意の部分列が収束しないことを示します。そこで、何らかの点\(a\in \mathbb{R} \)に収束する部分列\(\left\{x_{l\left( n\right) }\right\} \)が存在するものと仮定して矛盾を導きます。点列の極限の定義より、このとき、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left[ n\geq N\Rightarrow d\left( x_{l\left( n\right) },a\right)
<\varepsilon \right] \end{equation*}が成り立ちます。この命題は任意の\(\varepsilon >0\)について成り立つため\(\varepsilon =\frac{1}{2}\)とすると、\begin{equation*}\exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left[ n\geq N\Rightarrow d\left( x_{l\left( n\right) },a\right) <\frac{1}{2}\right] \end{equation*}を得ます。離散距離\(d\)のもとで点\(a\in X\)からの距離が\(\frac{1}{2}\)より小さい場所にある\(\mathbb{R} \)上の点は\(a\)自身だけであるため、このとき、\begin{equation*}\exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{l\left( n\right) }=a\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、部分列\(\left\{ x_{l\left( n\right)}\right\} \)の第\(N\)項以降の項はすべて\(a\)です。その一方で、もとの点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は、\begin{equation*}\left\{ x_{n}\right\} =\left\{ 1,2,3,4,\cdots \right\}
\end{equation*}であるため、この点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の部分列は等しい項を持ちません。したがって、先のような部分列\(\left\{ x_{l\left(n\right) }\right\} \)が存在することは矛盾であり、したがって背理法より\(\left\{x_{l\left( n\right) }\right\} \)は収束しないことが明らかになりました。\(\left\{ x_{n}\right\} \)の任意の部分列について同様の議論が成立するため、\(\left\{ x_{n}\right\} \)の任意の部分列は収束しないことが明らかになりました。

 

演習問題

問題(収束しない部分列を持つ有界点列)
本文中では、その任意の部分列が収束しない有界点列が存在するような距離空間の例を挙げましたが、他にもそのような距離空間は存在するでしょうか。具体例を挙げてください。

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