WIIS

確率

余事象の確率

目次

前のページ:

和事象の確率

次のページ:

積事象の確率

Mailで保存
Xで共有

余事象の確率

確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられているものとします。つまり、事象空間\(\mathcal{F}\subset 2^{\Omega }\)は可測空間の公理\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \mathcal{F}\not=\phi \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall A\in \mathcal{F}:A^{c}\in \mathcal{F} \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall \left\{ A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\subset \mathcal{F}:\bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\in \mathcal{F}
\end{eqnarray*}を満たすとともに、確率測度\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)は確率論の公理\begin{eqnarray*}&&\left( P_{1}\right) \ \forall A\in \mathcal{F}:P\left( A\right) \geq 0 \\
&&\left( P_{2}\right) \ P\left( \Omega \right) =1 \\
&&\left( P_{3}\right) \ \forall \text{排反な}\left\{
A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\subset \mathcal{F}:P\left( \bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\right) =\sum_{n\in \mathbb{N} }P\left( A_{n}\right)
\end{eqnarray*}を満たすということです。

事象\(A\in \mathcal{F}\)を任意に選べば、確率測度\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれに対して確率\(P\left( A\right) \in \mathbb{R} \)を定めます。\(\left( M_{2}\right) \)より、\begin{equation*}A^{c}\in \mathcal{F}
\end{equation*}が成り立つため、確率測度\(P\)は余事象に対しても確率\(P\left( A^{c}\right) \in \mathbb{R} \)を定めますが、これらの確率の間には以下の関係\begin{equation*}P\left( A^{c}\right) =1-P\left( A\right)
\end{equation*}が成り立つことが保証されます。つまり、余事象\(A^{c}\)の確率は、全事象\(\Omega \)の確率である\(1\)から事象\(A\)の確率を引くことにより得られます。

命題(余事象の確率)
確率空間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)において、事象\(A\in \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}P\left( A^{c}\right) =1-P\left( A\right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

例(余事象の確率)
事象\(A,B\in \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、事象空間は和集合について閉じているため、\begin{equation*}A\cup B\in \mathcal{F}
\end{equation*}が成り立ちます。事象空間は補集合について閉じているため、\begin{equation*}
\left( A\cup B\right) ^{c}\in \mathcal{F}
\end{equation*}が成り立ちます。このとき、\begin{eqnarray*}
P\left( \left( A\cup B\right) ^{c}\right) &=&1-P\left( A\cup B\right) \quad
\because \text{余事象の確率} \\
&=&1-\left( P\left( A\right) +P\left( B\right) -P\left( A\cap B\right)
\right) \quad \because \text{加法定理} \\
&=&1-P\left( A\right) -P\left( B\right) +P\left( A\cap B\right)
\end{eqnarray*}が成り立ちます。

例(余事象の確率)
空事象は可測であるため\(\phi \in \mathcal{F}\)であり、しかもその確率は、\begin{equation*}P\left( \phi \right) =0
\end{equation*}と定まります。その一方で、\begin{equation*}
\phi ^{c}=\Omega
\end{equation*}であるため、\begin{eqnarray*}
P\left( \phi ^{c}\right) &=&P\left( \Omega \right) \quad \because \phi
^{c}=\Omega \\
&=&1\quad \because \text{確率論の公理}
\end{eqnarray*}を得ます。同じことを余事象の確率を用いて求めると、\begin{eqnarray*}
P\left( \phi ^{c}\right) &=&1-P\left( \phi \right) \quad \because \text{余事象の確率} \\
&=&1-0\quad \because P\left( \phi \right) =0 \\
&=&1
\end{eqnarray*}となります。

 

事象の確率がとり得る値の範囲

事象\(A\in \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、その確率がとり得る値の範囲が、\begin{equation*}0\leq P\left( A\right) \leq 1
\end{equation*}であることが先の命題より導かれます。つまり、任意の事象の確率は\(0\)以上\(1\)以下の実数です。

命題(事象の確率がとり得る値の範囲)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)において、事象\(A\in \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}0\leq P\left( A\right) \leq 1
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

確率測度は実数値関数

確率測度\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)は\(\sigma \)-加法性を満たすため、排反な事象族\(\left\{ A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\subset \mathcal{F}\)が与えられたとき、その和事象の確率は、\begin{equation}P\left( \bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\right) =\sum_{n\in \mathbb{N} }P\left( A_{n}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たします。ただし、右辺は可算個の事象の確率から構成される無限級数の和であり、これは部分和\begin{equation*}
S_{N}=\sum_{n=1}^{N}P\left( A_{n}\right)
\end{equation*}を項とする数列\(\{S_{N}\}\)の極限\(\lim\limits_{N\rightarrow \infty }S_{N}\)として定義されます。つまり、\(\left( 1\right) \)を正確に表現すると、\begin{equation}P\left( \bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\right) =\lim_{N\rightarrow \infty }\left[ \sum_{n=1}^{N}P\left(
A_{n}\right) \right] \quad \cdots (2)
\end{equation}となります。

確率測度を実数値関数\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)として定義することは、\(\left( 2\right) \)が必ず有限な実数として定まることを意味しますが、これまでその根拠を明示してきませんでした。排反な事象族\(\left\{ A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\subset \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、事象空間は和事象について閉じているため、\begin{equation*}\bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\in \mathcal{F}
\end{equation*}が成り立ちます。すると先の命題より、\begin{equation*}
0\leq P\left( \bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\right) \leq 1
\end{equation*}が成り立つため、\(\left(2\right) \)が有限な実数として定まることが明らかになりました。確率論の公理は確率測度が実数値関数であることを保証するということです。

 

演習問題

問題(余事象の確率)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)において、標本空間が、\begin{equation*}\Omega =\left\{ \omega _{1},\omega _{2},\omega _{3},\omega _{4}\right\}
\end{equation*}であり、事象空間は、\begin{equation*}
\mathcal{F}=2^{\Omega }
\end{equation*}であるとともに、確率測度\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{eqnarray*}P\left( \left\{ \omega _{1}\right\} \right) &=&\frac{1}{10} \\
P\left( \left\{ \omega _{1},\omega _{2}\right\} \right) &=&\frac{1}{2} \\
P\left( \left\{ \omega _{1},\omega _{2},\omega _{3}\right\} \right) &=&\frac{7}{10}
\end{eqnarray*}を満たすものとします。以下の確率\begin{equation*}
P\left( \left\{ \omega _{2},\omega _{4}\right\} \right)
\end{equation*}を求めてください。

解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(余事象の確率)
事象\(A,B\in \mathcal{F}\)について、\begin{eqnarray*}P\left( A\right) &=&\frac{3}{8} \\
P\left( B\right) &=&\frac{1}{2} \\
P\left( A\cap B\right) &=&\frac{1}{4}
\end{eqnarray*}が成り立つものとします。以上の条件を踏まえた上で、以下の確率\begin{equation*}
P\left( A^{c}\cap B^{c}\right)
\end{equation*}を特定してください。

解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(余事象の確率)
事象\(A,B\in \mathcal{F}\)について、\begin{eqnarray*}P\left( A\cup B\right) &=&\frac{3}{4} \\
P\left( A\cap B\right) &=&\frac{1}{4} \\
P\left( A^{c}\right) &=&\frac{2}{3}
\end{eqnarray*}が成り立つものとします。以上の条件を踏まえた上で、以下の確率\begin{equation*}
P\left( B\right)
\end{equation*}を特定してください。

解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

前のページ:

和事象の確率

次のページ:

積事象の確率

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録