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モンティ・ホール問題(事前確率と事後確率)

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モンティ・ホール問題

モンティ・ホール問題(Monty Hall problem)とは、米国のテレビ番組「Let’s Make a Deal」に由来する確率論の問題です。番組の司会者モンティ・ホール(Monty Hall)にちなんでいます。問題の内容は以下の通りです。

問題(モンティ・ホール問題)
目の前に3つの扉があります。そのうち1つの扉の向こうには車(当たり)があり、残りの2つの扉の向こうにはヤギ(はずれ)がいます。司会者はどの扉が当たりであるかを知っていますが、参加者は当たりの扉を知りません。参加者は、最初に1つの扉を選びます。まだ扉は開きません。続いて司会者は、残りの2つの扉のうち、ヤギがいる扉を1つ開けます。その後、司会者は参加者に対して「選んだ扉を変えるか」と質問します。参加者は「最初に自分が選んだ扉をそのまま開ける」か「第3の扉を開けるか」のどちらか一方を選びます。参加者はどちらを選ぶべきでしょうか。

参加者が最初に選ぶ扉を\(A\)と呼び、司会者が選ぶ扉を\(B\)と呼び、第3の扉を\(C\)と呼ぶこととします。3つの扉のうちの1つが当たりであるため、司会者によるヒントが存在しない場合には、\(A,B,C\)のどれを選んだ場合でも、それが当たりである確率は\(\frac{1}{3}\)です。

ある人がこの問題に対して「第3の扉を開ける」と投稿しました。その根拠は、扉を変更した場合に当たる確率が\(2\)倍になる、というものでした。つまり、司会者によるヒントがない場合には\(C\)が当たりである確率は\(\frac{1}{3}\)である一方で、司会者によるヒントがある場合には\(C\)が当たりである確率が\(\frac{2}{3}\)へ上昇するという言い分です。この回答に対して、番組の視聴者から批判が殺到しました。視聴者たちの言い分は、司会者によるヒントがある場合でも、残された2つの扉のうちの一方が当たりである確率は\(\frac{1}{2}\)であるから、\(C\)が当たりである確率は\(\frac{2}{3}\)にはならない、というものでした。

 

モンティ・ホール問題の解

以下の事象\begin{eqnarray*}
A &:&A\text{が当たり} \\
B &:&B\text{が当たり} \\
C &:&C\text{が当たり}
\end{eqnarray*}を定義します。それぞれの扉は当たりかはずれのどちらか一方であるため、これらの事象の余事象は、\begin{eqnarray*}
A^{c} &:&A\text{がはずれ} \\
B^{c} &:&B\text{がはずれ} \\
C^{c} &:&C\text{がはずれ}
\end{eqnarray*}です。

3つの扉のうちの1つが当たりであるため、司会者によるヒントが存在しない場合の事前確率は、\begin{equation*}
P\left( A\right) =P\left( B\right) =P\left( C\right) =\frac{1}{3}
\end{equation*}となります。

司会者によるヒントが存在する状況において扉\(C\)が当たりである事後確率を特定するためには条件付き確率\begin{equation*}P\left( C|B^{c}\right)
\end{equation*}を評価することになります。ただし、司会者によるヒントがある場合には扉\(B\)がはずれであることが確定するため、参加者が最初に選んだ扉\(A\)または第3の扉\(C\)のどちらか一方が当たりであることが確定します。したがって、以下の関係\begin{equation}P\left( C|B^{c}\right) =1-P\left( A|B^{c}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。そこで、まずは\(P\left( A|B^{c}\right) \)を特定します。

