マネーサプライ
貨幣を「完全な流動性を持つ資産」と定義する一方で、「利子を生むが、流動性が貨幣に劣るすべての資産」の総称として債券を定義しました。その上で、経済全体において、貨幣として保有することが望まれる資産量を貨幣需要と定義するとともに、貨幣需要\(L\)は国民所得\(Y\)と名目利子率\(i\)に依存すること、すなわち、貨幣需要は貨幣需要関数\begin{equation*}L=L\left( Y,i\right)
\end{equation*}を用いて記述されるものと定めました。では、貨幣供給はどのような要因によって決定されるのでしょうか。
貨幣の供給メカニズムについて解説する前に、貨幣の供給量を定義しておく必要があります。マクロ経済学では、経済全体に流通している貨幣の総量をマネーサプライ(money supply)と呼びます。以下では、マネーサプライの定義について順番に解説します。
中央銀行や政府が発行する硬貨や紙幣などの現金(cash)は完全な流動性を持つ資産であり、支払いにおいて受け取りを拒否されることはないため、現金は貨幣です。経済に流通し支払い手段として利用されている現金を現金通貨(cash currency)と呼びます。その上で、現金通貨の額面の総額を、\begin{equation*}
C\geq 0
\end{equation*}で表記します。
市中銀行に預けられており、いつでもペナルティなしで、振込や小切手によって第三者への支払いに利用できる預金(deposite)は現金通貨と同様に高い流動性を持っているため、これを貨幣に含めます。預金の中でも流動性の高いものを預金通貨(deposit currency)と呼びます。その上で、預金通貨の額面の総額を、\begin{equation*}
D\geq 0
\end{equation*}で表記します。
マクロ経済学の理論では、現金通貨\(C\)と預金通貨\(D\)の和をマネーサプライ(money supply)と呼び、これを、\begin{equation*}M=C+D
\end{equation*}で表記します。多くの場合、貨幣供給量はマネーサプライ(money supply)と呼ばれます。マネーサプライは経済全体に流通している貨幣の総量を表す指標です。
M1=\text{現金通貨}+\text{要求払預金}
\end{equation*}と定義されます。ただし、「現金通貨」とは日本銀行が発行する紙幣と政府が発行する硬貨を指します。また、「要求払預金」とは預金を取り扱うすべての機関に預けられた要求払預金であり、そこには普通預金や当座預金などが含まれます。したがって、M1の定義は、理論モデルにおけるマネーサプライの定義\(M=C+D\)と一致します。
M2=\text{現金通貨}+\text{要求払預金}+\text{準通貨}+CD
\end{equation*}と定義されます。ただし、「現金通貨」とは日本銀行が発行する紙幣と政府が発行する硬貨を指します。また、「要求払預金」とは国内銀行に預けられた要求払預金であり、そこには普通預金や当座預金などが含まれます。また、「準通貨」には国内銀行に預けられた定期預金などが含まれます。「CD」は国内銀行に預けられたCDです。M1の定義では「要求払預金」をカウントする際にすべての預金取扱期間を対象としますが、M2の定義では国内銀行だけを対象とします。
M3=\text{現金通貨}+\text{要求払預金}+\text{準通貨}+CD
\end{equation*}と定義されます。項目はM2と同様ですが、M2では集計の対象が国内銀行に限定されていたのに対し、M3では預金を取り扱うすべての機関が集計対象になります。
中央銀行の機能
現代の紙幣は金などの現物と交換できる兌換紙幣ではありません。それにもかかわらず貨幣が価値を持ち、決済手段として広く受け入られているのは、紙幣が中央銀行(central bank)や国家の信用によって裏付けられているからです。貨幣供給の出発点は中央銀行です。
中央銀行は国や地域において通貨の発行および金融政策の決定・実施を担う公的な機関です。中央銀行との対比で、家計や企業を相手に預金や貸出を行う民間銀行を市中銀行(commercial bank)と呼びます。
中央銀行は市中銀行とは異なり、家計や企業を相手に預金や貸出を行うのではなく、以下のような3つの特別な機能を持っています。\begin{equation*}
\text{中央銀行の機能}\left\{
\begin{array}{l}
\text{発券銀行としての機能} \\
\text{銀行の銀行としての機能} \\
\text{政府の銀行としての機能}\end{array}\right.
