条件付き確率

試行によって事象 A が起きているか否かは観察できないものの、何らかの事情により、別の事象 B が起きているか否かは観察可能である場合(もしくは、事象 B が起きているものと仮定する場合)には、事象 A が起こる確率を条件付き確率という概念のもとで評価することができます。

条件付き確率

ある試行に関する確率空間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)が与えられているものとします。試行の結果はランダムネスによって支配されているため、試行の結果を観察する前の時点において、事象\(A\in \mathcal{F}\)が起きているか否かを確定的に知ることはできず、事象\(A\)が起こる確率\(P\left( A\right) \)を考えざるを得ません。では、試行によって事象\(A\)が起きているか否かは観察できないものの、何らかの事情により、別の事象\(B\in \mathcal{F}\)が起きているか否かは観察可能である場合(もしくは、事象\(B\)が起きているものと仮定する場合)には、事象\(A\)が起こる確率をどのように評価すべきでしょうか。この場合にも事象\(A\)の確率を\(P\left( A\right) \)と評価したのでは、事象\(B\)が起きているという追加的な情報を活用できておらず、望ましくありません。したがって、ある事象が起きたことを前提とした上で別の事象が起こる確率を評価する際には、通常の確率とは異なる新たな概念が必要になります。

確率空間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)が与えられたとき、2 つの事象\(A,B\in \mathcal{F}\)について、事象\(B\)が起きたことを前提としたときに事象\(A\)が起こる確率を、事象\(B\)が起きたという条件のもとでの事象\(A\)の条件付き確率(conditional probability of the event \(A\) given that the event \(B\) has occurred)と呼び、これを、\begin{equation*}
P\left( A|B\right)
\end{equation*}で表します。では、この条件付き確率を具体的にどのように定義すべきでしょうか。直感的に明らかな事実を出発点として考察します。

ある試行の標本空間\(\Omega \)が高々可算集合(有限集合または可算集合)であるとともに、その確率空間が\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)で与えられているものとします。\(\Omega \)は高々可算集合であるため、事象集合は\(\mathcal{F}=2^{\Omega }\)です。このとき、事象\(B\in \mathcal{F}\)が起きたという条件のもとでの事象\(A\in \mathcal{F}\)の条件付き確率をどのように評価すればよいでしょうか。ここでのポイントは、事象\(B\)が起きたことはすでに分かっているため、試行によって実現した標本点は事象\(B\)の要素であることは確かであるということです。したがって、標本空間を\(\Omega \)から\(B\)へと縮小できます。以上の考察を踏まえると、事象\(B\)が起きたという条件のもとでの事象\(A\)の条件付き確率について考える際には、新たな確率空間\begin{equation*}
\left( B,2^{B},P(\cdot |B)\right)
\end{equation*}を採用することになります。この新たな確率関数\(P(\cdot |B):2^{B}\rightarrow \mathbb{R}\)にあわせて確率論の公理を書き換えましょう。まず、確率空間において全事象の確率は\(1\)であるため、\begin{equation}
P\left( B|B\right) =\sum_{\omega \in B}P\left( \{\omega \}|B\right) =1
\tag{1}
\end{equation}である必要があります。\(\left( 1\right) \)と整合性を保つためには、それぞれの標本点\(\omega \in B\)に対して、根元事象の条件付き確率を、\begin{equation}
P\left( \{\omega \}|B\right) =\frac{P\left( \{\omega \}\right) }{\sum_{\omega \in B}P\left( \{\omega \}\right) }=\frac{P\left( \{\omega
\}\right) }{P\left( B\right) } \tag{2}
\end{equation}と定める必要があります。実際、\(\left( 2\right) \)が成り立つとき、\begin{eqnarray*}
P\left( B|B\right) &=&\sum_{\omega \in B}P\left( \{\omega \}|B\right) \\
&=&\sum_{\omega \in B}\frac{P\left( \{\omega \}\right) }{P\left( B\right) }\quad \because \left( 2\right) \\
&=&\frac{P\left( B\right) }{P\left( B\right) } \\
&=&1
\end{eqnarray*}となりますが、これは\(\left( 1\right) \)に他なりません。以上を踏まえると、それぞれの事象\(A\in 2^{B}\)の条件付き確率は、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B\right) &=&\sum_{\omega \in A}P\left( \{\omega \}|B\right) \\
&=&\sum_{\omega \in A}\frac{P\left( \{\omega \}\right) }{P\left( B\right) }\quad \because \left( 2\right) \\
&=&\frac{P\left( A\right) }{P\left( B\right) }
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\right) }{P\left( B\right) } \tag{3}
\end{equation}となります。

