WIIS

不完全競争市場の理論

製品差別化が行われている場合のクールノー競争

目次

Twitter
Mailで保存

製品差別化が行われている場合のクールノー競争

同質財が2つの企業によって供給される複占市場において企業どうしが数量競争を行う状況をクールノー競争と呼ばれるモデルとして定式化しました。特に、市場の逆需要曲線および企業の費用関数が線型であるような線型モデルにおいてクールノー競争が行われる状況を完備情報の静学ゲームとして定式化するとともに、そこでのナッシュ均衡を求めました。簡単に復習します。

市場の逆需要関数\(p:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(q\geq 0\)に対して、\begin{equation*}p\left( q\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
a-bq & \left( if\ 0\leq q\leq \frac{a}{b}\right) \\
0 & \left( if\ q>\frac{a}{b}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるとともに、企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(q_{i}\geq 0\)に対して、\begin{equation*}c_{i}\left( q_{i}\right) =cq_{i}
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(a,b,c>0\)かつ\(a>c\)です。生産量の組\(\left(q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)のもとで企業\(1\)が得る利潤は、\begin{eqnarray*}p\left( q_{1}+q_{2}\right) \cdot q_{1}-c_{1}\left( q_{1}\right) &=&\left[
a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) \right] q_{1}-cq_{1} \\
&=&\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{1}
\end{eqnarray*}であるため、企業\(1\)が解くべき最大化問題は、それぞれの\(q_{2}\)に対して、\begin{equation*}\max_{q_{1}\geq 0}\ \left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{1}
\end{equation*}となります。同様に、企業\(2\)が解くべき最大化問題は、それぞれの\(q_{1}\)に対して、\begin{equation*}\max_{q_{2}\geq 0}\ \left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{2}
\end{equation*}となります。

クールノー競争は以下のような戦略型ゲーム\(G\)として定式化されます。まず、ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(i\in I\)は企業\(i\)を表します。また、企業\(i\)の純粋戦略集合は、\begin{equation*}\mathbb{R} _{+}\end{equation*}です。つまり、それぞれの企業\(i\)は商品の供給量として任意の非負の実数\(q_{i}\geq 0\)を選択できます。企業が得る利潤を利得と同一視するのであれば、プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)が両企業による純粋戦略からなるそれぞれの組\(\left( q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{1} \\
u_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{2}
\end{eqnarray*}となります。このゲーム\(G\)には狭義の純粋戦略ナッシュ均衡\(\left(q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)が存在し、それは、\begin{equation*}q_{1}^{\ast }=q_{2}^{\ast }=\frac{a-c}{3b}>0
\end{equation*}を満たします。これをクールノー均衡と呼びます。

加えて、このゲーム\(G\)は純粋戦略によって狭義支配される戦略の逐次消去によって解けるとともに、その解はクールノー均衡\(\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)と一致します。したがって、プレイヤーたちの合理性が共有知識である場合、両企業がクールノー均衡\(\left( q_{1}^{\ast},q_{2}^{\ast }\right) \)を実際にプレーすることが理論的に予測されます。

これまでは2つの企業が同質財を供給する状況を想定してきましたが、2つの企業が異なる商品を供給しており、なおかつそれらの商品の需要の間に代替関係ないし補完関係が成立する状況においてクールノー競争を行った場合、結果はどのように変わるでしょうか。以下では、製品差別化された市場において価格支配力を持つ2つの企業間で行われるクールノー競争をモデル化した上で、そこでのナッシュ均衡を特定します。

例(製品差別化された市場)
ある地域において一方の企業が鉄道サービス市場を独占しており、他方の企業が航空サービス市場を独占しているものとします。2つの企業が同一路線において営業している場合、消費者にとって鉄道サービスと航空サービスは代替財です。

例(製品差別化された市場)
ある地域において一方の企業が鉄道サービス市場を独占しており、他方の企業が航空サービス市場を独占しているものとします。消費者は鉄道サービスを使って空港まで移動する必要がある場合には、消費者にとって鉄道サービスと航空サービスは補完財です。

 

