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完備情報の静学ゲーム

対称ゲームに対称ナッシュ均衡が存在するための条件

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対称ゲームと対称均衡

問題としている戦略的状況が完備情報の静学ゲームであるとともに、それが戦略型ゲーム\begin{equation*}
G=\left( I,\left\{ S_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ u_{i}\right\} _{i\in
I}\right)
\end{equation*}として記述されているものとします。ただし、\(I\)はプレイヤー集合、\(S_{i}\)はプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合、\(u_{i}:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)はプレイヤー\(i\)の利得関数です。

戦略型ゲーム\(G\)が以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i,j\in I:S_{i}=S_{j} \\
&&\left( b\right) \ \forall i,j\in I,\ \forall s_{i}\in S_{i},\ \forall
s_{j}\in S_{j},\ \forall s_{-i}\in S_{-i},\ \forall s_{-j}\in S_{-j}:\left[
s_{i}=s_{j}\wedge s_{-i}=s_{-j}\Rightarrow u_{i}\left( s_{i},s_{-i}\right)
=u_{j}\left( s_{j},s_{-j}\right) \right] \end{eqnarray*}を満たす場合には、\(G\)を対称ゲーム(symmetric game)と呼びます。

条件\(\left( a\right) \)は、すべてのプレイヤーが同一の純粋戦略に直面していることを意味します。したがって、全員の純粋戦略集合を同一の集合\begin{equation*}S
\end{equation*}を用いて表現しても一般性は失われません。

条件\(\left( b\right) \)は、純粋戦略からなる組\(s_{I}\)と、その組\(s_{I}\)に含まれる純粋戦略\(s\)を任意に選んだとき、\(s_{I}\)においてプレイヤー\(i\)が\(s\)を選んでいる状況において\(i\)が得る利得と、\(s_{I}\)においてプレイヤー\(j\)が\(s\)を選んでいる状況において\(j\)が得る利得は必ず一致することを意味します。つまり、異なるプレイヤーが同一の条件に直面した場合、その条件のもとで彼らが得る利得に差は生じないということです。したがって、全員の利得関数を同一の関数\begin{equation*}u:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を用いて表現しても一般性は失われません。

例(対称ゲーム)
戦略ゲーム\(G\)を構成するプレイヤー集合が、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であり、純粋戦略集合が、\begin{equation*}
S_{1}=S_{2}=\left\{ a,b\right\}
\end{equation*}であるものとします。それぞれのプレイヤーの利得関数を、\begin{eqnarray*}
u_{1}\left( s_{1},s_{2}\right) &:&\left\{ a,b\right\} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \\
u_{2}\left( s_{1},s_{2}\right) &:&\left\{ a,b\right\} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \end{eqnarray*}でそれぞれ表記します。以下の条件\begin{eqnarray*}
u_{1}\left( a,a\right) &=&u_{2}\left( a,a\right) \\
u_{1}\left( b,b\right) &=&u_{2}\left( b,b\right) \\
u_{1}\left( a,b\right) &=&u_{2}\left( b,a\right) \\
u_{1}\left( b,a\right) &=&u_{2}\left( a,b\right)
\end{eqnarray*}が満たされる場合、\(G\)は対称ゲームです。そこで、2人が共有する利得関数を\(u:\left\{ a,b\right\}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記するのであれば、以下の関係\begin{eqnarray*}u\left( a,a\right) &=&u_{1}\left( a,a\right) =u_{2}\left( a,a\right) \\
u\left( b,b\right) &=&u_{1}\left( b,b\right) =u_{2}\left( b,b\right) \\
u\left( a,b\right) &=&u_{1}\left( a,b\right) =u_{2}\left( b,a\right) \\
u\left( b,a\right) &=&u_{1}\left( b,a\right) =u_{2}\left( a,b\right)
\end{eqnarray*}が成り立ちます。

例(対称ゲーム)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であり、プレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合が、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\mathbb{R} _{+}
\end{equation*}であり、プレイヤー\(i\in I\)の利得関数\(u_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( q_{1},q_{2}\right)\in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{1} \\
u_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{2}
\end{eqnarray*}を値として定めるものとします。ただし、\(a,b,c>0\)かつ\(a>c\)です。このようなゲームをクールノー競争と呼びます。このゲーム\(G\)は対称ゲームです。そこで、2人が共有する利得関数を\(u:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記するとともに、自身の純粋戦略を\(q\in \mathbb{R} _{+}\)で、相手の純粋戦略を\(q^{\prime }\in \mathbb{R} _{+}\)で表記するのであれば、任意の\(\left( q,q^{\prime }\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}u\left( q,q^{\prime }\right) =\left[ a-b\left( q+q^{\prime }\right) -c\right] \cdot q
\end{equation*}が成り立ちます。

