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短期マクロ分析の基礎

貨幣の定義と機能

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貨幣の定義

経済学における貨幣(money)とは、財・サービスの購入や債務の返済における決算手段として、社会において一般的に受け入れられている資産を指します。

「決算手段として一般的に受け入られている」ということは、財・サービスを得る対価として相手に渡した際に、受け取りを拒否されることがないことを意味します。決済において受け取りを拒否されずにすぐに使えることを指して流動性(liquidity)と呼びます。貨幣は完全な流動性を持つ資産であり、受け取りを拒否されず、取引費用や名目価値のロスなしに他の財・サービスと交換できるという意味において、普遍的な決済能力を持ちます。

先の定義において、貨幣の物理的な形について規定しませんでした。つまり、完全な流動性を持つ資産であれば、それが硬貨、紙幣、電子データなどの形をとっていても貨幣とみなされます。

例(法定通貨)
日本において日本銀行券(お札)や硬貨(補助貨幣)などのいわゆる現金(cash)は完全な流動性を持つ資産であり、支払いにおいて受け取りを拒否されることはありません。したがって現金は貨幣です。

例(貨幣ではない資産)
債券・株式・不動産などの金融資産や、美術品・金地金などの実物資産は価値の貯蔵手段としては優れています。しかし、買い物に行った際に先の資産を支払いに使うことはできず、それ以前に換金する必要があります。このような意味において金融資産や実物資産は流動性が完全ではなく、ゆえに貨幣ではありません。

 

貨幣の流動性を支える機能:交換手段・価値尺度・価値貯蔵手段

貨幣を「完全な流動性を持つ資産」と定義しましたが、経済システム全体において資産が貨幣であるためには、すなわち完全な流動性を持つためには、その資産はどのような機能を備えている必要があるのでしょうか。\begin{equation*}
\text{貨幣の流動性を支える機能}\left\{
\begin{array}{l}
\text{交換手段} \\
\text{価値尺度} \\
\text{価値貯蔵手段}\end{array}\right.
\end{equation*}

1つ目の機能は、その資産が「交換手段(medium of exchange)」として広く使われているということです。人々が「この資産は明日も他人に受け取ってもらえる」と確信できるからこそ、決算手段としての普遍性、すなわち流動性が維持されます。

2つ目の機能は、その資産が他の財・サービスの価値を測る「価値尺度(unit of account)」として機能しているということです。逆に、ある資産が価値尺度として機能していない場合、取引のたびに価値の交渉が必要となり、即時決済能力すなわち流動性が損なわれてしまいます。価値尺度として安定していることで交換手段としての流動性が担保されます。

3つ目の機能は、その資産が「価値貯蔵手段(store of value)」の手段として機能しているということです。人々が「この資産の価値が明日に暴落することはない」と確信できるからこそ、取引の対価としてその資産を受け取ることができます。逆に、その資産の価値が暴落し、価値を将来に持つ越す手段として機能しなくなれば、人々はその資産の受け取りを拒否し、流動性が失われます。

 

貨幣の流動性がもたらす機能:交換手段

ある資産が貨幣であるためには、すなわち完全な流動性を持つためには、その資産は交換手段・価値尺度・価値貯蔵手段としての機能を備えている必要があることを指摘しました。実は、逆向きの議論もまた成立します。つまり、ある資産が完全な流動性を持つからこそ、その資産は交換手段・価値尺度・価値貯蔵手段として機能するということです。まずは、貨幣が交換手段として用いられる理由を説明します。\begin{equation*}
\text{貨幣の流動性がもたらす機能}\left\{
\begin{array}{l}
\text{交換手段} \\
\text{価値尺度} \\
\text{価値貯蔵手段}\end{array}\right.
\end{equation*}

物々交換経済(barter economy)では、取引を成立させるために以下の2つの条件が必要です。

  1. Aさんが持っているものを、Bさんが欲していること。
  2. Bさんが持っているものを、Aさんが欲していること。

以上の2つの条件がともに成立する状態を欲望の二重の一致(double coincidence of wants)と呼びます。物々交換経済において欲望の二重の一致が成立しない場合、当事者たちは第三者を介した連鎖取引を成立させる必要がありますが、そのために莫大な探索コストを負担する必要があります。以下が具体例です。

例(欲望の二重の不一致)
魚を持つ漁師が靴を欲し、パンを持つパン屋が魚を欲している場合、欲望の二重の一致が成立していないため、両者の間で取引は成立しません。このような状況において漁師が靴を得るためには、魚を欲しがっている靴屋を見つける必要があります。そのような靴屋が存在しなければ、パンを欲しがっている靴屋を見つけた上で、以下の取引\begin{equation*}
\text{漁師(魚)}\rightarrow \text{パン屋(パン)}\rightarrow \text{靴屋(靴)}\rightarrow \text{漁師(魚)}
\end{equation*}が成立するように交渉する必要があります。交渉が決裂した場合、さらに複雑な連鎖取引を成立させる必要があり、その取引相手の探索には膨大な時間と労力がかかります。

