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広義の支配戦略

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広義の支配戦略

問題としている戦略的状況が完備状況の静学ゲームであり、それが戦略型ゲーム\(G\)として表現されているものとします。プレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)が自身の他の任意の純粋戦略を広義支配する場合には、すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall s_{-i}\in S_{-i}:u_{i}\left( s_{i},s_{-i}\right)
\geq u_{i}\left( s_{i}^{\prime },s_{-i}\right) \\
&&\left( b\right) \ \exists s_{-i}^{\prime }\in S_{-i}:u_{i}\left(
s_{i},s_{-i}^{\prime }\right) >u_{i}\left( s_{i}^{\prime },s_{-i}^{\prime
}\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つ場合には、\(s_{i}\)をプレイヤー\(i\)の広義の支配戦略(weakly dominant strategy)と呼びます。

例(広義の支配戦略)
以下の利得行列で表される戦略型ゲームについて考えます。

$$\begin{array}{|c|c|c|}\hline
1\diagdown 2 & L & R \\ \hline
U & 5,5 & 2,8 \\ \hline
D & 8,2 & 2,2 \\ \hline
\end{array}$$

表:広義の支配戦略

プレイヤー\(1\)については、\(D\)が\(U\)を広義支配します。さらに、プレイヤー\(1\)の純粋戦略は\(U,D\)の2つだけであるため、\(D\)はプレイヤー\(1\)の広義の支配戦略です。プレイヤー\(2\)については、\(R\)が\(L\)を広義支配します。さらに、プレイヤー\(2\)の純粋戦略は\(L,R\)の2つだけであるため、\(R\)はプレイヤー\(2\)の広義の支配戦略です。

 

広義の支配戦略は存在するとは限らない

プレイヤーは広義の支配戦略を持つとは限りません。

例(広義の支配戦略)
以下の利得行列で表される戦略型ゲームについて考えます。

$$\begin{array}{|c|c|c|}\hline
1\diagdown 2 & L & R \\ \hline
U & 1,-1 & -1,1 \\ \hline
D & -1,1 & 1,-1 \\ \hline
\end{array}$$

表:広義の支配戦略

プレイヤー\(1\)については、\(U\)は\(D\)を広義支配せず、逆に\(D\)は\(U\)を広義支配しないため、広義の支配戦略は存在しません。プレイヤー\(2\)については、\(L\)は\(R\)を広義支配せず、逆に\(R\)は\(L\)を広義支配しないため、広義の支配戦略は存在しません。

 

広義の支配純粋戦略は一意的

プレイヤーは広義の支配戦略を持つとは限りませんが、広義の支配戦略が存在する場合には一意的です。実際、プレイヤー\(i\)が異なる2つの広義の支配戦略\(s_{i},s_{i}^{\prime }\)を持つものと仮定すると、\(s_{i}\)は\(s_{i}^{\prime }\)を広義支配するため、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall s_{-i}\in S_{-i}:u_{i}\left( s_{i},s_{-i}\right)
\geq u_{i}\left( s_{i}^{\prime },s_{-i}\right) \\
&&\left( b\right) \ \exists s_{-i}^{\prime }\in S_{-i}:u_{i}\left(
s_{i},s_{-i}^{\prime }\right) >u_{i}\left( s_{i}^{\prime },s_{-i}^{\prime
}\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立ちますが、\(\left( b\right) \)より\(s_{i}^{\prime }\)は\(s_{i}\)を広義支配しないため、これは\(s_{i}^{\prime }\)が広義の支配戦略であることと矛盾です。

命題(広義の支配戦略の一意性)
戦略型ゲーム\(G\)において、プレイヤーが広義の支配戦略を持つ場合、それは一意的である。

 

広義の支配戦略が選ばれる理由

プレイヤー\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が広義の支配戦略であるものとします。つまり、任意の\(s_{i}^{\prime }\in S_{i}\backslash \left\{ s_{i}\right\} \)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall s_{-i}\in S_{-i}:u_{i}\left( s_{i},s_{-i}\right)
\geq u_{i}\left( s_{i}^{\prime },s_{-i}\right) \\
&&\left( b\right) \ \exists s_{-i}^{\prime }\in S_{-i}:u_{i}\left(
s_{i},s_{-i}^{\prime }\right) >u_{i}\left( s_{i}^{\prime },s_{-i}^{\prime
}\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つ状況を想定します。この場合、\(s_{i}\)とは異なる任意の純粋戦略は\(s_{i}\)によって広義支配されます。合理性と警戒心の仮定のもとでは、プレイヤーが広義に支配される戦略を選ぶ可能性は排除されるため、プレイヤー\(i\)が\(s_{i}\)とは異なる純粋戦略を選ぶ可能性は排除され、プレイヤー\(i\)は\(s_{i}\)を選ぶことになります。言い換えると、仮にプレイヤー\(i\)が広義の支配戦略\(s_{i}\)を選ばないのであれば、それは合理性かつ警戒心の仮定と矛盾します。

