区間の分割の細分化が関数の変動に与える影響
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}に加えて、区間\(\left[ a,b\right] \)の分割\(P=\left\{ x_{k}\right\} _{k=0}^{n}\)が与えられているものとします。つまり、\(P\)の要素\(x_{0},x_{1},\cdots ,x_{n}\)は以下の条件\begin{equation*}a=x_{0}<x_{1}<\cdots <x_{n-1}<x_{n}=b
\end{equation*}を満たすということです。この分割\(P\)のもとでの関数\(f\)の変動は、\begin{eqnarray*}V\left( f,P\right) &=&\left\vert f\left( x_{1}\right) -f\left( x_{0}\right)
\right\vert +\left\vert f\left( x_{2}\right) -f\left( x_{1}\right)
\right\vert +\cdots +\left\vert f\left( x_{n}\right) -f\left( x_{n-1}\right)
\right\vert \\
&=&\sum_{k=1}^{n}\left\vert f\left( x_{k}\right) -f\left( x_{k-1}\right)
\right\vert
\end{eqnarray*}と定義されます。
先の分割\(P\)のいずれの要素とも異なる点\(y\in \left(a,b\right) \)を任意に選びます。つまり、以下の条件\begin{equation*}a=x_{0}<x_{1}<\cdots <x_{k-1}<y<x_{k}<\cdots <x_{n-1}<x_{n}=b
\end{equation*}が成り立つということです。この点\(y\)を分割\(P\)に加えれば区間\(\left[a,b\right] \)の新たな分割が得られるため、それを\(Q\)で表記します。この分割\(Q\)のもとでの関数\(f\)の変動は、\begin{equation*}V\left( f,P\right) \leq V\left( f,Q\right)
\end{equation*}を満たすことが保証されます。つまり、区間の分割に新たに点を加えると分割は以前よりも細かくなりますが、その結果、関数の変動の値が小さくなることはありません。
\end{equation*}が成り立つ。
関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)に加えて、区間\(\left[ a,b\right] \)の2つの分割\begin{eqnarray*}P &=&\left\{ x_{k}\right\} _{k=0}^{n} \\
Q &=&\left\{ y_{k}\right\} _{k=1}^{m}
\end{eqnarray*}が与えられているものとします。さらに、この2つの分割の間には以下の関係\begin{equation*}
P\subset Q
\end{equation*}が成り立つものとします。\(P,Q\)はいずれも有限個の点からなる集合であり、なおかつ\(P\)の要素はいずれも\(Q\)の要素であるため、\(P\)に有限個の点を加えれば\(Q\)が得られます。以上の事実と先の命題を踏まえると、\begin{equation*}V\left( f,P\right) \leq V\left( f,Q\right)
\end{equation*}が導かれます。つまり、区間の分割に有限個の点を加えると分割は以前よりも細かくなりますが、その結果、関数の変動の値が小さくなることはありません。
\end{equation*}が成り立つ。
有界変動関数は部分閉区間上においても有界変動
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられているものとします。さらに、この関数\(f\)は区間\(\left[a,b\right] \)上で有界変動であるものとします。つまり、関数\(f\)の区間\(\left[a,b\right] \)上での全変動\begin{eqnarray*}TV\left( f,\left[ a,b\right] \right) &=&\sup \left\{ V\left( f,P\right) \in \mathbb{R} \ |\ P\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\} \\
&=&\sup \left\{ \sum_{k=1}^{n}\left\vert f\left( x_{k}\right) -f\left(
x_{k-1}\right) \right\vert \in \mathbb{R} \ |\ \left\{ x_{k}\right\} _{k=0}^{n}\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\}
\end{eqnarray*}が有限な実数として定まるということです。
区間\(\left[ a,b\right] \)の部分集合であるような有界閉区間\(\left[ c,d\right] \)を任意に選びます。つまり、\begin{equation*}\left[ c,d\right] \subset \left[ a,b\right] \end{equation*}が成り立つということです。このとき、\(f\)は\(\left[ c,d\right] \)上において有界変動であることが保証されます。証明では先の命題を利用します。
区間上で有界変動な関数は小区間上で有界変動
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が区間\(\left[ a,b\right] \)上において有界変動関数である状況を想定します。
\(a<c<b\)を満たす実数\(c\in \mathbb{R} \)を任意に選べば、区間\(\left[ a,b\right] \)を2つの小区間\(\left[ a,c\right] \)と\(\left[ c,b\right] \)へ分割できますが、これらはともに\(\left[ a,b\right] \)の部分集合であるため、先の命題より、\(f\)は\(\left[ a,b\right]\)上および\(\left[ c,b\right] \)上において有界変動です。しかも、これらの全変動の間には以下の関係\begin{equation*}TV\left( f,\left[ a,b\right] \right) =TV\left( f,\left[ a,c\right] \right)