貨幣すなわち完全な流動性を持つ資産が流通している状況を想定します。流動性が高いということは、誰もがそれを受け取ることを拒否しないことを意味します。言い換えると、貨幣とは誰もが常に欲しがっている資産であるため、誰に渡しても取引が即座に成立し、ゆえに探索コストを削減できます。

例(貨幣による探索コストの削減)
魚を持つ漁師が靴を欲しているものとします。貨幣が存在する場合、この魚屋は魚を欲しがっている靴屋を探す必要がありません。魚屋は、まず、魚を欲しがっている誰かに魚を売り、その対価として貨幣を受けとります。その相手は靴を持っている人である必要はありません。続いて、貨幣を受け取った魚屋は、その貨幣を靴屋に渡せば即座に取引が成立します。なぜなら、貨幣とは誰もが常に欲しがっている資産であるため、靴屋は必ず貨幣を受け取るからです。魚を欲しがっている人を見つけることは、魚を欲しがっている靴屋を見つけることよりもはるかに容易です。したがって、貨幣を媒介とした取引は漁師の探索コストを著しく削減します。

 

貨幣の流動性がもたらす機能:価値尺度

続いて、貨幣が価値尺度として用いられる理由を説明しますが、そもそも、なぜ価値尺度財が必要なのでしょうか。

市場には無数の財が存在しますが、価値の尺度となる財が存在しない場合には、すべての財の価値を他のすべての財との相対価格で表現する必要があります。商品が増えるほど、その計算コストは膨大になります。

一方、価値の尺度となる財が存在する場合、他のすべての商品の価値は価値尺度財との交換比率によってのみ表現すればよいため、相対価格の計算コストを大幅に削減できます。

例(価値尺度財の必要性)
ニワトリと魚を交換する場合、両者の交換比率を参照しながら意思決定を行うことになります。両者の交換比率が、\begin{equation}
\text{ニワトリ}:\text{魚}=1:5 \quad \cdots (1)
\end{equation}である状況を想定します。つまり、1羽のニワトリと5匹の魚が交換可能であるということです。では、ニワトリと魚に加えてリンゴを交換対象とする場合にはどうなるでしょうか。魚とリンゴを交換するためには両者の交換比率に関する情報が必要ですが、両者の交換比率が、\begin{equation}
\text{魚}:\text{リンゴ}=1:3 \quad \cdots (2)
\end{equation}である状況を想定します。ニワトリとリンゴを交換するためには両者の交換比率に関する情報が必要ですが、それは\(\left( 1\right),\left( 2\right) \)より、\begin{equation}\text{ニワトリ}:\text{リンゴ}=1:15
\quad \cdots (3)
\end{equation}と導かれます。一般に、\(N\)種類の商品を自由に交換するために必要な情報の数は、\begin{equation*}\dbinom{N}{2}=\frac{N!}{2!\left( N-2\right) !}
\end{equation*}です。したがって、\(100\)種類の商品を自由に交換するために必要な情報の数は、\begin{equation*}\left(
\begin{array}{c}
100 \\
2\end{array}\right) =\frac{100!}{2!98!}=4950
\end{equation*}ですが、このような情報をすべて処理するのは面倒です。一方、価値尺度財が存在する場合、その財との交換比率さえあれば十分であるため、\(N\)種類の財を自由に交換するために必要な相対価格に関する情報の数は、\begin{equation*}N
\end{equation*}まで減少します(\(N\)種類に価値尺度財を含めない場合)。例えば、\(100\)種類の財を自由に交換するために必要な情報の数は、\begin{equation*}100
\end{equation*}です。

では、貨幣すなわち完全な流動性を持つ資産はなぜ、価値尺度財として機能するのでしょうか。流動性が高いということは、誰もがそれを受け取ることを拒否しないことを意味します。誰もが貨幣を受け取るということは、他の財・サービスと比較して、貨幣には普遍的な価値があることを意味します。この普遍的な価値が、貨幣の「尺度」としての価値を裏付けています。

 

貨幣の流動性がもたらす機能:価値貯蔵手段

続いて、貨幣が価値の貯蔵手段として用いられる理由を説明しますが、そもそも、なぜ価値を貯蔵する必要があるのでしょうか。

価値を貯蔵することはリスク回避手段の1つです。つまり、将来の不確実な支出に備えて購買力を温存するということです。であるならば、必要なときに、即時に、取引費用なしで、貯蔵した価値を購買力として引き出せるよう備えておく必要があります。

貨幣は完全な流動性を持つため、貨幣を貯蔵しておけば、必要なときに、即時に、取引費用なしで、貯蔵した貨幣を購買力として引き出すことができます。つまり、貨幣は最も安全で確実な備えとして価値貯蔵手段としての役割を果たします。

貨幣を貯蔵していても、株式や債券のように利子や配当を生みません。しかし、人々が利子や配当というリターンを犠牲にしてまで貨幣を貯蔵するのは、貨幣が持つ完全な流動性が、緊急時の決済能力という他の資産では代替できない最高の安全保障を提供するためです。ただし、インフレ(物価上昇)が発生すると、貨幣の購買力は低下します。

