事象の単調列と連続性

可算個の事象からなる事象列が単調増加列もしくは単調減少列である場合には、その和事象や積事象の確率に関して、連続性と呼ばれる性質が成り立ちます。

可算個の事象と確率

確率空間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)が与えられたとき、確率論の公理より確率関数\(P\)は\(\sigma \)-加法性を満たします。つまり、互いに排反な可算個の事象\(A_{1},A_{2},\cdots \in \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、それらの和事象の確率は、\begin{equation*}
P\left( \bigcup_{i=1}^{\infty }A_{i}\right) =\sum_{i=1}^{\infty }P\left(
A_{i}\right)
\end{equation*}を満たします。ただし、この右辺は無限級数の和であり、具体的には部分和\(S_{n}=\sum_{i=1}^{n}P\left( A_{i}\right) \)を項とする数列\(\{S_{n}\}\)の極限\(\lim\limits_{n\rightarrow \infty }S_{n}\)のことです。

確率論の公理について復習する

上の公理は互いに排反な可算個の事象に関するものですが、互いに排反とは限らない事象の和事象についてはどのようなことが言えるでしょうか。復習になりますが、互いに排反とは限らない可算個の事象\(A_{1},A_{2},\cdots \in \mathcal{F}\)の和事象の確率については、\(\sigma \)-劣加法性\begin{equation*}
P\left( \bigcup_{i=1}^{\infty }A_{i}\right) \leq \sum_{i=1}^{\infty }P\left(
A_{i}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

σ-劣加法性について復習する

以降では、可算個の事象が一定の条件を満たす場合には、それらの和事象や積事象の確率についてもう少し踏み込んだことが言えることを示します。

 

事象の単調列

可算個の事象\(A_{1},A_{2},\cdots ,A_{n},\cdots \in \mathcal{F}\)を順番に並べたもの\begin{equation*}
A_{1},A_{2},\cdots ,A_{n},\cdots
\end{equation*}を事象列(sequence of events)と呼び、これを\(\{A_{n}\}_{n=1}^{\infty }\)や\(\{A_{n}\}_{n\in \mathbb{N}}\)、もしくはよりシンプルに\(\{A_{n}\}\)と表記します。特に、事象列\(\{A_{n}\}\)が、\begin{equation*}
A_{1}\subset A_{2}\subset \cdots
\end{equation*}を満たすならば、\(\{A_{n}\}\)を単調増加列(monotonically increasing sequence)と呼び、\begin{equation*}
A_{1}\supset A_{2}\supset \cdots
\end{equation*}を満たすならば、\(\{A_{n}\}\)を単調減少列(monotonically decreasing sequence)と呼びます。また、事象の単調増加列と単調減少列を総称して単調列(monotone sequence)と呼びます。

以下の例が示唆するように、同じ実験を繰り返し行うタイプの試行に関連して、事象の単調列は頻出します。

例(事象の単調列)
コインの表を\(1\)で表し、裏を\(0\)で表すならば、コインを無限回投げるという試行の標本点は、\(\left( 1,0,0,1,\cdots \right) \)のような\(0,1\)から構成される無限列として表されます。\(n\in \mathbb{N}\)回目のコイン投げの結果を\(\omega _{n}\in \{1,0\}\)で表すならば、それぞれの標本点は\(\omega =\left( \omega _{1},\omega _{2},\cdots \right) \)と定式化されます。標本空間は\(\Omega =\{1,0\}^{\mathbb{N} }\)ですが、以前示したように、これは非可算集合です。さて、事象列\(\{A_{n}\}\)を、\begin{equation*}
A_{n}=n\text{回目以降は}1\text{だけが出続ける}
\end{equation*}と定義します。つまり、事象\(A_{n}\)に含まれる標本点\(\omega \)は、\(i\geq n\)を満たす任意の番号\(i\)について\(\omega _{i}=1\)を満たします。一方、\(i<n\)を満たす任意の\(i\)について、\(\omega _{i}\)は\(0\)と\(1\)のどちらでもかまいません。\(n\)回目以降は\(1\)だけが出続けるならば、\(n+1\)回目以降は\(1\)だけが出続けます。つまり、番号\(n\in \mathbb{N}\)を任意に選んだとき、\(\omega \in A_{n}\)を満たす任意の標本点\(\omega \in \Omega \)は\(\omega \in A_{n+1}\)を満たすため、この事象列\(\{A_{n}\}\)は単調増加列です。
例(事象の単調列)
事象列\(\{A_{n}\}\)が任意に与えられたとき、新たな事象列\(\{B_{n}\}\)を、\begin{equation*}
B_{n}=\bigcup_{i=1}^{n}A_{i}
\end{equation*}と定義します。このとき、任意の番号\(n\in \mathbb{N}\)について、\begin{equation*}
B_{n}=\bigcup_{i=1}^{n}A_{i}\subset \bigcup_{i=1}^{n+1}A_{i}=B_{n+1}
\end{equation*}が成り立つため、\(\{B_{n}\}\)は単調増加列になります。こうして、任意の事象列\(\{A_{n}\}\)から単調増加列を生成することができます。
例(事象の単調列)
事象列\(\{A_{n}\}\)が任意に与えられたとき、新たな事象列\(\{B_{n}\}\)を、\begin{equation*}
B_{n}=\bigcap_{i=1}^{n}A_{i}
\end{equation*}と定義します。このとき、任意の番号\(n\in \mathbb{N}\)について、\begin{equation*}
B_{n}=\bigcap_{i=1}^{n}A_{i}\supset \bigcap_{i=1}^{n+1}A_{i}=B_{n+1}
\end{equation*}が成り立つため、\(\{B_{n}\}\)は単調減少列になります。こうして、任意の事象列\(\{A_{n}\}\)から単調減少列を生成することができます。

