開集合を用いた連続関数の表現
実数空間\(\mathbb{R} \)もしくはその部分集合\(X\)を定義域とし、値として実数をとる1変数関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられているものとします。
関数\(f\)が定義域上の点\(a\in X\)において連続であることは、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left(
\left\vert x-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( x\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つこととして定義されます。また、関数\(f\)が定義域\(X\)上において連続であることとは、\(f\)が\(X\)上の任意の点において連続であることとして、すなわち、\begin{equation*}\forall a\in X,\ \forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in
X:\left( \left\vert x-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left(
x\right) -f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つこととして定義されます。したがって、関数が定義域\(X\)上で連続であることを示すためには、通常、定義域上の点を任意に選んだ上で、関数がその点において連続であることを示すという手続きを踏むことになります。その一方で、そのような手続きを踏まずに、関数が定義域上において連続であることを直接示す手法も存在します。順番に解説します。
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているものとします。その上で、\(f\)の終集合\(\mathbb{R} \)上の開集合\(Y\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選びます。ただし、\(\mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)は\(\mathbb{R} \)上の開集合系を表す記号です。\(Y\subset \mathbb{R} \)であるため\(f\)による\(Y\)の逆像\begin{equation*}f^{-1}\left( Y\right) =\left\{ x\in X\ |\ f\left( x\right) \in Y\right\}
\end{equation*}をとることができますが、一般に、これは\(f\)の定義域\(X\)上の開集合であるとは限りません。一方、\(f\)が連続関数である場合には、先のような逆像\(f^{-1}\left( Y\right) \)が必ず\(X\)上の開集合になることが保証されます。つまり、\begin{equation*}\forall Y\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) :f^{-1}\left( Y\right) \in \mathcal{O}\left( X\right)
\end{equation*}が成り立つということです。ただし、\(\mathcal{O}\left( X\right) \)は\(X\)上の開集合系を表す記号です。
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(\mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)は\(\mathbb{R} \)上の開集合系であり、\(\mathcal{O}\left( X\right) \)は\(X\)上の開集合系である。
上の命題の逆もまた成立します。つまり、関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が以下の条件\begin{equation*}\forall Y\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) :f^{-1}\left( Y\right) \in \mathcal{O}\left( X\right)
\end{equation*}を満たす場合には、\(f\)が連続関数になることが保証されます。
\end{equation*}を満たすならば、\(f\)は定義域\(X\)上において連続である。ただし、\(\mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)は\(\mathbb{R} \)上の開集合系であり、\(\mathcal{O}\left( X\right) \)は\(X\)上の開集合系である。
以上の2つの命題より、連続関数という概念は開集合を用いて以下のように特徴づけられることが明らかになりました。
\end{equation*}が成り立つことと、\(f\)が定義域\(X\)上において連続であることは必要十分である。ただし、\(\mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)は\(\mathbb{R} \)上の開集合系であり、\(\mathcal{O}\left( X\right) \)は\(X\)上の開集合系である。
関数\(f\)の定義域\(X\)が\(\mathbb{R} \)である場合には、上の命題において\(\mathcal{O}\left(X\right) \)が\(\mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)に置き換わります。つまり、全区間上に定義された関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が定義域\(\mathbb{R} \)上において連続であることと、以下の条件\begin{equation*}\forall Y\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) :f^{-1}\left( Y\right) \in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right)
\end{equation*}が成り立つことは必要十分です。
先の命題を用いれば、関数が定義域上のそれぞれの点において連続であることを示さなくても、その関数が定義域上で連続であることを直接的に示すことができます。
先の命題のもう一つのポイントは、関数の極限や距離の概念などを経由せずとも、開集合の概念(すなわち位相)さえ与えられれば関数の連続性という概念を表現できるということです。この事実は、開集合の概念だけが定義された一般の集合においても(このような集合を位相空間と呼びます)写像の連続性を定義できることを意味します。位相空間および位相空間における写像の連続性については場を改めて解説します。
