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短期マクロ分析の基礎

IS曲線の定義と性質

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貨幣市場を分析対象に加える理由

45度線モデルでは財市場だけを分析対象とした上で、閉鎖経済における総供給関数\(AS\left( Y\right) \)と総需要関数\(AD\left(Y\right) \)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}AS\left( Y\right) &=&Y \\
AD\left( Y\right) &=&C\left( Y-T\right) +I+G
\end{eqnarray*}と定式化しました。ただし、\begin{eqnarray*}
Y &:&\text{国民所得(内生変数)} \\
T &:&\text{税(外生変数)} \\
C\left( Y-T\right) &:&\text{消費関数} \\
I &:&\text{投資(外生変数)}
\\
G &:&\text{政府支出(外生変数)}
\end{eqnarray*}です。

45度線モデルでは投資\(I\)を外生変数とみなしていますが、実際には投資は実質利子率\(r\)に依存しており、その関係は投資関数\begin{equation*}I=I\left( r\right)
\end{equation*}として表現されます。つまり、45度線モデルは投資と実質利子率の関係を考慮していないため、現実の経済現象を説明する能力に限界があります。利子率は財市場と貨幣市場を結びつける架け橋であり、利子率は貨幣市場の均衡によって決定されます。そのため、財市場の均衡を完全に分析するためには、その前提となる利子率を決定する貨幣市場を同時に分析する必要があります。つまり、財市場と貨幣市場の同時分析を念頭においた場合には、実質利子率\(r\)を内生変数に加えた上で、財市場の総需要関数\(AD\left( Y\right) \)を、\begin{equation*}AD\left( Y,r\right) =C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}と表現する必要があります。

 

IS曲線の定義

閉鎖経済における総供給関数\(AS\left( Y\right) \)と総需要関数\(AD\left( Y,r\right) \)がそれぞれ、\begin{eqnarray*}AS\left( Y\right) &=&Y \\
AD\left( Y,r\right) &=&C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{eqnarray*}で与えられているものとします。ただし、\begin{eqnarray*}
Y &:&\text{国民所得(内生変数)} \\
r &:&\text{実質利子率(内生変数)} \\
T &:&\text{税(外生変数)} \\
C\left( Y-T\right) &:&\text{消費関数} \\
I\left( r\right) &:&\text{投資関数} \\
G &:&\text{政府支出(外生変数)}
\end{eqnarray*}です。

生産主体と消費主体は独立に意思決定を行うため総需要と総供給は一致するとは限りません。つまり、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) \not=AD\left( Y,r\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
Y\not=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}であるということです。価格が硬直的な短期では、企業は超過需要や超過供給を解消するために数量調整(増産ないし減産)によって総供給\(AS\left( Y\right) \)を変化させます。このような数量調整は、総供給\(AS\left( Y\right) \)が、企業が実際に売れると期待する水準\(AD\left(Y,r\right) \)と一致するまで行われます。短期における財市場の均衡条件は、\begin{equation*}AS\left( Y\right) =AD\left( Y,r\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}と表現されます。財市場の均衡条件を満たす国民所得\(Y\)と実質利子率\(r\)からなる組\(\left(Y,r\right) \)をすべて集めることにより得られる集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( Y,r\right) \ |\ Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right)
+G\right\}
\end{equation*}ですが、これをIS曲線(IS curve)と呼びます。