価格差別化のクールノー競争のモデル化

2つの企業が異なる商品を供給しているとともに、各々が自社製品の市場を独占している状況を想定します。ただし、2つの商品市場の需要はお互いに関連しているものとします。企業は自身が得る利潤を最大化するために、自社製品の供給量を決定するものとします。

2つの企業をそれぞれ\(1,2\)と呼び、企業\(1\)が供給する商品を\(1\)と呼び、企業\(2\)が供給する商品を\(2\)と呼びます。まずは2つの市場において商品の価格と需要がどのように決まるかを記述します。

企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が供給する商品\(i\)の市場の逆需要関数\(p_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(\left(q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}p_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&a-bq_{1}-gq_{2} \\
p_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&a-bq_{2}-gq_{1}
\end{eqnarray*}を定めるものとします。ただし、\(a,b>0\)かつ\(g\in \mathbb{R} \)かつ\(\left\vert g\right\vert <b\)です。つまり、企業\(1\)が商品\(1\)を\(q_{1}\)だけ供給し、企業\(2\)が商品\(2\)を\(q_{2}\)だけ供給する場合には、商品\(i\)の市場価格が\(p_{i}\left(q_{1},q_{2}\right) \)で均衡するということです。

特筆すべきは、それぞれの商品\(i\)の逆需要関数\(p_{i}\left( q_{1},q_{2}\right) \)は自身の数量\(q_{i}\)だけでなくもう一方の商品\(j\ \left(\not=i\right) \)の数量\(q_{j}\)にも依存しているということです。このとき、商品\(i\)の市場の需要関数\(q_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(\left(q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}q_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\frac{a\left( b-g\right) }{b^{2}-g^{2}}-\frac{b}{b^{2}-g^{2}}p_{1}+\frac{g}{b^{2}-g^{2}}p_{2} \\
q_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\frac{a\left( b-g\right) }{b^{2}-g^{2}}-\frac{b}{b^{2}-g^{2}}p_{2}+\frac{g}{b^{2}-g^{2}}p_{1}
\end{eqnarray*}を定めます(演習問題)。したがって、\(g>0\)である場合には、\begin{equation*}\frac{\partial q_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) }{\partial p_{2}}=\frac{\partial q_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) }{\partial p_{1}}=\frac{g}{b^{2}-g^{2}}>0
\end{equation*}となるため、\(\left( p_{1},p_{2}\right) \)において2つの商品は代替関係にあります。一方、\(g<0\)である場合には、\begin{equation*}\frac{\partial q_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) }{\partial p_{2}}=\frac{\partial q_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) }{\partial p_{1}}=\frac{g}{b^{2}-g^{2}}<0
\end{equation*}となるため、\(\left( p_{1},p_{2}\right) \)において2つの商品は補完関係にあります。さらに、\(g=0\)である場合には、任意の\(\left(q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)において、\begin{eqnarray*}p_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&a-bq_{1} \\
p_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&a-bq_{2}
\end{eqnarray*}となるため、これは2つの商品の市場が独立しているケースに相当します。

続いて、この市場において商品を供給する独占企業の生産コストがどのように決まるかを記述します。

企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(q_{i}\geq 0\)に対して、\begin{eqnarray*}c_{1}\left( q_{1}\right) &=&cq_{1} \\
c_{2}\left( q_{2}\right) &=&cq_{2}
\end{eqnarray*}を定めるものとします。ただし、\(c>0\)です。つまり、企業が商品\(i\ \left( =1,2\right) \)を\(q_{i}\)だけ市場に供給する場合には費用が\(c_{i}\left( q_{i}\right) \)だけかかるということです。商品\(i\)を生産しない場合の費用は、\begin{eqnarray*}c_{1}\left( 0\right) &=&0 \\
c_{2}\left( 0\right) &=&0
\end{eqnarray*}ですが、これはいずれの商品についても固定費用が\(0\)であることを意味します。また、任意の\(q_{i}\geq 0\)において、\begin{eqnarray*}\frac{dc_{1}\left( q_{1}\right) }{dq_{1}} &=&c \\
\frac{dc_{2}\left( q_{2}\right) }{dq_{2}} &=&c
\end{eqnarray*}が成り立ちます。つまり、いずれの商品についても生産量に依存しない限界費用を持つことを意味します。

