期待値と期待効用
何らかの行動を選択した場合、実際に起こり得る結果として複数の候補が存在し、なおかつ、その中のどの結果が実際に起こるかが完全に予測できない状況、すなわちランダムネスが成立している状況を想定した上で、そのような状況において意思決定主体が直面する個々の選択肢がクジとして定式化されているものとします。起こり得るすべての結果からなる集合\(X\)が有限集合や可算集合である場合、クジとは、それぞれの結果\(x\in X\)に対して、その結果が起こる確率\(L\left( x\right) \in \mathbb{R} \)を特定する関数\begin{equation*}L:X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として表現されます。一方、結果集合\(X\)が数直線\(\mathbb{R} \)上の区間などの非可算集合である場合、クジ\(L\)は確率密度関数\begin{equation*}f_{L}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として表現されます。主体が直面するすべてのクジからなる集合を\(\mathcal{L}\)で表記します。
クジ\(L\in \mathcal{L}\)のもとでの結果の期待値は、\begin{eqnarray*}E\left( L\right) &=&\sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot x_{n}\right] \quad \because X\text{が有限集合である場合} \\
&=&\sum_{n=1}^{\infty }\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot x_{n}\right] \quad
\because X\text{が可算集合である場合} \\
&=&\int_{-\infty }^{+\infty }xf_{L}\left( x\right) dx\quad \because X\text{が}\mathbb{R} \text{上の区間である場合}
\end{eqnarray*}として定まりますが、サンクトペテルブルクのパラドクスなどが示唆するように、主体は期待値を最大化するようなクジを選択するとは限らないため、期待値とは異なる指標にもとづく意思決定モデルが必要です。
そこで、クジどうしを比較する主体の評価体系がクジ集合\(\mathcal{L}\)上の選好関係\(\succsim \)として表現されているものとします。つまり、2つのクジ\(L,L^{\prime }\in \mathcal{L}\)を任意に選んだときに、以下の関係\begin{equation*}L\succsim L^{\prime }\Leftrightarrow \text{主体は}L\text{を}L^{\prime }\text{以上に好む}
\end{equation*}を満たす\(\mathcal{L}\)上の二項関係として\(\succsim \)が定義されているということです。
クジ集合\(\mathcal{L}\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、ある関数\begin{equation*}U:\mathcal{L}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が存在して、任意のクジ\(L,L^{\prime }\in \mathcal{L}\)に対して、\begin{equation*}U\left( L\right) \geq U\left( L^{\prime }\right) \Leftrightarrow L\succsim
L^{\prime }
\end{equation*}という関係が成り立つ場合には、この関数\(U\)を選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数と呼びます。また、効用関数\(U\)がクジ\(L\)に対して定める値\(U\left( L\right) \)を\(L \)の効用と呼びます。効用関数を用いれば、クジの間の相対的な望ましさを、クジがもたらす効用の大小関係として表現できます。
特に、クジ集合\(\mathcal{L}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(U:\mathcal{L}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれのクジ\(L\in \mathcal{L}\)に対して定める値が、ある関数\begin{equation*}u:\mathbb{R} \supset D\left( u\right) \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を用いて、\begin{eqnarray*}
U\left( L\right) &=&\sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot u\left(
x_{n}\right) \right] \quad \because X\text{が有限集合である場合} \\
&=&\sum_{n=1}^{\infty }\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot u\left(
x_{n}\right) \right] \quad \because X\text{が可算集合である場合} \\
&=&\int_{-\infty }^{+\infty }\left[ u\left( x\right) \cdot f_{L}\left(
x\right) \right] dx\quad \because X\text{が}\mathbb{R} \text{上の区間である場合}
\end{eqnarray*}という形で表される場合、このような効用関数\(U\)を期待効用関数と呼びます。また、期待効用関数\(U\)を構成する関数\(u\)をベルヌーイ効用関数と呼びます。\(D\left( u\right) \)は\(u\)の定義域を表す記号です。