\end{equation*}
1つ目は、発券銀行としての機能です。つまり、中央銀行のみが法的強制力を持つ銀行券(紙幣)を発行する権利を持ちます。
2つ目は、銀行の銀行としての機能です。つまり、中央銀行は市中銀行から預金を預かったり、逆に貸し出しを行ったりします。また、金融不安などで市中銀行の資金繰りが悪化した場合に備えて、市中銀行は受け入れている預金の一定比率以上の金額を日本銀行に預け入れることが義務付けられています。これを準備預金制度(reserve deposit requirement system)と呼びます。また、市中銀行が資金不足に陥った場合には市中銀行に対して資金を供給することで、金融システム全体の連鎖的な破綻を防ぎます。
3つ目は、政府の銀行としての機能です。つまり、政府が国民から回収した税金や社会保険料などの資金は中央銀行に設けられた口座に預金されています。また、政府による資金の出納、国債の発行と償還、外国為替取引など、政府の財政活動に関連する金融サービスを提供します。
中央銀行の最も重要な任務は、貨幣供給量や金利を調整することにより、物価と金融システムを安定させることにあります。このような政策を金融政策(monetary policy)と呼びます。中央銀行は先の3つの機能を活用することにより貨幣供給量をコントロールできます。以降で順番に解説します。
ハイパワードマネー
貨幣が価値を持ち、決済手段として広く受け入られている理由は、それを発行した中央銀行や国家の信用に裏付けられているからです。貨幣は法貨として、額面通りの価値で債務の弁済に使えることが法律で保証されています。また、中央銀行は、その国の通貨制度を維持し、物価の安定を図る唯一の機関です。人々は、中央銀行や国家が貨幣の価値を維持すると信じているため、貨幣を安心して受け入れます。では、この信用はどのような経路を経て、最終的に経済全体の貨幣供給、すなわちマネーサプライを生み出すのでしょうか。
一般的な企業が負債(借入金や買掛金など)を計上することは、将来、第三者(銀行や取引先など)に対して現金を返済する義務があることを意味します。企業は負債によって得た資金をもとに、価値を生み出す何らかの資産を取得し、売上から得たキャッシュフローを使って負債を返済します。つまり、負債は資産によって裏付けられます。ただし、企業が倒産すれば負債は焦げ付く可能性があります。
中央銀行が発行する貨幣もまた、中央銀行のバランスシート上では、返済義務をともなう負債として記録されます。ただし、中央銀行の場合、負債の裏付けの性質が一般企業の場合とは根本的に異なります。中央銀行が貨幣を発行すれば負債になりますが、その負債は中央銀行自身が発行する貨幣でしか返済され得ないため(貨幣と貨幣を交換する)、中央銀行は実質的に、誰にも返済する必要のない負債を自由に発行できます。しかも、中央銀行自体が貨幣の発行主であるため、負債が焦げ付く可能性もありません。このようなことが可能であるのは、発行貨幣が中央銀行や国家の信用に裏付けられているからです。
中央銀行が発行する貨幣の総量、すなわち中央銀行の負債の総量をハイパワードマネー(high-powerd money)やベースマネー(base money)などと呼び、これを、\begin{equation*}
H\geq 0
\end{equation*}で表記します。日本では、ハイパワードマネーのことをマネタリーベース(monetary base)とも呼びます。ハイパワードマネーはどのように補足されるのでしょうか。
中央銀行の役割は物価と金融システムの安定であり、資金配分を行う主体ではありません。資金配分の判断は市中銀行が担い、中央銀行はその基盤を調整する立場にあります。したがって、中央銀行が発行した貨幣はまず市中銀行に供給されます。市中銀行は中央銀行に口座を開設することが義務付けられていますが、市中銀行が中央銀行に保有する口座を当座預金口座(current account)や準備預金口座(reserve account)などと呼びます。中央銀行が市中銀行から国債などの有価証券を購入すると、その支払いは負債(貨幣)を発行する形で行われます。つまり、中央銀行は支払いのために新たに貨幣を発行し、取引相手である市中銀行の当座預金口座に記帳します。その後、市中銀行が企業への貸出を行ったり、顧客が預金を引き出すことで、貨幣は現金として市中に流通します。つまり、中央銀行が発行した貨幣すなわちハイパワードマネーは、中央銀行に開設された市中銀行の当座預金口座に留まっているか、現金として市中に流通しているかのどちらか一方です。
ハイパワードマネーを構成する要素の中でも、現金として市中に流通している分は、先に定義した現金通貨(cash currency)と一致します。先に定めたように、預金通貨の額面の総額を、\begin{equation*}
C\geq 0
\end{equation*}で表記します。もう一方の要素である市中銀行の当座預金口座に留まっている分を準備預金(reserve deposit)と呼びます。準備預金の額面の総額を、\begin{equation*}
R\geq 0
\end{equation*}で表記します。以上を踏まえると、ハイパワードマネーは、\begin{equation*}
H=C+R
\end{equation*}と定義されます。これは中央銀行が発行する貨幣の総量と一致します。
