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集合の濃度

集合の濃度の積(乗法)

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濃度の乗法の定義

2つの自然数\(m,n\in \mathbb{N} \)が与えられた状況を想定します。有限集合の濃度と要素の個数は一致するため、濃度が\(m\)であるような有限集合を、\begin{equation*}A=\left\{ a_{1},\cdots ,a_{m}\right\}
\end{equation*}で表記し、濃度が\(n\)であるような有限集合を、\begin{equation*}B=\left\{ b_{1},\cdots ,b_{n}\right\}
\end{equation*}で表記します。つまり、\begin{eqnarray*}
m &=&\left\vert A\right\vert \\
n &=&\left\vert B\right\vert
\end{eqnarray*}が成り立つということです。数え上げに関する積の法則より、直積集合\begin{eqnarray*}
A\times B &=&\left\{ \left( a,b\right) \ |\ a\in A\wedge b\in B\right\} \\
&=&\left\{ \left( a_{1},b_{1}\right) ,\cdots ,\left( a_{m},b_{n}\right)
\right\}
\end{eqnarray*}には\(m\cdot n\)個の要素が存在するため、以下の関係\begin{equation*}m\cdot n=\left\vert A\times B\right\vert
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、左辺の\(\cdot \)は自然数を対象とする通常の加法です。

結論をまとめると、有限濃度\(m,n\in \mathbb{N} \)が与えられた場合には、それらに対して以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ m=\left\vert A\right\vert \\
&&\left( b\right) \ n=\left\vert B\right\vert
\end{eqnarray*}を満たす集合\(A,B\)に注目した場合、濃度の積\(m\cdot n\)は直積集合\(A\times B\)の濃度と一致すること、すなわち、\begin{equation*}m\cdot n=\left\vert A\times B\right\vert
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。

以上の議論を踏まえた上で、有限濃度とは限らない一般の濃度\(m,n\)についても、それらの積を同様に定義します。つまり、濃度\(m,n\)に対して以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ m=\left\vert A\right\vert \\
&&\left( b\right) \ n=\left\vert B\right\vert
\end{eqnarray*}を満たす集合\(A,B\)に注目した上で、濃度の積\(m\cdot n\)を直積集合\(A\times B\)の濃度として定義するということです。つまり、\begin{equation*}m\cdot n=\left\vert A\times B\right\vert
\end{equation*}を満たすものとして濃度の乗法\(\cdot \)を定義します。ここでの\(m,n\)は有限濃度であるとは限らず、したがって自然数であるとは限りません。また、左辺の\(\cdot \)は自然数を対象とする乗法ではなく、新たに定義された濃度の乗法を表す演算子であることに注意してください。

以上の定義が有効であることを担保するためには、濃度\(m,n\)に対して先の条件\(\left( a\right) ,\left(b\right) \)を満たす集合\(A,B\)がそれぞれ複数存在する場合、その中からどのような集合\(A,B\)を選んだ場合においても、直積集合の濃度\(\left\vert A\times B\right\vert \)が一意的に定まることを確認する必要があります。

命題(濃度の乗法の定義の妥当性)
濃度\(m,n\)が任意に与えられたとき、それに対して以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a_{1}\right) \ m=\left\vert A\right\vert \\
&&\left( b_{1}\right) \ n=\left\vert B\right\vert
\end{eqnarray*}を満たす集合\(A,B\)と、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a_{2}\right) \ m=\left\vert A^{\prime }\right\vert \\
&&\left( b_{2}\right) \ n=\left\vert B^{\prime }\right\vert
\end{eqnarray*}を満たす集合\(A^{\prime },B^{\prime }\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}\left\vert A\times B\right\vert =\left\vert A^{\prime }\times B^{\prime
}\right\vert
\end{equation*}が成り立つ。

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濃度の積の定義および以上の2つの命題より、2つの濃度\(m,n\)が任意に与えられたとき、それらの積\begin{equation*}m\cdot n
\end{equation*}が必ず一意的に定まることが明らかになりました。つまり、濃度\(m,n\)が与えられたとき、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ m=\left\vert A\right\vert \\
&&\left( b\right) \ n=\left\vert B\right\vert
\end{eqnarray*}を満たす集合\(A,B\)を適当に選んだ上で、それらの直積集合\(A\times B\)の濃度をとることにより、濃度の積を、\begin{equation*}m\cdot n=\left\vert A\times B\right\vert
\end{equation*}として特定できます。