IS曲線のIは「Investment(投資)」の頭文字であり、Sは「Savings(貯蓄)」の頭文字ですが、なぜこれをIS曲線と呼ぶのでしょうか。財市場の均衡条件は、\begin{equation*}
Y=C+I+G
\end{equation*}ですが、これを変形すると、\begin{equation}
Y-C-G=I \quad \cdots (1)
\end{equation}を得ます。税を\(T\)で表記します。\(\left( 1\right) \)の左辺は、\begin{equation*}Y-C-G+T-T=\left( Y-T-C\right) +\left( T-G\right)
\end{equation*}と変形可能であるため、\(\left( 1\right) \)を、\begin{equation}\left( Y-T-C\right) +\left( T-G\right) =I \quad \cdots (2)
\end{equation}と表現できます。\(\left(2\right) \)の左辺中の\(Y-T-C\)は可処分所得\(Y-T\)から消費\(C\)を引いたものであるため民間貯蓄です。\(\left( 2\right) \)の左辺中の\(T-G\)は税収\(T\)から政府支出\(G\)を引いたものであるため政府貯蓄です。したがって\(\left( 2\right) \)の左辺は民間貯蓄と政府貯蓄の和、すなわち国民貯蓄に相当します。その一方で、\(\left(2\right) \)の右辺は投資であるため、\(\left( 2\right) \)は「投資と国民貯蓄が一致する」という主張です。\(\left( 2\right) \)は財市場の均衡条件と必要十分であるため、IS曲線とは投資(Investment)と国民貯蓄(Savings)を一致させるような国民所得\(Y\)と実質利子率\(r\)からなる組\(\left( Y,r\right) \)からなる集合であることが明らかになりました。以上がIS曲線という名称の由来です。

なぜ国民貯蓄と投資が均衡するのでしょうか。経済全体として、投資に必要な資金は誰かの貯蓄でまかなわれます。国民貯蓄が投資を上回る状態\begin{equation*}
\left( Y-T-C\right) +\left( T-G\right) >I
\end{equation*}では貨幣が市場にあふれているため、人々は債券を購入し、それが債券価格を上昇させます。債券価格が上昇すると利子率は下落し、さらにそれが投資\(I\)を増やす結果、均衡へ向かいます。逆に、国民貯蓄が投資を下回る状態\begin{equation*}\left( Y-T-C\right) +\left( T-G\right) <I
\end{equation*}では貨幣が不足しているため、人々は債券を売却し、それが債券価格を下落させます。債券価格が下落すると利子率が上昇し、さらにそれが投資\(I\)を減らす結果、均衡へ向かいます。

 

IS曲線の陰関数

IS曲線を規定する財市場均衡条件\begin{equation*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}は2つの変数\(Y,r\)に関する方程式であり、このままでは\(Y\)と\(r\)の関係を読み取るのは困難です。この方程式を\(r\)について解いて\(r=f\left( Y\right) \)とすることができるのであれば(方程式の陰関数\(f\)を特定する)、\(Y\)と\(r\)の関係を容易に読み取ることができます。以上の目標を達成するため、消費関数\(C\left( Y-T\right) \)と投資関数\(I\left( r\right) \)の形状を以下のように指定します。

消費関数\(C\left( Y-T\right) \)を、\begin{equation*}C\left( Y-T\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right)
\end{equation*}と定めます。ケインズ型消費関数を採用するということです。ただし、\(c_{0}\in \mathbb{R} \)は基礎的消費に相当する定数であり\(c_{0}>0\)を満たします。また、\(c_{1}\in \mathbb{R} \)は限界消費性向に相当する定数であり\(0<c_{1}<1\)を満たします。\(T\geq 0\)は所得税を表す外生変数です。

投資関数\(I\left( r\right) \)を、\begin{equation*}I\left( r\right) =i_{0}-i_{1}r
\end{equation*}と定めます。ただし、\(i_{0}\in \mathbb{R} \)は基礎的投資に相当する定数であり\(i_{0}>0\)を満たします。また、\(i_{1}\in \mathbb{R} \)は投資の利子弾力性に相当する定数であり\(i_{1}>0\)を満たします。実質利子率は投資資金の調達費用ですが、実質利子率が上がると採算の合う投資プロジェクトは減少するため投資が減少します。以上の事実は、投資関数\(I\left( r\right) \)が実質利子率\(r\)に関する減少関数であることを意味します。

以上を踏まえると、IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{eqnarray*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G &\Leftrightarrow
&Y=c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +i_{0}-i_{1}r+G \\
&\Leftrightarrow &i_{1}r=\left( c_{1}-1\right) Y+c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G \\
&\Leftrightarrow &r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}\quad \because i_{1}>0
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}
\end{equation*}と必要十分です。したがって、IS曲線は、\begin{equation*}
\left\{ \left( Y,r\right) \ |\ r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}\right\}
\end{equation*}となります。