現金通貨\(C\)は、発行主である中央銀行がその通貨の保有者に対して負っている負債です。また、準備預金\(R\)は、発行主である中央銀行が市中銀行に対して負っている負債です。したがって、現金通貨と準備通貨はハイパワードマネーに含まれます。一方、預金通貨\(D\)はハイパワードマネーに含まれません。なぜなら、預金は市中銀行が預金者に対して負う負債であり、中央銀行が預金者に対して負う負債ではないからです。
貨幣乗数と預金創造
中央銀行は自らの信用を裏付けとして、誰にも返済する必要のない負債である貨幣を自由に発行できます。つまり、中央銀行は発券銀行として、その負債総量であるハイパワードマネーを自由に増減させることができます。とは言え、ハイパワードマネーの規模は、市場全体に流通する貨幣量、すなわちマネーサプライには遠く及びません。実際、ハイパワードマネーは、\begin{equation*}
H=C+R
\end{equation*}と定義される一方で、マネーサプライは、\begin{equation*}
M=C+D
\end{equation*}と定義されますが、準備預金制度のもとでも、市中銀行は預金通貨\(D\)と同額を準備預金\(R\)として中央銀行に預けておく必要はなく、したがって、\begin{equation*}R<D
\end{equation*}が成り立つため、\begin{equation*}
H<M
\end{equation*}を得ます。では、どのようなメカニズムのもとで中央銀行が供給したハイパワードマネーは増幅され、最終的にマネーサプライの規模に至るのでしょうか。順番に解説します。
貨幣通貨\(C\)と預金通貨\(D\)の比を、\begin{equation*}\gamma =\frac{C}{D}
\end{equation*}で表記し、これを現金預金比率と呼ぶこととします。現金預金比率が\(\gamma \)であることは、家計や企業は預金\(D\)の\(\gamma \)倍の金額を現金\(C\)として保有することを意味します。言い換えると、預金が\(\Delta D>0\)だけ増えた場合、それは同時に、現金の増分\(\Delta C>0\)が、\begin{equation*}\Delta C=\gamma \Delta D
\end{equation*}として定まることを意味します。\(\gamma \)の水準は家計や企業の行動によって決まりますが、以降では\(\gamma \)が定数であるものと仮定します。ただし、\begin{equation*}\gamma \geq 0
\end{equation*}です。
準備預金\(R\)と預金通貨\(D\)の比を、\begin{equation*}\rho =\frac{R}{D}
\end{equation*}で表記し、これを準備預金比率と呼ぶこととします。準備預金比率が\(\rho \)であることは、市中銀行は顧客から集めた預金\(D\)の\(\rho \)倍の金額を準備金\(R\)として中央銀行に預けることを意味します。言い換えると、預金通貨が\(\Delta D>0\)だけ増えた場合、それは同時に、準備預金の増分\(\Delta R>0\)が、\begin{equation*}\Delta R=\rho \Delta D
\end{equation*}として定まることを意味します。\(\rho \)の水準は主に市中銀行の行動と中央銀行の規制によって決まりますが、以降では\(\rho \)が定数であるものと仮定します。ただし、\begin{equation*}0\leq \rho \leq 1
\end{equation*}です。
以上を踏まえると、\begin{eqnarray*}
H &=&C+R\quad \because H\text{の定義} \\
&=&\left( \frac{C}{M}+\frac{R}{M}\right) M \\
&=&\left( \frac{C}{C+D}+\frac{R}{C+D}\right) M\quad \because M\text{の定義} \\
&=&\left( \frac{\frac{C}{D}}{\frac{C}{D}+1}+\frac{\frac{R}{D}}{\frac{C}{D}+1}\right) M \\
&=&\left( \frac{\gamma }{\gamma +1}+\frac{\rho }{\gamma +1}\right) M\quad
\because \gamma ,\rho \text{の定義} \\
&=&\frac{\gamma +\rho }{\gamma +1}M
\end{eqnarray*}を得るため、\begin{equation*}
\gamma +\rho >0
\end{equation*}である場合には、\begin{equation*}
M=\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }H
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。そこで、\begin{equation*}
m=\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }
\end{equation*}と定義すれば、先の関係を、\begin{equation*}
M=mH
\end{equation*}と表現できます。\(m\)を貨幣乗数(money multiplier)と呼びます。貨幣乗数の値が\(m\)であることとは、中央銀行によるハイパワードマネーの供給量が\(H\)である場合、その\(m\)倍の貨幣がマネーサプライ\(M\)として市場に供給されることを意味します。
ハイパワードマネーがマネーサプライへと増幅されるプロセスは以下の通りです。
- 中央銀行が国債を買うなどしてハイパワードマネーが、\begin{equation*}\Delta H>0
\end{equation*}だけ増えた状況を想定する。これは中央銀行に開設された市中銀行の当座預金口座に記帳される。ただし、\(\Delta H\)は準備金\(R\)として滞留せず、そのすべてが貨幣通貨\(C\)または預金通貨\(D\)として放出される状況を想定する。つまり、\begin{equation}\Delta H=\Delta C_{1}+\Delta D_{1} \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つものとする。\(\Delta C=\gamma \Delta D\)ゆえに\(\Delta C_{1}=\gamma \Delta D_{1}\)が成り立つため、これと\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\Delta H=\gamma \Delta D_{1}+\Delta D_{1}
\end{equation*}を得るが、これを\(\Delta D_{1}\)について解くと、\begin{equation}\Delta D_{1}=\frac{1}{\gamma +1}\Delta H \quad \cdots (2)
\end{equation}を得る。すると、\begin{eqnarray*}
\Delta C_{1} &=&\Delta H-\Delta D_{1}\quad \because \left( 1\right) \\
&=&\Delta H-\frac{1}{\gamma +1}\Delta H\quad \because \left( 2\right) \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
\Delta C_{1}=\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H \quad \cdots (3)
\end{equation}を得る。以上より、\begin{eqnarray*}
\Delta M_{1} &=&\Delta C_{1}+\Delta D_{1}\quad \because M=C+D \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H+\frac{1}{\gamma +1}\Delta H\quad
\because \left( 2\right) ,\left( 3\right) \\
&=&\Delta H
\end{eqnarray*}であることが明らかになった。なお、預金が\(\Delta D_{1}\)だけ増加すると、それにともない準備金の増分が、\begin{eqnarray*}\Delta R_{1} &=&\rho \Delta D_{1}\quad \because \Delta R=\rho \Delta D \\
&=&\rho \frac{1}{\gamma +1}\Delta H\quad \because \left( 2\right) \\
&=&\frac{\rho }{\gamma +1}\Delta H
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
\Delta R_{1}=\frac{\rho }{\gamma +1}\Delta H \quad \cdots (4)
\end{equation}だけ要求されるため、この時点において市中銀行に残っている預金の残高は、\begin{eqnarray*}
\Delta D_{1}-\Delta R_{1} &=&\frac{1}{\gamma +1}\Delta H-\frac{\rho }{\gamma
+1}\Delta H\quad \because \left( 2\right) ,\left( 4\right) \\
&=&\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\end{eqnarray*}である。結果をまとめると、\begin{equation*}
\left\{
\begin{array}{l}
\Delta C_{1}=\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H \\
\Delta D_{1}=\frac{1}{\gamma +1}\Delta H \\
\Delta R_{1}=\frac{\rho }{\gamma +1}\Delta H \\
\Delta M_{1}=\Delta H\end{array}\right.