ベルヌーイ関数\(u\)はそれぞれの結果\(x\in X\)に対して、その結果が実際に起こる場合に主体が得る効用\(u\left( x\right) \)を特定する関数です。一方、期待効用関数\(U\)がそれぞれのクジ\(L\)に対して定める利得\(U\left(L\right) \)は、ベルヌーイ関数\(u\)がそれぞれの結果に対して定める効用の期待値です。このような事情を踏まえた上で、期待効用関数\(U\)がクジに\(L\)に対して定める効用\(U\left( L\right) \)については、これをクジ\(L\)の期待効用と呼びます。主体の評価体系はベルヌーイ関数\(u\)の形状として表現されます。
X=\left\{ x_{1},\cdots ,x_{N}\right\} \subset \mathbb{R} \end{equation*}であるとともに、ベルヌーイ関数\(u:\mathbb{R} \supset D\left( u\right) \rightarrow \mathbb{R} \)は恒等関数である状況を想定します。つまり、\begin{equation}\forall x\in D\left( u\right) :u\left( x\right) =x \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つということです。この場合、クジ\(L\in \mathcal{L}\)の期待効用は、\begin{eqnarray*}U\left( L\right) &=&\sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot u\left(
x_{n}\right) \right] \quad \because \text{期待効用関数の定義} \\
&=&\sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot x_{n}\right] \quad
\because \left( 1\right) \\
&=&E\left( L\right) \quad \because \text{期待値の定義}
\end{eqnarray*}となり、これはクジ\(L\)のもとでの結果の期待値と一致します。つまり、期待値を最大化するような主体の評価体系はベルヌーイ関数\(u\)が恒等関数であるような期待効用関数\(U\)として表現されるということです。もちろん、ベルヌーイ関数\(u\)として恒等関数とは異なる関数を採用すれば、期待値とは異なる指標にもとづく意思決定を表現できます。以上より、期待効用関数の概念は期待値の概念の一般化であることが明らかになりました。
リスク回避的
結果集合\(X\subset \mathbb{R} \)が与えられており、クジどうしを比較する主体の選好が期待効用関数\(U:\mathcal{L}\rightarrow \mathbb{R} \)として表現されている状況を想定します。ベルヌーイ関数を\(u:\mathbb{R} \supset D\left( u\right) \rightarrow \mathbb{R} \)で表記します。主体がクジ\(L\in \mathcal{L}\)を選択した場合に直面する期待効用は、\begin{equation*}U\left( L\right)
\end{equation*}ですが、どの結果が実際に起こるかはランダムネスによって支配されているため、主体は期待効用\(U\left(L\right) \)を確実に得られるわけではありません。期待効用\(U\left( L\right) \)はあくまでも結果の効用\(u\left( x\right) \)の期待値です。一方、クジ\(L\in \mathcal{L}\)のもとでの結果の期待値は\(E\left( L\right) \)として定まります。仮に、この期待値を確実に得られるのであれば、その場合の効用はベルヌーイ関数\(u\)を用いて、\begin{equation*}u\left( E\left( L\right) \right)
\end{equation*}と特定されます。以上を踏まえた上で、任意のクジ\(L\in \mathcal{L}\)に対して、主体がそのクジ\(L\)のもとでの結果の期待値\(E\left( L\right) \)を確実に得ることを、そのクジ\(L\)を選択して期待効用\(U\left( L\right) \)に直面すること以上に好む場合には、すなわち、\begin{equation*}\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) \geq U\left(
L\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、その主体はリスク回避的(risk averse)であるとか、危険回避的であるなどと言います。
X=\left\{ x_{1},\cdots ,x_{N}\right\} \subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク回避的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) \geq U\left(
L\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( \sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right)
\cdot x_{n}\right] \right) \geq \sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right)
\cdot u\left( x_{n}\right) \right] \end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
X=\left\{ x_{1},x_{2},\cdots \right\} \subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク回避的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) \geq U\left(