上のように構成される確率空間は\(\left( B,2^{B},P(\cdot |B)\right) \)は、\(2^{B}\)の要素、すなわち\(B\)の部分集合であるような事象\(A\)に対してのみ、その条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)を特定します。では、\(B\)の部分集合とは限らない事象\(A\in \mathcal{F}\)に対しては、その条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)をどのように定義すればよいでしょうか。まず、\(A\not\subset B\)かつ\(A\cap B\not=\phi \)を満たす事象\(A\in \mathcal{F}\)について考えます。この場合、事象\(A\)に属する標本点の中でも事象\(B\)と整合的な標本点は\(A\cap B\)に属するものだけです。\(A\cap B\subset B\)であることを踏まえると、この場合には、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B\right) &=&\sum_{\omega \in A\cap B}P\left( \left\{ \omega
\right\} |B\right) \\
&=&\sum_{\omega \in A\cap B}\frac{P\left( \{\omega \}\right) }{P\left(
B\right) }\quad \because \left( 2\right) \\
&=&\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\tag{4}
\end{equation}となります。続いて、\(A\not\subset B\)かつ\(A\cap B=\phi \)を満たす事象\(A\in \mathcal{F}\)について考えます。この場合、事象\(A,B\)は同時に起こらないため、明らかに\(P\left( A|B\right) =0\)が成り立ちます。ただし、\(A\cap B=\phi \)であるときの\(\left( 4\right) \)は、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B\right) &=&\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }\quad \because \left( 4\right) \\
&=&\frac{P\left( \phi \right) }{P\left( B\right) }\quad \because A\cap
B=\phi \\
&=&\frac{0}{P\left( B\right) }\quad \because P\left( \phi \right) =0 \\
&=&0
\end{eqnarray*}となるため、\(\left( 4\right) \)は\(A\not\subset B\)かつ\(A\cap B=\phi \)の場合を包括した表現になっています。最後に、\(A\subset B\)を満たす事象\(A\in \mathcal{F}\)について考えます。この場合、\(\left( 3\right) \)より\(P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\right) }{P\left( B\right) }\)が成り立ちます。ただし、\(A\subset B\)であるときの\(\left( 4\right) \)は、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B\right) &=&\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }\quad \because \left( 4\right) \\
&=&\frac{P\left( A\right) }{P\left( B\right) }\quad \because A\subset B
\end{eqnarray*}となるため、\(\left( 4\right) \)は\(A\subset B\)の場合も包括した表現になっています。以上の議論より、条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)の定義としては\(\left( 4\right) \)がもっともらしいと言えます。

これまでは標本空間\(\Omega \)が高々可算集合の場合について考えてきましたが、標本空間\(\Omega \)が非可算集合である場合にも、条件付き確率を同様に定義します。確率区間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)が与えられたとき、事象\(A,B\in \mathcal{F}\)を任意に選びます。ただし、\(P\left( B\right) >0\)であるものとします。このとき、\begin{equation*}
P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}と定義される値を、事象\(B\)が起こるという条件のもとでの事象\(A\)の条件付き確率と呼びます。