\end{equation*}となる。 - 市中銀行に残る預金残高は、\begin{equation*}\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H>0
\end{equation*}であるが、これは預金\(D\)として滞留せず、すべてが貨幣通貨\(C\)または貸出として放出される状況を想定する。ただし、この新たな貸出額は、その借り手の預金口座に記帳されるため、貸出の増分を預金\(D\)の増分として表現できる。以上を踏まえると、\begin{equation}\Delta C_{2}+\Delta D_{2}=\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H \quad \cdots (5)
\end{equation}を得る。\(\Delta C=\gamma \Delta D\)ゆえに\(\Delta C_{2}=\gamma \Delta D_{2}\)が成り立つため、これと\(\left( 5\right) \)より、\begin{equation*}\gamma \Delta D_{2}+\Delta D_{2}=\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\end{equation*}を得るが、これを\(\Delta D_{2}\)について解くと、\begin{equation}\Delta D_{2}=\frac{1}{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\quad \cdots (6)
\end{equation}を得る。すると、\begin{eqnarray*}
\Delta C_{2} &=&\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H-\Delta D_{2}\quad \because
\left( 5\right) \\
&=&\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H-\frac{1}{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H\quad \because \left( 6\right) \\
&=&\left( 1-\frac{1}{\gamma +1}\right) \cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta
H \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
\Delta C_{2}=\frac{\gamma }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\quad \cdots (7)
\end{equation}を得る。以上より、\begin{eqnarray*}
\Delta M_{2} &=&\Delta C_{2}+\Delta D_{2}\quad \because M=C+D \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H+\frac{1}{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H\quad \because \left(
6\right) ,\left( 7\right) \\
&=&\left( \frac{\gamma }{\gamma +1}+\frac{1}{\gamma +1}\right) \frac{1-\rho
}{\gamma +1}\Delta H \\
&=&\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\end{eqnarray*}であることが明らかになった。なお、預金が\(\Delta D_{2}\)だけ増加すると、それにともない準備金の増分が、\begin{eqnarray*}\Delta R_{2} &=&\rho \Delta D_{2}\quad \because \Delta R=\rho \Delta D \\
&=&\rho \cdot \frac{1}{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta
H\quad \because \left( 6\right) \\
&=&\frac{\rho }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
\Delta R_{2}=\frac{\rho }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\quad \cdots (8)
\end{equation}だけ要求されるため、この時点において市中銀行に残っている預金の残高は、\begin{eqnarray*}
\Delta D_{2}-\Delta R_{2} &=&\frac{1}{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma
+1}\Delta H-\frac{\rho }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta
H\quad \because \left( 6\right) ,\left( 8\right) \\
&=&\frac{1-\rho }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H \\
&=&\left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{2}\Delta H
\end{eqnarray*}である。結果をまとめると、\begin{equation*}
\left\{
\begin{array}{l}
\Delta C_{2}=\frac{\gamma }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\\
\Delta D_{2}=\frac{1}{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H \\
\Delta R_{2}=\frac{\rho }{\gamma +1}\cdot \frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H
\\
\Delta M_{2}=\frac{1-\rho }{\gamma +1}\Delta H\end{array}\right.
