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行列

階段行列(行既約な階段行列)

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階段行列

連立1次方程式を解く際には行列の理論が役立ちますが、そこで重要な役割を果たすのが階段行列(echelon matrix)と呼ばれるクラスの行列です。連立1次方程式と行列の関係については後述するとして、ここでは階段行列について解説します。

行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選びます。つまり、\begin{equation*}A=\left( a_{ij}\right) =\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn}\end{pmatrix}\end{equation*}です。行列\(A\)の第\(i\ \left(=1,\cdots ,m\right) \)行は、\begin{equation*}\mathrm{row}\left( A,i\right) =\left( a_{i1},a_{i2},\cdots ,a_{in}\right)
\end{equation*}ですが、これがゼロベクトルではない場合には非ゼロの成分が存在します。\(\mathrm{row}\left(A,i\right) \)がゼロベクトルではない場合、非ゼロの成分の中で最も左にあるものを\(\mathrm{row}\left( A,i\right) \)の主成分(distinguished element)やピボット(pivot)などと呼びます。つまり、\(\mathrm{row}\left( A,i\right) \)の成分\(a_{ij}\)が主成分であることとは、\(a_{ij}\)が非ゼロであるとともに、\(a_{ij}\)よりも左側にあるすべての成分が\(0\)であること、すなわち、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ a_{ij}\not=0 \\
&&\left( b\right) \ \forall j^{\prime }\in \left\{ 1,2,\cdots ,j-1\right\}
:a_{ij^{\prime }}=0
\end{eqnarray*}がともに成り立つことを意味します。

例(行の主成分)
以下のそれぞれの行列において、各行の主成分には印\(\ast \)が付けられています。\begin{eqnarray*}A &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 1 & 1 & 0 \\
0 & 1^{\ast } & 0 & 2\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 0 & 0 \\
0 & 1^{\ast } & 0 \\
0 & 0 & 1^{\ast }\end{pmatrix}
\\
C &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 0 \\
0 & 1^{\ast } \\
0 & 1^{\ast } \\
0 & 0 \\
0 & 0\end{pmatrix}
\\
D &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 2 & 0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 3^{\ast } & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1^{\ast } & 3 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1\end{pmatrix}
\\
E &=&\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
0 & 0\end{pmatrix}\end{eqnarray*}

行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が以下の2つの条件を満たす場合、\(A\)を階段行列(echelon matrix)や階段形式(echelon form)にあるなどと言います。

  1. 行列\(A\)がゼロベクトルであるような行を持つ場合、そのようなすべての行が非ゼロベクトルであるようなすべての行よりも下に位置している。すなわち、ゼロベクトルであるような行\(\mathrm{row}\left( A,i\right) \)と非ゼロベクトルであるような行\(\mathrm{row}\left( A,i^{\prime }\right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}i>i^{\prime }\end{equation*}が成り立つ。
  2. 行列\(A\)が非ゼロベクトルであるような複数の行を持つ場合、それらを見比べたとき、より上にある行の主成分が、より下にある行の主成分よりも左に位置している。すなわち、非ゼロベクトルであるような行\(\mathrm{row}\left( A,i\right) \)の主成分が\(a_{ij}\)であり、同じく非ゼロベクトルであるような行\(\mathrm{row}\left(A,i^{\prime }\right) \)の主成分が\(a_{i^{\prime}j^{\prime }}\)である場合、\begin{equation*}i>i^{\prime }\Rightarrow j^{\prime }<j\end{equation*}が成り立つ。

行列\(A\)のすべての行がゼロベクトルである場合、すなわち\(A\)がゼロ行列である場合には、\(A\)を階段行列とみなします。

例(階段行列)
以下のそれぞれの行列において、各行の主成分には印\(\ast \)が付けられています。\begin{eqnarray*}A &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 1 & 1 & 0 \\
0 & 1^{\ast } & 0 & 2\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 0 & 0 \\
0 & 1^{\ast } & 0 \\
0 & 0 & 1^{\ast }\end{pmatrix}
\\
C &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 0 \\
0 & 1^{\ast } \\
0 & 1^{\ast } \\
0 & 0 \\
0 & 0\end{pmatrix}
\\
D &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 2 & 0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 3^{\ast } & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1^{\ast } & 3 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1\end{pmatrix}
\\
E &=&\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
0 & 0\end{pmatrix}\end{eqnarray*}\(A,B\)は階段行列です。\(C\)に関しては、第\(2\)行の主成分と第\(3\)行の主成分が同じ列に位置するため、\(C\)は階段行列ではありません。\(D\)に関しては、第\(2\)行の主成分が第\(3\)行の主成分よりも右側に位置するため、\(D\)は階段行列ではありません。\(E\)はゼロ行列であるため階段行列です。