戦略型ゲーム\(G\)において、純粋戦略の組\(s_{I}=\left( s_{i}\right) _{i\in I}\in S_{I}\)のもとですべてのプレイヤーが等しい利得を得る場合には、すなわち、\begin{equation*}\forall i,j\in I:u_{i}\left( s_{I}\right) =u_{j}\left( s_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、このような組\(s_{I}\)を対称的な戦略の組(symmetric profile)と呼びます。

戦略型ゲーム\(G\)において、純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast}=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\in S_{I}\)が純粋戦略ナッシュ均衡かつ対称的な戦略の組である場合には、このような組\(s_{I}^{\ast }\)を対称均衡(symmetric equilibrium)と呼びます。

以降では、対称ゲームに対称均衡が存在するための条件を特定します。

 

対称ゲームに対称均衡が存在するための条件

戦略型ゲーム\(G\)が対称ゲームであるものとします。その上で、\(G\)が以下の諸条件を満たす状況を想定します。

1つ目の条件は、プレイヤー集合\(I\)が有限集合であるということです。

2つ目の条件は、全員が共有する純粋戦略\(S\)がユークリッド空間の部分集合であるということです。つまり、\begin{equation*}S\subset \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}が成り立つ状況を想定します。

3つ目の条件は、全員が共有する純粋戦略\(S\)が非空であるということです。つまり、\begin{equation*}S\not=\phi
\end{equation*}が成り立つ状況を想定します。

4つ目の条件は、全員が共有する純粋戦略集合\(S\)がユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であるということです。\(S\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であることは様々な形で表現可能ですが、\(S\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)における有界な閉集合であることは\(S\)がコンパクト集合であるための必要十分条件です。

5つ目の条件は、全員が共有する純粋戦略\(S\)が凸集合であるということです。\(S\)が凸集合であるとは、\(S\)に属する2つの点を任意に選んだとき、それらの点を結んで得られる線分上の任意の点もまた\(S\)の点であることを意味します。より正確には、\begin{equation*}\forall s,s^{\prime }\in S,\ \forall \lambda \in \left[ 0,1\right] :\lambda
s+\left( 1-\lambda \right) s^{\prime }\in S
\end{equation*}が成り立つということです。

6つ目の条件は、全員が共有する利得関数\(u:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)が連続関数であるということです。

7つ目の条件は、全員が共有する利得関数\(u:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)が自身の純粋戦略\(s_{i}\in S\)に関する準凹関数であるということです。本来、効用関数\(u\)は全員の純粋戦略からなる組\(s_{I}\in S_{I}\)を変数として持つ関数\begin{equation*}u\left( \cdot ,\cdot \right) :S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}ですが、他のプレイヤーたちの純粋戦略\(s_{-i}\in S_{-i}\)を任意に選んだ上で固定すれば、自身の純粋戦略\(s_{i}\)だけを変数として持つ関数\begin{equation*}u\left( \cdot ,s_{-i}\right) :S\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が得られます。そこで、\(s_{-i}\)を任意に選んだ上で固定した場合、\(u\left( \cdot ,s_{-i}\right) \)が変数\(s_{i}\)に関する準凹関数になることを要求します。つまり、以下の条件\begin{equation*}\forall s_{-i}\in S_{-i},\ \forall s_{i},s_{i}^{\prime }\in S,\ \forall
\lambda \in \left[ 0,1\right] :\min \left\{ u\left( s_{i},s_{-i}\right)
,u\left( s_{i}^{\prime },s_{-i}\right) \right\} \leq u\left( \lambda
s_{i}+\left( 1-\lambda \right) s_{i}^{\prime },s_{-i}\right)
\end{equation*}が成り立つ状況を想定します。

対称ゲーム\(G\)が以上の諸条件を満たす場合、純粋戦略の範囲で対称均衡が存在することを保証できます。ナッシュの定理と同様、証明では角谷の不動点定理を利用します。

命題(対称ゲームに対称均衡が存在するための条件)
戦略型ゲーム\(G\)は対称ゲームであるものとし、これを、\begin{equation*}G=\left\{ I,S,u\right\}
\end{equation*}で表記する。ただし、\(S\)はすべてのプレイヤーが共有する純粋戦略集合であり、\(u:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)はすべてのプレイヤーが共有する利得関数である。プレイヤー集合\(I\)は有限集合であり、純粋戦略集合\(S\)はユークリッド空間上の非空な凸のコンパクト集合であるものとする。加えて、利得関数\(u:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)は連続であるとともに、任意の\(s_{-i}\in S_{-i}\)に対して、関数\(u\left( \cdot ,s_{-i}\right):S\rightarrow \mathbb{R} \)は変数\(s_{i}\in S\)に関する準凹関数であるものとする。このとき、ゲーム\(G\)には対称的な広義の純粋戦略ナッシュ均衡が存在する。
証明