開区間を用いた連続関数の表現
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、以下の条件\begin{equation*}\forall Y\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) :f^{-1}\left( Y\right) \in \mathcal{O}\left( X\right)
\end{equation*}が成り立つことと、\(f\)が定義域\(X\)上において連続であることと必要十分であることが明らかになりました。したがって、関数\(f\)が連続であることを示すためには、\(\mathbb{R} \)上の開集合\(Y\)を任意に選んだ上で、関数\(f\)によるその逆像\(f^{-1}\left( Y\right) \)が\(X\)上の開集合になることを示せばよいということになります。ただ、すべての開集合に対してこのような検証を行うことは面倒です。
有界開区間\(\left( a,b\right) \)は\(\mathbb{R} \)上の開集合であるとともに、\(\mathbb{R} \)上の任意の開集合は可算個の互いに素な有界開区間の和集合として表すことができます。以上の事実を利用すると、関数\(f\)の連続性を判定する際には、\(\mathbb{R} \)上の任意の開集合\(Y\)について\(f^{-1}\left( Y\right) \)が\(X\)上の開集合であることを検証する必要はなく、任意の有界開区間\(\left( a,b\right) \)について\(f^{-1}\left( \left(a,b\right) \right) \)が\(X\)上の開集合であることを検証すれば十分であることが示されます。具体的には以下の通りです。
\end{equation*}で表記する。関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、以下の条件\begin{equation*}\forall I\in I\left( a,b\right) :f^{-1}\left( I\right) \in \mathcal{O}\left(
X\right)
\end{equation*}が成り立つことと、\(f\)が定義域\(X\)上において連続であることは必要十分である。ただし、\(\mathcal{O}\left( X\right) \)は\(X\)上の開集合系である。
以上の命題より、関数\(f\)が定義域\(X\)上において連続であることを示すためには、\(f\)による有界開区間の逆像が必ず\(X\)上の開集合になることを示せば十分であることが明らかになりました。
関数\(f\)の定義域\(X\)が\(\mathbb{R} \)である場合には、上の命題において\(\mathcal{O}\left(X\right) \)が\(\mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)に置き換わります。つまり、全区間上に定義された関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が定義域\(\mathbb{R} \)上において連続であることと、以下の条件\begin{equation*}\forall I\in I\left( a,b\right) :f^{-1}\left( I\right) \in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right)
\end{equation*}が成り立つことは必要十分です。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は恒等関数\(x\)の定数倍であるため\(\mathbb{R} \)上で連続です。同じことを先の命題から導きます。具体的には、有界開区間\(\left( a,b\right)\subset \mathbb{R} \)を任意に選ぶと、\(f\)による逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( a,b\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ f\left( x\right) \in \left( a,b\right) \right\} \quad \because \text{逆像の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 3x\in \left( a,b\right) \right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\left( \frac{a}{3},\frac{b}{3}\right)
\end{eqnarray*}となりますが、これは\(\mathbb{R} \)上の開集合であるため、先の命題より、\(f\)は定義域\(\mathbb{R} \)上で連続であることが明らかになりました。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は恒等関数\(x\)どうしの積であるため\(\mathbb{R} \)上で連続です。同じことを先の命題から導きます。具体的には、有界開区間\(\left( a,b\right)\subset \mathbb{R} \)を任意に選ぶと、\(f\)による逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( a,b\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ f\left( x\right) \in \left( a,b\right) \right\} \quad \because \text{逆像の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x^{2}\in \left( a,b\right) \right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\left\{
\begin{array}{cl}
\phi & \left( if\ b<0\right) \\
\left( -\sqrt{b},\sqrt{b}\right) & \left( if\ a<0<b\right) \\
\left( -\sqrt{b},-\sqrt{a}\right) \cup \left( \sqrt{a},\sqrt{b}\right) &
