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ディニ微分

有界変動関数とルベーグ積分に関する純変化量定理

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単調関数とルベーグ積分に関する純変化量定理

実数空間\(\mathbb{R} \)とルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)およびルベーグ測度\(\mu \)からなるルベーグ測度空間\(\left( \mathbb{R} ,\mathfrak{M}_{\mu },\mu \right) \)が与えられているものとします。

\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が\(\left[ a,b\right] \)上で単調増加関数であるものとします。つまり、\begin{equation*}\forall x,x^{\prime }\in \left[ a,b\right] :\left[ x<x^{\prime }\Rightarrow
f\left( x\right) \leq f\left( x^{\prime }\right) \right] \end{equation*}が成り立つということです。\(\left[ a,b\right] \)上で単調増加な関数は\(\left( a,b\right) \)上においても単調増加であるため、\(f\)は\(\left(a,b\right) \)上で単調増加関数です。

するとルベーグの定理より、\(f\)は\(\left( a,b\right) \)上のほとんどいたるところで微分可能であることが保証されるため、導関数\(\frac{df}{dx}\)が\(\left( a,b\right) \)上のほとんどいたるところで定義されます。つまり、導関数\begin{equation*}\frac{df}{dx}:\mathbb{R} \supset \left( a,b\right) \backslash A\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}の存在を保証する零集合\(A\subset \left( a,b\right) \)が存在します。単調増加関数の導関数は非負値をとるため、\(\frac{df}{dx}\)は\(\left(a,b\right) \backslash A\)上で非負値をとります。つまり、\begin{equation*}\forall x\in \left( a,b\right) \backslash A:\frac{df\left( x\right) }{dx}\geq 0
\end{equation*}が成り立ちます。

以上より、\(\frac{df}{dx}\)は\(\left(a,b\right) \backslash A\)上に定義された非負値をとるルベーグ可測関数であるため、そのルベーグ積分\begin{equation*}\int_{\left( a,b\right) \backslash A}\frac{df}{dx}
\end{equation*}をとることができますが、その値は以下の条件\begin{equation*}
\int_{\left( a,b\right) \backslash A}\frac{df}{dx}\leq f\left( b\right)
-f\left( a\right)
\end{equation*}を満たします。右辺\(f\left( b\right) -f\left( a\right) \)は有限な実数であるため左辺もまた有限な実数であり、したがってこの不等式は\(\frac{df}{dx}\)が\(\left( a,b\right)\backslash A\)上でルベーグ積分可能であることも同時に意味します。これを純変化量定理(net change theorem)と呼びます。

導関数\(\frac{df}{dx}\)がそれぞれの点\(x\in \left( a,b\right) \backslash A\)に対して定める値、すなわち点\(x\)における\(f\)の微分係数\begin{equation*}\frac{df\left( x\right) }{dx}=\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( x+h\right)
-f\left( x\right) }{h}
\end{equation*}とは、点\(x\)における\(f\left(x\right) \)の瞬間変化率に相当する概念です。純変化量によると、この瞬間変化率\(\frac{df\left( x\right) }{dx}\)を集合\(\left( a,b\right) \backslash A\)上でルベーグ積分することにより得られる値は、変数\(x\)が点\(a\)から点\(b\)へ変化する場合の前科における\(f\left( x\right) \)の変化量\begin{equation*}f\left( b\right) -f\left( a\right)
\end{equation*}を上回らないことが保証されます。ちなみに、純変化量定理において等号は成立するとは限りません。以下の例より明らかです。

例(カントール関数のルベーグ積分)
カントール関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ 0,1\right] \rightarrow \left[ 0,1\right] \)が与えられているものとします。カントール関数\(f\)は単調増加関数です。カントール集合を\(\mathcal{C}\subset \left[ 0,1\right] \)で表記します。カントール集合は零集合です。つまり、\begin{equation*}\mu \left( \mathcal{C}\right) =0
\end{equation*}です。カントール関数\(f\)はカントール集合の補集合\(\left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}\)上において定数関数です。定数関数は微分可能であるとともに導関数は\(0\)であるため、\begin{equation*}\forall x\in \left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}:\frac{df\left(
x\right) }{dx}=0
\end{equation*}であり、したがって、\begin{equation*}
\int_{\left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}}\frac{df}{dx}=0
\end{equation*}を得ます。その一方、カントール関数の定義より、\begin{eqnarray*}
f\left( 1\right) -f\left( 0\right) &=&1-0 \\
&=&1
\end{eqnarray*}であるため、\begin{equation*}
\int_{\left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}}\frac{df}{dx}<f\left(
1\right) -f\left( 0\right)
\end{equation*}を得ます。

 

有界変動関数とルベーグ積分に関する純変化量定理

有界変動関数に関しても同様の主張は成立するのでしょうか。順番に考えます。

\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が区間\(\left[ a,b\right] \)上において有界変動であるものとします。つまり、関数\(f\)の区間\(\left[ a,b\right] \)上における全変動\begin{eqnarray*}TV\left( f\right) &=&\sup \left\{ V\left( f,P\right) \in \mathbb{R} \ |\ P\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\} \\
&=&\sup \left\{ \sum_{k=1}^{n}\left\vert f\left( x_{k}\right) -f\left(
x_{k-1}\right) \right\vert \in \mathbb{R} \ |\ \left\{ x_{k}\right\} _{k=0}^{n}\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\}
\end{eqnarray*}が有限な実数として定まるということです。