\(Y\)と\(r\)の立場を逆にすると、\begin{eqnarray*}r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}
&\Leftrightarrow &-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y=r-\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}} \\
&\Leftrightarrow &Y=-\frac{i_{1}}{1-c_{1}}r+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{1-c_{1}}
\end{eqnarray*}となるため、IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{equation*}
Y=-\frac{i_{1}}{1-c_{1}}r+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{1-c_{1}}
\end{equation*}とも必要十分です。したがって、IS曲線を、\begin{equation*}
\left\{ \left( Y,r\right) \ |\ Y=-\frac{i_{1}}{1-c_{1}}r+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{1-c_{1}}\right\}
\end{equation*}と表現することもできます。

 

IS曲線は右下がりの曲線

消費関数と投資関数を、\begin{eqnarray*}
C\left( Y-T\right) &=&c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) \\
I\left( r\right) &=&i_{0}-i_{1}r
\end{eqnarray*}と特定する場合、IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{equation*}
r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}
\end{equation*}と必要十分であることが明らかになりました。つまり、縦軸に\(r\)をとり横軸に\(Y\)をとる場合、IS曲線は縦軸切片が\(\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}\)であり傾きが\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)であるような直線として描かれます。ただし、\(0<c_{1}<1\)かつ\(i_{1}>0\)より、\begin{equation*}-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}<0
\end{equation*}となるため、IS曲線は右下がりの直線です(下図)。以上の事実は、国民所得が\(1\)単位増加した場合、財市場を再び均衡させるためには利子率を\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)だけ下落させる必要があることを意味します。言い換えると、利子率が\(1\)単位下落した場合、財市場を再び均衡させるためには国民所得を\(\frac{i_{1}}{1-c_{1}}\)だけ増やす必要があります。

図:IS曲線
図:IS曲線

以上の結論は一般の場合にも成立します。IS曲線を規定する財市場均衡条件\begin{equation*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}において国民所得\(Y\)を\(\Delta Y\)だけ変化させてもなお均衡を維持するために実質利子率\(r\)を\(\Delta r\)だけ変化させる必要があるのであれば以下の関係\begin{equation*}Y+\Delta Y=C\left( Y+\Delta Y-T\right) +I\left( r+\Delta r\right) +G
\end{equation*}が成り立ちます。IS曲線が右下がりであることは、以下の関係\begin{eqnarray*}
\Delta Y &>&0\Leftrightarrow \Delta r<0 \\
\Delta Y &<&0\Leftrightarrow \Delta r>0
\end{eqnarray*}が成り立つこととして表現されます。なぜ、このような関係が成り立つのでしょうか。順番に解説します。

財市場の均衡条件を満たす\(\left( Y,r\right) \)を出発点とします。つまり、\begin{equation}Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つということです。国民所得\(Y\)だけが\(\Delta Y>0\)だけ増加した状況を想定します。消費関数\(C\left( Y-T\right) \)は増加関数であるため、\begin{equation*}C\left( Y+\Delta Y-T\right) >C\left( Y-T\right)
\end{equation*}を得ます。限界消費性向は\(1\)より小さいため、消費の増分\(C\left( Y+\Delta Y-T\right) -C\left( Y-T\right) >0\)は国民所得の増分\(\Delta Y>0\)よりも小さく、ゆえに、\begin{equation*}\Delta Y>C\left( Y+\Delta Y-T\right) -C\left( Y-T\right)
\end{equation*}が成り立ちます。これと\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation}Y+\Delta Y>C\left( Y+\Delta Y-T\right) +I\left( r\right) +G \quad \cdots (2)
\end{equation}を得ます。財市場を再び均衡させるために必要な市場利子率\(r\)の変化が\(\Delta r\)ですが、投資関数\(I\left( r\right) \)は実質利子率\(r\)に関する減少関数であるため、\(\left(2\right) \)の右辺を増やすためには\(\Delta r<0\)である必要があります。その結果、\begin{equation*}Y+\Delta Y=C\left( Y+\Delta Y-T\right) +I\left( r+\Delta r\right) +G
\end{equation*}となり、財市場は再び均衡します。以上より、\begin{equation*}
\Delta Y>0\Rightarrow \Delta r<0
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。