命題(広義の支配戦略が選ばれる理由)
戦略型ゲーム\(G\)において、プレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)が広義の支配戦略である場合、合理性と警戒心の仮定のもとでは、プレイヤー\(i\)は\(s_{i}\)を選択する。

 

混合戦略の範囲での広義の支配戦略

広義の支配戦略の概念は戦略型ゲーム\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)においても容易に拡張されます。つまり、プレイヤー\(i\in I\)のある混合戦略\(\sigma _{i}\in \Delta \left( S_{i}\right) \)が自身の他の任意の混合戦略を広義支配する場合には、すなわち、任意の\(\sigma _{i}^{\prime }\in \Delta \left( S_{i}\right)\backslash \left\{ \sigma _{i}\right\} \)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall \sigma _{-i}\in \Delta \left( S_{-i}\right)
:F_{i}\left( \sigma _{i},\sigma _{-i}\right) \geq F_{i}\left( \sigma
_{i}^{\prime },\sigma _{-i}\right) \\
&&\left( b\right) \ \exists \sigma _{-i}^{\prime }\in \Delta \left(
S_{-i}\right) :F_{i}\left( \sigma _{i},\sigma _{-i}^{\prime }\right)
>F_{i}\left( \sigma _{i}^{\prime },\sigma _{-i}^{\prime }\right)
\end{eqnarray*}がとも成り立つ場合には、\(\sigma _{i}\)をプレイヤー\(i\)の広義の支配戦略(weakly dominant strategy)と呼びます。

純粋戦略は特別な混合戦略であるため、混合戦略が広義の支配戦略であることの意味を規定する上の定義は、純粋戦略が広義の支配戦略であることの意味を内包しています。

復習になりますが、プレイヤー\(i\)の混合戦略が別の混合戦略を広義支配することを判定する際には、他のプレイヤーたちがとり得る戦略を純粋戦略に限定しても一般性は失われません。したがって、プレイヤー\(i\)の混合戦略\(\sigma_{i}\)が広義の支配戦略であることを以下のように表現することも可能です。

命題(広義の支配戦略の特徴づけ)
戦略型ゲーム\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)において、プレイヤー\(i\in I\)の混合戦略\(\sigma _{i}\in \Delta \left( S_{i}\right) \)とそれ以外の任意の混合戦略\(\sigma _{i}^{\prime }\in \Delta \left( S_{i}\right) \backslash\left\{ \sigma _{i}\right\} \)について、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall s_{-i}\in S_{-i}:F_{i}\left( \sigma
_{i},s_{-i}\right) \geq F_{i}\left( \sigma _{i}^{\prime },s_{-i}\right) \\
&&\left( b\right) \ \exists s_{-i}^{\prime }\in S_{-i}:F_{i}\left( \sigma
_{i},s_{-i}^{\prime }\right) >F_{i}\left( \sigma _{i}^{\prime
},s_{-i}^{\prime }\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つことは、\(\sigma _{i}\)がプレイヤー\(i\)の狭義の支配戦略であるための必要十分条件である。

とは言え、プレイヤー\(i\)の純粋戦略の個数が有限でも混合戦略の個数は無限になり、プレイヤー\(i\)の無限個の混合戦略について上の不等式が成り立つことを検証するのは実質的に不可能です。ただ、このような問題は解決可能です。解決に向けた1つ目の指針は、プレイヤー\(i\)の純粋戦略\(s_{i}\)が純粋戦略の範囲において広義の支配戦略であるとき、\(s_{i}\)は混合戦略の範囲においても広義の支配戦略でもあるという事実です。

命題(広義の支配戦略の特徴づけ)
戦略型ゲーム\(G\)において、プレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)が広義の支配戦略であるならば、\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)においても、\(s_{i}\)は広義の支配戦略である。
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例(広義の支配戦略)
以下の利得行列で表される戦略型ゲームについて考えます。

$$\begin{array}{|c|c|c|}\hline
1\diagdown 2 & L & R \\ \hline
U & 5,5 & 2,8 \\ \hline
D & 8,2 & 2,2 \\ \hline
\end{array}$$

表:広義の支配戦略

プレイヤー\(1\)については、\(D\)が純粋戦略の範囲において広義の支配戦略であるため、先の命題より、\(D\)は混合戦略の範囲においても広義の支配戦略でもあります。実際、\(D\)とは異なるプレイヤー\(1\)の混合戦略\(\sigma_{1}=\left( \sigma _{1}\left( U\right) ,\sigma _{1}\left( D\right) \right) \)を任意に選ぶと、\(\sigma _{1}\)は\(D\)と異なることから\(0\leq \sigma _{1}\left( D\right) <1\)が成り立つため、\begin{eqnarray*}F_{1}\left( \sigma _{1},L\right) &=&5\cdot \sigma _{1}\left( U\right)
+8\cdot \sigma _{1}\left( D\right) \\
&=&5\cdot \left( 1-\sigma _{1}\left( D\right) \right) +8\cdot \sigma
_{1}\left( D\right) \\
&=&8+3\cdot \sigma _{1}\left( U\right) \\
&<&5\quad \because \sigma _{1}\left( D\right) <1 \\
&=&u_{1}\left( D,L\right)
\end{eqnarray*}とともに、\begin{eqnarray*}
F_{1}\left( \sigma _{1},R\right) &=&2\cdot \sigma _{1}\left( U\right)
+2\cdot \sigma _{1}\left( D\right) \\
&=&2\cdot \left( 1-\sigma _{1}\left( D\right) \right) +2\cdot \sigma
_{1}\left( D\right) \\
&=&2 \\
&=&u_{1}\left( D,R\right)
\end{eqnarray*}を得ます。したがって、\(D\)は\(\sigma _{1}\)を広義支配します。\(\sigma _{1}\)は\(D\)とは異なる任意の混合戦略であるため、以上の議論より、混合戦略の範囲においても\(D\)は広義の支配戦略であることが明らかになりました。この結果は先の命題と整合的です。

