有限濃度と可算濃度の大小関係
有限集合\(A\)を任意に選んだとき、何らかの自然数\(n\in \mathbb{N} \)に関して、\begin{equation}\left\vert A\right\vert =\left\vert \mathbb{N} _{n}\right\vert \quad \cdots (1)
\end{equation}という関係が成り立ちます。ただし、\begin{equation*}\mathbb{N} _{n}=\left\{ 1,\cdots ,n\right\}
\end{equation*}です。\(\mathbb{N} _{n}\subset \mathbb{N} \)が成り立つため、濃度の大小関係\(\leq \)の性質より、\begin{equation}\left\vert \mathbb{N} _{n}\right\vert \leq \left\vert \mathbb{N} \right\vert \quad \cdots (2)
\end{equation}を得ます。ただ、\(\mathbb{N} _{n}\)は有限集合である一方で\(\mathbb{N} \)は無限集合であるため、\begin{equation}\left\vert \mathbb{N} _{n}\right\vert \not=\left\vert \mathbb{N} \right\vert \quad \cdots (3)
\end{equation}を得ます。\(\left( 2\right) ,\left( 3\right) \)および集合の濃度の狭義大小関係\(<\)の定義より、\begin{equation*}\left\vert \mathbb{N} _{n}\right\vert <\left\vert \mathbb{N} \right\vert
\end{equation*}が成り立つため、これと\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}A<\left\vert \mathbb{N} \right\vert
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。任意の有限集合について同様の議論が成り立ちます。つまり、可算濃度は任意の有限濃度よりも大きいということです。
\end{equation*}という関係が成り立つ。
可算濃度は最小の無限濃度
可算濃度は任意の有限濃度よりも大きいことが明らかになりました。では、有限濃度よりも大きく可算濃度よりも小さい無限濃度は存在するのでしょうか。つまり、有限集合\(A\)が任意に与えられたとき、\begin{equation*}\left\vert A\right\vert <\left\vert B\right\vert <\left\vert \mathbb{N} \right\vert
\end{equation*}を満たす無限集合\(B\)は存在するのでしょうか。以下で順番に考えます。
まず、選択公理を認める場合、任意の無限集合が可算集合を部分集合として持つことを保証できます。
無限集合\(A\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}B\subset A
\end{equation*}を満たす可算集合\(B\)が存在することが明らかになりました。すると、濃度の大小関係\(\leq \)の性質より、\begin{equation}\left\vert B\right\vert \leq \left\vert A\right\vert \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。\(B\)は可算集合であるため、\begin{equation}\left\vert B\right\vert =\left\vert \mathbb{N} \right\vert \quad \cdots (2)
\end{equation}です。\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)より、\begin{equation*}\left\vert \mathbb{N} \right\vert \leq \left\vert A\right\vert
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。任意の無限集合に関して同様の議論が成立するため、任意の無限集合の濃度は可算濃度以上であること、逆に言えば、可算濃度は最小の無限濃度であることが明らかになりました。
\end{equation*}が成り立つ。ただし、選択公理を認めるものとする。
高々可算集合
これまでの議論を振り返りましょう。まず、有限集合\(A\)を任意に選んだとき、\begin{equation}\left\vert A\right\vert <\left\vert \mathbb{N} \right\vert \quad \cdots (1)
\end{equation}という関係が成り立つことが明らかになりました。また、無限集合\(B\)を任意に選んだとき、\begin{equation}\left\vert \mathbb{N} \right\vert \leq \left\vert B\right\vert \quad \cdots (2)
\end{equation}という関係が成り立つことも明らかになりました。\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)より、有限集合\(A\)と無限集合\(B\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}\left\vert A\right\vert <\left\vert \mathbb{N} \right\vert \leq \left\vert B\right\vert
\end{equation*}という関係が成り立ちます。
\end{equation*}が成り立つ。ただし、選択公理を認めるものとする。
以上の命題より、有限濃度よりも大きく可算濃度よりも小さい無限濃度は存在しないことが明らかになりました。このような事情を踏まえた上で、有限集合と可算集合の総称として高々可算集合(at most countable set)という用語を使う場合もあります。つまり、集合\(A\)が高々可算集合であることとは、その濃度\(\left\vert A\right\vert \)が何らかの有限な自然数\(n\)であるか可算濃度\(\left\vert \mathbb{N} \right\vert \)であるかのどちらか一方であるということです。ただし、「可算集合」という用語を高々可算集合の意味で使う場合もあるため、どちらの意味で使われているかは文脈から判断する必要があります。本稿では可算濃度を持つ集合を「可算集合」と呼ぶとともに、可算集合と有限集合の総称として「高々可算集合」という用語を利用します。
演習問題
- \(A\)は高々可算集合である。
- 全射\(f:\mathbb{N} \rightarrow A\)が存在する。
- 単射\(g:A\rightarrow \mathbb{N} \)が存在する。
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