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有界変動関数どうしの積

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有界変動関数どうしの積

\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された2つの関数\begin{eqnarray*}f &:&\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \\
g &:&\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{eqnarray*}が与えられているものとします。すると、それぞれの\(x\in \left[ a,b\right] \)に対して、\begin{equation*}\left( fg\right) \left( x\right) =f\left( x\right) \cdot g\left( x\right)
\end{equation*}を定める新たな関数\begin{equation*}
fg:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が定義可能です。

関数\(f,g\)がともに区間\(\left[a,b\right] \)上で有界変動であるものとします。有界変動関数は有界であるため\(f,g\)はともに有界であり、したがってこれらの絶対値関数\(\left\vert f\right\vert ,\left\vert g\right\vert \)もまた有界であるため、\(\left\vert f\right\vert ,\left\vert g\right\vert \)の値域の上限が有限な実数として定まること、すなわち、\begin{eqnarray*}\sup \left\vert f\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) &=&\sup
\left\{ \left\vert f\left( x\right) \right\vert \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ a,b\right] \right\} <+\infty \\
\sup \left\vert g\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) &=&\sup
\left\{ \left\vert g\left( x\right) \right\vert \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ a,b\right] \right\} <+\infty
\end{eqnarray*}が成り立つことに注意してください。さらにこの場合、関数\(fg\)もまた区間\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動になることが保証されるとともに、これらの関数の全変動の間には以下の関係\begin{equation*}TV\left( fg\right) \leq \sup \left\vert f\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) \cdot TV\left( g\right) +\sup \left\vert g\right\vert \left( \left[
a,b\right] \right) \cdot TV\left( f\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

つまり、区間\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動な関数\(f,g\)どうしの積の形をしている関数\(fg\)が与えられたとき、\(fg\)もまた区間\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であることが保証されます。したがって、何らかの関数\(f,g\)の積の形をしている関数\(fg\)の有界変動性を検討する際には、\(f\)と\(g\)を分けた上で、それぞれが有界変動であることを確認すればよいということになります。

命題(有界変動関数どうしの積)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された2つの関数\(f,g:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれ任意に与えられたとき、そこから関数\(fg:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)を定義する。\(f,g\)がともに\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であるならば、\(fg\)もまた\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であるとともに、それらの全変動の間には以下の関係\begin{equation*}TV\left( fg\right) \leq \sup \left\vert f\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) \cdot TV\left( g\right) +\sup \left\vert g\right\vert \left( \left[
a,b\right] \right) \cdot TV\left( f\right)
\end{equation*}という関係が成立する。ただし、\begin{eqnarray*}
\sup \left\vert f\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) &=&\left\{
\left\vert f\left( x\right) \right\vert \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ a,b\right] \right\} \\
\sup \left\vert g\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) &=&\left\{
\left\vert g\left( x\right) \right\vert \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ a,b\right] \right\}
\end{eqnarray*}である。

証明

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絶対値関数は非負値をとり、非負値をとる関数の上限は非負の実数であるため、先の命題を以下のように表現することもできます。

命題(有界変動関数どうしの積)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された2つの関数\(f,g:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれ任意に与えられたとき、そこから関数\(fg:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)を定義する。\(f,g\)がともに\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であるならば、\(fg\)もまた\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であるとともに、それらの全変動の間には以下の関係\begin{equation*}\exists M_{1},M_{2}\geq 0:TV\left( fg\right) \leq M_{1}\cdot TV\left(
g\right) +M_{2}\cdot TV\left( f\right)
\end{equation*}が成立する。

例(有界変動関数どうしの積)
関数\(f,g:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)と実数\(c\in \mathbb{R} \)が与えられた状況において、以下の関数\begin{equation*}cfg:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を定義します。つまり、この関数\(cfg\)はそれぞれの\(x\in \left[ a,b\right] \)に対して、\begin{equation*}\left( cfg\right) \left( x\right) =cf\left( x\right) g\left( x\right)
\end{equation*}を値として定めるということです。\(f\)と\(g\)がともに\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であるものとします。有界変動関数どうしの積は有界変動であるため\(fg\)は\(\left[a,b\right] \)上で有界変動です。有界変動関数の定数倍は有界変動であるため\(cfg\)は\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動です。さらに、これらの関数の全変動について、以下の関係\begin{eqnarray*}TV\left( cfg\right) &=&\left\vert c\right\vert \cdot TV\left( fg\right)
\quad \because \text{有界変動関数の定数倍の全変動} \\
&\leq &\left\vert c\right\vert \cdot \left\{ \sup \left\vert f\right\vert
\left( \left[ a,b\right] \right) \cdot TV\left( g\right) +\sup \left\vert
g\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) \cdot TV\left( f\right)
\right\} \quad \because \text{有界変動関数の積の全変動}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。

例(有界変動関数どうしの積)
関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left[ a,b\right] \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =x^{2}
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は恒等関数\(x\)どうしの積です。恒等関数\(x\)は有界変動であり、有界変動関数どうしの積は有界変動であるため\(x^{2}\)すなわち\(f\)は\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動です。

