点列コンパクト集合
実数空間\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が\(\mathbb{R} \)上のコンパクト集合であることとは、\(A\)の開被覆\(\left\{ A_{\lambda }\right\} _{\lambda \in \Lambda }\)を任意に選んだとき、それに対して有限部分被覆が必ず存在することとして定義されます。つまり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall \lambda \in \Lambda :A_{\lambda }\in \mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \\
&&\left( b\right) \ A\subset \bigcup\limits_{\lambda \in \Lambda
}A_{\lambda }
\end{eqnarray*}を満たす集合族\(\left\{ A_{\lambda}\right\} _{\lambda \in \Lambda }\)を任意に選んだとき(\(\left\{ A_{\lambda }\right\}_{\lambda \in \Lambda }\)は\(A\)の開被覆)、それに対して、\begin{eqnarray*}&&\left( c\right) \ \exists n\in \mathbb{N} :\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{n}\in \Lambda \\
&&\left( d\right) \ A\subset \bigcup_{i=1}^{n}A_{\lambda _{i}}
\end{eqnarray*}が成り立つ(\(\left\{ A_{\lambda_{i}}\right\} _{i=1}^{n}\)は\(\left\{ A_{\lambda }\right\} _{\lambda \in\Lambda }\)の有限部分被覆)ということです。ただし、\(\mathcal{O}\left( \mathbb{R} \right) \)は\(\mathbb{R} \)の開集合系を表す記号です。
実数空間\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)がコンパクト集合であることを示すためには、\(A\)の任意の開被覆が有限部分被覆を持つことを示す必要があり、その手続きは面倒です。ただし、ハイネ・ボレルの被覆定理より、\(A\)が\(\mathbb{R} \)上のコンパクト集合であることと、\(A\)が\(\mathbb{R} \)上の有界な閉集合であることは必要十分です。したがって、\(A\)が\(\mathbb{R} \)上の有界な閉集合であることを示せば、\(A\)がコンパクト集合であることを示したことになります。さらに、コンパクト集合の概念は数列を用いて表現することもできます。以下で順番に解説します。
実数空間\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)を任意に選びます。その上で、\(A\)の点を項とする数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選びます。つまり、以下の条件\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{n}\in A
\end{equation*}を満たす数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選ぶということです。このような任意の数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が\(A\)の点に収束する部分列を持つならば、すなわち、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{l\left( n\right) }\in A
\end{equation*}を満たす部分列\(\left\{ x_{l\left(n\right) }\right\} \)が存在する場合には、\(A\)を\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合(sequentially compact set)と呼びます。
\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が点列コンパクト集合であるためには、\(A\)の要素を項として持つ「任意の」数列に対して、それが\(A\)の要素へ収束する部分列を持つことを示す必要があります。\(A\)の要素を項として持つ数列の中に、\(A\)の要素へ収束する部分列を持つものが「存在する」ことを示しただけでは不十分です。
\end{equation*}を構成します。この集合\(\left\{ a\right\} \)の点を項とする数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選びます。必然的に、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{n}=a
\end{equation*}となるため、部分列\(\left\{ x_{l\left( n\right) }\right\} \)を任意に選んだとき、やはり必然的に、\begin{equation}\forall n\in \mathbb{N} :x_{l\left( n\right) }=a \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つため、その極限は、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }x_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
\infty }a\quad \because \left( 1\right) \\
&=&a\quad \because \text{定数数列の極限} \\
&\in &\left\{ a\right\}
\end{eqnarray*}を満たすため、\(\left\{ a\right\} \)は\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合であることが明らかになりました。
&&\left( b\right) \ \left\{ x_{n}\right\} \text{のすべての項が}-1 \\
&&\left( c\right) \ \left\{ x_{n}\right\} \text{が}1,-1\text{の両方を項として持つ}
\end{eqnarray*}の3通りだけです。\(\left(a\right) \)の場合、部分列\(\left\{x_{l\left( n\right) }\right\} \)は必然的に、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{l\left( n\right) }=1
\end{equation*}を満たすため、その極限は、\begin{equation*}
\lim_{n\rightarrow \infty }x_{l\left( n\right) }=1\in \left\{ -1,1\right\}
