積の法則
標本空間\(\Omega \)に属するすべての標本点が同じ程度の確かさで起こるものと仮定する場合、先験的確率の考えのもとでは、それぞれの事象\(A\subset \Omega \)が起こる確率は、\begin{equation*}\frac{\left\vert A\right\vert }{\left\vert \Omega \right\vert }
\end{equation*}と定義されます。つまり、標本空間\(\Omega \)に属する標本点の個数\(\left\vert \Omega \right\vert \)と事象\(A\)に属する標本点の個数\(\left\vert A\right\vert \)をそれぞれ数え上げた上で、それらの比をとることにより事象\(A\)が起こる確率が得られるということです。だた、標本点の個数を特定する際に、標本点を1つずつ具体的に列挙していては数え落としをしたり同じものを二重に数えてしまう恐れがあるため、標本点を系統的に数える技術が必要です。以下では積の法則(multiplication principle)と呼ばれる数え上げの法則について解説します。標本空間や事象はいずれも集合として定義されるため、そこに含まれる標本点の個数を積の法則を用いて系統的に数え上げることにより、事象の先験的確率を正確に求めることができます。
2つの選択肢のグループから1つずつ、合計2つの選択肢を選ぶ状況を想定します。ただし、一方のグループからどの選択肢を選んだ場合においても、他方のグループから選択可能な選択肢の数は一定であるものとします。逆についても同様です。つまり、2つのグループから具体的にどの選択肢を1つずつ選ぶ場合においても、一方のグループに含まれる選択肢の数\(s_{1}\)と他方のグループに含まれる選択肢の数\(s_{2}\)はそれぞれ一定であるということです。この場合、2つのグループから1つずつ、合計2つの選択肢を選ぶ場合の選び方の数は、\begin{equation*}s_{1}\times s_{2}
\end{equation*}となります。以上が積の法則です。
つまり、2つのグループから1つずつ選択する場合の選び方の数を求める際には、それぞれのグループに含まれる選択肢の個数を数え、さらにそれらの積をとればよいということです。ただし、繰り返しになりますが、具体的な選び方に関わらず、それぞれのグループに含まれる選択肢の個数は一定であるという前提が要求されます。
2つのグループに相当する集合を\(A_{1},A_{2}\)とそれぞれ表記します。\(A_{1}\)から要素\(a_{1}\)を選び、\(A_{2}\)から要素\(a_{2}\)を選ぶ場合、2つのグループから1つずつ、合計2つの選択肢を選ぶ場合の結果は順序対\begin{equation*}\left( a_{1},a_{2}\right) \in A_{1}\times A_{2}
\end{equation*}として表現可能であるため、選び方の数は直積集合の要素の個数\begin{equation}
\left\vert A_{1}\times A_{2}\right\vert \quad \cdots (1)
\end{equation}と一致します。したがって、その要素の個数について、\begin{equation}
\left\vert A_{1}\times A_{2}\right\vert =\left\vert A_{1}\right\vert \times
\left\vert A_{2}\right\vert \quad \cdots (2)
\end{equation}という関係が成り立ちます。実際には、\(A_{1}\)から選ぶ要素\(a_{1}\)に応じて\(A_{2}\)が変化する状況は起こり得ますが、仮定より、\(a_{1}\)に関わらず\(A_{2}\)の要素の個数\(\left\vert A_{2}\right\vert \)は一定です。逆も同様です。つまり、\(A_{2}\)から選ぶ要素\(a_{2}\)に応じて\(A_{1}\)が変化する状況は起こり得ますが、仮定より、\(a_{2}\)に関わらず\(A_{1}\)の要素の個数\(\left\vert A_{1}\right\vert \)は一定です。したがって、順序対\(\left( a_{1},a_{2}\right) \)の選び方に関わらず\(\left\vert A_{1}\right\vert \)と\(\left\vert A_{2}\right\vert \)はそれぞれ一定であるため、\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)より、2つのグループから1つずつ、合計2つの選択肢を選ぶ場合の選び方の数は、\begin{equation*}\left\vert A_{1}\right\vert \times \left\vert A_{2}\right\vert
\end{equation*}となります。積の法則が成立する根拠は以上の通りです。
\Omega =\left\{ \left( a_{1},a_{2}\right) \ |\ \forall i\in \left\{
1,2\right\} :a_{i}\in \left\{ 1,2,3,4,5,6\right\} \right\}
\end{equation*}となります。ただし、\(a_{i}\)は\(i\)回目の目です。サイコロの目\(a_{1},a_{2}\)がとり得る値の数はそれぞれ\(6\)通りです。しかも、各回に出る可能性のある目の数は他の回に出る目とは関係なく一定であるため、積の法則より、\begin{equation*}\left\vert \Omega \right\vert =6\times 6=36
\end{equation*}となります。さらに、「2回連続で偶数が出る」という事象は、\begin{equation*}