加えて、市場の逆需要関数を規定する定数\(a\)と限界費用\(c\)の間には以下の関係\begin{equation*}a>c
\end{equation*}が成り立つものとします。

企業\(1,2\)がそれぞれ生産量\(q_{1},q_{2}\)を選択すると商品\(1\)の市場価格は\(p_{1}\left(q_{1},q_{2}\right) \)で均衡するため、企業\(1\)は収入\(p_{1}\left(q_{1},q_{2}\right) \cdot q_{1}\)を得ます。その一方で、商品\(1\)を\(q_{1}\)だけ供給するために企業\(1\)が負担すべき費用は\(c_{1}\left( q_{1}\right) \)であるため、生産量の組\(\left(q_{1},q_{2}\right) \)のもとで企業\(1\)が得る利潤は、収入から費用を差し引いて得られる、\begin{eqnarray*}p_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) \cdot q_{1}-c_{1}\left( q_{1}\right)
&=&\left( a-bq_{1}-gq_{2}\right) q_{1}-cq_{1} \\
&=&-bq_{1}^{2}+\left( a-c\right) q_{1}-gq_{1}q_{2}
\end{eqnarray*}となります。企業\(1\)は競争相手である企業\(2\)による生産量\(q_{2}\)を操作できないため、\(q_{2}\)の値を所与としながら自身の利潤を最大化するような生産量\(q_{1}\)を選択します。つまり、企業\(1\)が解くべき最大化問題は、それぞれの\(q_{2}\)の値に対して、\begin{equation*}\max_{q_{1}\geq 0}\ -bq_{1}^{2}+\left( a-c\right) q_{1}-gq_{1}q_{2}
\end{equation*}となります。同様に考えると、企業\(2\)が直面する最大化問題は、\(q_{1}\)の値を所与としながら自身の利潤を最大化するような生産量\(q_{2}\)を選択するという最大化問題\begin{equation*}\max_{q_{2}\geq 0}\ -bq_{2}^{2}+\left( a-c\right) q_{2}-gq_{1}q_{2}
\end{equation*}です。ただし、\(a,b,c>0\)かつ\(g\in \mathbb{R} \)かつ\(\left\vert g\right\vert <b\)かつ\(a>c\)です。

 

製品差別化のクールノー競争の線型モデルにおけるナッシュ均衡(クールノー均衡)

製品差別化のクールノー競争が想定する状況を2つの複占企業をプレイヤーとするゲームと解釈します。独占禁止法などによってカルテルが禁じられている場合には、企業の間に生産量に関する拘束的合意が成立しません。したがってクールノー競争は非協力ゲームです。さらに、2つの企業は事前に相談することはできず、各自が相手の供給量を観察できない状態で自身の供給量を決定するのであればクールノー競争は静学ゲームです。また、市場の逆需要関数、両企業の費用関数、さらに両者の目的が利潤の最大化であることなど、ゲームのルールの要素が両企業にとって共有知識であるならば、クールノー競争は完備情報の静学ゲームとして記述されます。

そこで、クールノー競争を以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(i\in I\)は企業\(i\)を表します。また、企業\(i\)の純粋戦略集合を、\begin{equation*}\mathbb{R} _{+}\end{equation*}と定めます。つまり、それぞれの企業\(i\)は商品の供給量として任意の非負の実数\(q_{i}\geq 0\)を選択できます。プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)としては様々な可能性がありますが、典型的なものは利潤を利得と同一視するというものです。この場合、両企業による純粋戦略からなるそれぞれの組\(\left( q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&-bq_{1}^{2}+\left( a-c\right)
q_{1}-gq_{1}q_{2} \\
u_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&-bq_{2}^{2}+\left( a-c\right)
q_{2}-gq_{1}q_{2}
\end{eqnarray*}を定めるということです。ただし、\(a,b,c>0\)かつ\(g\in \mathbb{R} \)かつ\(\left\vert g\right\vert <b\)かつ\(a>c\)です。