L\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( \sum_{n=1}^{+\infty }\left[ L\left(
x_{n}\right) \cdot x_{n}\right] \right) \geq \sum_{n=1}^{+\infty }\left[
L\left( x_{n}\right) \cdot u\left( x_{n}\right) \right] \end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
X\subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク回避的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) \geq U\left(
L\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( \int_{-\infty }^{+\infty }\left[ x\cdot
f_{L}\left( x\right) \right] dx\right) \geq \int_{-\infty }^{+\infty }\left[
u\left( x\right) \cdot f_{L}\left( x\right) \right] dx
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
主体がリスク回避的であることと、その主体のベルヌーイ関数が凹関数であることは必要十分です。
結果集合が、\begin{equation*}
X=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であるとともに、ベルヌーイ関数\(u:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が以下のグラフとして表現されているものとします。グラフは上に凸の形状をしているため\(u\)は凹関数であり、したがって先の命題より、主体はリスク回避的です。
以下の条件\begin{equation}
L\left( 1\right) =L\left( 3\right) =\frac{1}{2} \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たすクジ\(L\)に注目します。このクジ\(L\)のもとでの結果の期待値は、\begin{eqnarray*}E\left( L\right) &=&L\left( 1\right) \cdot 1+L\left( 3\right) \cdot 3\quad
\because \text{期待値の定義} \\
&=&\frac{1}{2}\cdot 1+\frac{1}{2}\cdot 3\quad \because \left( 1\right) \\
&=&2
\end{eqnarray*}である一方で、このクジ\(L\)の期待効用は、\begin{eqnarray*}U\left( L\right) &=&L\left( 1\right) \cdot u\left( 1\right) +L\left(
3\right) \cdot u\left( 3\right) \quad \because \text{期待効用の定義} \\
&=&\frac{1}{2}u\left( 1\right) +\frac{1}{2}u\left( 3\right)
\end{eqnarray*}です。主体はリスク回避的であるため、このとき、\begin{equation*}
u\left( E\left( L\right) \right) \geq U\left( L\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation}
u\left( 2\right) \geq \frac{1}{2}u\left( 1\right) +\frac{1}{2}u\left(
3\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。このとき、\begin{eqnarray*}
u\left( 3\right) -u\left( 2\right) &\leq &2\left[ u\left( 2\right) -\frac{1}{2}u\left( 1\right) \right] -u\left( 2\right) \quad \because \left( 2\right)
\\
&=&u\left( 2\right) -u\left( 1\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
u\left( 2\right) -u\left( 1\right) \geq u\left( 3\right) -u\left( 2\right)
\end{equation*}を得ます。
以上の事実は、結果\(2\)を出発点としたとき、そこから結果を\(1\)だけ失うことがもたらす効用の減少量\(u\left( 2\right)-u\left( 1\right) \)は、そこから結果を\(1\)だけ得ることがもたらす効用の増加量\(u\left( 3\right) -u\left( 2\right) \)以上であることを意味します。つまり、リスク回避的な主体にとって、失うことの恐れは、得ることの喜びよりも大きいということです。
言い換えると、確実に得られる結果が\(1,2,3\)と増加するにつれて、追加的な増量\(1\)がもたらす効用の増分は逓減していくということです。結果が金銭であるならば、以上の事実は、確実に得られる金額が大きくなるほど、追加的な金銭がもたらす満足度が逓減していくことを意味します。
リスク中立的
結果集合\(X\subset \mathbb{R} \)が与えられており、クジどうしを比較する主体の選好が期待効用関数\(U:\mathcal{L}\rightarrow \mathbb{R} \)として表現されている状況を想定します。ベルヌーイ関数を\(u:\mathbb{R} \supset D\left( u\right) \rightarrow \mathbb{R} \)で表記します。主体がクジ\(L\in \mathcal{L}\)を選択した場合に直面する期待効用は、\begin{equation*}U\left( L\right)
