WIIS

確率

ベイズの定理

目次

前のページ:

全確率の定理

次のページ:

2つの事象の独立性

Mailで保存
Xで共有

ベイズの定理

問題としている試行に関する確率空間\(\left(\Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、確率が正であるような2つの事象を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}P\left( A\right) &>&0 \\
P\left( B\right) &>&0
\end{eqnarray*}を満たす事象\(A,B\in \mathcal{F}\)に注目するということです。この場合、条件付き確率に関して、\begin{eqnarray}P\left( A|B\right) &=&\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\quad \cdots (1) \\
P\left( B|A\right) &=&\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( A\right) }
\quad \cdots (2)
\end{eqnarray}がともに成り立ちますが、\(\left( 2\right) \)を用いて\(\left( 1\right) \)から\(P\left( A\cap B\right) \)を消去すると、\begin{equation*}P\left( A|B\right) =\frac{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}を得ます。これをベイズの定理(Bayes’ rule)と呼びます。

つまり、条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)を直接計算することが困難である場合でも、2つの事象\(A,B\)の立場を入れ替えた条件付き確率\(P\left( B|A\right) \)とそれぞれの事象の確率\(P\left( A\right) ,P\left( B\right) \)を特定できるのであれば、それらの情報を用いて\(P\left( A|B\right) \)を特定できるということです。

2つの事象\(A,B\)の時間的な前後関係が、\begin{equation*}A\rightarrow B
\end{equation*}である状況を想定します。つまり、事象\(A\)が起きてから事象\(B\)が起こるということです。「事象\(A\)が起きた後に事象\(B\)が起こる確率\(P\left( B|A\right) \)」が明らかである場合、ベイズの定理より、逆に、「事象\(B\)が起きたことが事後的に観察された場合、それ以前に事象\(A\)が起こっていた確率\(P\left( A|B\right) \)」を特定できます。つまり、原因\(A\)のもとで結果\(B\)が起こる確率が判明している場合、逆に、結果\(B\)をもたらした原因が\(A\)である確率を特定できるということです。

命題(ベイズの定理)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)について、\begin{eqnarray*}P\left( A\right) &>&0 \\
P\left( B\right) &>&0
\end{eqnarray*}が成り立つ場合には、\begin{equation*}
P\left( A|B\right) =\frac{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}という関係が成り立つ。

 

条件付き確率を用いたベイズの定理

確率が正であるような2つの事象\(A,B\in \mathcal{F}\)について、\begin{equation}P\left( A|B\right) =\frac{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left( B\right) } \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つことが明らかになりました。分母の確率\(P\left( B\right) \)をそのまま求めるのが困難である場合、標本空間\(\Omega \)が2つの事象\(A,A^{c}\)に分割可能であることに注目すると、全確率の定理より、\begin{equation*}P\left( B\right) =P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) +P\left(
B|A^{c}\right) \cdot P\left( A^{c}\right)
\end{equation*}が成り立つため、これを用いて\(\left( 1\right) \)を言い換えると、\begin{equation*}P\left( A|B\right) =\frac{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) +P\left( B|A^{c}\right) \cdot
P\left( A^{c}\right) }
\end{equation*}を得ます。これもまたベイズの定理と呼ばれます。

命題(条件付き確率を用いたベイズの定理)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)について、\begin{eqnarray*}P\left( A\right) &>&0 \\
P\left( B\right) &>&0
\end{eqnarray*}が成り立つ場合には、\begin{equation*}
P\left( A|B\right) =\frac{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) +P\left( B|A^{c}\right) \cdot
P\left( A^{c}\right) }
\end{equation*}という関係が成り立つ。

例(ベイズの定理)
箱の中に2つの袋\(1,2\)が入っています。袋\(1\)の中には「\(5\)個の赤いボールと\(5\)個の白いボール」が、袋\(2\)の中には「\(3\)個の赤いボールと\(7\)個の白いボール」がそれぞれ入っているものとします。以上の状況において、「どちらか一方の袋をランダムに選んだ上で、選んだ袋の中から\(1\)個のボールをランダムに取り出す」という試行について考えます。すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。以下の事象\begin{equation}\text{赤のボールが選ばれた場合に、そのボールはもともと袋}1\text{に入っていた} \quad \cdots (1)
\end{equation}の確率を求めます。事象\(A,B\)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}A &:&\text{選ばれた袋は}1\text{である} \\
B &:&\text{選ばれたボールは赤である}
\end{eqnarray*}と定義するのであれば、事象\(\left( 1\right) \)の確率は、条件付き確率\begin{equation*}P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}と表現されます。これを直接求めるのは困難であるため、ベイズの定理\begin{equation}
P\left( A|B\right) =\frac{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right) +P\left( B|A^{c}\right) \cdot
P\left( A^{c}\right) } \quad \cdots (2)
\end{equation}を利用します。\(P\left( B|A\right) \)は「袋\(1\)からとり出したボールが赤である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A\right) =\frac{5}{10}
\end{equation*}となります。\(P\left( B|A^{c}\right) \)は「袋\(2\)からとり出したボールが赤である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A^{c}\right) =\frac{3}{10}
\end{equation*}となります。\(P\left( A\right) \)は「袋\(1\)が選ばれる確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A\right) =\frac{1}{2}
\end{equation*}となります。\(P\left( A^{c}\right) \)は「袋\(2\)が選ばれる確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A^{c}\right) =\frac{1}{2}
\end{equation*}となります。これらと\(\left( 2\right) \)より、\begin{eqnarray*}P\left( A|B\right) &=&\frac{\frac{5}{10}\cdot \frac{1}{2}}{\frac{5}{10}\cdot \frac{1}{2}+\frac{3}{10}\cdot \frac{1}{2}} \\
&=&\frac{5}{8}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。