 

行既約な階段行列

行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が以下の3つの条件を満たす場合、\(A\)を行既約な階段行列(row reduced echelon matrix)と呼びます。

  1. 行列\(A\)が階段行列である。
  2. 行列\(A\)が非ゼロベクトルであるような行を持つ場合、その行の主成分が\(1\)である。すなわち、非ゼロベクトルであるような行\(\mathrm{row}\left( A,i\right) \)の主成分が\(a_{ij}\)である場合、\begin{equation*}a_{ij}=1\end{equation*}が成り立つ。
  3. 行列\(A\)が非ゼロベクトルであるような行を持つ場合、その行の主成分は、その主成分が存在する列において唯一の非ゼロの成分である。すなわち、非ゼロベクトルであるような行\(\mathrm{row}\left( A,i\right) \)の主成分が\(a_{ij}\)である場合、\begin{equation*}\forall i^{\prime }\not=i:a_{i^{\prime }j}=0\end{equation*}が成り立つ。

行列\(A\)のすべての行がゼロベクトルである場合、すなわち\(A\)がゼロ行列である場合には、\(A\)を行既約な階段行列とみなします。

例(行既約な階段行列)
以下のそれぞれの行列において、各行の主成分には印\(\ast \)が付けられています。\begin{eqnarray*}A &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 1 & 1 & 0 \\
0 & 1^{\ast } & 0 & 2\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 0 & 0 \\
0 & 1^{\ast } & 0 \\
0 & 0 & 1^{\ast }\end{pmatrix}
\\
C &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 0 \\
0 & 1^{\ast } \\
0 & 1^{\ast } \\
0 & 0 \\
0 & 0\end{pmatrix}
\\
D &=&\begin{pmatrix}
1^{\ast } & 2 & 0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 3^{\ast } & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1^{\ast } & 3 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1\end{pmatrix}
\\
E &=&\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
0 & 0\end{pmatrix}\end{eqnarray*}\(A\)は階段行列ですが、第2列には主成分以外の非ゼロの成分が存在するため、\(A\)は行既約ではありません。\(B\)は行既約な階段行列です。\(C,D\)は階段行列ではないため、行既約な階段行列でもありません。\(E\)はゼロ行列であるため、行既約な階段行列です。

 

行列を階段行列に行簡約する方法

行列\(A\)がゼロ行列である場合、定義より、それは階段行列です。一方、行列\(A\)がゼロ行列ではない場合、以下のような基本行操作を適用することにより階段行列が得られます。つまり、行列が与えられたとき、それと行同値な階段行列が存在するということです。

  1. 行列\(A\)は非ゼロ行列であるため、非ゼロベクトルであるような行を持つ。非ゼロベクトルであるような行どうしを見比べた上で、主成分が最も左にある行\(i\)が第\(1\)行になるように行を入れ替える。すなわち、以下の操作\begin{equation*}R_{i}\leftrightarrow R_{1}\end{equation*}を行う。入れ替え後の第\(1\)行の主成分を\(a_{1j}\)で表記する。その上で、2行目以降の行に対して、すなわち、\(i>1\)を満たすそれぞれの行\(i\)に対して、以下の操作\begin{equation*}R_{i}\rightarrow -a_{ij}R_{1}+a_{1j}R_{i}
    \end{equation*}を行う。
  2. 第\(1\)行を除外したすべての行によって作られる小行列を対象に、先と同様の操作を行う。
  3. 第\(2\)行を除外したすべての行によって作られる小行列を対象に、先と同様の操作を行う。
  4. 階段行列が得られるまで同様のプロセスを繰り返す。