関数\(f\)が区間\(\left[ a,b\right] \)上において有界変動であることと、何らかの2つの単調増加関数\(g,h:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}f=g-h
\end{equation*}という形で表せることは必要十分です。以上の事実と、単調増加関数である\(g,h\)については純変化量定理が成り立つこと踏まえると、有界変動関数に関する純変化量定理が以下のようにして得られます。

命題(有界変動関数とルベーグ積分に関する純変化量定理)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が\(\left[ a,b\right] \)上において有界変動関数であるならば、導関数\(\frac{df}{dx}:\mathbb{R} \supset \left( a,b\right) \backslash A\rightarrow \mathbb{R} \)の存在を保証する零集合\(A\subset \left( a,b\right) \)が存在する。さらに、\(\frac{df}{dx}\)は\(\left( a,b\right) \backslash A\)上でルベーグ積分可能であるとともに、以下の関係\begin{equation*}\int_{\left[ a,b\right] \backslash A}\left\vert \frac{df}{dx}\right\vert
\leq TV\left( f,\left[ a,b\right] \right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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上の命題中の導関数\begin{equation}
\frac{df}{dx}:\mathbb{R} \supset \left( a,b\right) \backslash A\rightarrow \mathbb{R} \quad \cdots (1)
\end{equation}が与えられた状況において、\(A\cup \left\{ a,b\right\} \)上の点\(x\)に対して実数\(\frac{df\left(x\right) }{dx}\)を割り当てれば\(\frac{df}{dx}\)の定義域を\(\left[ a,b\right] \)に拡大した関数\begin{equation}\frac{df}{dx}:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \quad \cdots (2)
\end{equation}が得られます。\(A\cup \left\{a,b\right\} \)は零集合であるため、\(A\cup \left\{ a,b\right\} \)上の点\(x\)に対する\(\frac{df\left( x\right) }{dx}\)としてどのような値を選んだ場合でも、\(\left[ a,b\right] \)上に定義された関数\(\frac{df}{dx}\)はいずれも\(\left[ a,b\right] \)上でルベーグ可測になることが保証されます。\(\left( 1\right) \)と\(\left( 2\right) \)は\(\left[ a,b\right] \)上のほとんどいたるところで等しいため\(\left( 2\right) \)は\(\left[ a,b\right] \)上でルベーグ積分可能であるとともに、\begin{equation*}\int_{\left[ a,b\right] }\frac{df}{dx}=\int_{\left( a,b\right) \backslash A}\frac{df}{dx}
\end{equation*}を得ます。以上の事実と先の命題を踏まえると、\begin{equation*}
\int_{\left[ a,b\right] }\left\vert \frac{df}{dx}\right\vert \leq TV\left( f,\left[ a,b\right] \right)
\end{equation*}を得ます。

命題(有界変動関数とルベーグ積分に関する純変化量定理)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が有界変動関数であるならば、導関数\(\frac{df}{dx}:\mathbb{R} \supset \left( a,b\right) \backslash A\rightarrow \mathbb{R} \)の存在を保証する零集合\(A\subset \left( a,b\right) \)が存在する。\(\frac{df}{dx}\)の定義域を\(\left[ a,b\right] \)に拡張することにより得られる関数\(\frac{df}{dx}:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(\frac{df}{dx}\)は\(\left[ a,b\right] \)上でルベーグ積分可能であるとともに、以下の関係\begin{equation*}\int_{\left[ a,b\right] }\left\vert \frac{df}{dx}\right\vert \leq TV\left( f,\left[ a,b\right] \right)
\end{equation*}が成り立つ。

 

純変化量定理は等号で成立するとは限らない

先の命題中の主張は等号で成立するとは限りません。以下の例より明らかです。

例(カントール関数のルベーグ積分)
カントール関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ 0,1\right] \rightarrow \left[ 0,1\right] \)が与えられているものとします。カントール関数\(f\)は有界変動関数です。カントール集合を\(\mathcal{C}\subset \left[ 0,1\right] \)で表記します。カントール集合は零集合です。つまり、\begin{equation*}\mu \left( \mathcal{C}\right) =0
\end{equation*}です。カントール関数\(f\)はカントール集合の補集合\(\left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}\)上において定数関数です。定数関数は微分可能であるとともに導関数は\(0\)であるため、\begin{equation*}\forall x\in \left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}:\frac{df\left(
x\right) }{dx}=0
\end{equation*}であり、したがって、\begin{equation*}
\int_{\left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}}\left\vert \frac{df}{dx}\right\vert =0
\end{equation*}を得ます。そこで、カントール関数の導関数の定義域を\(\left[ 0,1\right] \)へ拡張して、\begin{equation*}\frac{df}{dx}:\mathbb{R} \supset \left[ 0,1\right] \rightarrow \left[ 0,1\right] \end{equation*}とした場合にも、\begin{equation*}
\int_{\left[ 0,1\right] }\left\vert \frac{df}{dx}\right\vert =0
\end{equation*}が成り立ちます。その一方、カントール関数は単調増加関数であることから、その全変動は、\begin{eqnarray*}
TV\left( f,\left[ 0,1\right] \right) &=&f\left( 1\right) -f\left( 0\right)
\\
&=&1-0 \\
&=&1
\end{eqnarray*}であるため、\begin{equation*}
\int_{\left[ 0,1\right] \backslash \mathcal{C}}\left\vert \frac{df}{dx}\right\vert <TV\left( f,\left[ 0,1\right] \right)
\end{equation*}を得ます。以上より、先の命題の主張は等号で成立するとは限らないことが明らかになりました。

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