ある商品が 2 つの企業によってのみ供給される複占市場において、カルテルを形成せずに競争する企業が互いに商品の生産量を決定する状況を想定します。同質財の複占市場における数量競争をモデル化したこのモデルをクールノー競争と呼びます。

2018年5月23日:公開

クールノーの数量競争モデル

ある商品が 2 つの企業によってのみ供給される複占市場において、カルテルを形成せずに競争する企業が互いに商品の生産量を決定する状況を想定します。

前提として、まずはこの市場において商品の価格がどのように決まるかを記述します。市場の逆需要関数を\(p:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)で表します。つまり、商品の総供給量が\(q\geq 0\)である場合には、この市場において商品の価格が\(p\left( q\right) \geq 0\)で均衡するということです。言い換えると、企業\(1\)による供給量が\(q_{1}\geq 0\)、企業\(2\)による供給量が\(q_{2}\geq 0\)であるとき、市場への商品の総供給量は\(q_{1}+q_{2}\geq 0\)となりますが、それらはすべて価格\(p\left( q_{1}+q_{2}\right) \geq 0\)で消費者に売却されるということです。

一般に、小規模かつ数多くの生産者が参入している完全競争市場では、個々の企業が商品の供給量を変えても価格に影響を与えることはできません。一方、複占企業では商品が 2 つの企業によってのみ供給されるため、個々の企業が供給量を変化させると価格も変化します。上のモデルはこのような事情を反映したものになっています。

もう一つ特筆すべきは、商品の均衡価格\(p\left( q_{1}+q_{2}\right) \)が 2 つの企業による供給量\(q_{1},q_{2}\)を変数としている点です。つまり、企業\(1\)は自らの供給量\(q_{1}\)を変化させることを通じて商品の価格を変化させることができますが、同時に競争相手である企業\(2\)による供給量\(q_{2}\)もまた商品の価格に影響を与えます。企業\(2\)の立場からも同様のことが言えます。つまり、それぞれの企業にとって、商品の価格は自身の行動だけでなく相手の行動によっても左右されるという意味において、プレイヤーである両企業の間には戦略的相互依存関係が成立しています。こうした事情もあり、この複占市場はゲーム理論の分析対象となります。

戦略的相互依存関係について復習する

続いて、この市場において商品を供給する 2 つの企業の生産コストがどのように決まるかを記述します。企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数を\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)で表します。つまり、企業\(i\)が商品を\(q_{i}\geq 0\)だけ市場に供給するためには費用が\(c_{i}\left( q_{i}\right) \geq 0\)だけかかるということです。

逆需要関数\(p\left( q\right) \)によって特徴づけられる商品市場において、費用関数\(c_{i}\left( q_{i}\right) \)によって特徴づけられるコスト構造を持つそれぞれの企業\(i\)が自身の利潤を最大化するように供給量\(q_{i}\)を選択する状況を想定します。ただし両企業は互いにカルテルを結ぶことはできず、両者の間には生産量に関する拘束的合意が成立しないものとします。また各企業は競争相手の生産量を観察できない状態で自身の生産量を決定するものとします。

繰り返しになりますが、完全競争市場では企業が商品の市場価格を所与として意志決定を行うのに対し、複占市場には商品を供給する企業が 2 つしか存在せず、企業\(1,2\)が財の供給量\(q_{1},q_{2}\)をそれぞれ選択すると市場において商品の価格が\(p\left( q_{1}+q_{2}\right) \)で均衡します。つまり、複占企業が選択する供給量に応じて商品の価格が変化し得るという意味において、複占企業は価格支配力を持ちます。ただし、企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が操作可能であるのは自身の供給量\(q_{i}\)だけであり、競争相手\(j\ \left( \not=i\right) \)の供給量\(q_{j}\)を直接操作することはできません。つまり、複占企業は市場の総供給量を完全に操作できるわけではなく、それゆえ商品の市場価格を完全に自由に操作できるわけではありません。