 

ベイズの定理の一般化

ベイズの定理を以下のように一般化することができます。

命題(ベイズの定理の一般化)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i,j\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :\left(
i\not=j\Rightarrow A_{i}\cap A_{j}=\phi \right) \\
&&\left( b\right) \ \bigcup\limits_{i=1}^{n}A_{i}=\Omega \\
&&\left( c\right) \ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :P\left(
A_{i}\right) >0
\end{eqnarray*}を満たす有限\(n\)個の事象\(A_{1},\cdots ,A_{n}\in \mathcal{F}\)が存在する場合には、\begin{equation*}P\left( B\right) >0
\end{equation*}を満たす事象\(B\in \mathcal{F}\)を任意に選んだときに、それぞれの事象\(A_{i}\in \mathcal{F}\)に対して、\begin{equation*}P\left( A_{i}|B\right) =\frac{P\left( B|A_{i}\right) \cdot P\left(
A_{i}\right) }{\sum\limits_{j=1}^{n}\left[ P\left( B|A_{j}\right) \cdot
P\left( A_{j}\right) \right] }
\end{equation*}という関係が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

\(n+1\)個の事象\(A_{1},\cdots ,A_{n},B\)の時間的な前後関係が、\begin{equation*}\left.
\begin{array}{c}
A_{1} \\
\vdots \\
A_{n}\end{array}\right\} \rightarrow B
\end{equation*}である状況を想定します。つまり、事象\(A_{1},\cdots ,A_{n}\)の中のいずれかが起きてから事象\(B\)が起こるということです。それぞれの事象\(A_{i}\ \left( i=1,\cdots ,n\right) \)について「事象\(A_{i}\)が起きた場合に事象\(B\)が起こる確率\(P\left( B|A_{i}\right) \)」が明らかである場合、ベイズの定理より、逆に、「事象\(B\)が起きたことが事後的に観察された場合、それ以前に事象\(A_{i}\)が起こっていた確率\(P\left( A_{i}|B\right) \)」を特定できます。つまり、原因\(A_{1},\cdots ,A_{n}\)のもとで結果\(B\)が起こる確率がそれぞれ判明している場合、逆に、結果\(B\)をもたらした原因が\(A_{i}\)である確率を特定できるということです。

例(ベイズの定理)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ A_{1}\cap A_{2}=A_{1}\cap A_{3}=A_{2}\cap A_{3}=\phi \\
&&\left( b\right) \ A_{1}\cup A_{2}\cup A_{3}=\Omega \\
&&\left( c\right) \ P\left( A_{1}\right) >0\wedge P\left( A_{2}\right)
>0\wedge P\left( A_{3}\right) >0
\end{eqnarray*}を満たす3個の事象\(A_{1},A_{2},A_{3}\in \mathcal{F}\)が存在する場合には、ベイズの定理より、\begin{eqnarray*}P\left( A_{1}|B\right) &=&\frac{P\left( B|A_{1}\right) \cdot P\left(
A_{1}\right) }{P\left( B|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{1}\right) +P\left(
B|A_{2}\right) \cdot P\left( A_{2}\right) +P\left( B|A_{3}\right) \cdot
P\left( A_{3}\right) } \\
P\left( A_{2}|B\right) &=&\frac{P\left( B|A_{2}\right) \cdot P\left(
A_{2}\right) }{P\left( B|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{1}\right) +P\left(
B|A_{2}\right) \cdot P\left( A_{2}\right) +P\left( B|A_{3}\right) \cdot
P\left( A_{3}\right) } \\
P\left( A_{3}|B\right) &=&\frac{P\left( B|A_{3}\right) \cdot P\left(
A_{3}\right) }{P\left( B|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{1}\right) +P\left(
B|A_{2}\right) \cdot P\left( A_{2}\right) +P\left( B|A_{3}\right) \cdot
P\left( A_{3}\right) }
\end{eqnarray*}がいずれも成り立ちます。