\end{equation*}ですが、どの結果が実際に起こるかはランダムネスによって支配されているため、主体は期待効用\(U\left(L\right) \)を確実に得られるわけではありません。期待効用\(U\left( L\right) \)はあくまでも結果の効用\(u\left( x\right) \)の期待値です。一方、クジ\(L\in \mathcal{L}\)のもとでの結果の期待値は\(E\left( L\right) \)として定まります。仮に、この期待値を確実に得られるのであれば、その場合の効用はベルヌーイ関数\(u\)を用いて、\begin{equation*}u\left( E\left( L\right) \right)
\end{equation*}と特定されます。以上を踏まえた上で、任意のクジ\(L\in \mathcal{L}\)に対して、主体がそのクジ\(L\)のもとでの結果の期待値\(E\left( L\right) \)を確実に得ることと、そのクジ\(L\)を選択して期待効用\(U\left( L\right) \)に直面することが無差別である場合には、すなわち、\begin{equation*}\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) =U\left( L\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、その主体はリスク中立的(risk neutral)であるとか、危険中立的であるなどと言います。
X=\left\{ x_{1},\cdots ,x_{N}\right\} \subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク中立的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) =U\left( L\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( \sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right)
\cdot x_{n}\right] \right) =\sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot
u\left( x_{n}\right) \right] \end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
X=\left\{ x_{1},x_{2},\cdots \right\} \subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク回避的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) =U\left( L\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( \sum_{n=1}^{+\infty }\left[ L\left(
x_{n}\right) \cdot x_{n}\right] \right) =\sum_{n=1}^{+\infty }\left[ L\left(
x_{n}\right) \cdot u\left( x_{n}\right) \right] \end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
X\subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク回避的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( E\left( L\right) \right) =U\left( L\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:u\left( \int_{-\infty }^{+\infty }\left[ x\cdot
f_{L}\left( x\right) \right] dx\right) =\int_{-\infty }^{+\infty }\left[
u\left( x\right) \cdot f_{L}\left( x\right) \right] dx
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
主体がリスク中立的であることと、その主体のベルヌーイ関数が線形関数であることは必要十分です。
結果集合が、\begin{equation*}
X=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であるとともに、ベルヌーイ関数\(u:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が以下のグラフとして表現されているものとします。グラフは直線であるため\(u\)は線型関数であり、したがって先の命題より、主体はリスク中立的です。
以下の条件\begin{equation}
L\left( 1\right) =L\left( 3\right) =\frac{1}{2} \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たすクジ\(L\)に注目します。このクジ\(L\)のもとでの結果の期待値は、\begin{eqnarray*}E\left( L\right) &=&L\left( 1\right) \cdot 1+L\left( 3\right) \cdot 3\quad
\because \text{期待値の定義} \\
&=&\frac{1}{2}\cdot 1+\frac{1}{2}\cdot 3\quad \because \left( 1\right) \\
&=&2
\end{eqnarray*}である一方で、このクジ\(L\)の期待効用は、\begin{eqnarray*}U\left( L\right) &=&L\left( 1\right) \cdot u\left( 1\right) +L\left(