\end{equation*}を満たします。\(\left( b\right) \)の場合、部分列\(\left\{ x_{l\left(n\right) }\right\} \)は必然的に、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{l\left( n\right) }=-1
\end{equation*}を満たすため、その極限は、\begin{equation*}
\lim_{n\rightarrow \infty }x_{l\left( n\right) }=-1\in \left\{ -1,1\right\}
\end{equation*}を満たします。\(\left( c\right) \)の場合、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{l\left( n\right) }=1
\end{equation*}を満たす部分列\(\left\{ x_{l\left(n\right) }\right\} \)をとれば、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{l\left( n\right) }=1\in \left\{ -1,1\right\}
\end{equation*}が成り立ちます。したがって、\(\left\{ -1,1\right\} \)は\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合です。
逆に、\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A\)が点列コンパクトでないことを示すためには、\(A\)の要素を項として持つ数列の中に、\(A\)の要素へ収束する部分列を持たないものが存在することを示せばよいということになります。
以下の例から明らかであるように、\(\mathbb{R} \)の部分集合は点列コンパクトであるとは限りません。
\end{equation*}を満たす数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)に注目したとき、これは上に有界ではないため、\(\left\{ x_{n}\right\} \)の任意の部分列は収束しません。
有界な閉区間は点列コンパクト集合
点列コンパクト集合としては以下が重要です。
\end{equation*}を定義する。これは\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合である。
有界な閉集合は点列コンパクト集合
\(\mathbb{R} \)上の有界な閉区間が点列コンパクトであることが明らかになりました。有界な閉区間は\(\mathbb{R} \)上の有界な閉集合ですが、一般に、有界な閉集合もまた点列コンパクト集合であることが保証されます。
\end{equation*}を構成すると、これは\(\mathbb{R} \)上の有界な閉集合です。したがって、先の命題より、1点集合\(\left\{ a\right\} \)は\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合です。
& =\left[ a-\varepsilon ,a+\varepsilon \right] \end{align*}と定義されるため、これは有界閉区間と一致します。有界閉区間は有界な閉集合であるため、先の命題より、点の閉近傍\(C_{\varepsilon }\left( a\right) \)もまた\(\mathbb{R} \)上のコンパクト集合です。
\end{equation}を定義します。これは閉区間ではありません。ただし、有界閉区間は閉集合であり、閉集合どうしの和集合は閉集合であるため\(\left( 1\right) \)は閉集合です。さらに、\begin{equation*}\left[ a,b\right] \cup \left[ c,d\right] \subset \left[ a,d\right] \end{equation*}が成り立つため\(\left( 1\right) \)は有界です。したがって先の命題より、\(\left( 1\right) \)は点列コンパクト集合です。
点列コンパクト集合は有界な閉集合
\(\mathbb{R} \)上の有界な閉集合は点列コンパクト集合であることが明らかになりましたが、逆の主張もまた成り立ちます。つまり、点列コンパクト集合は有界な閉集合であるということです。
コンパクト集合の特徴づけ
これまでの議論より、\(\mathbb{R} \)の部分集合が点列コンパクト集合であることと、その集合が有界な閉集合であることは必要十分であることが明らかになりました。さらに、ハイネ・ボレルの被覆定理より、\(\mathbb{R} \)の部分集合がコンパクト集合であることと、その集合が有界な閉集合であることは必要十分です。したがって以下を得ます。
&&\left( b\right) \ A\text{は}\mathbb{R} \text{上の有界な閉集合である} \\
&&\left( c\right) \ A\text{は}\mathbb{R} \text{上の点列コンパクト集合である}
\end{eqnarray*}
コンパクト集合ではないことの証明
先の命題より、\(\mathbb{R} \)の部分集合がコンパクト集合であることを示すためには、それが\(\mathbb{R} \)上の有界な閉集合であることを示したり、それが\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合であることを示せばよいことになります。逆に、\(\mathbb{R} \)の部分集合が有界でない場合、閉集合でない場合、もしくは点列コンパクト集合でない場合などには、その集合はコンパクト集合ではありません。
\left( 0,1\right) \subset \mathbb{R} \end{equation*}はコンパクト集合ではありませんが、同じことを先の命題から示します。つまり、\(\left( 0,1\right) \)が点列コンパクト集合ではないことを示します。そこで、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を、\begin{equation*}x_{n}=\frac{1}{n}
\end{equation*}と定義します。この点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の任意の項は\(\left( 0,1\right) \)の点です。その一方で、部分列\(\left\{ x_{l\left( n\right) }\right\} \)を任意に選んだとき、その極限は、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
\infty }\frac{1}{l\left( n\right) }\quad \because \left\{ x_{n}\right\}
\text{の定義} \\
&=&\lim_{l\left( n\right) \rightarrow \infty }\frac{1}{l\left( n\right) }\quad \because \text{部分列の定義} \\
&=&0
\end{eqnarray*}となりますが、これは\(\left( 0,1\right) \)の点ではありません。このような数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が存在することは、\(\left( 0,1\right) \)が点列コンパクト集合ではないことを意味します。
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