このゲームは以下のようなナッシュ均衡、すなわちクールノー均衡が存在します。

命題(製品差別化のクールノー競争の線型モデルにおけるナッシュ均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,2\right\} \)であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(\mathbb{R} _{+}\)であり、利得関数\(u_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( q_{1},q_{2}\right)\in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&-bq_{1}^{2}+\left( a-c\right)
q_{1}-gq_{1}q_{2} \\
u_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&-bq_{2}^{2}+\left( a-c\right)
q_{2}-gq_{1}q_{2}
\end{eqnarray*}を定めるものとする。ただし、\(a,b,c>0\)かつ\(g\in \mathbb{R} \)かつ\(\left\vert g\right\vert <b\)かつ\(a>c\)である。このゲーム\(G\)には純粋戦略ナッシュ均衡\(\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)が存在し、それは、\begin{equation*}q_{1}^{\ast }=q_{2}^{\ast }=\frac{a-c}{2b+g}
\end{equation*}を満たす。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

製品差別化のクールノー競争におけるクールノー均衡\(\left( q_{1}^{\ast},q_{2}^{\ast }\right) \)は、\begin{equation*}q_{1}^{\ast }=q_{2}^{\ast }=\frac{a-c}{2b+g}
\end{equation*}であることが明らかになりました。商品\(1\)の均衡価格は、\begin{eqnarray*}p_{1}^{\ast } &=&p_{1}\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \\
&=&a-bq_{1}^{\ast }-gq_{2}^{\ast } \\
&=&a-b\cdot \frac{a-c}{2b+g}-g\cdot \frac{a-c}{2b+g} \\
&=&\frac{ab+bc+cg}{2b+g}
\end{eqnarray*}であり、商品\(2\)の均衡価格は、\begin{eqnarray*}p_{2}^{\ast } &=&p_{2}\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \\
&=&a-bq_{2}^{\ast }-gq_{1}^{\ast } \\
&=&a-b\cdot \frac{a-c}{2b+g}-g\cdot \frac{a-c}{2b+g} \\
&=&\frac{ab+bc+cg}{2b+g}
\end{eqnarray*}です。企業\(1\)の均衡利潤は、\begin{eqnarray*}p_{1}^{\ast }\cdot q_{1}^{\ast }-c_{1}\left( q_{1}^{\ast }\right)
&=&p_{1}^{\ast }\cdot q_{1}^{\ast }-c\cdot q_{1}^{\ast } \\
&=&\frac{ab+bc+cg}{2b+g}\cdot \frac{a-c}{2b+g}-c\cdot \frac{a-c}{2b+g} \\
&=&\frac{b\left( a-c\right) ^{2}}{\left( 2b+g\right) ^{2}}
\end{eqnarray*}であり、企業\(2\)の均衡利潤は、\begin{eqnarray*}p_{2}^{\ast }\cdot q_{2}^{\ast }-c_{2}\left( q_{2}^{\ast }\right)
&=&p_{2}^{\ast }\cdot q_{2}^{\ast }-c\cdot q_{2}^{\ast } \\
&=&\frac{ab+bc+cg}{2b+g}\cdot \frac{a-c}{2b+g}-c\cdot \frac{a-c}{2b+g} \\
&=&\frac{b\left( a-c\right) ^{2}}{\left( 2b+g\right) ^{2}}
\end{eqnarray*}です。

 

製品差別化のクールノー競争における戦略的代替性と戦略的補完性

製品差別化のクールノー競争の線型モデルを描写する戦略型ゲーム\(G\)において、企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の最適反応関数\(b_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)が相手の供給量\(q_{j}\geq 0\)に対して定める最適反応は、\begin{eqnarray*}b_{1}\left( q_{2}\right) &=&\frac{a-c-gq_{2}}{2b} \\
b_{2}\left( q_{1}\right) &=&\frac{a-c-gq_{1}}{2b}
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。したがって、\begin{eqnarray*}
\frac{db_{1}\left( q_{2}\right) }{dq_{2}} &=&-\frac{g}{2b} \\
\frac{db_{2}\left( q_{1}\right) }{dq_{1}} &=&-\frac{g}{2b}
\end{eqnarray*}を得ます。これは何を表すのでしょうか。