これまでの財市場の分析では、消費\(C\)や投資\(I\)に対する利子率\(r\)の影響を無視してきました。本章以降では、貨幣が果たす価値貯蔵手段としての側面をより深く掘り下げることにより、利子率が、貨幣市場の均衡を通じて、最終的に財市場の均衡にも影響を与えることを示します。

 

貨幣の歴史的進化

狩猟採集社会の時代には、獲物はすぐに腐敗してしまうため、価値の貯蔵が困難でした。そこで、人々はリスクを乗り越えるために互報性(reciprocity)にもとづく交換を行います。つまり、人々は自分が捕った獲物を他者に贈与するのですが、それは単なる親切心からではなく、将来自分が飢えたときに助けてもらえる権利、すなわち社会的信用を蓄積する手段として行っていたということです。獲物の贈与と返礼は社会的信用の交換に他なりません。また、社会的信用を蓄積しておけば、自分が獲物が捕れなかったときに誰かが助けてくれるため、これは価値貯蔵手段でもありました。さらに、贈与経済においては、貨幣のような客観的な尺度は存在せず、人間関係という文脈そのものが、将来の義務の重さを測る尺度として機能していました。以上のように、この段階では、社会的信用が貨幣機能を代替していました。

農業の開始によって余剰生産物が生み出されると、人々は分業を行うようになり、社会の規模が大きくなります。顔見知りではない他人から構成される社会において非人格的な市場取引が行われるようになると、社会的な関係性にもとづく交換では限界があり、普遍的に価値を持つ物理的なモノが交換の媒体として求められるようになります。これを商品貨幣(commodity money)と呼びます。初期の商品貨幣としては穀物や家畜、貝殻などが使われましたが、耐久性や均質性に限界がありました。市場が発展し、長距離の交易が活発化すると、高い貯蔵能力と均質性および可分性を持つ貴金属が貨幣として台頭します。しかし、金や銀の地金は、取引のたびに鑑定と計量を行う必要があり、その事務的コストは膨大でした。この取引費用を削減するため、政府や権力者が品質と重量を保証する鋳造貨幣が誕生します。これにより、貨幣は商品そのものの価値から、権威による信用へと変化を遂げます。

金や銀の硬貨でさえ、大口取引や長距離輸送には重量と盗難リスクが伴いました。この問題を解決するために生まれたのが証券貨幣(representative money)です。証券貨幣とは、銀行や政府に保管された金や銀との交換(兌換)が保証された紙の証書(兌換紙幣)です。証券貨幣の登場により携帯性と運搬性が向上しましたが、その一方で、証券貨幣の供給量は裏付けとなる金や銀の量に制約されるため、経済規模の拡大に対して対応できませんでした。

20世紀に入り、世界の主要通貨は不換貨幣(fiat money)へと移行しました。不換貨幣は、金や銀との交換が保証されていない貨幣であり、その価値の裏付けは、政府の法律と、中央銀行への社会的な信用に依存しています。貨幣が金や銀と紐づけられなくなったため、中央銀行が貨幣供給量を柔軟に調整でき、金融政策の選択肢が増えました。その一方で、貨幣の価値が物理的な資産ではなく信用に依存するため、政府や中央銀行の信用が失墜すると、貨幣の価値貯蔵機能が崩壊し、ハイパーインフレを引き起こすリスクがあります。

 

演習問題

問題(正誤問題)
以下の記述の正誤を判定してください。

  1. 貨幣の流動性が完全であることとは、名目価値が変動せず、利子を最大化できることを意味する。
  2. 狩猟採集経済においては、贈与は互報性にもとづく社会的信用を蓄積する行為であり、この信用が貨幣の価値貯蔵手段の機能を代替していた。
  3. 商品貨幣(金・銀の地金)から鋳造貨幣(硬貨)へ移行した最大の理由は、金・銀が希少性を欠き、価値が不安定になったためである。
  4. 現代の不換紙幣(法定通貨)は金との兌換が保証されていないが、その流動性は政府の強制信用力と、中央銀行への社会的な信用によって維持されている。
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問題(貨幣の流動性と機能の関連性)
貨幣が「完全な流動性を持つ」という定義が、貨幣の「交換手段」と「価値尺度」という2つの機能を成立させる上で、具体的にどのように不可欠であるかを、「探索コスト」と「計算コスト」という言葉を用いて簡潔に説明してください。

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問題(硬貨としての貨幣)
本文中では貨幣を「完全な流動性を持つ資産」と定義しました。その一方で、お店で支払いの際に大量の硬貨を利用すると受け取りを拒否されることがあります。通貨法は第7条において、硬貨に関して「貨幣は、額面価格の20倍までを限り、法貨として通用する」と定めているため、店側には受け取りを拒否する法的権利があります。では、硬貨は貨幣ではないのでしょうか。議論してください。

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