複占企業\(1,2\)がそれぞれ財の供給量\(q_{1},q_{2}\)を選択すると商品の価格は\(p\left( q_{1}+q_{2}\right) \)で均衡するため、企業\(1\)は収入\(p\left( q_{1}+q_{2}\right) \cdot q_{1}\)を得ます。その一方で、商品を\(q_{1}\)だけ供給するために企業\(1\)が負担すべき費用は\(c_{1}\left( q_{1}\right) \)ですので、生産量の組\(\left( q_{1},q_{2}\right) \)のもとで企業\(1\)が得る利潤は、収入から費用を差し引いて得られる、\begin{equation*}
p\left( q_{1}+q_{2}\right) \cdot q_{1}-c_{1}\left( q_{1}\right)
\end{equation*}となります。企業\(1\)は競争相手である企業\(2\)による生産量\(q_{2}\)を操作できないため、\(q_{2}\)の値を所与としながら自身の利潤を最大化するような生産量\(q_{1}\)を選択します。つまり、企業\(1\)が解くべき最大化問題は、\begin{equation*}
\max_{q_{1}\geq 0}\ p\left( q_{1}+q_{2}\right) \cdot q_{1}-c_{1}\left( q_{1}\right)
\end{equation*}となります。同様に考えると、企業\(2\)が直面する最大化問題は、\(q_{1}\)の値を所与としながら自身の利潤を最大化するような生産量\(q_{2}\)を選択するという最大化問題\begin{equation*}
\max_{q_{2}\geq 0}\ p\left( q_{1}+q_{2}\right) \cdot q_{2}-c_{2}\left( q_{2}\right)
\end{equation*}です。

このような状況において各企業はどのような意思決定を行うでしょうか。同質財の複占市場における数量競争に関するこのモデルをクールノー競争(Cournot competition)と呼びます。クールノー競争はフランスの経済学者であり数学者でもあったアントワーヌ・オーギュスタン・クールノー(Antoine Augustin Cournot)が1838年に発表したモデルです。

 

完備情報の静学ゲームとしてクールノー競争

クールノー競争が想定する状況を 2 つの複占企業をプレイヤーとするゲームと解釈します。独占禁止法などによってカルテルが禁じられている場合には、企業の間に生産量に関する拘束的合意が成立しません。したがってクールノー競争は非協力ゲームです。さらに、2 つの企業は事前に相談することはできず、各自が相手の供給量を観察できない状態で自身の供給量を決定するのであればクールノー競争は静学ゲームです。また、市場の逆需要関数、両企業の費用関数、さらに両者の目的が利潤の最大化であることなど、ゲームのルールを左右する要素が両企業にとって共有知識であるならば、クールノー競争は完備情報の静学ゲームとして記述されます。

完備情報の静学ゲームについて復習する

そこで、クールノー競争を以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\{1,2\}\)です。ただし、\(i\in I\)は複占企業\(i\)を表します。また、企業\(i\)の純戦略集合を\(S_{i}=\mathbb{R} _{+}\)と定めます。つまり、それぞれの企業\(i\)は商品の供給量として任意の非負の実数\(q_{i}\geq 0\)を選択できます。プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}\left( q_{1},q_{2}\right) \)としては様々な可能性がありますが、典型的なものは利潤を利得と同一視するというものです。この場合、\begin{eqnarray*}
u_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&p\left( q_{1}+q_{2}\right) \cdot q_{1}-c_{1}\left( q_{1}\right) \\
u_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) &=&p\left( q_{1}+q_{2}\right) \cdot q_{2}-c_{2}\left( q_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。ただし、\(p:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は市場の逆需要関数であり、\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は企業\(i\)の費用関数です。

戦略型ゲームについて復習する

 

最もシンプルなクールノー競争のモデル

クールノー競争を表す戦略型ゲーム\(G\)を詳しく分析するためには、市場の逆需要関数\(p:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)やそれぞれの企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)の形状を具体化する必要があります。今回は、逆需要曲線が線型であるとともに、両企業が一定かつ等しい限界費用を持つような単純化されたモデルについて考えます。モデルをより一般化することもできますが、それについては場を改めて解説します。

