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逆正接関数(arctan関数)の定義と具体例

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逆正接関数

正接関数\begin{equation*}
\tan \left( x\right) :\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられた状況を想定します。ただし、その定義域は、\begin{equation*}
X=\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ \cos \left( x\right) \not=0\right\}
\end{equation*}です。正接関数は周期\(\pi \)の周期関数であるため\(X\)上に定義された正接関数は全単射ではなく、したがって、その逆関数は存在しません。ただ、正接関数の定義域を適当な範囲に制限すれば全単射を得ることができます。

正接関数の定義域を有界開区間\(\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \subset \mathbb{R} \)に制限して、\begin{equation*}\tan \left( x\right) :\mathbb{R} \supset \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}とした場合、この新たな定義域上で正接関数は狭義単調増加関数になるとともに、値域は\(\mathbb{R} \)となります。

命題(全単射であるような正接関数)
正接関数\(\tan \left( x\right) :\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)は有界開区間\(\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \subset \mathbb{R} \)上で狭義単調増加関数であるとともに、そこでの値域は\(\mathbb{R} \)となる。
証明

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定義域を有界開区間\(\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)に制限した正接関数\begin{equation}\tan \left( x\right) :\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\rightarrow \mathbb{R} \quad \cdots (1)
\end{equation}は狭義単調増加関数であるとともに、その値域は\(\mathbb{R} \)であることが明らかになりました。狭義単調増加関数は単射です。また、終集合と値域が一致する関数は全射です。したがって\(\left( 1\right) \)は全単射であるため、その逆関数が存在します。そこで、\(\left( 1\right) \)の逆関数を、\begin{equation*}\tan ^{-1}\left( y\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\end{equation*}または、\begin{equation*}
\arctan \left( y\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\end{equation*}などで表記し、これを逆正接関数(inverse tangent function)やアークタンジェント関数(arctangent function)などと呼びます。順序対\(\left( x,y\right) \in \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \times \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、逆関数の定義より、\begin{equation*}y=\tan \left( x\right) \Leftrightarrow x=\tan ^{-1}\left( y\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。

2つの変数\(x,y\)の記号を入れ替えることにより、逆正接関数を、\begin{equation*}\tan ^{-1}\left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\end{equation*}と表現することもできます。逆正接関数\(\tan ^{-1}\left( x\right) \)の逆関数は正接関数\begin{equation*}\tan \left( y\right) :\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}であるため、順序対\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \times \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)を任意に選んだとき、逆関数の定義より、\begin{equation*}y=\tan ^{-1}\left( x\right) \Leftrightarrow x=\tan \left( y\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。

例(逆正接関数)
正接関数\(\tan \left( y\right) :\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \rightarrow \mathbb{R} \)の値を以下の表にまとめました。

$$\begin{array}{cccccccccc}
\hline
y(ラジアン) & -\frac{\pi }{2} & -\frac{\pi }{3} & -\frac{\pi }{4} & -\frac{\pi }{6} & 0 & \frac{\pi }{6} & \frac{\pi }{4} & \frac{\pi }{3} & \frac{\pi }{2} \\ \hline
\tan \left( y\right) & – & -\sqrt{3} & -1 & -\frac{\sqrt{3}}{3} & 0 & \frac{\sqrt{3}}{3} & 1 & \sqrt{3} & – \\ \hline
\end{array}$$

順序対\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \times \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)を任意に選んだとき、逆関数の定義より、\begin{equation}y=\tan ^{-1}\left( x\right) =x=\tan \left( y\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}という関係が成り立ちます。先の表より、\begin{equation*}
\tan \left( -\frac{\pi }{3}\right) =-\sqrt{3}
\end{equation*}が成り立つため、これと\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\arctan \left( -\sqrt{3}\right) =-\frac{\pi }{3}
\end{equation*}を得ます。他の順序対\(\left( x,y\right) \)についても同様に考えることにより、逆正接関数\(\tan ^{-1}\left(x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)の値が以下のように定まります。

$$\begin{array}{cccccccccc}
\hline
x & – & -\sqrt{3} & -1 & -\frac{\sqrt{3}}{3} & 0 & \frac{\sqrt{3}}{3} & 1 & \sqrt{3} & – \\ \hline
\tan ^{-1}\left( x\right) & -\frac{\pi }{2} & -\frac{\pi }{3} & -\frac{\pi }{4} & -\frac{\pi }{6} & 0 & \frac{\pi }{6} & \frac{\pi }{4} & \frac{\pi }{3} & \frac{\pi }{2} \\ \hline
\end{array}$$

例(逆正接関数)
下図のような直角三角形が与えられているものとします。

図:直角三角形
図:直角三角形

底辺の長さを\(b>0\)で、対辺の長さを\(c>0\)で、斜辺と底辺がつくる角の大きさ(ラジアン)を\(x\in \left( 0,\frac{\pi }{2}\right) \)でそれぞれ表記する場合、正接の定義より以下の関係\begin{equation*}\tan \left( x\right) =\frac{c}{b}
\end{equation*}が成り立ちます。すると、逆正接関数の定義より、\begin{equation*}
\tan ^{-1}\left( \frac{c}{b}\right) =x
\end{equation*}を得ます。つまり、逆正接関数を利用することにより、底辺の長さと対辺の長さの比\(\frac{c}{b}\)から、斜辺と底辺が作る角の大きさ\(x\)を特定できるということです。

