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確率

積事象の確率と条件付き確率(乗法定理)

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全確率の定理

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条件付き確率から積事象の確率を求める(積の法則)

問題としている試行に関する確率空間\(\left(\Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)を任意に選ぶと、加法定理より、\begin{equation*}P\left( A\cup B\right) =P\left( A\right) +P\left( B\right) -P\left( A\cap
B\right)
\end{equation*}が成り立ちますが、これを変形することにより、\begin{equation*}
P\left( A\cap B\right) =P\left( A\right) +P\left( B\right) -P\left( A\cup
B\right)
\end{equation*}を得ます。つまり、事象\(A,B\)および和事象\(A\cup B \)の確率をそれぞれ特定できる場合には、以上の関係を用いることにより積事象\(A\cap B\)の確率を求めることができるということです。

積事象の確率を求める手段として条件付き確率を利用することもできます。具体的には、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)を任意に選んだ場合に、\begin{equation*}P\left( B\right) >0
\end{equation*}が成り立つ場合には、すなわち、事象\(B\)が起きたことが観察された場合(もしくは、事象\(B\)が起きているものと仮定する場合)には、事象\(B\)が起きたという条件のもとでの事象\(A\)の条件付き確率に関して、\begin{equation*}P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}という関係が成り立つため、これを変形することにより、\begin{equation*}
P\left( A\cap B\right) =P\left( A|B\right) \cdot P\left( B\right)
\end{equation*}を得ます。これを積の法則(multiplication rule for conditional probabilities)と呼びます。

命題(積の法則)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)をそれぞれ任意に選ぶ。このとき、\begin{equation*}P\left( B\right) >0
\end{equation*}が成り立つならば、以下の関係\begin{equation*}
P\left( A\cap B\right) =P\left( A|B\right) \cdot P\left( B\right)
\end{equation*}が成り立つ。

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つまり、事象\(B\)が起きたことが観察されており(もしくは、事象\(B\)が起きているものと仮定し)、なおかつその確率\(P\left( B\right) \)と条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)をそれぞれ特定できる場合には、それらの積をとることにより積事象の確率\(P\left( A\cap B\right) \)が得られるということです。2つの事象\(A,B\)の立場を逆にした主張もまた成り立ちます。つまり、\begin{equation*}P\left( A\right) >0
\end{equation*}が成り立つ場合には、\begin{equation*}
P\left( A\cap B\right) =P\left( B|A\right) \cdot P\left( A\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

例(積の法則)
箱の中に赤いボールと青いボールが\(5\)個ずつ、合計\(10\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(2\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、\(1\)回目に取り出したボールを箱に戻さずに\(2\)回目のボールを取り出すものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。以下の事象\begin{equation}1\text{回目に赤が出て}2\text{回目に青が出る} \quad \cdots (1)
\end{equation}の確率を求めます。事象\(A,B\)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}A &:&1\text{回目に赤が出る} \\
B &:&2\text{回目に青が出る}
\end{eqnarray*}とそれぞれ定義するのであれば、問題としている事象\(\left( 1\right) \)は、\begin{equation*}A\cap B
\end{equation*}と定式化されます。積の法則より、\begin{equation}
P\left( A\cap B\right) =P\left( A\right) \cdot P\left( B|A\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。\(P\left(A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出る確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A\right) =\frac{5}{10}
\end{equation*}となります。\(P\left( B|A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出たことが観察された場合に\(2\)回目に青が出る条件付き確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A\right) =\frac{5}{9}
\end{equation*}となります。これらと\(\left( 2\right) \)より、\begin{eqnarray*}P\left( A\cap B\right) &=&\frac{5}{10}\cdot \frac{5}{9} \\
&=&\frac{5}{18}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。

 

積の法則の一般化

積の法則を以下のように一般化することもできます。

命題(積の法則)
確率空間\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)が与えられたとき、有限\(n\in \mathbb{N} \)個の事象\(A_{1},\cdots ,A_{n-1},A_{n}\in \mathcal{F}\)をそれぞれ任意に選ぶ。このとき、\begin{equation*}P\left( A_{1}\cap \cdots \cap A_{n-1}\right) >0
\end{equation*}が成り立つならば、以下の関係\begin{equation*}
P\left( A_{1}\cap \cdots \cap A_{n}\right) =P\left( A_{1}\right) \cdot
P\left( A_{2}|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{3}|A_{1}\cap A_{2}\right) \cdots
P\left( A_{n}|A_{1}\cap \cdots \cap A_{n-1}\right)
\end{equation*}が成り立つ。