以上を踏まえた上で、濃度を対象とする演算子\(\cdot \)を濃度の乗法(multiplication)と呼び、濃度\(m,n\)に対して乗法\(\cdot \)を適用することにより得られる濃度\(m\cdot n\)を\(m\)と\(n\)の(product)と呼びます。多くの場合、濃度の乗法を表す記号\(\cdot \)は省略されます。つまり、濃度\(m,n\)の積を、\begin{equation*}mn
\end{equation*}と表記するということです。以降ではこの慣例にしたがいます。

例(濃度の積)
有限濃度\(m,n\in \mathbb{N} \)が与えられたとき、以下の集合\begin{eqnarray*}A &=&\left\{ 1,\cdots ,m\right\} \\
B &=&\left\{ 1,\cdots ,n\right\}
\end{eqnarray*}に注目すると、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ m=\left\vert A\right\vert \\
&&\left( b\right) \ n=\left\vert B\right\vert
\end{eqnarray*}が成り立ちます。すると、\begin{eqnarray*}
mn &=&\left\vert A\times B\right\vert \quad \because \text{濃度の積の定義} \\
&=&\left\vert \left\{ 1,\cdots ,m\right\} \times \left\{ 1,\cdots ,n\right\}
\right\vert \\
&=&\left\vert \left\{ \left( 1,1\right) ,\cdots ,\left( m,n\right) \right\}
\right\vert \\
&=&mn
\end{eqnarray*}が成り立ちます。

例(濃度の積)
有限濃度\(1\in \mathbb{N} \)と可算濃度\(\aleph _{0}\)が与えられたとき、集合\(\left\{ 0\right\} ,\mathbb{N} \)に注目すると、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ 1=\left\vert \left\{ 0\right\} \right\vert \\
&&\left( b\right) \ \aleph _{0}=\left\vert \mathbb{N} \right\vert
\end{eqnarray*}が成り立ちます。すると、\begin{eqnarray*}
1\aleph _{0} &=&\left\vert \left\{ 0\right\} \cup \mathbb{N} \right\vert \quad \because \text{濃度の積の定義} \\
&=&\left\vert \left\{ \left( 0,n\right) \ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \right\vert \\
&=&\aleph _{0}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
1\aleph _{0}=\aleph _{0}
\end{equation*}が成り立ちます。

例(濃度の積)
可算濃度\(\aleph _{0}\)が与えられたとき、集合\(\mathbb{N} \)に注目すると、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \aleph _{0}=\left\vert \mathbb{N} \right\vert \\
&&\left( b\right) \ \aleph _{0}=\left\vert \mathbb{N} \right\vert
\end{eqnarray*}が成り立ちます。すると、\begin{eqnarray*}
\aleph _{0}\aleph _{0} &=&\left\vert \mathbb{N} \times \mathbb{N} \right\vert \quad \because \text{濃度の積の定義} \\
&=&\left\vert \mathbb{N} \right\vert \quad \because \left\vert \mathbb{N} \times \mathbb{N} \right\vert =\left\vert \mathbb{N} \right\vert \\
&=&\aleph _{0}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\aleph _{0}\aleph _{0}=\aleph _{0}
\end{equation*}が成り立ちます。

 

濃度の乗法の性質

濃度の乗法は以下の性質\begin{equation*}
\forall m,n,k:\left( mn\right) k=m\left( nk\right)
\end{equation*}を満たします。これを濃度の乗法に関する結合律(associative law)と呼びます。括弧\(\left( \ \right) \)は濃度の乗法\(\cdot \)を適用する順番を表す記号です。つまり、左辺\(\left( mn\right) k\)は、はじめに\(m\)と\(n\)を掛けた上で、得られた結果と\(k\)をさらに掛けることにより得られる濃度です。右辺の\(m\left( nk\right) \)は、はじめに\(n\)と\(k\)を掛けた上で、\(m\)と先の結果を掛けることにより得られる濃度です。結合律はこれらの濃度が等しいことを保証します。つまり、3つの濃度\(m,n,k\)に対して乗法を適用する際には、隣り合うどの2つを先に掛けても得られる結果は変わらないということです。

命題(濃度の乗法の結合律)
濃度の乗法\(\cdot \)は、\begin{equation*}\forall m,n,k:\left( mn\right) k=m\left( nk\right)
\end{equation*}を満たす。

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濃度の乗法は以下の性質\begin{equation*}
\exists 1,\ \forall m:m1=m
\end{equation*}を満たします。つまり、任意の濃度\(m\)に対して有限濃度である\(1\)を掛けてもその結果は\(m\)のままであるということです。

