収束する点列はコーシー列
距離空間\(\left( X,d\right) \)が与えられているものとします。つまり、\(X\)は非空集合であるとともに、距離関数\(d:X\times X\rightarrow \mathbb{R} \)が以下の4つの公理\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \forall x,y\in X:d\left( x,y\right) \geq 0 \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall x,y\in X:\left[ d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y\right] \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall x,y\in X:d(x,y)=d\left( y,x\right) \\
&&\left( M_{4}\right) \ \forall x,y,z\in X:d\left( x,z\right) \leq d\left(
x,y\right) +d\left( y,z\right)
\end{eqnarray*}を満たすということです。
距離空間\(X\)上の点列\(\left\{x_{n}\right\} \)が収束することとは、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)が特定の点\(a\in X\)に限りなくことを意味しますが、これを厳密に表現すると、\begin{equation*}\exists a\in X,\ \forall \varepsilon >0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left[ n\geq N\Rightarrow d\left( x_{n},a\right) <\varepsilon \right] \end{equation*}となります。
距離空間\(X\)上の点列\(\left\{x_{n}\right\} \)がコーシー列であることとは、ある項より先にある任意の2つの項の間の距離が限りなく小さくことを意味しますが、これを厳密に表現すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall m\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left[ m\geq N\wedge n\geq N\Rightarrow d\left( x_{m},x_{n}\right)
<\varepsilon \right]
\end{equation*}となります。コーシー列は有界であることが保証されます。
収束する点列はコーシー列であることが保証されます。
コーシー列が収束するための条件
距離空間上の点列が収束する場合、その点列はコーシー列であることが明らかになりましたが、逆に、コーシー列は収束するでしょうか。順番に考えます。
距離空間上の点列が収束する場合には、その任意の部分列もまた収束することが保証されます。一方、距離空間上の点列が収束する部分列を持つ場合、もとの点列は収束するとは限りません。以下の例より明らかです。
&=&\left\vert x-y\right\vert \quad \because \text{絶対値の定義}
\end{eqnarray*}を定めます。\(\mathbb{R} \)上の点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}x_{n}=\left( -1\right) ^{n}
\end{equation*}で与えられるものとします。この点列は収束しません。その一方で、この点列の偶数番目の項からなる部分列\(\left\{ x_{l\left( n\right) }\right\}=\left\{ x_{2n}\right\} \)に注目すると、その一般項は、\begin{eqnarray*}x_{l\left( n\right) } &=&x_{2n} \\
&=&\left( -1\right) ^{2n} \\
&=&1
\end{eqnarray*}であるため、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }x_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
\infty }1 \\
&=&1
\end{eqnarray*}となります。
距離空間上の点列が収束する部分列を持つ場合、もとの点列は収束するとは限らないことが明らかになりました。ただ、考察対象をコーシー列に限定した場合には話は変わります。つまり、コーシー列が収束する部分列を持つ場合、そのコーシー列は収束することが保証されます。
コーシー列は収束するとは限らない
距離空間\(X\)上のコーシー列が収束する部分列を持つ場合、そのコーシー列は収束することが明らかになりました。加えて、コーシー列は有界です。したがって、距離空間\(X\)においてボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理(有界な点列は収束する部分列を持つ)が成立する場合、\(X\)上のコーシー列は収束する部分列を持つことが保証されるため、コーシー列は収束することが保証されます。実際、実数空間\(\mathbb{R} \)やユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)などの距離空間ではボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が成立するため、\(\mathbb{R} \)上のコーシー列や\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコーシー列は収束することが保証されます。