3\right) \cdot u\left( 3\right) \quad \because \text{期待効用の定義} \\
&=&\frac{1}{2}u\left( 1\right) +\frac{1}{2}u\left( 3\right)
\end{eqnarray*}です。主体はリスク中立的であるため、このとき、\begin{equation*}
u\left( E\left( L\right) \right) =U\left( L\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation}
u\left( 2\right) =\frac{1}{2}u\left( 1\right) +\frac{1}{2}u\left( 3\right)
\quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。このとき、\begin{eqnarray*}
u\left( 3\right) -u\left( 2\right) &=&2\left[ u\left( 2\right) -\frac{1}{2}u\left( 1\right) \right] -u\left( 2\right) \quad \because \left( 2\right) \\
&=&u\left( 2\right) -u\left( 1\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
u\left( 2\right) -u\left( 1\right) =u\left( 3\right) -u\left( 2\right)
\end{equation*}を得ます。
以上の事実は、結果\(2\)を出発点としたとき、そこから結果を\(1\)だけ失うことがもたらす効用の減少量\(u\left( 2\right)-u\left( 1\right) \)は、そこから結果を\(1\)だけ得ることがもたらす効用の増加量\(u\left( 3\right) -u\left( 2\right) \)と等しいことを意味します。つまり、リスク回避的な主体にとって、失うことの恐れは、得ることの喜びと同程度であるということです。
言い換えると、確実に得られる結果が\(1,2,3\)と増加しても、追加的な増量\(1\)がもたらす効用の増分は一定であるということです。結果が金銭であるならば、以上の事実は、確実に得られる金額が大きくなっても、追加的な金銭がもたらす満足度が変化しないことを意味します。
リスク愛好的
結果集合\(X\subset \mathbb{R} \)が与えられており、クジどうしを比較する主体の選好が期待効用関数\(U:\mathcal{L}\rightarrow \mathbb{R} \)として表現されている状況を想定します。ベルヌーイ関数を\(u:\mathbb{R} \supset D\left( u\right) \rightarrow \mathbb{R} \)で表記します。主体がクジ\(L\in \mathcal{L}\)を選択した場合に直面する期待効用は、\begin{equation*}U\left( L\right)
\end{equation*}ですが、どの結果が実際に起こるかはランダムネスによって支配されているため、主体は期待効用\(U\left(L\right) \)を確実に得られるわけではありません。期待効用\(U\left( L\right) \)はあくまでも結果の効用\(u\left( x\right) \)の期待値です。一方、クジ\(L\in \mathcal{L}\)のもとでの結果の期待値は\(E\left( L\right) \)として定まります。仮に、この期待値を確実に得られるのであれば、その場合の効用はベルヌーイ関数\(u\)を用いて、\begin{equation*}u\left( E\left( L\right) \right)
\end{equation*}と特定されます。以上を踏まえた上で、任意のクジ\(L\in \mathcal{L}\)に対して、主体がそのクジ\(L\)を選択して期待効用\(U\left( L\right) \)に直面することを、そのクジ\(L\)のもとでの結果の期待値\(E\left( L\right) \)を確実に得ること以上に好む場合には、すなわち、\begin{equation*}\forall L\in \mathcal{L}:U\left( L\right) \geq u\left( E\left( L\right)
\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、その主体はリスク愛好的(risk loving)であるとか、危険愛好的であるなどと言います。
X=\left\{ x_{1},\cdots ,x_{N}\right\} \subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク愛好的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:U\left( L\right) \geq u\left( E\left( L\right)
\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:\sum_{n=1}^{N}\left[ L\left( x_{n}\right) \cdot
u\left( x_{n}\right) \right] \geq u\left( \sum_{n=1}^{N}\left[ L\left(
x_{n}\right) \cdot x_{n}\right] \right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
X=\left\{ x_{1},x_{2},\cdots \right\} \subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク愛好的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:U\left( L\right) \geq u\left( E\left( L\right)
\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:\sum_{n=1}^{+\infty }\left[ L\left( x_{n}\right)