命題(濃度の乗法単位元の存在)
濃度の乗法\(\cdot \)は、\begin{equation*}\exists 1,\ \forall m:m1=m
\end{equation*}を満たす。

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濃度の乗法は以下の性質\begin{equation*}
\exists 0,\ \forall m:m0=0
\end{equation*}を満たします。つまり、任意の濃度\(m\)に対して有限濃度であるゼロ\(0\)を掛けるとその結果は必ず\(0\)になります。

命題(濃度とゼロの積)

濃度の乗法\(\cdot \)は、\begin{equation*}\exists 0,\ \forall m:m0=0
\end{equation*}を満たす。

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濃度の乗法は以下の性質\begin{equation*}
\forall m,n:\left( mn=0\Leftrightarrow m=0\vee n=0\right)
\end{equation*}を満たします。つまり、濃度の積がゼロであることと、少なくとも一方の濃度がゼロであることは必要十分です。

命題(濃度の積がゼロであるための必要十分条件)
濃度の乗法\(\cdot \)は、\begin{equation*}\forall m,n:\left( mn=0\Leftrightarrow m=0\vee n=0\right)
\end{equation*}を満たす。

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濃度の乗法は以下の性質\begin{equation*}
\forall m,n:mn=nm
\end{equation*}を満たします。これを濃度の乗法に関する交換律(commutative law)と呼びます。本来、2つの濃度\(m,n\)を成分とする順序対\(\left( m,n\right) ,\left( n,m\right) \)は異なるものとして区別されるため、\(\left(m,n\right) \)に乗法を適用することにより得られる濃度\(mn\)と、\(\left( n,m\right) \)に乗法を適用することにより得られる濃度\(nm\)もまた区別されるべきですが、交換律はこれらが等しい濃度であることを保証します。

命題(濃度の乗法の交換律)
濃度の乗法\(\cdot \)は、\begin{equation*}\forall m,n:mn=nm
\end{equation*}を満たす。

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濃度の大小関係と濃度の乗法の間には以下の関係\begin{equation*}
\forall m,m^{\prime },n,n^{\prime }:\left( m\leq m^{\prime }\wedge n\leq
n^{\prime }\Rightarrow mn\leq m^{\prime }n^{\prime }\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、濃度どうしの大小関係は乗法のもとで保存されます。

命題(濃度の大小関係と乗法の関係)
濃度の乗法\(\cdot \)は、\begin{equation*}\forall m,m^{\prime },n,n^{\prime }:\left( m\leq m^{\prime }\wedge n\leq
n^{\prime }\Rightarrow mn\leq m^{\prime }n^{\prime }\right)
\end{equation*}を満たす。

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集合の濃度の積

2つの集合\(A,B\)を任意に選びます。これらの集合の濃度を、\begin{eqnarray}\left\vert A\right\vert &=&m \quad \cdots (1) \\
\left\vert B\right\vert &=&n \quad \cdots (2)
\end{eqnarray}とそれぞれ表記すると、濃度の積の定義より、\begin{equation*}
mn=\left\vert A\times B\right\vert
\end{equation*}となります。これと\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)より、\begin{equation*}\left\vert A\right\vert \left\vert B\right\vert =\left\vert A\times
B\right\vert
\end{equation*}を得ます。以上の議論より、2つの集合\(A,B\)の濃度の積は、直積集合\(A\times B\)の濃度と一致することが明らかになりました。

命題(集合の濃度の積)

2つの集合\(A,B\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\left\vert A\right\vert \left\vert B\right\vert =\left\vert A\times
B\right\vert
\end{equation*}が成り立つ。

 

演習問題

問題(有限濃度と可算濃度の積)
有限濃度\(n\in \mathbb{N} \)を任意に選んだとき、これと可算濃度\(\aleph _{0}\)の間には以下の関係\begin{equation*}n\aleph _{0}=\aleph _{0}
\end{equation*}が成り立つことを示してください。

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問題(濃度の乗法に関する簡約法則)
\(\mathbb{R} \)上の乗法\(\cdot \)については、任意の実数\(x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)および\(y,z\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}xy=xz\Rightarrow y=z
\end{equation*}が成り立ちます(乗法の簡約法則)。濃度の乗法\(\cdot \)についても同様の主張が成り立つでしょうか。つまり、濃度\(m\not=0\)および\(n,k\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}mn=mk\Rightarrow n=k
\end{equation*}は常に成り立つでしょうか。議論してください。

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