プレイヤーが純粋戦略の範囲において広義の支配戦略を持つ場合、それは同時に混合戦略の範囲においても広義の支配戦略であることが明らかになりました。広義の支配戦略であるような混合戦略が存在する場合、それは一意的であるため、広義の支配戦略であるような純粋戦略は広義の支配戦略であるような唯一の混合戦略でもあります。では、プレイヤーが純粋戦略の範囲において広義の支配戦略を持たない場合、広義の支配戦略であるような混合戦略をどのように見つければよいのでしょうか。実は、プレイヤーが純粋戦略の範囲において広義の支配戦略を持たない場合、混合戦略の範囲においても広義の支配戦略を持たないことが保証されます。

命題(広義の支配戦略の存在)
戦略型ゲーム\(G\)においてプレイヤー\(i\in I\)の狭義の支配戦略が存在しない場合、\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)においてプレイヤー\(i\)の広義の支配戦略は存在しない。
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例(広義の支配戦略の存在)
以下の利得行列で表される戦略型ゲームについて考えます。

$$\begin{array}{|c|c|c|}\hline
1\diagdown 2 & L & R \\ \hline
U & 1,-1 & -1,1 \\ \hline
D & -1,1 & 1,-1 \\ \hline
\end{array}$$

表:広義の支配戦略

プレイヤー\(1\)は純粋戦略の範囲で広義の支配戦略を持たないため、上の命題より、混合戦略の範囲においても広義の支配戦略を持たないはずです。実際、\(U,D\)とは異なるプレイヤー\(1\)の混合戦略\(\sigma _{1}=\left( \sigma _{1}\left( U\right) ,\sigma_{1}\left( D\right) \right) \)を任意に選ぶと、\(\sigma _{1}\)は\(U,D\)と異なることから\(0<\sigma _{1}\left( D\right) <1\)が成り立つため、\begin{eqnarray*}F_{1}\left( \sigma _{1},L\right) &=&1\cdot \sigma _{1}\left( U\right)
-1\cdot \sigma _{1}\left( D\right) \\
&=&1\cdot \left( 1-\sigma _{1}\left( D\right) \right) -1\cdot \sigma
_{1}\left( D\right) \\
&=&1-2\cdot \sigma _{1}\left( D\right) \\
&<&1\quad \because 0<\sigma _{1}\left( D\right) <1 \\
&=&u_{1}\left( U,L\right)
\end{eqnarray*}を得ます。つまり、\(\sigma _{1}\)は\(U\)を広義支配しません。\(\sigma _{1}\)は\(U,D\)とは異なる任意の混合戦略であるため、以上の議論より、\(\sigma _{1}\)は広義支配戦略ではありません。この結果は先の命題と整合的です。

プレイヤーが純粋戦略の範囲で広義の支配戦略を持たない場合、混合戦略の範囲でも広義の支配戦略を持たないことが明らかになりました。対偶より、プレイヤーが混合戦略の範囲で広義の支配戦略を持つとき、純粋戦略の範囲でも広義の支配戦略を持ちます。加えて、先に示したように、広義の支配戦略であるような純粋戦略は広義の支配戦略であるような唯一の混合戦略です。したがって以下が成り立つことが明らかになりました。

命題(広義の支配戦略の特徴づけ)
戦略型ゲーム\(G\)においてプレイヤー\(i\in I\)の広義の支配戦略\(s_{i}\in S_{i}\)が存在することと、\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)においてプレイヤー\(i\)の広義の支配戦略\(\sigma _{i}\in \Delta \left( S_{i}\right) \)が存在することは必要十分であるとともに、\(s_{i}=\sigma _{i}\)が成立する。

以上の命題より、広義の支配戦略について考える際には、すべてのプレイヤーが混合戦略を採用することを認める場合においても、考察対象を純粋戦略に限定しても一般性は失われないことが明らかになりました。つまり、戦略型ゲーム\(G\)における広義の支配戦略と、混合拡張\(G^{\ast }\)における広義の支配戦略は概念として一致するということです。

 

演習問題

問題(支配戦略)
戦略型ゲーム\(G\)においてプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)が狭義の支配戦略ならば、\(s_{i}\)は広義の支配戦略でもあることを示してください。その一方で、その逆は成立するとは限らないことを示してください。
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次回は支配戦略均衡について解説します。

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