WIIS

確率

積事象の確率と条件付き確率(乗法定理)

目次

前のページ:

条件付き確率

次のページ:

全確率の定理

Twitter
Mailで保存

条件付き確率から積事象の確率を求める(積の法則)

問題としている試行に関する確率空間\(\left(\Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)を任意に選ぶと、加法定理より、\begin{equation*}P\left( A\cup B\right) =P\left( A\right) +P\left( B\right) -P\left( A\cap
B\right)
\end{equation*}が成り立ちますが、これを変形することにより、\begin{equation*}
P\left( A\cap B\right) =P\left( A\right) +P\left( B\right) -P\left( A\cup
B\right)
\end{equation*}を得ます。つまり、事象\(A,B\)および和事象\(A\cup B\)の確率をそれぞれ特定できる場合には、以上の関係を用いることにより積事象\(A\cap B\)の確率を求めることができるということです。

積事象の確率を求める手段として条件付き確率を利用することもできます。具体的には、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)を任意に選んだ場合に、\begin{equation*}P\left( B\right) >0
\end{equation*}が成り立つ場合には、すなわち、事象\(B\)が起きたことが観察された場合(もしくは、事象\(B\)が起きているものと仮定する場合)には、事象\(B\)が起きたという条件のもとでの事象\(A\)の条件付き確率に関して、\begin{equation*}P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}という関係が成り立つため、これを変形することにより、\begin{equation*}
P\left( A\cap B\right) =P\left( A|B\right) \cdot P\left( B\right)
\end{equation*}を得ます。これを積の法則(multiplication rule for conditional probabilities)や乗法定理などと呼びます。

命題(積の法則)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)をそれぞれ任意に選ぶ。このとき、\begin{equation*}P\left( B\right) >0
\end{equation*}が成り立つならば、以下の関係\begin{equation*}
P\left( A\cap B\right) =P\left( A|B\right) \cdot P\left( B\right)
\end{equation*}が成立する。

つまり、事象\(B\)が起きたことが観察されており(もしくは、事象\(B\)が起きているものと仮定し)、なおかつその確率\(P\left( B\right) \)と条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)をそれぞれ特定できる場合には、それらの積をとれば積事象の確率\(P\left( A\cap B\right) \)を求めることができるということです。2つの事象\(A,B\)の立場を逆にした主張もまた成り立ちます。

例(積の法則)
箱の中に赤いボールと青いボールが\(5\)個ずつ、合計\(10\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(2\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、\(1\)回目に取り出したボールを箱に戻さずに\(2\)回目のボールを取り出すものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。「\(1\)回目に赤が出て\(2\)回目に青が出る」という事象の確率について考えます。「\(1\)回目に赤が出る」という事象を\(A\)で、「\(2\)回目に青が出る」という事象を\(B\)でそれぞれ表記するのであれば、問題としている事象は積事象\(A\cap B\)として表記されます。したがって、積の法則より、\begin{equation}P\left( A\cap B\right) =P\left( A\right) \cdot P\left( B|A\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}という関係が成り立ちます。\(P\left( A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出る確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A\right) =\frac{5}{10}
\end{equation*}となります。また、\(P\left( B|A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出たことが観察された場合に\(2\)回目に青が出る条件付き確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A\right) =\frac{5}{9}
\end{equation*}となります。これらと\(\left( 1\right) \)より、\begin{eqnarray*}P\left( A\cap B\right) &=&\frac{5}{10}\cdot \frac{5}{9} \\
&=&\frac{5}{18}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。

 

積の法則の一般化

積の法則を以下のように一般化することもできます。

命題(積の法則)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、有限\(n\)個の事象\(A_{1},\cdots,A_{n-1},A_{n}\in \mathcal{F}\)をそれぞれ任意に選ぶ。このとき、\begin{equation*}P\left( A_{1}\cap \cdots \cap A_{n-1}\right) >0
\end{equation*}が成り立つならば、以下の関係\begin{equation*}
P\left( A_{1}\cap \cdots \cap A_{n}\right) =P\left( A_{1}\right) \cdot
P\left( A_{2}|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{3}|A_{1}\cap A_{2}\right) \cdots
P\left( A_{n}|A_{1}\cap \cdots \cap A_{n-1}\right)
\end{equation*}が成立する。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