先の議論より、\begin{equation}
P\left( A\right) =\frac{1}{3} \quad \cdots (2)
\end{equation}です。したがって、\begin{eqnarray*}
P\left( A^{c}\right) &=&1-P\left( A\right) \\
&=&1-\frac{1}{3} \\
&=&\frac{2}{3}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
P\left( A^{c}\right) =\frac{2}{3} \quad \cdots (3)
\end{equation}を得ます。また、司会者はどの扉が当たりであるかを知っており、残された2つの扉の中から必ずはずれを選んで開くため、\begin{equation}
P\left( B^{c}|A\right) =P\left( B^{c}|A^{c}\right) =1 \quad \cdots (4)
\end{equation}です。以上を踏まえると、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B^{c}\right) &=&\frac{P\left( B^{c}|A\right) \cdot P\left(
A\right) }{P\left( B^{c}\right) }\quad \because \text{ベイズの定理} \\
&=&\frac{P\left( B^{c}|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left(
B^{c}|A\right) \cdot P\left( A\right) +P\left( B^{c}|A^{c}\right) \cdot
P\left( A^{c}\right) }\quad \because \text{全確率の定理} \\
&=&\frac{1\cdot \frac{1}{3}}{1\cdot \frac{1}{3}+1\cdot \frac{2}{3}}\quad
\because \left( 2\right) ,\left( 3\right) ,\left( 4\right) \\
&=&\frac{1}{3}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。したがって、\begin{equation}
P\left( A|B^{c}\right) =P\left( A\right) =\frac{1}{3} \quad \cdots (5)
\end{equation}が成り立ちます。つまり、司会者によるヒントの有無は、参加者が最初に選んだ扉\(A\)が正解である確率には影響を与えないということです。その一方で、\begin{eqnarray*}P\left( C|B^{c}\right) &=&1-P\left( A|B^{c}\right) \quad \because \left(
1\right) \\
&=&1-\frac{1}{3}\quad \because \left( 5\right) \\
&=&\frac{2}{3}
\end{eqnarray*}となります。したがって、\begin{equation*}
P\left( C|B^{c}\right) =\frac{2}{3}>\frac{1}{3}=P\left( C\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、司会者によるヒントがある場合には、参加者が第3の扉\(C\)を選んだ場合に当たりを掴む確率が\(2\)倍になるということです。以上より、司会者によるヒントがある場合には、参加者は扉を変更して第3の扉を開けた方がよいことが明らかになりました。

 

モンティ・ホール問題の核心は確率の更新

モンティ・ホール問題の核心は、追加的な情報を活用した確率の更新にあります。事前確率では、どの扉も当たりである確率は\(\frac{1}{3}\)です。ただし、司会者は当たりの扉を知っており、その上で「必ずはずれの扉を開ける」というルールにしたがうため、参加者は司会者が明かした「はずれの扉」という追加的な情報を活用して事前確率を修正できます。事前確率から事後確率への変化を正しく評価するために使われるのがベイズの定理です。その結果、第3の扉を選んだ場合に正解を勝ち取る確率が\(\frac{2}{3}\)へと更新されます。

では、司会者が「必ずはずれの扉を開ける」というルールに従わず、「参加者が最初に選ばなかった2つの扉の中からどちらか一方をランダムに選ぶ」場合にはどうなるでしょうか。ただし、結果として、司会者が選んだ扉がはずれである状況を想定します。つまり、司会者は確定的にはずれの扉を選んでいるのではなく、ランダムな意思決定の帰結としてたまたまはずれの扉を選んでいるため、そのような情報は参加者が確率を更新する上で有用ではない可能性があります。以下で具体的に検討します。

問題(改変されたモンティ・ホール問題)
目の前に3つの扉があります。そのうち1つの扉の向こうには車(当たり)があり、残りの2つの扉の向こうにはヤギ(はずれ)がいます。司会者と参加者はいずれも当たりの扉を知りません。参加者は、最初に1つの扉を選びます。まだ扉は開きません。続いて司会者は、残りの2つの扉のうち、どちらか一方をランダムに選びます。その結果、司会者が選んだ扉がはずれであった状況を想定します。その後、司会者は参加者に対して「選んだ扉を変えるか」と質問します。参加者は「最初に自分が選んだ扉をそのまま開ける」か「第3の扉を開けるか」のどちらか一方を選びます。参加者はどちらを選ぶべきでしょうか。

以下の事象\begin{eqnarray*}
A &:&A\text{が当たり} \\
B &:&B\text{が当たり} \\
C &:&C\text{が当たり}
\end{eqnarray*}を定義します。それぞれの扉は当たりかはずれのどちらか一方であるため、これらの事象の余事象は、\begin{eqnarray*}
A^{c} &:&A\text{がはずれ} \\
B^{c} &:&B\text{がはずれ} \\
C^{c} &:&C\text{がはずれ}
\end{eqnarray*}です。

3つの扉のうちの1つが当たりであるため、司会者によるヒントが存在しない場合の事前確率は、\begin{equation*}
P\left( A\right) =P\left( B\right) =P\left( C\right) =\frac{1}{3}
\end{equation*}となります。

司会者によるヒントが存在する状況において扉\(C\)が当たりである事後確率を特定するためには条件付き確率\begin{equation*}P\left( C|B^{c}\right)
\end{equation*}を評価することになります。ただし、司会者によるヒントがある場合には扉\(B\)がはずれであることが確定するため、参加者が最初に選んだ扉\(A\)または第3の扉\(C\)のどちらか一方が当たりであることが確定します。したがって、以下の関係\begin{equation}P\left( C|B^{c}\right) =1-P\left( A|B^{c}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。そこで、まずは\(P\left( A|B^{c}\right) \)を特定します。

