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ナッシュ均衡と社会的慣習

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社会的慣習

問題としている戦略的状況が完備情報の静学ゲームであり、それが戦略型ゲーム\begin{equation*}
G=(I,\left\{ S_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ u_{i}\right\} _{i\in I})
\end{equation*}として表現されているものとします。戦略型ゲーム\(G\)ではプレイヤー集合\(I\)に属するプレイヤーたちが同時に一度だけ意思決定を行う状況を想定していますが、現実の社会では多くの場合、特定の戦略型ゲーム\(G\)として表現される戦略的状況がプレイヤー集合\(I\)だけを変えて何度も繰り返しプレーされています。そのような状況をあえて整理するのであれば、社会の母集団からプレイヤーたちを毎回ランダムに選び、選ばれたプレイヤーたちをプレイヤー集合\(I\)とする形で同一の戦略型ゲーム\(G\)が何度も繰り返しプレーされているということです。

プレイヤーだけをランダムに変えて同一の戦略型ゲーム\(G\)が繰り返しプレーされる状況を継続的に観察していると、時間の経過とともに、プレイヤーが変わっても彼らが特定の純粋戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)をプレーするように状況が安定することがあります。初期時点においてプレイヤーたちが選択する純粋戦略はバラバラであり、それは\(s_{I}\)と一致するとは限りません。しかし、時間の経過とともに、プレイヤーは自分より前に同一のゲーム\(G\)をプレーしたプレイヤーによる選択と結果を観察し、そこから学びを得ながら自分の選択を決定します。そのような社会規模での学びの蓄積の結果として、後世のプレイヤーたちが安定的に\(s_{I}\)をプレーするようになったのであれば、この\(s_{I}\)は社会的慣習(social conventions)になったと言えます。では、純粋戦略の組\(s_{I}\)が社会的慣習になるためには、それはどのような性質を満たしている必要があるのでしょうか。

 

社会的な慣習はナッシュ均衡

問題としている戦略的状況が完備情報の静学ゲームであり、それが戦略型ゲーム\(G\)として表現されているものとします。プレイヤーだけがランダムに変わる形で同一のゲーム\(G\)が繰り返しプレーしたところ、ある時点以降から、ある純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }\in S_{I}\)が安定的にプレーされるようになったとします。つまり、\(s_{I}^{\ast }\)が社会的慣習になったということです。ただし、問題としている戦略的状況は非協力ゲームであるため、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は慣習\(s_{I}^{\ast }\)を構成する純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\in S_{i}\)をプレーすることを強制されません。つまり、仮にプレイヤー\(i\)が\(s_{i}^{\ast }\)とは異なる戦略を選んだ場合においても、ゲーム\(G\)に記述されていないような罰則を課されたり報酬を得られるわけではないということです。それにも関わらず、ゲーム\(G\)において\(s_{I}^{\ast }\)をプレーすることが慣習になっているのであれば、この慣習\(s_{I}^{\ast }\)はナッシュ均衡でなければなりません。なぜなら、仮に慣習\(s_{I}^{\ast }\)がナッシュ均衡ではないものと仮定すると、ナッシュ均衡の定義より、\begin{equation*}\exists i\in I,\ \exists s_{i}\in S_{i}:u_{i}\left( s_{i}^{\ast
},s_{-i}^{\ast }\right) <u_{i}\left( s_{i},s_{-i}^{\ast }\right)
\end{equation*}が成り立つため、少なくとも1人のプレイヤー\(i\)は慣習\(s_{i}^{\ast }\)とは異なる戦略\(s_{i}\)を選択することにより、より多くの利得が得られるはずだからです。それにも関わらず慣習\(s_{i}^{\ast }\)にしたがうことは、プレイヤーの合理性の仮定と矛盾します。したがって背理法より、慣習\(s_{I}^{\ast }\)はナッシュ均衡でなければなりません。社会的な慣習が形成された場合、それはナッシュ均衡でなければならないことが明らかになりました。

命題(社会的慣習はナッシュ均衡)
完備情報の静学ゲーム\(G\)において、純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }\in S_{I}\)が社会的慣習であるものとする。合理性の仮定を認める場合、この慣習\(s_{I}^{\ast }\)はゲーム\(G\)における広義の純粋戦略ナッシュ均衡である。

上の命題の対偶より、ナッシュ均衡ではない純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast}\)は社会的慣習になり得ません。実際、\(s_{I}^{\ast}\)がナッシュ均衡ではない場合には、\begin{equation*}\exists i\in I,\ \exists s_{i}\in S_{i}:u_{i}\left( s_{i}^{\ast
},s_{-i}^{\ast }\right) <u_{i}\left( s_{i},s_{-i}^{\ast }\right)
\end{equation*}が成り立つため、少なくとも1人のプレイヤー\(i\)は\(s_{i}^{\ast }\)とは異なる戦略\(s_{i}\)を選択することにより、より多くの利得を得られるため、プレイヤーが合理的である限りにおいて、プレイヤー\(i\)は実際に\(s_{i}\)を選択し、その結果、\(s_{I}^{\ast }\)は安定的にプレーされないことになります。

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