距離空間を満たす対象は様々ですが、すべての距離空間においてボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が成り立つとは言えません。つまり、何らかの距離空間\(X\)のもとでは、\(X\)上の有界な点列は\(X\)の点へ収束する部分列を持つとは限りません。ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が成立しない距離空間については、先のロジックを通じてコーシー列が収束することを保証できません。実際、コーシー列が収束しないような距離空間は存在します。以下の例より明らかです。
&=&\left\vert x-y\right\vert
\end{eqnarray*}を定める関数\(d:\left( a,b\right) \times\left( a,b\right) \rightarrow \mathbb{R} \)を定義します。つまり、\(d\)は1次元のユークリッド距離関数です。\(\left( \left( a,b\right) ,d\right) \)は距離空間です。その上で、一般項が、\begin{equation*}x_{n}=a+\frac{1}{n}
\end{equation*}で与えられる\(\left( a,b\right) \)上の点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)に注目します。この点列\(\left\{x_{n}\right\} \)はコーシー列である一方で\(\left( a,b\right) \)の点へ収束しません(演習問題)。
完備な距離空間
ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理(有界な点列は収束する部分列を持つ)が成立するような距離空間においてコーシー列は収束することが保証される一方で、一般的には、距離空間においてコーシー列は収束するとは限らないことが明らかになりました。
このような事情を踏まえた上で、距離空間\(X\)上の任意のコーシー列が\(X\)の点へ収束することが保証される場合、そのような距離空間\(X\)は完備である(complete)と言います。
&=&\left\vert x-y\right\vert \quad \because \text{絶対値の定義}
\end{eqnarray*}を定めます。\(\mathbb{R} \)上のコーシー列\(\left\{x_{n}\right\} \)を任意に選びます。一般に、コーシー列は有界であるため\(\left\{ x_{n}\right\} \)は有界です。\(\mathbb{R} \)においてボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が成り立つため、\(\left\{ x_{n}\right\} \)は収束する部分列を持ちます。一般に、収束する部分列を持つコーシー列は収束するため\(\left\{ x_{n}\right\} \)は収束します。任意のコーシー列\(\left\{ x_{n}\right\} \)について同様であるため、\(\mathbb{R} \)は完備であることが明らかになりました。
\end{equation*}を定めます。\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコーシー列\(\left\{x_{v}\right\} \)を任意に選びます。一般に、コーシー列は有界であるため\(\left\{ x_{v}\right\} \)は有界です。\(\mathbb{R} ^{n}\)においてボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が成り立つため、\(\left\{ x_{v}\right\} \)は収束する部分列を持ちます。一般に、収束する部分列を持つコーシー列は収束するため\(\left\{ x_{v}\right\} \)は収束します。任意のコーシー列\(\left\{ x_{v}\right\} \)について同様であるため、\(\mathbb{R} ^{n}\)は完備であることが明らかになりました。
距離空間は完備であるとは限りません。以下の例より明らかです。
&=&\left\vert x-y\right\vert
\end{eqnarray*}を定める関数\(d:\left( a,b\right) \times\left( a,b\right) \rightarrow \mathbb{R} \)を定義します。つまり、\(d\)は1次元のユークリッド距離関数です。\(\left( \left( a,b\right) ,d\right) \)は距離空間です。その上で、一般項が、\begin{equation*}x_{n}=a+\frac{1}{n}
\end{equation*}で与えられる\(\left( a,b\right) \)上の点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)に注目します。先に示したようにこの点列\(\left\{x_{n}\right\} \)はコーシー列である一方で\(\left( a,b\right) \)の点へ収束しません。このようなコーシー列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が存在することは離散空間\(\left( \left( a,b\right),d\right) \)が完備ではないことを意味します。
演習問題
&=&\left\vert x-y\right\vert
\end{eqnarray*}を定める関数\(d:\left( a,b\right) \times\left( a,b\right) \rightarrow \mathbb{R} \)を定義します。つまり、\(d\)は1次元のユークリッド距離関数です。\(\left( \left( a,b\right) ,d\right) \)は距離空間です。この距離空間は完備ではないことを示してください。
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ x=y\right) \\
1 & \left( if\ x\not=y\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。離散距離空間\(\left( X,d\right) \)が完備であることを示してください。
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