例(条件付き確率)
偏りのないサイコロを 2 回振り、1 回目に\(6\)の目が出たことが分かっている場合に、2 回の目の和が\(10\)以上になる確率を考えます。まず、この試行を表す確率空間を定式化します。「サイコロを 2 回振る」という試行の標本空間を\(\Omega \)で表し、標本点を\(\omega \in \left( \omega _{1},\omega _{2}\right) \)で表します。ただし、\(\omega _{i}\in \{1,2,3,4,5,6\}\)は\(i\in \{1,2\}\)回目に出る目を表します。標本空間\(\Omega \)は有限集合であるため、事象集合を\(\mathcal{F}=2^{\Omega }\)とします。偏りのないサイコロを使うため、確率関数\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R}\)はそれぞれの標本点\(\omega \in \Omega \)に対して、\begin{equation}
P\left( \{\omega \}\right) =\frac{1}{36} \tag{1}
\end{equation}を定めるものと仮定します。それぞれの事象\(A\in \mathcal{F}\)について、その確率を、\begin{equation}
P\left( A\right) =\sum_{\omega \in A}P\left( \{\omega \}\right) \tag{2}
\end{equation}と定めます。以上の\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)は明らかに確率空間です。この試行において、1 回目に\(6\)の目が出たことが分かっている場合に、2 回の目の和が\(10\)以上になる確率は、以下の 2 つの事象\begin{eqnarray*}
A &:&\text{2 回の目の和が}10\text{以上} \\
B &:&\text{1 回目の目が}6
\end{eqnarray*}に関する条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)として表現されます。そこで、\begin{eqnarray*}
A\cap B &=&\left\{ \left( 6,4\right) ,\left( 6,5\right) ,\left( 6,6\right)
\right\} \\
B &=&\left\{ \left( 6,1\right) ,\left( 6,2\right) ,\left( 6,3\right) ,\left(
6,4\right) ,\left( 6,5\right) ,\left( 6,6\right) \right\}
\end{eqnarray*}であることを踏まえると、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B\right) &=&\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }\quad \because \text{条件付き確率の定義} \\
&=&\sum\limits_{\omega \in A\cap B}P\left( \{\omega \}\right)
/\sum\limits_{\omega \in B}P\left( \{\omega \}\right) \quad \because \left(
2\right) \\
&=&\frac{3}{36}/\frac{6}{36}\quad \because \left( 1\right) \\
&=&\frac{1}{2}
\end{eqnarray*}となります。
例(条件付き確率)
ある病気に感染しているか否かを判定する検査方法が新たに開発されたとします。この検査の信頼性を調べるため、感染者に対してこの検査を実施したところ、\(90\%\)の人は陽性と正しく判定されましたが、残りの\(10\%\)の人は陰性と誤って判定されてしまいました。また、非感染者に対してもこの検査を実施したところ、\(80\%\)の人は陰性と正しく判定されましたが、残りの\(20\%\)の人は陽性と誤って判定されてしまいました。さて、運用段階になり、ある集団の中から 1 人をランダムに選んでこの検査を実施したところ、その人は陽性と判定されました。このとき、この人が実際に感染者である確率はどの程度でしょうか。ただし、この人が実際に感染者であるかは否かは不明ですが、問題としている集団における感染者の割合が\(5\%\)であることは分かっているものとします。まず、この試行を表す確率空間を定式化します。「集団から 1 人をランダムに選んで検査を行う」という試行の標本空間を\(\Omega \)で表し、標本点を\(\omega =\left( \omega _{1},\omega _{2}\right) \)で表します。ただし、\(\omega _{1}\in \{0,1\}\)であり、\(0\)はこの人が感染者であることに、\(1\)はこの人が非感染者であることにそれぞれ対応します。また、\(\omega _{2}\in \{P,N\}\)であり、\(P\)は検査において陽性であることに、\(N\)は検査において陰性であることにそれぞれ対応します。したがって、標本空間は\(\Omega =\{0,1\}\times \{P,N\}\)という有限集合であるため、試行集合を\(\mathcal{F}=2^{\Omega }\)と定めます。確率関数\(P:\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R}\)がそれぞれの根元事象に対して定める確率は、\begin{eqnarray}
P\left( \left\{ \left( 0,P\right) \right\} \right) &=&\frac{5}{100}\cdot
\frac{90}{100}=\frac{9}{200} \tag{1} \\
P\left( \left\{ \left( 0,N\right) \right\} \right) &=&\frac{5}{100}\cdot
\frac{10}{100}=\frac{1}{200} \tag{2} \\
P\left( \left\{ \left( 1,P\right) \right\} \right) &=&\frac{95}{100}\cdot
\frac{20}{100}=\frac{19}{100} \tag{3} \\
P\left( \left\{ \left( 1,N\right) \right\} \right) &=&\frac{95}{100}\cdot
\frac{80}{100}=\frac{76}{100} \tag{4}
\end{eqnarray}です。それぞれの事象\(A\in \mathcal{F}\)について、その確率を、\begin{equation}
P\left( A\right) =\sum_{\omega \in A}P\left( \{\omega \}\right) \tag{5}
\end{equation}と定めます。以上の\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\right) \)は明らかに確率空間です。この試行において、検査において陽性と判定された人が実際に感染者であるという確率は、以下の 2 つの事象\begin{eqnarray*}
A &:&\text{感染者である} \\
B &:&\text{検査で陽性になる}
\end{eqnarray*}に関する条件付き確率\(P\left( A|B\right) \)として表現されます。そこで、\begin{align*}
A\cap B& =\left\{ \left( 0,P\right) \right\} \\
B& =\left\{ \left( 0,P\right) ,\left( 1,P\right) \right\}
\end{align*}であることを踏まえると、\begin{eqnarray*}
P\left( A|B\right) &=&\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }\quad \because \text{条件付き確率の定義} \\
&=&\sum\limits_{\omega \in A\cap B}P\left( \{\omega \}\right)
/\sum\limits_{\omega \in B}P\left( \{\omega \}\right) \quad \because \left(
5\right) \\
&=&\frac{P\left( \left\{ \left( 0,P\right) \right\} \right) }{P\left(
\left\{ \left( 0,P\right) \right\} \right) +P\left( \left\{ \left(
1,P\right) \right\} \right) } \\
&=&\frac{9}{200}/\left( \frac{9}{200}+\frac{19}{100}\right) \quad \because
\left( 1\right) ,\left( 3\right) \\
&=&\frac{9}{47} \\
&\approx &0.19
\end{eqnarray*}となります。ちなみに、陽性と判定された人が実際には非感染者である確率や、陰性と判定された人が実際には感染者である確率、また、陰性と判定された人が実際に非感染者である確率なども、上と同様に条件付き確率として求めることができます。

