可算個の事象と確率
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられているものとします。つまり、事象空間\(\mathcal{F}\subset 2^{\Omega }\)は可測空間の公理\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \mathcal{F}\not=\phi \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall A\in \mathcal{F}:A^{c}\in \mathcal{F} \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall \left\{ A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\subset \mathcal{F}:\bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\in \mathcal{F}
\end{eqnarray*}を満たすとともに、確率測度\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)は確率論の公理\begin{eqnarray*}&&\left( P_{1}\right) \ \forall A\in \mathcal{F}:P\left( A\right) \geq 0 \\
&&\left( P_{2}\right) \ P\left( \Omega \right) =1 \\
&&\left( P_{3}\right) \ \forall \text{排反な}\left\{
A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\subset \mathcal{F}:P\left( \bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\right) =\sum_{n\in \mathbb{N} }P\left( A_{n}\right)
\end{eqnarray*}を満たすということです。
上の公理\(\left( P_{3}\right) \)は互いに排反な可算個の事象に関するものですが、互いに排反とは限らない事象の和事象についてはどのようなことが言えるでしょうか。互いに排反であるとは限らない可算個の事象からなる列\(\left\{ A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\)の和事象の確率に関しては、確率測度\(P\)の\(\sigma \)-劣加法性より、\begin{equation*}P\left( \bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\right) \leq \bigcup_{n=1}^{+\infty }P\left( A_{n}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
P\left( \bigcup_{n\in \mathbb{N} }A_{n}\right) \leq \lim_{N\rightarrow \infty }\sum_{n=1}^{N}P\left(
A_{n}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。
以降では、可算個の事象が一定の条件を満たす場合には、それらの和事象や積事象の確率についてもう少し踏み込んだことが言えることを示します。以降では、事象列\(\left\{ A_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\)をシンプルに\(\left\{ A_{n}\right\} \)と表記します。
事象の単調列
事象列\(\left\{ A_{n}\right\} \subset \mathcal{F}\)が以下の条件\begin{equation*}A_{1}\subset A_{2}\subset \cdots
\end{equation*}を満たす場合には、\(\left\{ A_{n}\right\} \)を単調増加列(monotonically increasing sequence)と呼びます。
事象列\(\left\{ A_{n}\right\} \subset \mathcal{F}\)が以下の条件\begin{equation*}A_{1}\supset A_{2}\supset \cdots
\end{equation*}を満たす場合には、\(\left\{ A_{n}\right\} \)を単調減少列(monotonically decreasing sequence)と呼びます。
単調増加列と単調減少列を総称して単調列(monotone sequence)と呼びます。つまり、事象列\(\left\{ A_{n}\right\} \subset \mathcal{F}\)が単調列であることとは、単調増加列または単調減少列の少なくとも一方であることを意味します。
以下の例が示唆するように、同じ実験を繰り返し行うタイプの試行に関連して、事象の単調列は頻出します。
\end{equation*}のような無限列として表されます。\(n\in \mathbb{N} \)回目のコイン投げの結果を\(\omega _{n}\in \{1,0\}\)で表記するのであれば、それぞれの標本点を、\begin{equation*}\omega =\left( \omega _{1},\omega _{2},\cdots \right)
\end{equation*}と定式化できます。標本空間は、\begin{equation*}
\Omega =\{1,0\}^{\mathbb{N} }
\end{equation*}ですが、これは非可算集合です。さて、事象列\(\{A_{n}\}\)の一般項を、\begin{equation*}A_{n}=n\text{回目以降は}1\text{だけが出続ける}
\end{equation*}と定義します。つまり、事象\(A_{n}\)に含まれる標本点\(\omega \)を任意に選んだとき、\(i\geq n\)を満たす任意の番号\(i\in \mathbb{N} \)について\(\omega _{i}=1\)が成り立ちます。一方、\(i<n\)を満たす任意の番号\(i\in \mathbb{N} \)については、\(\omega _{i}\)は\(0\)と\(1\)のどちらでもかまいません。\(n\)回目以降に\(1\)だけが出続けるのであれば、\(n+1\)回目以降は\(1\)だけが出続けます。つまり、番号\(n\in \mathbb{N} \)を任意に選んだとき、任意の標本点\(\omega \in \Omega \)について、\begin{equation*}\omega \in A_{n}\Rightarrow \omega \in A_{n+1}