先の議論より、\begin{equation}
P\left( A\right) =\frac{1}{3} \quad \cdots (2)
\end{equation}です。したがって、\begin{eqnarray*}
P\left( A^{c}\right) &=&1-P\left( A\right) \\
&=&1-\frac{1}{3} \\
&=&\frac{2}{3}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
P\left( A^{c}\right) =\frac{2}{3} \quad \cdots (3)
\end{equation}を得ます。ここからが先とは異なり、司会者は残された2つの扉の中から一方をランダムに選びます。\(A\)がはずれであるという条件のもとで\(B\)がはずれである確率は、\begin{equation}P\left( B^{c}|A^{c}\right) =\frac{1}{2} \quad \cdots (4)
\end{equation}です。また、\(A\)があたりであるという条件のもとで\(B\)がはずれである確率は、\begin{equation}P\left( B^{c}|A\right) =1 \quad \cdots (5)
\end{equation}です。以上を踏まえると、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B^{c}\right) &=&\frac{P\left( B^{c}|A\right) \cdot P\left(
A\right) }{P\left( B^{c}\right) }\quad \because \text{ベイズの定理} \\
&=&\frac{P\left( B^{c}|A\right) \cdot P\left( A\right) }{P\left(
B^{c}|A\right) \cdot P\left( A\right) +P\left( B^{c}|A^{c}\right) \cdot
P\left( A^{c}\right) }\quad \because \text{全確率の定理} \\
&=&\frac{1\cdot \frac{1}{3}}{1\cdot \frac{1}{3}+\frac{1}{2}\cdot \frac{2}{3}}\quad \because \left( 2\right) ,\left( 3\right) ,\left( 4\right) ,\left(
5\right) \\
&=&\frac{1}{2}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。その一方で、\begin{eqnarray*}
P\left( C|B^{c}\right) &=&1-P\left( A|B^{c}\right) \quad \because \left(
1\right) \\
&=&1-\frac{1}{2} \\
&=&\frac{1}{2}
\end{eqnarray*}となります。したがって、\begin{equation*}
P\left( A|B^{c}\right) =P\left( C|B^{c}\right) =\frac{1}{2}
\end{equation*}を得ます。以上より、司会者がランダムに扉を選んだ結果、たまたまそれがはずれである場合には、参加者は扉を変更して第3の扉を開ける方がよいとは言えないことが明らかになりました。

オリジナルのモンティ・ホール問題では、司会者が当たりの扉を知っており、参加者が最初に選んだ扉が当たりとはずれのどちらであるかに関わらず、司会者は必ずはずれのドアを選択します。つまり、以下の条件\begin{equation*}
P\left( B^{c}|A\right) =P\left( B^{c}|A^{c}\right) =1
\end{equation*}が成り立つ状況を想定するということです。一方、改変されたモンティ・ホール問題では、司会者は残された2つのドアのうちの一方をランダムに選ぶため、参加者が最初に選んだ扉が当たりである場合とはずれである場合のそれぞれにおいて、司会者がはずれのドアを選ぶ確率が変わってしまいます。つまり、以下の条件\begin{equation*}
P\left( B^{c}|A^{c}\right) =\frac{1}{2}\not=1=P\left( B^{c}|A\right)
\end{equation*}が成り立ちます。この違いが、ベイズの定理を用いた計算結果の違いへと反映されることになります。

 

演習問題

問題(改変されたモンティ・ホール問題)
目の前に3つの扉があります。そのうち1つの扉の向こうには車(当たり)があり、残りの2つの扉の向こうにはヤギ(はずれ)がいます。参加者は当たりの扉を知りません。参加者は、最初に1つの扉を選びます。まだ扉は開きません。続いて参加者は、残りの2つの扉のうちの一方を開けます。その結果、その扉がはずれであった状況を想定します。その後、参加者は「最初に自分が選んだ扉をそのまま開ける」か「第3の扉を開けるか」のどちらか一方を選びます。参加者はどちらを選ぶべきでしょうか。

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問題(n個のドアが存在する場合のモンティ・ホール問題)
\(n\geq 3\)とします。目の前に\(n\)個の扉があります。そのうち1つの扉の向こうには車(当たり)があり、残りの\(n-1\)個の扉の向こうにはヤギ(はずれ)がいます。司会者はどの扉が当たりであるかを知っていますが、参加者は当たりの扉を知りません。参加者は、最初に1つの扉を選びます。まだ扉は開きません。続いて司会者は、残りの\(n-1\)個の扉のうち、ヤギがいる\(n-2\)個の扉を開けます。その後、司会者は参加者に対して「選んだ扉を変えるか」と質問します。参加者は「最初に自分が選んだ扉をそのまま開ける」か「扉を変えるか」のどちらか一方を選びます。参加者はどちらを選ぶべきでしょうか。また、\(n\)が増えると結果はどのように変わるでしょうか。
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