 

事象の単調列に関する連続性

事象列\(\{A_{n}\}\)が単調増加列である場合には、確率関数\(P\)の単調性より、事象の確率からなる数列\(\{P\left( A_{n}\right) \}\)は明らかに、\begin{equation*}
P\left( A_{1}\right) \leq P\left( A_{2}\right) \leq \cdots
\end{equation*}を満たす単調増加数列です。このとき、この数列\(\{P\left( A_{n}\right) \}\)は収束することが保証され、なおかつその極限は和事象\(\bigcup_{i=1}^{\infty }A_{i}\)の確率と一致します。これは連続性(continuity)と呼ばれる性質です。

数列の極限について学ぶ
命題(事象の単調増加列に関する連続性)
確率空間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)において、可算個の事象\(A_{1},A_{2},\cdots \in \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、事象列\(\{A_{n}\}\)が単調増加列であるならば、\begin{equation*}
P\left( \bigcup_{i=1}^{\infty }A_{i}\right) =\lim_{n\rightarrow \infty
}P\left( A_{n}\right)
\end{equation*}が成り立つ。
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事象の単調減少列に関しても同様の命題が成立します。つまり、事象列\(\{A_{n}\}\)が単調減少列である場合には、確率関数\(P\)の単調性より、事象の確率からなる数列\(\{P\left( A_{n}\right) \}\)は明らかに、\begin{equation*}
P\left( A_{1}\right) \geq P\left( A_{2}\right) \geq \cdots
\end{equation*}を満たす単調減少数列です。このとき、この数列\(\{P\left( A_{n}\right) \}\)は収束することが保証され、なおかつその極限は積事象\(\bigcap_{i=1}^{\infty }A_{i}\)の確率と一致します。

命題(事象の単調減少列に関する連続性)
確率空間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)において、可算個の事象\(A_{1},A_{2},\cdots \in \mathcal{F}\)を任意に選んだとき、事象列\(\{A_{n}\}\)が単調減少列であるならば、\begin{equation*}
P\left( \bigcap_{i=1}^{\infty }A_{i}\right) =\lim_{n\rightarrow \infty
}P\left( A_{n}\right)
\end{equation*}が成り立つ。
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この命題の活用例を提示します。

例(事象の単調減少列)
サイコロを繰り返し振るという試行の標本点は、\(\left( 3,1,5,6,3,\cdots \right) \)のような\(1\)から\(6\)までの整数から構成される無限列として表されます。\(n\in \mathbb{N}\)回目のサイコロの目を\(\omega _{n}\in \{1,2,3,4,5,6\}\)で表すならば、それぞれの標本点は\(\omega =\left( \omega _{1},\omega _{2},\cdots \right) \)と定式化されます。標本空間は\(\Omega =\{1,2,3,4,5,6\}^{\mathbb{N} }\)ですが、これは非可算集合です。事象列\(\{A_{nm}\}\)を、\begin{equation*}
A_{nm}=n\text{回目から}n+m\text{回目まで}1\text{が一回も出ない}
\end{equation*}と定義します。つまり、事象\(A_{nm}\)に含まれる標本点\(\omega \)は、\(n\leq i\leq n+m\)を満たす任意の番号\(i\)について\(\omega _{i}\not=1\)を満たします。それ以外の任意の番号\(i\)については、\(\omega _{i}\)の値は任意です。このとき、\begin{equation}
P\left( A_{nm}\right) =\left( \frac{5}{6}\right) ^{m} \tag{1}
\end{equation}が成り立ちます。さて、\(n\)を任意の番号に固定し、\(\{A_{nm}\}\)を\(m\)に関する事象列\(\{A_{n1},A_{n2},\cdots \}\)とみなします。\(n\)回目から\(n+m\)回目まで\(1\)が一回も出ない場合には、\(n\)回目から\(n+m-1\)回目まで\(1\)は一回も出ません。したがって、それぞれの\(n\)について、事象列\(\{A_{nm}\}\)は\(m\)に関する単調減少列です。そこで、新たな事象列\(\{B_{n}\}\)を、\begin{equation*}
B_{n}=\bigcap_{m=1}^{\infty }A_{nm}=n\text{回目以降に}1\text{が一回も出ない}
\end{equation*}と定義します。このとき、事象の単調減少列に関する連続性より、\begin{eqnarray*}
P\left( B_{n}\right) &=&P\left( \bigcap_{m=1}^{\infty }A_{nm}\right) \quad
\because B_{n}\text{の定義} \\
&=&\lim_{m\rightarrow \infty }P\left( A_{nm}\right) \quad \because P\text{の連続性} \\
&=&\lim_{m\rightarrow \infty }\left( \frac{5}{6}\right) ^{m}\quad \because
\left( 1\right) \\
&=&0
\end{eqnarray*}となります。よって、任意の\(n\)について、\begin{equation}
P\left( B_{n}\right) =0 \tag{2}
\end{equation}が成り立つことが示されました。例えば、「サイコロを繰り返し振ったときに\(1\)が一回も出ない」という事象は\(B_{1}\)として表されますが、\(\left( 2\right) \)より、その確率は\(P\left( B_{1}\right) =0\)です。

次回はボレル・カンテリの補題と呼ばれる命題について解説します。

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