\end{equation*}が成り立つため、\begin{equation*}
A_{n}\subset A_{n+1}
\end{equation*}を得ます。したがって、この事象列\(\{A_{n}\}\)は単調増加列です。
\end{equation*}と定義します。このとき、任意の番号\(n\in \mathbb{N} \)について、\begin{eqnarray*}B_{n} &=&\bigcup_{i=1}^{n}A_{i}\quad \because \left\{ B_{n}\right\} \text{の定義} \\
&\subset &\bigcup_{i=1}^{n+1}A_{i}\quad \because \text{和集合の定義} \\
&=&B_{n+1}\quad \because \left\{ B_{n}\right\} \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立つため、\(\{B_{n}\}\)は単調増加列です。こうして、任意の事象列\(\{A_{n}\}\)から単調増加列を生成することができます。
\end{equation*}と定義します。このとき、任意の番号\(n\in \mathbb{N} \)について、\begin{eqnarray*}B_{n} &=&\bigcap_{i=1}^{n}A_{i}\quad \because \left\{ B_{n}\right\} \text{の定義} \\
&\supset &\bigcap_{i=1}^{n+1}A_{i}\quad \because \text{共通部分の定義} \\
&=&B_{n+1}\quad \because \left\{ B_{n}\right\} \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立つため、\(\{B_{n}\}\)は単調減少列です。こうして、任意の事象列\(\{A_{n}\}\)から単調減少列を生成することができます。
事象の単調列に関する連続性
事象列\(\{A_{n}\}\subset \mathcal{F}\)が単調増加列であるものとします。つまり、\begin{equation*}A_{1}\subset A_{2}\subset \cdots
\end{equation*}が成り立つということです。確率測度\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)は単調性を満たすため、この場合、事象の確率からなる数列\(\{P\left( A_{n}\right) \}\)は明らかに、\begin{equation*}P\left( A_{1}\right) \leq P\left( A_{2}\right) \leq \cdots
\end{equation*}を満たします。つまり、\(\left\{ P\left( A_{n}\right) \right\} \)は単調増加数列です。さて、事象空間\(\mathcal{F}\)は可算合併について閉じているため\(\bigcup_{n=1}^{\infty }A_{n}\in \mathcal{F}\)であり、したがって確率測度\(P\)はその確率\(P\left( \bigcup_{n=1}^{\infty }A_{n}\right) \in \mathbb{R} \)を定めますが、先の数列\(\{P\left( A_{n}\right) \)は必ず有限な実数へ収束するとともに、その極限は和事象の確率\(P\left(\bigcup_{n=1}^{\infty }A_{n}\right) \)と一致します。これは確率測度\(P\)の単調増加列に関する連続性(continuity)と呼ばれる性質です。
}P\left( A_{n}\right)
\end{equation*}が成り立つ。
事象の単調減少列に関しても同様の命題が成立します。具体的には以下の通りです。
事象列\(\{A_{n}\}\subset \mathcal{F}\)が単調増加列であるものとします。つまり、\begin{equation*}A_{1}\supset A_{2}\supset \cdots
\end{equation*}が成り立つということです。確率測度\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R} \)は単調性を満たすため、この場合、事象の確率からなる数列\(\{P\left( A_{n}\right) \}\)は明らかに、\begin{equation*}P\left( A_{1}\right) \geq P\left( A_{2}\right) \geq \cdots
\end{equation*}を満たします。つまり、\(\left\{ P\left( A_{n}\right) \right\} \)は単調減少数列です。さて、事象空間\(\mathcal{F}\)は可算交叉について閉じているため\(\bigcap_{n=1}^{\infty }A_{n}\in \mathcal{F}\)であり、したがって確率測度\(P\)はその確率\(P\left( \bigcap_{n=1}^{\infty }A_{n}\right) \in \mathbb{R} \)を定めますが、先の数列\(\{P\left( A_{n}\right) \)は必ず有限な実数へ収束するとともに、その極限は積事象の確率\(P\left(\bigcap_{n=1}^{\infty }A_{n}\right) \)と一致します。これは確率測度\(P\)の単調減少列連続性(continuity)と呼ばれる性質です。証明は先の命題と同様です。
}P\left( A_{n}\right)
\end{equation*}が成り立つ。
演習問題
\left( 3,1,5,6,3,\cdots \right)
\end{equation*}のような無限列として表現されます。\(n\in \mathbb{N} \)回目に出るサイコロの目を\(\omega _{n}\in \{1,2,3,4,5,6\}\)で表記するのであれば、それぞれの標本点は、\begin{equation*}\omega =\left( \omega _{1},\omega _{2},\cdots \right)
\end{equation*}と定式化されます。この試行の標本空間は、\begin{equation*}
\Omega =\{1,2,3,4,5,6\}^{\mathbb{N} }
\end{equation*}ですが、これは非可算集合です。以上の試行において、サイコロの目\(1\)が一回も出ない確率は\(0\)であることを示してください。
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