 

条件付き確率関数は確率関数

直感的に明らかな事実を出発点として条件付き確率の概念を定義しましたが、この定義を何らかの形で正当化できるでしょうか。実は、条件付き確率を定める集合関数は、確率関数としての性質を満たします。

命題(確率関数としての条件付き確率関数)
確率空間\((\Omega ,\mathcal{F},P)\)において、\(P\left( B\right) >0\)を満たす事象\(B\in \mathcal{F}\)を任意に選ぶ。このとき、それぞれの事象\(A\in \mathcal{F}\)に対して、\begin{equation*}
P\left( A|B\right) =\frac{P\left( A\cap B\right) }{P\left( B\right) }
\end{equation*}を定める集合関数\(P\left( \cdot |B\right) :\mathcal{F}\rightarrow \mathbb{R}\)は\(\sigma \)-加法測度である。つまり、\(\left( \Omega ,\mathcal{F},P\left( \cdot |B\right) \right) \)は確率空間である。
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条件付き確率関数\(P\left( \cdot |B\right) \)は確率論の公理を満たすことが明らかになりました。したがって、確率論の公理を用いて導かれた確率関数\(P\)に関する性質は、条件付き確率関数\(P\left( \cdot |B\right) \)にも引き継がれます。例えば、空事象の条件付き確率が\(P\left( \phi |B\right) =0\)であること、余事象の条件付き確率が\(P\left( A^{c}|B\right) =1-P\left( A|B\right) \)を満たすこと、条件付き確率の値がとり得る範囲が\(0\leq P\left( A|B\right) \leq 1\)であること、他にも単調性や減法性、加法定理など、様々な性質がそのまま成り立ちます。

次回は事象の独立性について解説します。

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