逆向きの議論も可能です。財市場の均衡条件を満たす\(\left( Y,r\right) \)を出発点とします。つまり、\begin{equation}Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G \quad \cdots (3)
\end{equation}が成り立つということです。\(r\)だけが\(\Delta r<0\)だけ減少した状況を想定します。投資関数\(I\left( r\right) \)は実質利子率\(r\)に関する減少関数であるため、\begin{equation*}I\left( r+\Delta r\right) >I\left( r\right)
\end{equation*}を得ます。これと\(\left(3\right) \)より、\begin{equation}Y<C\left( Y-T\right) +I\left( r+\Delta r\right) +G \quad \cdots (4)
\end{equation}を得ます。投資が増加すれば乗数効果により国民所得\(Y\)が増加します。国民所得が増加すれば\(\left( 4\right) \)の左辺が増加しますが、同時に、\(\left( 4\right) \)の右辺中の消費\(C\left( Y-T\right) \)も増加します。ただし、限界消費性向は\(1\)より小さいため、消費の増分\(C\left( Y+\Delta Y-T\right) -C\left( Y-T\right) >0\)は国民所得の増分\(\Delta Y>0\)よりも小さく、ゆえに、何らかの\(\Delta Y>0\)のもとで、\begin{equation*}Y+\Delta Y=C\left( Y+\Delta Y-T\right) +I\left( r+\Delta r\right) +G
\end{equation*}となり、財市場は再び均衡します。以上より、\begin{equation*}
\Delta r<0\Rightarrow \Delta Y>0
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。

以上の一連の議論より、\begin{equation*}
\Delta Y>0\Leftrightarrow \Delta r<0
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。同様の議論より、\begin{equation*}
\Delta Y<0\Leftrightarrow \Delta r>0
\end{equation*}が成り立つことも明らかになります。以上より、IS曲線が右下がりであることが明らかになりました。

 

政府支出の変化がIS曲線に与える影響

消費関数と投資関数を、\begin{eqnarray*}
C\left( Y-T\right) &=&c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) \\
I\left( r\right) &=&i_{0}-i_{1}r
\end{eqnarray*}と特定する場合、IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{equation*}
r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}
\end{equation*}と必要十分であることが明らかになりました。つまり、IS曲線は傾きが\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)であり縦軸切片が\(\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}\)であるような右下がりの直線です。

政府支出\(G\)を\(\Delta G\)だけ変化させると、新たなIS曲線が、\begin{equation*}r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G+\Delta G}{i_{1}}
\end{equation*}として得られます。つまり、政府支出が\(\Delta G\)だけ変化すると、IS曲線の傾きは\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)のままで、縦軸切片だけが\(\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G+\Delta G}{i_{1}}\)へと変化します。したがって、以下の関係\begin{eqnarray*}\Delta G &>&0\Rightarrow \text{IS曲線は右側へシフトする} \\
\Delta G &<&0\Rightarrow \text{IS曲線は左側へシフトする}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。

図:IS曲線のシフト
図:IS曲線のシフト

以上の結論は一般の場合にも成立します。IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{equation*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}です。実質利子率\(r>0\)を任意に選んで固定します。この場合、投資\(I\left( r\right) \)も固定されます。そのような状況において政府支出\(G\)を\(\Delta G>0\)だけ増やすと、\begin{equation}Y<C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G+\Delta G \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。均衡を回復するために国民所得\(Y\)を\(\Delta Y>0\)だけ増やす状況を想定します。ただし、\(Y\)を増やすと左辺の\(Y\)と右辺の\(C\left( Y-T\right) \)がともに増えてしまいます。ただ、限界消費性向は\(1\)より小さいため、消費の増分\(C\left( Y+\Delta Y-T\right) -C\left( Y-T\right) >0\)は国民所得の増分\(\Delta Y>0\)よりも小さく、ゆえに、\begin{equation*}\Delta Y>C\left( Y+\Delta Y-T\right) -C\left( Y-T\right)
\end{equation*}が成り立つため、これと\(\left( 1\right) \)より、何らかの\(\Delta Y>0\)のもとでは、\begin{equation*}Y+\Delta Y=C\left( Y+\Delta Y-T\right) +I\left( r\right) +G+\Delta G
\end{equation*}が成り立ちます。以上の一連の議論の結論を整理すると、\begin{equation*}
\forall r>0,\ \exists \Delta Y>0:Y+\Delta Y=C\left( Y+\Delta Y-T\right)
+I\left( r\right) +G+\Delta G
\end{equation*}となりますが、以上の事実は、政府支出を\(\Delta G>0\)だけ増やすとIS曲線が\(\Delta Y\)だけ右側へシフトすることを意味します。