+TV\left( f,\left[ c,b\right] \right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、区間において有界変動な関数はそれぞれの小区間においても有界変動であり、それぞれの小区間における全変動の和をとればもとの区間における全変動が得られるということです。
+TV\left( f,\left[ c,b\right] \right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。
小区間上で有界変動な関数は区間上で有界変動
区間上で有界変動な関数は小区間上で有界変動であることが明らかになりましたが、逆の主張もまた成り立ちます。具体的には以下の通りです。
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられているものとします。先とは異なり、\(f\)は\(\left[ a,b\right] \)上で有界変動であることを仮定しません。
\(a<c<b\)を満たす実数\(c\in \mathbb{R} \)を任意に選べば、区間\(\left[ a,b\right] \)を2つの小区間\(\left[ a,c\right] \)と\(\left[ c,b\right] \)へ分割できます。仮に、\(f\)が\(\left[ a,b\right] \)上および\(\left[ c,b\right] \)上において有界変動であるならば、\(f\)は\(\left[a,b\right] \)上においても有界変動になることが保証されます。しかも、これらの全変動の間には以下の関係\begin{equation*}TV\left( f,\left[ a,b\right] \right) =TV\left( f,\left[ a,c\right] \right)
+TV\left( f,\left[ c,b\right] \right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、それぞれの小区間において有界変動な関数はもとの区間においても有界変動であり、それぞれの小区間における全変動の和をとればもとの区間における全変動が得られるということです。
+TV\left( f,\left[ c,b\right] \right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。
有界変動関数の全変動の加法性
先の2つの命題より、関数が有界閉区間上で有界変動であることと、それぞれの小区間において有界変動であることが必要十分であることが明らかになりました。したがって以下の命題を得ます。これを有界変動関数の全変動に関する加法性(additivity)と呼びます。
+TV\left( f,\left[ c,b\right] \right)
\end{equation*}が成り立つ。
上の命題は区間を2つに分割する状況を想定したものですが、区間を有限かつ任意個に分割する場合にも同様の主張が成り立ちます。証明では小区間の個数に関する数学的帰納法を利用します。
&=&\sum_{k=1}^{n}TV\left( f,\left[ x_{k-1},x_{k}\right] \right)
\end{eqnarray*}が成り立つ。ただし、\(x_{0}=a\)かつ\(x_{n}=b\)である。
全変動の加法性を利用した全変動の特定方法
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が区間\(\left[ a,b\right] \)上において有界変動であるか検討している状況を想定します。
関数\(f\)が定義域\(\left[ a,b\right] \)上において単調関数であるとは限らない場合でも、区間\(\left[ a,b\right] \)の分割\(P=\left\{ x_{k}\right\} _{k=0}^{n}\)を適当に選ぶことにより、\(f\)がそれぞれの小区間\(\left[ x_{k-1},x_{k}\right] \ \left( k=0,1,\cdots ,n\right) \)上において単調関数になる状況は起こり得ます。単調関数は有界変動であるため、\(f\)はそれぞれの小区間\(\left[ x_{k-1},x_{k}\right] \)上において有界変動です。すると先の命題より、\(f\)はもとの区間\(\left[ a,b\right] \)においても有界変動であることが保証されます。
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は\(\left[ 0,2\pi \right] \)上において単調関数ではないため、\(f\)が\(\left[ 0,2\pi \right] \)上において有界変動であることは自明ではありません。そこで、以下のような\(\left[ 0,2\pi \right] \)の分割\begin{equation*}P=\left\{ 0,\pi ,2\pi \right\}
\end{equation*}に注目します。関数\(f\)はそれぞれの小区間\begin{equation*}\left[ 0,\pi \right] ,\ \left[ \pi ,2\pi \right] \end{equation*}上において単調関数であるため有界変動であり、したがって先の命題より、\(f\)はもとの区間\(\left[ 0,2\pi \right] \)上においても有界変動です。全変動は、\begin{eqnarray*}TV\left( f,\left[ 0,2\pi \right] \right) &=&TV\left( \cos \left( x\right) ,\left[ 0,\pi \right] \right) +TV\left( \cos \left( x\right) ,\left[ \pi
,2\pi \right] \right) \\
&=&2+2 \\
&=&4
\end{eqnarray*}となります。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)が\(\left[ 0,2\pi \right] \)上において有界変動であることを示した上で、全変動を求めてください。
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)が\(\left[ -1,2\right] \)上において有界変動であることを示した上で、全変動を求めてください。
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)が\(\left[ 0,1\right]\)上において有界変動であることを示した上で、全変動を求めてください。
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