\cdot u\left( x_{n}\right) \right] \geq u\left( \sum_{n=1}^{+\infty }\left[
L\left( x_{n}\right) \cdot x_{n}\right] \right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
X\subset \mathbb{R} \end{equation*}である場合、主体がリスク愛好的であること、すなわち、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:U\left( L\right) \geq u\left( E\left( L\right)
\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall L\in \mathcal{L}:\int_{-\infty }^{+\infty }\left[ u\left( x\right)
\cdot f_{L}\left( x\right) \right] dx\geq u\left( \int_{-\infty }^{+\infty }\left[ x\cdot f_{L}\left( x\right) \right] dx\right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。
主体がリスク愛好的であることと、その主体のベルヌーイ関数が凸関数であることは必要十分です。
結果集合が、\begin{equation*}
X=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であるとともに、ベルヌーイ関数\(u:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が以下のグラフとして表現されているものとします。グラフは下に凸の形状をしているため\(u\)は凸関数であり、したがって先の命題より、主体はリスク愛好的です。
以下の条件\begin{equation}
L\left( 1\right) =L\left( 3\right) =\frac{1}{2} \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たすクジ\(L\)に注目します。このクジ\(L\)のもとでの結果の期待値は、\begin{eqnarray*}E\left( L\right) &=&L\left( 1\right) \cdot 1+L\left( 3\right) \cdot 3\quad
\because \text{期待値の定義} \\
&=&\frac{1}{2}\cdot 1+\frac{1}{2}\cdot 3\quad \because \left( 1\right) \\
&=&2
\end{eqnarray*}である一方で、このクジ\(L\)の期待効用は、\begin{eqnarray*}U\left( L\right) &=&L\left( 1\right) \cdot u\left( 1\right) +L\left(
3\right) \cdot u\left( 3\right) \quad \because \text{期待効用の定義} \\
&=&\frac{1}{2}u\left( 1\right) +\frac{1}{2}u\left( 3\right)
\end{eqnarray*}です。主体はリスク愛好的であるため、このとき、\begin{equation*}
U\left( L\right) \geq u\left( E\left( L\right) \right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation}
\frac{1}{2}u\left( 1\right) +\frac{1}{2}u\left( 3\right) \geq u\left(
2\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。このとき、\begin{eqnarray*}
u\left( 3\right) -u\left( 2\right) &\geq &2\left[ u\left( 2\right) -\frac{1}{2}u\left( 1\right) \right] -u\left( 2\right) \quad \because \left( 2\right)
\\
&=&u\left( 2\right) -u\left( 1\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
u\left( 3\right) -u\left( 2\right) \geq u\left( 2\right) -u\left( 1\right)
\end{equation*}を得ます。
以上の事実は、結果\(2\)を出発点としたとき、そこから結果を\(1\)だけ得ることがもたらす効用の増加量\(u\left( 3\right)-u\left( 2\right) \)が、そこから結果を\(1\)だけ失うことがもたらす効用の減少量\(u\left( 2\right) -u\left( 1\right) \)以上であることを意味します。つまり、リスク愛好的な主体にとって、得ることの喜びは、失うことの恐れよりも大きいということです。
言い換えると、確実に得られる結果が\(1,2,3\)と増加するにつれて、追加的な増量\(1\)がもたらす効用の増分は逓増していくということです。結果が金銭であるならば、以上の事実は、確実に得られる金額が大きくなるほど、追加的な金銭がもたらす満足度が逓増していくことを意味します。
多くの人はリスク回避的
以下の例が示唆するように、多くの人はリスク回避的です。
\end{equation*}です。「自分でクジを引く」という選択肢は、以下のクジ\begin{eqnarray*}
L_{1} &=&\left( L_{1}\left( 1\text{億}\right) ,L_{1}\left( 4999\text{万}\right) ,L_{1}\left( 0\right) \right) \\