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例(対称ゲームの対称均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であり、プレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合が、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\mathbb{R} _{+}
\end{equation*}であり、プレイヤー\(i\in I\)の利得関数\(u_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( q_{1},q_{2}\right)\in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{1} \\
u_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{2}
\end{eqnarray*}を値として定めるものとします。ただし、\(a,b,c>0\)かつ\(a>c\)です。これは対称ゲームです。そこで、2人が共有する利得関数を\(u:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記するとともに、自身の純粋戦略を\(q\in \mathbb{R} _{+}\)で、相手の純粋戦略を\(q^{\prime }\in \mathbb{R} _{+}\)で表記するのであれば、任意の\(\left( q,q^{\prime }\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}u\left( q,q^{\prime }\right) =\left[ a-b\left( q+q^{\prime }\right) -c\right] \cdot q
\end{equation*}が成り立ちます。純粋戦略集合\(\mathbb{R} _{+}\)はユークリッド空間\(\mathbb{R} \)上の非空な凸集合である一方、有界ではないためコンパクト集合ではありません。ただ、相手の戦略\(q^{\prime }\)によらず自分は\(q=0\)を選べば利得\(u\left( 0,q^{\prime}\right) =0\)を確保できる一方で、大きすぎる\(q\)を選択すると\(u\left( 0,q^{\prime }\right) <0\)となってしまうため、純粋戦略集合を、十分大きい値\(Q\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}S=\left[ 0,Q\right] \subset \mathbb{R} \end{equation*}と表現しても一般性は失われません。すると純粋戦略集合は有界な閉区間になるためコンパクト集合になります。利得関数\(u\)は多変数の多項式関数であるため連続です。利得関数\(u\)において\(q^{\prime }\)を固定すれば変数\(q\)に関する1変数関数\begin{equation*}u\left( \cdot ,q^{\prime }\right) :\left[ 0,Q\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が得られますが、これは1変数\(q\)の多項式関数であるため\(C^{1}\)級です。導関数は、\begin{eqnarray*}\frac{du\left( \cdot ,q^{\prime }\right) }{dq} &=&\frac{\partial u\left(
q,q^{\prime }\right) }{\partial q} \\
&=&a-2bq-bq^{\prime }-c
\end{eqnarray*}であり、2階導関数は、\begin{eqnarray*}
\frac{d^{2}u\left( \cdot ,q^{\prime }\right) }{dq^{2}} &=&-2b \\
&<&0\quad \because b>0
\end{eqnarray*}を満たすため、\(u\left( \cdot,q^{\prime }\right) \)は凹関数です。凹関数は準凹関数であるため\(u\left( \cdot ,q^{\prime }\right) \)は準凹関数です。以上より、\(G\)は先の命題が要求する条件を満たすことが明らかになりました。したがって先の命題より、\(G\)には対称的な広義の純粋戦略ナッシュ均衡が存在します。実際、\begin{equation*}\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) =\left( \frac{a-c}{3b},\frac{a-c}{3b}\right)
\end{equation*}が均衡になります(演習問題)。

 

対称均衡に関するナッシュの定理

先の命題は対称的な戦略型ゲームに対称的な純粋戦略ナッシュ均衡が存在するための条件を与えていますが、命題を読み替えることにより、先の命題から対称均衡に関するナッシュの定理を導くことができます。つまり、有限な対称ゲームの混合拡張には対称的な混合戦略ナッシュ均衡が存在することを先の命題から導くことができます。具体的には以下の通りです。

有限かつ対称な戦略型ゲーム\(G\)が与えられた状況において、その混合拡張\(G^{\ast }\)について考えます。ゲームの有限性よりプレイヤー集合\(I\)は有限集合です。また、ゲームの対称性よりすべてのプレイヤーは同一の純粋戦略集合\(S\)を共有するとともに、ゲームの有限性より\(S\)は有限集合であるため、混合戦略集合\(\Delta \left(S\right) \)はユークリッド空間上の非空な凸のコンパクト集合になります。また、ゲームの対称性よりすべてのプレイヤーは同一の利得関数\(u:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)を共有するため、全員は同一の期待利得関数\(F:\Delta \left( S_{I}\right) \rightarrow \mathbb{R} \)を共有します。期待利得関数\(F\)は連続であるとともに、任意の\(\sigma _{-i}\in \Delta \left( S_{-i}\right) \)に対して関数\(F\left( \cdot ,\sigma _{-i}\right) :\Delta \left( S\right)\rightarrow \mathbb{R} \)は準凹関数になります。したがって、先の命題において\(S\)を\(\Delta\left( S\right) \)に、\(u\)を\(F\)に置き換えた上で同様の議論を行えば、\(G^{\ast }\)に対称的な広義の純粋戦略ナッシュ均衡が存在することが保証できますが、これは対称的な広義の混合戦略ナッシュ均衡に他なりません。以上より、対称均衡に関するナッシュの定理が導かれました。

命題(対称均衡に関するナッシュの定理)
有限かつ対称的な戦略型ゲーム\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)には少なくとも1つの対称的な広義の混合戦略ナッシュ均衡が存在する。

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