以下が具体例です。

例(行列を階段行列に行簡約する)
以下の行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
2 & 4 & -2 & 2 \\
3 & 6 & -4 & 3\end{pmatrix}\end{equation*}を階段行列に変換します。具体的には、\begin{eqnarray*}
&&\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
2 & 4 & -2 & 2 \\
3 & 6 & -4 & 3\end{pmatrix}
\\
&\rightarrow &\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
-2\cdot 1+1\cdot 2 & -2\cdot 2+1\cdot 4 & -2\left( -3\right) +1\left(
-2\right) & -2\cdot 0+1\cdot 2 \\
-3\cdot 1+1\cdot 3 & -3\cdot 2+1\cdot 6 & -3\left( -3\right) +1\left(
-4\right) & -3\cdot 0+1\cdot 3\end{pmatrix}\quad \because \left\{
\begin{array}{l}
R_{2}\rightarrow -2R_{1}+1R_{2} \\
R_{3}\rightarrow -3R_{1}+1R_{3}\end{array}\right. \\
&=&\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 5 & 3\end{pmatrix}
\\
&\rightarrow &\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & -5\cdot 4+4\cdot 5 & -5\cdot 2+4\cdot 3\end{pmatrix}\quad \because R_{3}\rightarrow -5R_{2}+4R_{3} \\
&=&\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}\end{eqnarray*}となります。

 

階段行列を行既約な階段行列に行簡約する方法

先のプロセスを通じて行列を階段行列に変換したら、続いて、得られた階段行列を行既約な形へ変換します。行列\(A\)がゼロ行列である場合、定義より、それは行既約な階段行列です。一方、行列\(A\)がゼロ行列ではない階段行列である場合、以下のような基本行操作を適用することにより行既約な階段行列が得られます。

  1. 階段行列\(A\)の第\(i\)行の主成分を\(a_{ij_{i}}\)で表記する。その上で、それぞれの行\(i\)に対して以下の操作\begin{equation*}R_{i}\rightarrow -a_{ij_{k}}R_{k}+a_{kj_{k}}R_{i}\quad \left( k>i\right) \end{equation*}を行う。その結果、それぞれの主成分が各列において唯一の非ゼロ成分であるような行列が得られる。
  2. 先のプロセスを通じて得られた行列の第\(i\)行列の主成分を\(a_{ij_{i}}\)で表記する。その上で、それぞれの行\(i\)に対して以下の操作\begin{equation*}R_{i}\rightarrow \frac{1}{a_{ij_{i}}}R_{i}\end{equation*}を行う。その結果、それぞれの主成分が\(1\)になる。

以下が具体例です。

例(階段行列を行既約な形へ変換する)
以下の階段行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}\end{equation*}を行既約な形へ変換します。具体的には、\begin{eqnarray*}
&&\begin{pmatrix}
1 & 2 & -3 & 0 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}
\\
&\rightarrow &\begin{pmatrix}
-4\cdot 1-3\cdot 0 & -4\cdot 2-3\cdot 0 & -4\left( -3\right) -3\cdot 4 &
-4\cdot 0-3\cdot 2 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}\quad \because R_{1}\rightarrow -4R_{1}-3R_{2} \\
&=&\begin{pmatrix}
-4 & -8 & 0 & -6 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}
\\
&\rightarrow &\begin{pmatrix}
-2\left( -4\right) -6\cdot 0 & -2\left( -8\right) -6\cdot 0 & -2\cdot
0-6\cdot 0 & -2\left( -6\right) -6\cdot 2 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}\quad \because R_{1}\rightarrow -2R_{1}-6R_{3} \\
&=&\begin{pmatrix}
8 & 16 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 4 & 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}
\\
&\rightarrow &\begin{pmatrix}
8 & 16 & 0 & 0 \\
-2\cdot 0+2\cdot 0 & -2\cdot 0+2\cdot 0 & -2\cdot 4+2\cdot 0 & -2\cdot
2+2\cdot 2 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}\quad \because R_{2}\rightarrow -2R_{2}+2R_{3} \\
&=&\begin{pmatrix}
8 & 16 & 0 & 0 \\
0 & 0 & -8 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 2\end{pmatrix}
\\
&\rightarrow &\begin{pmatrix}
1 & 2 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1\end{pmatrix}\quad \because \left\{
\begin{array}{l}
R_{1}\rightarrow \frac{1}{8}R_{1} \\
R_{2}\rightarrow -\frac{1}{8}R_{2} \\
R_{3}\rightarrow \frac{1}{2}R_{3}\end{array}\right.
\end{eqnarray*}となります。

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