任意の\(\left( p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}\frac{\partial q_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) }{\partial p_{2}}=\frac{\partial q_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) }{\partial p_{1}}=\frac{g}{b^{2}-g^{2}}
\end{equation*}が成り立つため、パラメータ\(g\)は2つの商品の代替ないし補完の度合いを表す指標です。\(g>0\)の場合には2つの商品は代替関係にあるとともに、\(g\)の値が\(b\)へ向かって上昇するほど代替関係が強くなります。\(g<0\)の場合には2つの商品は補完関係にあるとともに、\(g\)の値が\(-b\)へ向かって下落するほど補完関係は強くなります。\(g=0\)の場合は2つの商品が独立しているケースに相当します。

まずは\(g>0\)の場合、すなわち2つの商品が代替関係にある場合について考えます。この場合には、\begin{eqnarray*}\frac{db_{1}\left( q_{2}\right) }{dq_{2}} &=&-\frac{g}{2b}<0 \\
\frac{db_{2}\left( q_{1}\right) }{dq_{1}} &=&-\frac{g}{2b}<0
\end{eqnarray*}となるため、両企業の最適反応関数は競争相手の供給量に関する減少関数であり、したがって戦略的代替性が成立しています。つまり、相手が増産するほど自身は減産したほうが良く、逆に相手が減産するほど自身は増産したほうが良いということです。

続いて\(g<0\)の場合、すなわち2つの商品が補完関係にある場合について考えます。この場合には、\begin{eqnarray*}\frac{db_{1}\left( q_{2}\right) }{dq_{2}} &=&-\frac{g}{2b}>0 \\
\frac{db_{2}\left( q_{1}\right) }{dq_{1}} &=&-\frac{g}{2b}>0
\end{eqnarray*}となるため、両企業の最適反応関数は競争相手の供給量に関する増加関数であり、したがって戦略的補完性が成立しています。つまり、相手が増産するほど自身もまた増産したほうが良く、逆に相手が減産するほど自身も減産したほうが良いということです。

 

演習問題

問題(製品差別化が行われている場合の逆需要関数と需要関数)
企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が供給する商品\(i\)の市場の逆需要関数\(p_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(\left(q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}p_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&a-bq_{1}-gq_{2} \\
p_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&a-bq_{2}-gq_{1}
\end{eqnarray*}を定めるものとします。ただし、\(a,b>0\)かつ\(g\in \mathbb{R} \)かつ\(\left\vert g\right\vert <b\)です。このとき、商品\(i\)の市場の需要関数\(q_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(\left(q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}q_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\frac{a\left( b-g\right) }{b^{2}-g^{2}}-\frac{b}{b^{2}-g^{2}}p_{1}+\frac{g}{b^{2}-g^{2}}p_{2} \\
q_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\frac{a\left( b-g\right) }{b^{2}-g^{2}}-\frac{b}{b^{2}-g^{2}}p_{2}+\frac{g}{b^{2}-g^{2}}p_{1}
\end{eqnarray*}を定めることを示してください。

解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(製品差別化が行われている市場におけるクールノー競争)
企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が供給する商品\(i\)の市場の需要関数\(q_{i}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(\left(q_{1},q_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}q_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&50-\frac{3}{4}p_{1}+\frac{1}{2}p_{2} \\
q_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&50-\frac{3}{4}p_{2}+\frac{1}{2}p_{1}
\end{eqnarray*}を定めるとともに、企業\(i\)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)はそれぞれの\(q_{i}\geq 0\)に対して、\begin{eqnarray*}c_{1}\left( q_{1}\right) &=&20q_{1} \\
c_{2}\left( q_{2}\right) &=&20q_{2}
\end{eqnarray*}を定めるものとします。この2つの企業がクールノー競争を行う場合のクールノー均衡を求めてください。

解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

Twitter
Mailで保存

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録