&=&\left( \frac{1}{2},0,\frac{1}{2}\right)
\end{eqnarray*}として表現されるため、その場合の結果の期待値は、\begin{eqnarray*}
E_{1}\left( L_{1}\right) &=&1\text{億}\times L_{1}\left( 1\text{億}\right) +4999\text{万}\times L_{1}\left( 4999\text{万}\right) +0\times L_{1}\left( 0\right) \\
&=&1\text{億}\times \frac{1}{2}+4999\text{万}\times 0+0\times
\frac{1}{2} \\
&=&5000\text{万}
\end{eqnarray*}です。「クジを\(4999\)万円で売る」という選択肢は、以下のクジ\begin{eqnarray*}L_{2} &=&\left( L_{2}\left( 1\text{億}\right) ,L_{2}\left( 4999\text{万}\right) ,L_{2}\left( 0\right) \right) \\
&=&\left( 0,1,0\right)
\end{eqnarray*}として表現されるため、その場合の結果の期待値は、\begin{eqnarray*}
E_{2}\left( L_{2}\right) &=&1\text{億}\times L_{2}\left( 1\text{億}\right) +4999\text{万}\times L_{2}\left( 4999\text{万}\right) +0\times L_{2}\left( 0\right) \\
&=&1\text{億}\times 0+4999\text{万}\times 1+0\times 0 \\
&=&4999\text{万}
\end{eqnarray*}です。したがって、期待値を最大化するのであれば、自分でクジを引いた方がよいということになります。ただし、多くの人にとって、これは合理的な選択ではありません。多くの人にとって、\(4999\)万円もらえるはずであったのに\(0\)円になってしまった場合に感じる絶望は、\(1\)億円もらえるチャンスがあったにも関わらず\(4999\)万円で妥協してしまった悔しさよりも大きいため、自分でクジを引かず、クジを引く権利を売却します。つまり、多くの人はリスク回避的であるということです。そこで、ある主体のベルヌーイ関数\(u:\left( -1,+\infty \right)\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left( -1,+\infty\right) \)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) =\ln \left( x+1\right) +1
\end{equation*}を定めるものとします。この主体はリスク回避的であるともに、\begin{equation*}
U\left( L_{2}\right) >U\left( L_{1}\right)
\end{equation*}が成り立ちます(演習問題)。したがって、この主体が期待効用を最大化するのであれば、クジを引く権利を売却することになります。
サンクトペテルブルクのパラドクスの解消
主体がリスク回避的である状況を想定すれば、サンクトペテルブルクのパラドクスを解消できます。
&=&\left\{ 0,2,4,8,\cdots ,2^{n},\cdots \right\}
\end{eqnarray*}となります。コインを投げ続けた場合に表が出る保証はないため(ただし、表が出ない確率は限りなく小さいです)、\(X\)は無限集合であることに注意してください。ギャンブルに参加した場合、\(n\)回目に表が出る確率は、\begin{equation*}\left( \frac{1}{2}\right) ^{n}=\frac{1}{2^{n}}
\end{equation*}であるため、「ギャンブルに参加する」という選択肢は以下のクジ\begin{eqnarray*}
L &=&\left( L\left( 0\right) ,L\left( 2\right) ,L\left( 4\right) ,L\left(
8\right) ,\cdots ,L\left( 2^{n}\right) ,\cdots \right) \\
&=&\left( 0,\frac{1}{2},\frac{1}{4},\frac{1}{8},\cdots ,\frac{1}{2^{n}},\cdots \right)
\end{eqnarray*}として表現されます。このクジ\(L\)のもとでの結果の期待値は、\begin{eqnarray*}E\left( L\right) &=&0\times L\left( 0\right) +2\times L\left( 2\right)
+4\times L\left( 4\right) +8\times L\left( 8\right) +\cdots +2^{n}\times
L\left( 2^{n}\right) +\cdots \\
&=&0+2\times \frac{1}{2}+4\times \frac{1}{4}+8\times \frac{1}{8}+\cdots
+2^{n}\times \frac{1}{2^{n}}+\cdots + \\
&=&1+1+1+\cdots +1+\cdots
\end{eqnarray*}という無限級数になります。その和は、\begin{eqnarray*}
E\left( L\right) &=&1+1+1+\cdots +1+\cdots \\
&=&\lim_{n\rightarrow +\infty }\sum_{k=1}^{n}1 \\
&=&\lim_{n\rightarrow +\infty }n \\
&=&+\infty