A=\left\{ \left( a_{1},a_{2}\right) \ |\ \forall i\in \left\{ 1,2\right\}
:a_{i}\in \left\{ 2,4,6\right\} \right\}
\end{equation*}となります。各回に出る可能性のある目の数は他の回に出る目とは関係なく一定であるため、積の法則より、\begin{equation*}
\left\vert A\right\vert =3\times 3=9
\end{equation*}となります。
積の法則の一般化
\(3\)個以上の選択肢のグループから1つずつの選択肢を選ぶ場合にも積の法則は成立します。\(n\)個の選択肢のグループから1つずつ、合計\(n\)個の選択肢を選ぶ状況を想定します。ただし、あるグループからどの選択肢を選んだ場合においても、別のそれぞれのグループから選択可能な選択肢の数は一定であるものとします。つまり、\(n\)個のグループから具体的にどの選択肢を1つずつ場合においても、それぞれのグループに含まれる選択肢の数\(s_{1},\cdots ,s_{n}\)はそれぞれ一定であるということです。この場合、\(n\)個のグループから1つずつ、合計\(n\)個の選択肢を選ぶ場合の選び方の数は、\begin{equation*}s_{1}\times \cdots \times s_{n}
\end{equation*}となります。以上が一般化された積の法則です。
\(n\)個のグループに相当する集合族を\(\left\{ A_{i}\right\}_{i=1}^{n}\)で表記します。それぞれの集合\(A_{i}\ \left( i=1,\cdots,n\right) \)から要素\(a_{i}\)を1つずつ、合計\(n\)個の選択肢を選ぶ場合の結果は\(n\)組\begin{equation*}\left( a_{i}\right) _{i=1}^{n}\in \prod\limits_{i=1}^{n}A_{i}
\end{equation*}として表現可能であるため、選び方の数は直積集合の要素の個数\begin{equation}
\left\vert \prod\limits_{i=1}^{n}A_{i}\right\vert \quad \cdots (1)
\end{equation}と一致します。したがって、その要素の個数について、\begin{equation}
\left\vert \prod\limits_{i=1}^{n}A_{i}\right\vert
=\prod\limits_{i=1}^{n}\left\vert A_{i}\right\vert \quad \cdots (2)
\end{equation}という関係が成り立ちます。実際には、2つの集合\(A_{i},A_{j}\)を任意に選んだとき、\(A_{i}\)から選ぶ要素\(a_{i}\)に応じて\(A_{j}\)が変化する状況は起こり得ますが、仮定より、\(a_{i}\)に関わらず\(A_{j}\)の要素の個数\(\left\vert A_{j}\right\vert \)は一定です。したがって、\(n\)組\(\left( a_{i}\right)_{i=1}^{n}\)の選び方に関わらず\(\left\vert A_{1}\right\vert ,\cdots ,\left\vert A_{n}\right\vert \)はそれぞれ一定であるため、\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)より、\(n\)個のグループから1つずつ、合計\(n\)個の選択肢を選ぶ場合の選び方の数は、\begin{equation*}\prod\limits_{i=1}^{n}\left\vert A_{i}\right\vert
\end{equation*}となります。一般化された積の法則が成立する根拠は以上の通りです。
\Omega =\left\{ \left( a_{1},a_{2},a_{3},a_{4},a_{5}\right) \ |\ \forall
i\in \left\{ 1,2,3,4,5\right\} :a_{i}\in \left\{ a,b,c,\cdots ,z\right\}
\right\}
\end{equation*}となります。ただし、\(a_{i}\)は\(i\)回目のアルファベットです。それぞれのアルファベット\(a_{i}\)がとり得る値の数は\(26\)通りです。しかも、それぞれの場所に入り得るアルファベットの数は他の場所に入るアルファベットとは関係なく一定であるため、積の法則より、\begin{equation*}\left\vert \Omega \right\vert =26^{5}
\end{equation*}となります。さらに、「最初の文字が母音」という事象は、\begin{equation*}
A=\left\{ \left( a_{1},a_{2},a_{3},a_{4},a_{5}\right) \ |\ a_{1}\in \left\{
a,i,u,e,o\right\} \wedge \forall i\in \left\{ 2,3,4,5\right\} :a_{i}\in
\left\{ a,b,c,\cdots ,z\right\} \right\}
\end{equation*}となります。それぞれの場所に入り得るアルファベットの数は他の場所に入るアルファベットとは関係なく一定であるため、積の法則より、\begin{equation*}
\left\vert A\right\vert =5\times 26^{4}
\end{equation*}となります。
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