\left( if\ a>0\right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}となりますが、いずれの場合にもこれは\(\mathbb{R} \)上の開集合であるため、先の命題より、\(f\)は定義域\(\mathbb{R} \)上で連続であることが明らかになりました。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は無理関数\(\sqrt{x}\)であるため\(\mathbb{R} _{+}\)上で連続です。同じことを先の命題から導きます。具体的には、有界開区間\(\left( a,b\right)\subset \mathbb{R} \)を任意に選ぶと、\(f\)による逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( a,b\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} _{+}\ |\ f\left( x\right) \in \left( a,b\right) \right\} \quad \because
\text{逆像の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \sqrt{x}\in \left( a,b\right) \right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\left\{
\begin{array}{cl}
\phi & \left( if\ b\leq 0\right) \\
\left[ 0,b^{2}\right) & \left( if\ a<0<b\right) \\
\left( a^{2},b^{2}\right) & \left( if\ 0\leq a\right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}となりますが、いずれの場合にもこれは\(\mathbb{R} _{+}\)上の開集合であるため(半閉区間\(\left[ 0,b^{2}\right) \)は\(\mathbb{R} \)上において開集合ではありませんが\(\mathbb{R} _{+}\)上において開集合であることに注意してください)、先の命題より、\(f\)は定義域\(\mathbb{R} _{+}\)上で連続であることが明らかになりました。
関数が連続でないことの証明
先の命題は関数が連続であるための必要十分条件を与えているため、関数が連続ではないことを示す際にも有用です。つまり、関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域\(X\)上で連続であることと、以下の条件\begin{equation*}\forall I\in I\left( a,b\right) :f^{-1}\left( I\right) \in \mathcal{O}\left(
X\right)
\end{equation*}が成り立つことは必要十分であるため、この命題の否定に相当する以下の命題\begin{equation*}
\exists I\in I\left( a,b\right) :f^{-1}\left( I\right) \not\in \mathcal{O}\left( X\right)
\end{equation*}が成り立つ場合、\(f\)は定義域\(X\)上に連続ではない点を持つことになります。特に、\(f\)の定義域\(X\)が\(\mathbb{R} \)である場合、上の命題は、\begin{equation*}\exists I\in I\left( a,b\right) :f^{-1}\left( I\right) \not\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right)
\end{equation*}となります。
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ x<0\right) \\
1 & \left( if\ x\geq 0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は\(0\)において連続ではないため、定義域\(\mathbb{R} \)上において連続ではありませんが、同様のことを先の命題から導きます。つまり、\begin{equation*}\exists I\in I\left( a,b\right) :f^{-1}\left( I\right) \not\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right)
\end{equation*}を示すことが目標です。以下の有界開区間\begin{equation*}
I=\left( \frac{1}{2},\frac{3}{2}\right) \in I\left( a,b\right)
\end{equation*}に注目すると、\(f\)による逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( I\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ f\left( x\right) \in I\right\} \quad \because \text{逆像の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ f\left( x\right) \in \left( \frac{1}{2},\frac{3}{2}\right) \right\}
\quad \because I=\left( \frac{1}{2},\frac{3}{2}\right) \\
&=&[0,+\infty )
\end{eqnarray*}となりますが、これは\(\mathbb{R} \)上の開集合ではないため、\begin{equation*}f^{-1}\left( I\right) \not\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right)
\end{equation*}を得ます。したがって\(f\)は\(\mathbb{R} \)上において連続ではありません。
演習問題
\begin{array}{cc}
x+1 & \left( if\ x\leq 2\right) \\
x+3 & \left( if\ x>2\right)\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)が\(\mathbb{R} \)上で連続ではないことを証明してください。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)が\(\mathbb{R} _{+}\)上で連続であることを証明してください。
\end{equation*}が成り立つことと、\(f\)が\(X\)上で連続であることは必要十分であることを示してください。ただし、\(\mathcal{A}\left( \mathbb{R} \right) \)は\(\mathbb{R} \)上の閉集合系であり、\(\mathcal{A}\left( X\right) \)は\(X\)上の閉集合系です。
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