\end{equation*}となる。 - 同様のプロセスが繰り返される。一般に、第\(n\)ラウンドにおいて市中銀行に残っている預金の残高は、\begin{equation*}\left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\Delta H>0\end{equation*}であるとともに、\begin{equation*}
\left\{
\begin{array}{l}
\Delta C_{n}=\frac{\gamma }{\gamma +1}\cdot \left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\Delta H \\
\Delta D_{n}=\frac{1}{\gamma +1}\cdot \left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\Delta H \\
\Delta R_{n}=\frac{\rho }{\gamma +1}\cdot \left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\Delta H \\
\Delta M_{n}=\left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\Delta H\end{array}\right.
\end{equation*}となる。 - 以上を踏まえると、当初のハイパワードマネーの供給\(\Delta H\)が生み出す貨幣通貨\(C\)の増分の合計は、\begin{eqnarray*}\Delta C &=&\Delta C_{1}+\Delta C_{2}+\cdots +\Delta C_{n}+\cdots \\&=&\sum_{n=1}^{+\infty }\Delta C_{n} \\
&=&\sum_{n=1}^{+\infty }\frac{\gamma }{\gamma +1}\cdot \left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\Delta H \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H\sum_{n=1}^{+\infty }\left( \frac{1-\rho
}{\gamma +1}\right) ^{n-1} \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H\lim_{N\rightarrow +\infty
}\sum_{n=1}^{N}\left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\quad \because
\text{無限級数の和の定義} \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H\lim_{N\rightarrow +\infty }\frac{1-\left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{N}}{1-\frac{1-\rho }{\gamma +1}}\quad \because \text{等比数列の和} \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H\cdot \frac{1}{1-\frac{1-\rho }{\gamma +1}}\quad \because 0<\frac{1-\rho }{\gamma +1}<1 \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +1}\Delta H\cdot \frac{\gamma +1}{\gamma +\rho } \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +\rho }\Delta H
\end{eqnarray*}であり、預金通貨\(D\)の増分の合計は、\begin{eqnarray*}\Delta D &=&\Delta D_{1}+\Delta D_{2}+\cdots +\Delta D_{n}+\cdots \\
&=&\sum_{n=1}^{+\infty }\Delta D_{n} \\
&=&\sum_{n=1}^{+\infty }\frac{1}{\gamma +1}\cdot \left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1}\Delta H \\
&=&\frac{1}{\gamma +1}\Delta H\sum_{n=1}^{+\infty }\left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{n-1} \\
&=&\frac{1}{\gamma +1}\Delta H\lim_{N\rightarrow +\infty
}\sum_{n=1}^{N}\left( \frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{N-1}\quad \because
\text{無限級数の和の定義} \\
&=&\frac{1}{\gamma +1}\Delta H\lim_{N\rightarrow +\infty }\frac{1-\left(