\end{eqnarray*}となります。したがって、期待値を基準にクジ\(L\)を評価するのであれば、その評価額は無限大であるため、このギャンブルへの参加費用\(x\)としていくらでも支払ってもよいということになります。ただし、多くの人にとって、このギャンブルの参加費用として膨大な金額を支払うことは合理的な選択ではありません。そこで、ある主体のベルヌーイ関数\(u:\left( -1,+\infty \right) \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left( -1,+\infty\right) \)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) =\ln \left( x+1\right) +1
\end{equation*}を定めるものとします。この主体はリスク回避的であるともに、クジ\(L\)の期待効用が、\begin{equation*}U\left( L\right) =2.6646
\end{equation*}と定まります(演習問題)。したがって、この主体が期待効用を基準に意思決定を行うのであれば、このギャンブルの参加費用として膨大な金額を支払う事態は起こり得ません。
演習問題
X=\left\{ 20,30,48,60,90\right\}
\end{equation*}であるとともに、クジ集合\(\mathcal{L}\)には以下の2つのクジ\begin{eqnarray*}L_{1} &=&\left( \frac{3}{5},0,0,\frac{3}{10},\frac{1}{10}\right) \\
L_{2} &=&\left( 0,\frac{1}{2},\frac{1}{2},0,0\right)
\end{eqnarray*}が含まれているものとします。以下の問いに答えてください。
- \(A\)さんのベルヌーイ関数\(u:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) =\sqrt{x}\end{equation*}を定めるものとします。\(A\)さんのリスク選好を特定してください。また、\(A\)さんはどちらのクジを好むでしょうか。議論してください。
- \(B\)さんのベルヌーイ関数\(u:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) =x^{2}\end{equation*}を定めるものとします。\(B\)さんのリスク選好を特定してください。また、\(B\)さんはどちらのクジを好むでしょうか。議論してください。
- \(C\)さんのベルヌーイ関数\(u:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) =x\end{equation*}を定めるものとします。\(C\)さんのリスク選好を特定してください。また、\(C\)さんはどちらのクジを好むでしょうか。議論してください。
- 結果を解釈してください。
\end{equation*}です。「自分でクジを引く」という選択肢は、以下のクジ\begin{eqnarray*}
L_{1} &=&\left( L_{1}\left( 1\text{億}\right) ,L_{1}\left( 4999\text{万}\right) ,L_{1}\left( 0\right) \right) \\
&=&\left( \frac{1}{2},0,\frac{1}{2}\right)
\end{eqnarray*}として表現される一方で、「クジを\(4999\)万円で売る」という選択肢は、以下のクジ\begin{eqnarray*}L_{2} &=&\left( L_{2}\left( 1\text{億}\right) ,L_{2}\left( 4999\text{万}\right) ,L_{2}\left( 0\right) \right) \\
&=&\left( 0,1,0\right)
\end{eqnarray*}として表現されます。\(A\)さんのベルヌーイ関数\(u:\left( -1,+\infty \right) \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left( -1,+\infty\right) \)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) =\ln \left( x+1\right) +1
\end{equation*}を定めるものとします。\(A\)さんがリスク回避的であることを示してください。さらに、\(A\)さんがクジを売却することを示してください。ただし、\(A\)さんは期待利得を最大化するものとします。
&=&\left\{ 0,2,4,8,\cdots ,2^{n},\cdots \right\}
\end{eqnarray*}となります。ギャンブルに参加した場合、\(n\)回目に表が出る確率は、\begin{equation*}\left( \frac{1}{2}\right) ^{n}=\frac{1}{2^{n}}
\end{equation*}であるため、「ギャンブルに参加する」という選択肢は以下のクジ\begin{eqnarray*}
L &=&\left( L\left( 0\right) ,L\left( 2\right) ,L\left( 4\right) ,L\left(
8\right) ,\cdots ,L\left( 2^{n}\right) ,\cdots \right) \\
&=&\left( 0,\frac{1}{2},\frac{1}{4},\frac{1}{8},\cdots ,\frac{1}{2^{n}},\cdots \right)
\end{eqnarray*}として表現されます。\(A\)さんのベルヌーイ関数\(u:\left( -1,+\infty \right) \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left( -1,+\infty\right) \)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) =\ln \left( x+1\right) +1
\end{equation*}を定めるものとします。\(A\)さんがリスク回避的であることを示してください。さらに、クジ\(L\)の期待効用が、\begin{equation*}U\left( L\right) =2.6646
\end{equation*}と定まることを示してください。
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