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このままでは分かりづらいため、\(n\)に具体的な数を入れてみます。

例(積の法則)
3個の事象\(A_{1},A_{2},A_{3}\in \mathcal{F}\)をついて、\begin{equation*}P\left( A_{1}\cap A_{2}\right) >0
\end{equation*}が成り立つ場合には、先の命題より、\begin{equation*}
P\left( A_{1}\cap A_{2}\cap A_{3}\right) =P\left( A_{1}\right) \cdot P\left(
A_{2}|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{3}|A_{1}\cap A_{2}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

例(積の法則)
4個の事象\(A_{1},A_{2},A_{3},A_{4}\in \mathcal{F}\)をついて、\begin{equation*}P\left( A_{1}\cap A_{2}\cap A_{3}\right) >0
\end{equation*}が成り立つ場合には、先の命題より、\begin{equation*}
P\left( A_{1}\cap A_{2}\cap A_{3}\cap A_{4}\right) =P\left( A_{1}\right)
\cdot P\left( A_{2}|A_{1}\right) \cdot P\left( A_{3}|A_{1}\cap A_{2}\right)
\cdot P\left( A_{4}|A_{1}\cap A_{2}\cap A_{3}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

例(積の法則)
箱の中に赤いボールと青いボールが\(5\)個ずつ、合計\(10\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(3\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、各回に取り出したボールは箱に戻さないものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。以下の事象\begin{equation}1\text{回目に赤、}2\text{回目に青、}3\text{回目に赤が出る} \quad \cdots (1)
\end{equation}の確率について考えます。事象\(A,B,C\)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}A &:&1\text{回目に赤が出る} \\
B &:&2\text{回目に青が出る} \\
C &:&3\text{回目に赤が出る}
\end{eqnarray*}とそれぞれ定義するのであれば、問題としている事象\(\left( 1\right) \)は、\begin{equation*}A\cap B\cap C
\end{equation*}と定式化されます。積の法則より、\begin{equation}
P\left( A\cap B\cap C\right) =P\left( A\right) \cdot P\left( B|A\right)
\cdot P\left( C|A\cap B\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。\(P\left(A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出る確率」であるため、\begin{equation*}P\left( A\right) =\frac{5}{10}
\end{equation*}となります。\(P\left( B|A\right) \)は「\(1\)回目に赤が出たことが観察された場合に\(2\)回目に青が出る条件付き確率」であるため、\begin{equation*}P\left( B|A\right) =\frac{5}{9}
\end{equation*}となります。\(P\left( C|A\cap B\right) \)は「\(1\)回目に赤が、\(2\)回目に青が出たことが観察された場合に\(3\)回目に赤が出る条件付き確率であるため、\begin{equation*}P\left( C|A\cap B\right) =\frac{4}{8}
\end{equation*}となります。これらと\(\left( 2\right) \)より、\begin{eqnarray*}P\left( A\cap B\cap C\right) &=&\frac{5}{10}\cdot \frac{5}{9}\cdot \frac{4}{8} \\
&=&\frac{5}{36}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。

 

演習問題

問題(非復元抽出と積の法則)
箱の中に赤いボールと青いボールと黄色いボールが\(5\)個ずつ、合計\(15\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(2\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、\(1\)回目に取り出したボールを箱に戻さずに\(2\)回目のボールを取り出すものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。「\(1\)回目に赤が出て\(2\)回目に青が出る」という事象の確率を求めてください。
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問題(非復元抽出と積の法則)
箱の中に赤いボールと青いボールが\(5\)個ずつ、合計\(10\)個のボールが入っています。「箱からボールを\(1\)個ずつ順番に、合計\(2\)回ランダムに取り出す」という試行について考えます。ただし、\(1\)回目に取り出したボールを箱に戻さずに\(2\)回目のボールを取り出すものとします。また、すべての標本点は同じ程度の確かさで起こるものと仮定します。「\(1\)回目に赤、\(2\)回目に青、\(3\)回目に赤、\(4\)回目に青が出る」という事象の確率を求めてください。
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問題(非復元抽出と積の法則)
箱の中に\(30\)個の乾電池が入っています。そのうちの\(5\)個は使い物になりませんが、残りの\(25\)個はまだ使えます。箱の中から\(3\)個の乾電池をランダムかつ順番にとり出します。ただし、とり出した乾電池は箱の中に戻しません。とり出した\(3\)個がいずれも使い物にならない確率を求めてください。
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関連知識

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