以上の一連の議論より、\begin{equation*}
\Delta G>0\Rightarrow \text{IS曲線は右側へシフトする}
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。同様の議論より、\begin{equation*}
\Delta G<0\Rightarrow \text{IS曲線は左側へシフトする}
\end{equation*}が成り立つことも明らかになります。以上より、政府支出\(G\)の変化はIS曲線を左右へシフトさせることが明らかになりました。

 

税の変化がIS曲線に与える影響

消費関数と投資関数を、\begin{eqnarray*}
C\left( Y-T\right) &=&c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) \\
I\left( r\right) &=&i_{0}-i_{1}r
\end{eqnarray*}と特定する場合、IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{equation*}
r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}
\end{equation*}と必要十分であることが明らかになりました。つまり、IS曲線は傾きが\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)であり縦軸切片が\(\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}\)であるような右下がりの直線です。

税\(T\)を\(\Delta T\)だけ変化させると、新たなIS曲線が、\begin{equation*}r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}\left( T+\Delta T\right) +i_{0}+G}{i_{1}}
\end{equation*}として得られます。つまり、所得税が\(\Delta T\)だけ変化すると、IS曲線の傾きは\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)のままで、縦軸切片だけが\(\frac{c_{0}-c_{1}\left( T+\Delta T\right) +i_{0}+G}{i_{1}}\)へと変化します。したがって、以下の関係\begin{eqnarray*}\Delta T &>&0\Rightarrow \text{IS曲線は左側へシフトする} \\
\Delta T &<&0\Rightarrow \text{IS曲線は右側へシフトする}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。

図:IS曲線のシフト
図:IS曲線のシフト

以上の結論は一般の場合にも成立します。IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{equation*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}です。実質利子率\(r>0\)を任意に選んで固定します。この場合、投資\(I\left( r\right) \)も固定されます。そのような状況において税\(T\)を\(\Delta T>0\)だけ増やすと可処分所得が減り消費が減少するため、
\begin{equation}
Y>C\left( Y-\left( T+\Delta T\right) \right) +I\left( r\right) +G \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。均衡を回復するために国民所得\(Y\)を\(\Delta Y<0\)だけ減らす状況を想定します。ただし、\(Y\)を減らすと左辺の\(Y\)と右辺の\(C\left( Y-\left( T+\Delta T\right) \right) \)がともに減ってしまいます。ただ、限界消費性向は\(1\)より小さいため、消費の減少分\(C\left( Y-\left(T+\Delta T\right) \right) -C\left( Y-T\right) <0\)の絶対値は国民所得の減少分\(\Delta Y<0\)の絶対値よりも小さく、ゆえに、\begin{equation*}\Delta Y<C\left( Y-\left( T+\Delta T\right) \right) -C\left( Y-T\right)
\end{equation*}が成り立つため、これと\(\left( 1\right) \)より、何らかの\(\Delta Y<0\)のもとでは、\begin{equation*}Y+\Delta Y=C\left( Y-\left( T+\Delta T\right) \right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}が成り立ちます。以上の一連の議論の結論を整理すると、\begin{equation*}
\forall r>0,\ \exists \Delta Y<0:Y+\Delta Y=C\left( Y-\left( T+\Delta
T\right) \right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}となりますが、以上の事実は、所得税を\(\Delta T>0\)だけ増やすとIS曲線が\(\Delta Y\)だけ左側へシフトすることを意味します。