例(積の法則の一般化)
箱の中に赤いボールと青いボールが\(5\)個ずつ、合計\(10\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(3\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、各回に取り出したボールは箱に戻さないものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。「\(1\)回目に赤が、\(2\)回目に青が、\(3\)回目に赤が出る」という事象の確率について考えます。「\(1\)回目に赤が出る」という事象を\(A\)で、「\(2\)回目に青が出る」という事象を\(B\)で、「\(3\)回目に赤が出る」という事象を\(C\)でそれぞれ表記するのであれば、問題としている事象は積事象\(A\cap B\cap C\)として表記されます。したがって、積の法則より、\begin{equation}P\left( A\cap B\cap C\right) =P\left( A\right) \cdot P\left( B|A\right)
\cdot P\left( C|A\cap B\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}という関係が成り立ちます。\(P\left( A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出る確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A\right) =\frac{5}{10}
\end{equation*}となります。また、\(P\left( B|A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出たことが観察された場合に\(2\)回目に青が出る条件付き確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A\right) =\frac{5}{9}
\end{equation*}となります。また、\(P\left( C|A\cap B\right) \)は「\(1\)回目に赤が、\(2\)回目に青が出たことが観察された場合に\(3\)回目に赤が出る条件付き確率であるため、\begin{equation*}P\left( C|A\cap B\right) =\frac{4}{8}
\end{equation*}となります。これらと\(\left( 1\right) \)より、\begin{eqnarray*}P\left( A\cap B\cap C\right) &=&\frac{5}{10}\cdot \frac{5}{9}\cdot
\frac{4}{8} \\
&=&\frac{5}{36}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。

 

演習問題

問題(積の法則)
箱の中に赤いボールと青いボールと黄色いボールが\(5\)個ずつ、合計\(15\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(2\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、\(1\)回目に取り出したボールを箱に戻さずに\(2\)回目のボールを取り出すものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。「\(1\)回目に赤が出て\(2\)回目に青が出る」という事象の確率を求めてください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(積の法則)
箱の中に赤いボールと青いボールが\(5\)個ずつ、合計\(10\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(2\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、\(1\)回目に取り出したボールを箱に戻さずに\(2\)回目のボールを取り出すものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。「\(1\)回目に赤が、\(2\)回目に青が、\(3\)回目に赤が、\(4\)回目に青が出る」という事象の確率を求めてください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

前のページ:

条件付き確率

次のページ:

全確率の定理

Twitter
Mailで保存

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

積事象

事象 A と事象 B の共通部分として定義される事象を A と B の積事象と呼びます。これは「A と B の双方が起こる」という現象に相当する事象です。また、A と B の積事象が空事象であるとき、A と B はお互いに排反事象であると言います。

数え上げに関する積の法則

複数の選択肢のグループから1つずつ選択する場合の選び方の数を求めるためには、それぞれのグループに含まれる選択肢の数を数え、それらの積をとります。これを積の法則と呼びます。

積事象の確率

積事象は可測です。2つの事象の確率とそれらの和事象の確率が分かっている場合、積事象の確率は加法定理から導くことができます。和事象の確率が不明である場合、ボンフェローニの不等式を利用すれば積事象の確率の範囲を絞ることができます。

離散型確率変数の条件付き分布関数

2つの離散型確率変数の一方が特定の値をとるという条件のもとでの他方の確率変数の確率分布を条件付き確率分布と呼びます。条件付き確率分布は条件付き分布関数によって表現することもできます。

条件付き確率

試行によって事象 A が起きているか否かは観察できないものの、何らかの事情により、別の事象 B が起きているか否かは観察可能である場合(もしくは、事象 B が起きているものと仮定する場合)には、事象 A が起こる確率を条件付き確率という概念のもとで評価することができます。

全確率の定理

ある事象の確率を直接求めることが困難である場合、起こり得るすべての状況が排反事象に分割可能であれば、問題としている事象を分割することにより、その確率を容易に求めることができます。

ベイズの定理

「事象Aが起きたという前提のもと、その後に事象Bが起こる確率」が判明している場合には、ベイズの定理を利用することにより、「事象Bが起きたことが観察された場合、それ以前に、前提として事象Aが起こっていた確率」を特定できます。

2つの事象の独立性

事象Bが起こるかどうかが事象Aが起こる確率に影響を与えない場合、これらの事象は独立であると言います。これは、2つの事象の積事象の確率が個々の事象の確率の積と一致することとして定式化されます。

有限個の事象の独立性

有限個の事象が独立であることの意味を定義するとともに、その代表的な性質について解説します。