例(ベイズの定理)
ある店舗では、同一の商品を3つの業者から仕入れた上で販売しています。具体的には、その商品の\(2\)割を業者\(1\)から仕入れて、\(3\)割を業者\(2\)から仕入れて、残りの\(5\)割を業者\(3\)から仕入れています。また、業者\(1\)が供給する商品の\(1\)パーセントが不良品であり、業者\(2\)が供給する商品の\(2\)パーセントが不良品であり、業者\(3\)が供給する商品の\(3\)パーセントが不良品であるものとします。以上の状況において、「その店舗でその商品をランダムに1つ購入する」という試行について考えます。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。以下の事象\begin{equation}\text{購入した商品が不良品であり、その商品が業者}2\text{によって供給された} \quad \cdots (1)
\end{equation}の確率を求めます。事象\(A_{1},A_{2},A_{3},B\)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}A_{1} &:&\text{商品の供給源は業者}1\text{である} \\
A_{2} &:&\text{商品の供給源は業者}2\text{である} \\
A_{3} &:&\text{商品の供給源は業者}3\text{である} \\
B &:&\text{購入した商品が不良品である}
\end{eqnarray*}と定義すると、事象\(\left( 1\right) \)の確率は、条件付き確率\begin{equation*}P\left( A_{2}|B\right) =\frac{P\left( A_{2}\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}と表現されます。これを直接求めるのは困難であるため、ベイズの定理\begin{equation}
P\left( A_{2}|B\right) =\frac{P\left( B|A_{2}\right) \cdot P\left(
A_{2}\right) }{P\left( B|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{1}\right) +P\left(
B|A_{2}\right) \cdot P\left( A_{2}\right) +P\left( B|A_{3}\right) \cdot
P\left( A_{3}\right) } \quad \cdots (2)
\end{equation}を利用します。\(P\left(B|A_{1}\right) \)は「業者\(1\)から仕入れた商品が不良品である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A_{1}\right) =\frac{1}{100}
\end{equation*}となります。\(P\left( B|A_{2}\right) \)は「業者\(2\)から仕入れた商品が不良品である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A_{2}\right) =\frac{2}{100}
\end{equation*}となります。\(P\left( B|A_{3}\right) \)は「業者\(3\)から仕入れた商品が不良品である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A_{3}\right) =\frac{3}{100}
\end{equation*}となります。\(P\left( A_{1}\right) \)は「購入した商品の供給減が業者\(1\)である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A_{1}\right) =\frac{2}{10}
\end{equation*}となります。\(P\left( A_{2}\right) \)は「購入した商品の供給減が業者\(2\)である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A_{2}\right) =\frac{3}{10}
\end{equation*}となります。\(P\left( A_{3}\right) \)は「購入した商品の供給減が業者\(3\)である確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A_{3}\right) =\frac{5}{10}
\end{equation*}となります。これらと\(\left( 2\right) \)より、\begin{eqnarray*}P\left( A_{2}|B\right) &=&\frac{\frac{2}{100}\cdot \frac{3}{10}}{\frac{1}{100}\cdot \frac{2}{10}+\frac{2}{100}\cdot \frac{3}{10}+\frac{3}{100}\cdot
\frac{5}{10}} \\
&=&\frac{6}{23}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。

 

演習問題

問題(検査の精度)
ある病気に感染しているかどうかを判定する検査方法が新たに開発されました。この検査の信頼性を調べるため、感染者に対してこの検査を実施したところ、\(98\%\)の人は陽性と正しく判定されましたが、残りの\(2\%\)の人は陰性と誤って判定されてしまいました。また、非感染者に対してもこの検査を実施したところ、\(99\%\)の人は陰性と正しく判定されまいたが、残りの\(1\%\)の人は陽性と誤って判定されてしまいました。ある集団の中から1人をランダムに選んでこの検査を実施したところ、その人は陽性と判定されました。この人が実際に感染者である確率を求めてください。ただし、この人が実際に感染者であるか否かは不明ですが、問題としている集団における感染者の割合が\(0.1\%\)であることは分かっているものとします。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(学生の実力)
ある学生が試験を受けました。その試験の設問はいずれも5つの選択肢の中から1つを選択する形式です。学生は全体の\(60\)パーセントの設問については、その答えを知っていたため、正答できました。残りの\(40\)パーセントの設問については、答えを知らないため自力で解くことはできず、そのような設問については、1つの選択肢をランダムに選びました。試験後、1つの設問をランダムに選んだところ、学生はその設問に正答していました。学生がその設問の解答を知っていた確率(まぐれ当たりではなかった確率)を求めてください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(ベイズの定理)
2つの袋\(X,Y\)があります。袋\(X\)には\(3\)個の白いボールと\(5\)個の黒いボールが入っています。袋\(Y\)の中身は空です。袋\(X\)から\(4\)個のボールをランダムに選んだ上で、それらを袋\(Y\)へ移します。その上で、袋\(Y\)から\(1\)個のボールをランダムに選んだところ、そのボールは白でした。袋\(X\)から袋\(Y\)へ移した\(4\)個のボールのうち、\(3\)個が白で\(1\)個が黒であった確率を求めてください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

前のページ:

全確率の定理

次のページ:

2つの事象の独立性

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録