 

有界変動関数どうしの積に関する不等式は等号で成立するとは限らない

関数\(f,g\)がともに区間\(\left[a,b\right] \)上において有界変動である場合には関数\(fg\)もまた区間\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であるとともに、以下の関係\begin{equation*}TV\left( fg\right) \leq \sup \left\vert f\right\vert \left( \left[ a,b\right] \right) \cdot TV\left( g\right) +\sup \left\vert g\right\vert \left( \left[
a,b\right] \right) \cdot TV\left( f\right)
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。この関係は等号で成立するとは限りません。以下の例より明らかです。

例(有界変動関数どうしの積に関する不等式が等号で成立しないケース)
関数\(f,g:\mathbb{R} \supset \left[ 0,\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(x\in \left[ 0,\pi \right] \)に対して定める値が、\begin{eqnarray*}f\left( x\right) &=&x \\
g\left( x\right) &=&\sin \left( x\right)
\end{eqnarray*}であるものとします。この場合、関数\(fg:\mathbb{R} \supset \left[ 0,\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left[ 0,\pi \right] \)に対して、\begin{eqnarray*}\left( fg\right) \left( x\right) &=&f\left( x\right) g\left( x\right) \quad
\because fg\text{の定義} \\
&=&x\sin \left( x\right) \quad \because f,g\text{の定義}
\end{eqnarray*}を定めます。これらの関数はいずれも\(\left[0,\pi \right] \)上で有界変動であるとともに、\begin{equation*}TV\left( fg\right) <\sup \left\vert f\right\vert \left( \left[ 0,\pi \right] \right) \cdot TV\left( g\right) +\sup \left\vert g\right\vert \left( \left[
0,\pi \right] \right) \cdot TV\left( f\right)
\end{equation*}が成り立ちます(演習問題)。

 

多項式関数は有界変動関数

関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が多項式関数であるものとします。つまり、\(f\)がそれぞれの\(x\in \left[ a,b\right] \)に対して定める値が、非負の整数\(n\in \mathbb{Z} _{+}\)と実数\(c_{k}\ \left( k=0,1,\cdots ,n\right) \)を用いて、\begin{equation*}f\left( x\right) =c_{0}+c_{1}x+c_{2}x^{2}+\cdots +c_{n}x^{n}
\end{equation*}と表されるということです。

定数関数は有界変動であるため関数\(c_{0}\)は有界変動です。恒等関数\(x\)は有界変動であり、有界変動関数の定数倍は有界変動であるため関数\(c_{1}x\)は有界変動です。有界変動関数どうしの積は有界変動であるため関数\(x^{2}\)は有界変動であり、有界変動関数の定数倍は有界変動であるため関数\(c_{2}x^{2}\)は有界変動です。同様の議論を繰り返すことにより、関数\(c_{n}x^{n}\)が有界変動であることが示されます。さらに、有界変動関数どうしの和は有界変動であるため\(c_{0}+c_{1}x+c_{2}x^{2}+\cdots+c_{n}x^{n}\)すなわち\(f\)は有界変動です。以上より、多項式関数は有界変動であることが明らかになりました。

命題(多項式関数は有界変動関数)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された多項式関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)は\(\left[ a,b\right] \)上において有界変動である。
例(多項式関数は有界変動関数)
関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left[ a,b\right] \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =x^{2}+x+1
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は多項式関数であるため、先の命題より\(f\)は\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動です。

 

演習問題

問題(有界変動関数どうしの積に関する不等式が等号で成立しないケース)
関数\(f,g:\mathbb{R} \supset \left[ 0,\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(x\in \left[ 0,\pi \right] \)に対して定める値が、\begin{eqnarray*}f\left( x\right) &=&x \\
g\left( x\right) &=&\sin \left( x\right)
\end{eqnarray*}であるものとします。その上で、関数\(fg:\mathbb{R} \supset \left[ 0,\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} \)を定義します。\(f,g,f+g\)はいずれも\(\left[ 0,\pi \right] \)上で有界変動であるとともに、\begin{equation*}TV\left( fg\right) <\sup \left\vert f\right\vert \left( \left[ 0,\pi \right] \right) \cdot TV\left( g\right) +\sup \left\vert g\right\vert \left( \left[
0,\pi \right] \right) \cdot TV\left( f\right)
\end{equation*}が成り立つことを示してください。

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問題(有界変動関数どうしの積)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された2つの関数\(f,g:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれ任意に与えられたとき、そこから関数\(fg:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)を定義します。本文中で明らかにしたように、\(f\)と\(g\)がともに\(\left[a,b\right] \)上で有界変動である場合には\(fg\)もまた\(\left[a,b\right] \)上で有界変動です。では逆に、\(fg\)が\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動である場合には\(f\)と\(g\)はともに\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であると言えるでしょうか。議論してください。
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