\frac{1-\rho }{\gamma +1}\right) ^{N}}{1-\frac{1-\rho }{\gamma +1}}\quad
\because \text{等比数列の和} \\
&=&\frac{1}{\gamma +1}\Delta H\cdot \frac{1}{1-\frac{1-\rho }{\gamma +1}}\quad \because 0<\frac{1-\rho }{\gamma +1}<1 \\
&=&\frac{1}{\gamma +\rho }\Delta H
\end{eqnarray*}であるため、マネーサプライの増分の合計は、\begin{eqnarray*}
\Delta M &=&\Delta C+\Delta D \\
&=&\frac{\gamma }{\gamma +\rho }\Delta H+\frac{1}{\gamma +\rho }\Delta H \\
&=&\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }\Delta H
\end{eqnarray*}となり、先と同様の結果が得られた。
以上から明らかになったように、中央銀行がハイパワードマネーを\(\Delta H\)だけ増やすと、それが種火となって市中銀行による貸出と預金が連鎖的に発生し、最終的には\(\Delta H\)を上回るマネーサプライの増加\(\Delta M\)が実現します。このような現象を預金創造(deposit creation)と呼びます。
預金創造のプロセスを通じてハイパワードマネーが増幅されるものの、マネーサプライは無限大へ発散しません。なぜなら、先のプロセスから明らかであるように、増幅効果を打ち消す2つの漏出要因が存在するからです。1つ目の漏出は、現金預金比率\(\gamma \)の漏出です。つまり、市中銀行によって融資された資金の一部は、家計や企業によって現金通貨\(C\)として保有されることで銀行システムから漏出し、次のラウンドの預金\(D\)となり得る資金が減少します。2つ目の漏出は、準備預金比率\(\rho \)の漏出です。つまり、銀行が受け入れた預金の一部は準備預金\(R\)として中央銀行に拘束されるため、預金創造の連鎖が抑制されます。
これまでは中央銀行がハイパワードマネーを増やす状況(\(\Delta H>0\))を想定しましたが、中央銀行が国債を売るなどしてハイパワードマネーを回収する場合にも同様の議論が成立します。つまり、中央銀行がハイパワードマネーを\(\Delta H<0\)だけ減少させると、その効果は増幅され、市場においてそれ以上のマネタリーベース\(\Delta M=\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }\Delta H\)が減少します。
貨幣乗数の決定要因
中央銀行が発行するハイパワードマネー\(H\)と経済全体に流通するマネーサプライ\(M\)の間には以下の関係\begin{equation*}M=mH
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。ただし、\(m\)は貨幣乗数であり、\begin{equation*}m=\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }
\end{equation*}と定義されます。つまり、中央銀行がハイパワードマネーを\(H\)だけ発行すれば、市場にはその\(m\)倍の貨幣が流通するということです。
中央銀行は公開市場操作などを通じて市中銀行の準備預金\(R\)を調節できるため、ハイパワードマネー\(H=C+R\)の水準は中央銀行によってコントロールされます。では、貨幣乗数\(m\)の水準はどのように決定されるのでしょうか。
貨幣乗数\(m=\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }\)を現金預金比率\(\gamma =\frac{C}{D}\)に関して偏微分すると、\begin{eqnarray*}\frac{\partial m}{\partial \gamma } &=&\frac{\partial }{\partial \gamma }\left( \frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }\right) \\
&=&\frac{\rho -1}{\left( \gamma +\rho \right) ^{2}} \\
&<&0\quad \because \rho <1\text{かつ}\gamma +\rho >0
\end{eqnarray*}を得ますが、以上の事実は、\(\gamma \)が大きくなると\(m\)が小さくなることを意味します。言い換えると、家計や企業が現金を手元に残しておく傾向が高いほど\(\gamma \)が大きくなり、その結果\(m\)が小さくなります。逆に、家計や企業が預金する傾向が高いほど\(\gamma \)が小さくなり、その結果\(m\)が大きくなります。\(\gamma \)の水準は家計は企業の行動によって決定されるため、中央銀行は\(\gamma \)を直接コントロールできません。影響を与えるとしても、それは間接的かつ限定的です。