 

逆正接関数のグラフ(逆正接曲線)

逆正接関数\(\tan ^{-1}\left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)のグラフは以下の通りです。

図:逆正接関数のグラフ
図:逆正接関数のグラフ

上図から明らかであるように、逆正接関数のグラフは定義域\(\mathbb{R} \)上で狭義単調増加であるとともに、値域は\(\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)です。後ほど厳密に証明します。

 

逆正接関数は狭義単調増加関数

逆正接関数は狭義単調増加関数です。

命題(逆正接関数は狭義単調増加)
逆正接関数\(\tan ^{-1}\left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)は狭義単調増加関数である。
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逆正接関数の値域

逆正接関数の値域は\(\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)です。

命題(逆正接関数の値域)
逆正接関数\(\tan ^{-1}\left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)の値域は\(\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)である。
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逆正接関数との合成関数

実数空間\(\mathbb{R} \)もしくはその部分集合\(X\)上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を任意に選びます。また、逆正接関数\begin{equation*}
\tan ^{-1}\left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\end{equation*}が与えられているものとします。\(f\)の値域は\(\tan ^{-1}\left( x\right) \)の定義域\(\mathbb{R} \)の部分集合であるため合成関数\begin{equation*}\tan ^{-1}\left( f\left( x\right) \right) :\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が定義可能です。

例(多項式関数と逆正接関数の合成)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\tan ^{-1}\left( x+1\right)
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は多項式関数\(x+1\)と逆正接関数\(\tan ^{-1}\left( x\right) \)の合成関数です。\(\tan^{-1}\left( x\right) \)の定義域は\(\mathbb{R} \)であるため、\(f\)の定義域\(X\)は、\begin{eqnarray*}X &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x+1\in \mathbb{R} \right\} \\
&=&\mathbb{R} \end{eqnarray*}となります。

例(有理関数と逆正接関数の合成)
関数\(f:\mathbb{R} \backslash \left\{ -1\right\} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\tan ^{-1}\left( \frac{1}{x+1}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は有理関数\(\frac{1}{x+1}\)と逆正接関数\(\tan ^{-1}\left( x\right) \)の合成関数です。\(\tan^{-1}\left( x\right) \)の定義域は\(\mathbb{R} \)であるため、\(f\)の定義域\(X\)は、\begin{eqnarray*}X &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ -1\right\} \ |\ \frac{1}{x+1}\in \mathbb{R} \right\} \\
&=&\mathbb{R} \backslash \left\{ -1\right\}
\end{eqnarray*}となります。

逆正接関数\begin{equation*}
\tan ^{-1}\left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\end{equation*}が与えられているものとします。実数空間\(\mathbb{R} \)もしくはその部分集合\(X\)上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を任意に選びます。\(\tan ^{-1}\left( x\right) \)の値域\(\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \)が\(f\)の定義域の部分集合である場合には、すなわち、\begin{equation*}\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \subset X
\end{equation*}が成り立つ場合には合成関数\begin{equation*}
f\left( \tan ^{-1}\left( x\right) \right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が定義可能です。

例(逆正接関数と多項式関数の合成)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\tan ^{-1}\left( x\right) +1
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は逆正接関数\(\tan^{-1}\left( x\right) \)と多項式関数\(x+1\)の合成関数です。\(x+1\)の定義域は\(\mathbb{R} \)であるため、\(f\)の定義域\(X\)は、\begin{eqnarray*}X &=&\left\{ x\in \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \ |\ \tan
^{-1}\left( x\right) \in \mathbb{R} \right\} \\
&=&\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right)
\end{eqnarray*}です。

例(逆正接関数と有理関数の合成)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}\frac{1}{\arctan \left( x\right) +1}
\end{equation*}\begin{equation*}
f\left( x\right) =\frac{1}{\tan ^{-1}\left( x\right) +1}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は逆正接関数\(\tan^{-1}\left( x\right) \)と有理関数\(\frac{1}{x+1}\)の合成関数です。\(\frac{1}{x+1}\)の定義域は\(\mathbb{R} \backslash \left\{ -1\right\} \)であるため、\(f\)の定義域は、\begin{eqnarray*}X &=&\left\{ x\in \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \ |\ \tan
^{-1}\left( x\right) \in \mathbb{R} \backslash \left\{ -1\right\} \right\} \\
&=&\left\{ x\in \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \ |\ \tan
^{-1}\left( x\right) \not=-1\right\} \\
&=&\left\{ x\in \left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \ |\ x\not=\tan
\left( -1\right) \right\} \\
&=&[-\frac{\pi }{2},\tan \left( -1\right) )\cup (\tan \left( -1\right) ,\frac{\pi }{2}] \end{eqnarray*}となります。

 

演習問題

問題(逆正接関数と正接関数の合成関数)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\tan \left( \tan ^{-1}\left( x\right) \right)
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域\(X\)を求めてください。
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問題(正接関数と逆正接関数の合成関数)
関数\(f:\left( -\frac{\pi }{2},\frac{\pi }{2}\right) \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\tan ^{-1}\left( \tan \left( x\right) \right)
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域\(X\)を求めてください。
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