市場の逆需要関数\(p:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は、それぞれの総供給量\(q\geq 0\)に対して、\begin{equation*}
p\left( q\right) =a-bq
\end{equation*}という均衡価格を定めるものとします。ただし、\(a,b\)はともに正の定数です。つまり、市場の逆需要曲線は線型です。

両企業が商品を市場に供給しない場合の均衡価格は\(p\left( 0\right) =a>0\)という正の値ですが、問題としている商品が消費者にとって価値を持つ限りにおいて、これは当然の仮定です。\(b>0\)であるため逆需要関数は狭義の減少関数であるとともに、総供給量\(q\)が増えるにつれて均衡価格は等しい割合で下落します。需要と供給の関係を考慮するとこれもまた当然の仮定です。また、総供給量\(q\)が\(\frac{a}{b}\)以上になると商品の均衡価格が\(p\left( q\right) =0\)で一定になります。消費者が消費できる量には限りがあるため、需要と供給の関係を考慮するとこれもまた当然の仮定です。

企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は、自身のそれぞれの生産量\(q_{i}\geq 0\)に対して、\begin{equation*}
c_{i}\left( q_{i}\right) =c\cdot q_{i}\quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}という費用を定めるものとします。ただし、\(c\)は正の定数です。

生産を行わない場合の費用は\(c_{i}\left( 0\right) =0\)ですが、これは企業の固定費用が\(0\)であることを意味します。また、任意の\(q_{i}\geq 0\)において、\begin{equation*}
\frac{dc_{i}\left( q_{i}\right) }{dq_{i}}=c\quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}が成り立ちますが、これは両企業が生産量に依存しない共通の限界費用\(c>0\)を持つことを意味します。これをテクニカルに表現すると、両企業はともに規模に関して収穫一定の等しい技術を持つということです。

さらに、市場の逆需要曲線を規定するパラメーター\(a\)と、両企業に共通する限界費用\(c\)の間には、\begin{equation*}
p\left( 0\right) =a>c
\end{equation*}という関係が成り立つものとします。このとき、\begin{equation*}
p\left( \frac{a-c}{b}\right) =c
\end{equation*}を満たす正の実数\(\frac{a-c}{b}>0\)が存在します。この関係を下に図示しました。

図:線型の逆需要曲線
図:シンプルなクールノー競争モデル

つまり、企業の限界費用と市場の均衡価格が一致するような正の生産量\(\frac{a-c}{b}\)が存在するということです。一般に、完全競争市場では企業の限界費用と市場の均衡価格が一致します。したがって、上の仮定は、仮にこの市場が複占市場ではなく完全競争市場である場合においても、両企業は市場に参入し続けることが可能であることを意味します。

以上の仮定のもとで、クールノー競争を戦略型ゲーム\(G\)として定式化します。まず、ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\{1,2\}\)です。ただし、\(i\in I\)は複占企業\(i\)を表します。また、企業\(i\)の純戦略集合を\(S_{i}=\mathbb{R} _{+}\)と定めます。つまり、それぞれの企業\(i\)は商品の生産量として任意の非負の実数\(q_{i}\geq 0\)を選択できます。プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}\left( q_{1},q_{2}\right) \)としては様々な可能性がありますが、典型的なものは利潤を利得と同一視するというものです。両企業は生産した商品をすべて市場に供給するのであれば、純戦略の組\(\left( q_{1},q_{2}\right) \)のもとでの市場の総供給量は\(q_{1}+q_{2}\)となるため、企業\(1\)の利得関数\(u_{1}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R}\)は、\begin{align*}
u_{1}\left( q_{1},q_{2}\right) & =\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) \right] \cdot q_{1}-c\cdot q_{1} \\
& =\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{1}
\end{align*}となり、企業\(2\)の利得関数\(u_{2}:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R}\)は、\begin{align*}
u_{2}\left( q_{1},q_{2}\right) & =\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) \right] \cdot q_{2}-c\cdot q_{2} \\
& =\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}\right) -c\right] \cdot q_{2}
\end{align*}となります。ただし、\(a,b,c>0\)はいずれも定数であり、\(a>c\)が成り立つものとします。

次回はクールノー競争における純ナッシュ均衡(これをクールノー均衡と呼びます)を導出します。

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