貨幣乗数\(m=\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }\)を準備預金比率\(\rho =\frac{R}{D}\)に関して偏微分すると、\begin{eqnarray*}\frac{\partial m}{\partial \rho } &=&\frac{\partial }{\partial \rho }\left(
\frac{\gamma +1}{\gamma +\rho }\right) \\
&=&-\frac{\gamma +1}{\left( \gamma +\rho \right) ^{2}} \\
&<&0\quad \because \gamma \geq 0\text{かつ}\gamma +\rho >0
\end{eqnarray*}を得ますが、以上の事実は、\(\rho \)が大きくなると\(m\)が小さくなることを意味します。言い換えると、市中銀行が中央銀行に預金する傾向が高いほど\(\rho \)が大きくなり、その結果\(\rho \)が小さくなります。逆に、市中銀行が中央銀行に預金する傾向が低いほど\(\rho \)が小さくなり、その結果\(m\)が大きくなります。中央銀行は準備預金制度を通じて\(\rho \)の水準をコントロールできます。
貨幣供給関数と貨幣供給曲線
貨幣市場における需要を、国民所得\(Y\)と名目利子率\(i\)に関する関数である貨幣需要関数\begin{equation*}L\left( Y,i\right)
\end{equation*}として表現しました。経済主体が貨幣を保有する真の目的は、名目的な金額ではなく、その貨幣が持つ実質的な購買力を確保することにあり、貨幣需要関数が定める値\(L\left( Y,i\right) \)は人々が需要する貨幣の実質的な購買力、すなわち実質貨幣需要を表します。この場合、\(Y\)は実質の国民所得です。国民所得を\(Y^{\prime }\geq 0\)に固定すれば名目利子率\(i\)と実質貨幣需要\(L\left( Y^{\prime },i\right) \)の関係を表す1変数関数\begin{equation*}L=L\left( Y^{\prime },i\right)
\end{equation*}が得られますが、横軸に\(L\)をとり縦軸に\(i\)をとった上で描かれるこの関数のグラフを貨幣需要曲線と呼びます。貨幣需要曲線は右下がりの曲線です。さて、人々が実際に手元に保有したいと考える貨幣の名目的な金額、すなわち名目貨幣需要は、実質貨幣需要\(L\left( Y,i\right) \)に物価水準\(P\)を掛けることにより得られます。つまり名目貨幣需要は、\begin{equation*}M^{D}=P\cdot L\left( Y,i\right)
\end{equation*}として得られます。
貨幣市場における供給は、マネーサプライ\begin{equation*}
M=mH
\end{equation*}として表現されます。マネーサプライは市場に供給された貨幣の総額の名目値です。つまり、名目貨幣供給を\(M^{S}\)で表記するのであれば、以下の関係\begin{equation*}M^{S}=M
\end{equation*}が成り立ちます。供給された貨幣が持つ実質的な購買力、すなわち実質貨幣供給は、名目貨幣需要\(M^{S}\)を物価水準\(P\)で割ることにより得られます。つまり、実質貨幣需要は、\begin{equation*}\frac{M^{S}}{P}=\frac{M}{P}
\end{equation*}として得られます。貨幣需要を実質の貨幣需要関数\(L\left( Y,i\right) \)を用いて定義したことにあわせて、貨幣供給を実質の貨幣供給\begin{equation*}\frac{M}{P}
\end{equation*}として定義します。貨幣需要関数\(L\left( Y,i\right) \)は内生変数\(Y,i\)に関する関数ですが、貨幣供給関数\(\frac{M}{P}\)を構成する\(M,P\)は外生変数であり、内生変数\(Y,i\)を含みません。したがって、貨幣供給関数\begin{equation*}L=\frac{M}{P}
\end{equation*}は定数関数です。横軸に\(L\)をとり縦軸に\(i\)をとった上で描かれるこの関数のグラフを貨幣供給曲線と呼びます。貨幣供給関数は定数関数であるため貨幣供給曲線は垂直の直線です。マネーサプライ\(M\)が増加すれば貨幣供給曲線が右側にシフトし、\(M\)が減少すれば貨幣供給曲線が左側にシフトします。
演習問題
\gamma =0.2
\end{equation*}であり、準備預金比率が、\begin{equation*}
\rho =0.05
\end{equation*}であるものとします。中央銀行による買いオペによって生じたハイパワードマネーの増分が、\begin{equation*}
\Delta H=50\text{兆円}
\end{equation*}である場合のマネーサプライの増分\(\Delta H\)を計算してください。
- この現象を、貨幣乗数\(m=\frac{1+\rho }{\gamma +\rho }\)に含まれる準備預金比率\(\rho \)の変動に着目して説明してください。
- 上記の様な状況では、\(m\)が極めて小さい値になり、預金創造が機能しない可能性が高まります。その場合、中央銀行による金融政策は、貨幣乗数\(m\)とハイパワードマネー\(H\)のうち、どちらの要素に対するコントロールが難しくなるかを答えてください。
プレミアム会員専用コンテンツです
【ログイン】【会員登録】