以上の一連の議論より、\begin{equation*}
\Delta T>0\Rightarrow \text{IS曲線は左側へシフトする}
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。同様の議論より、\begin{equation*}
\Delta T<0\Rightarrow \text{IS曲線は右側へシフトする}
\end{equation*}が成り立つことも明らかになります。以上より、税\(T\)の変化はIS曲線を左右へシフトさせることが明らかになりました。

 

比例税の場合のIS曲線

消費関数と投資関数を、\begin{eqnarray*}
C\left( Y-T\right) &=&c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) \\
I\left( r\right) &=&i_{0}-i_{1}r
\end{eqnarray*}と特定する場合、IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{equation*}
r=-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}
\end{equation*}と必要十分であることが明らかになりました。つまり、IS曲線は傾きが\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)であり縦軸切片が\(\frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}}\)であるような右下がりの直線です。

消費関数の形状を、\begin{equation*}
C\left( Y-T\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right)
\end{equation*}と定めることは、税\(T\)が定額税であることを意味します。つまり、国民所得\(Y\)が増減しても税\(T\)が定数である状況を想定するということです。では、税が定額税と比例税から構成される場合には、すなわち、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ T_{0}\geq 0 \\
&&\left( b\right) \ 0\leq t\leq 1
\end{eqnarray*}を満たす定額税額\(T_{0}\in \mathbb{R} \)および比例税率\(t\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}T=T_{0}+tY
\end{equation*}と表される場合のIS曲線はどうなるでしょうか。投資関数\(I\left( r\right) \)は先と同様であるものとします。

この場合、IS曲線を規定する財市場均衡条件は、\begin{eqnarray*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G &\Leftrightarrow &Y=c_{0}+c_{1}
\left[ Y-\left( T_{0}+tY\right) \right] +i_{0}-i_{1}r+G \\
&\Leftrightarrow &i_{1}r=\left( c_{1}\left( 1-t\right) -1\right)
Y+c_{0}-c_{1}T_{0}+i_{0}+G \\
&\Leftrightarrow &r=-\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T_{0}+i_{0}+G}{i_{1}}\quad \because i_{1}>0
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
r=-\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}}Y+\frac{c_{0}-c_{1}T_{0}+i_{0}+G}{i_{1}}
\end{equation*}と必要十分です。つまり、この場合のIS曲線は傾きが\(-\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}}\)であり縦軸切片が\(\frac{c_{0}-c_{1}T_{0}+i_{0}+G}{i_{1}}\)であるような直線です。ただし、\(0<c_{1}<1\)かつ\(0\leq t\leq 1\)かつ\(i_{1}>0\)より、\begin{equation*}-\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}}<0
\end{equation*}となるため、この場合のIS曲線も右下がりの直線です。

$$\begin{array}{ccc}
\hline
& 定額税 & 比例税 \\ \hline
IS曲線の傾き & -\frac{1-c_{1}}{i_{1}} & -\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}} \\ \hline
IS曲線の切片 & \frac{c_{0}-c_{1}T+i_{0}+G}{i_{1}} & \frac{c_{0}-c_{1}T_{0}+i_{0}+G}{i_{1}} \\ \hline
\end{array}$$

定額税の場合のIS曲線の傾き\(-\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\)と比例税の場合のIS曲線の傾き\(-\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}}\)の大きさを比較すると、\begin{eqnarray*}\left\vert -\frac{1-c_{1}}{i_{1}}\right\vert &=&\frac{1-c_{1}}{i_{1}} \\
&\geq &\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}}\quad \because 0\leq t\leq 1 \\
&=&\left\vert -\frac{1-c_{1}\left( 1-t\right) }{i_{1}}\right\vert
\end{eqnarray*}となります。つまり、比例税の場合、IS曲線の傾きは定額税の場合よりも緩やかになります。これをどのように説明できるでしょうか。

財市場の均衡条件を満たす\(\left( Y,r\right) \)を出発点とします。つまり、\begin{equation*}Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}です。国民所得\(Y\)が\(\Delta Y>0\)だけ増加した場合、財市場を再び均衡させるために実質利子率\(r\)を\(\Delta r<0\)だけ下落させる必要があるのであれば、\begin{equation}Y+\Delta Y=C\left( \left( Y+\Delta Y\right) -T\right) +I\left( r+\Delta
r\right) +G \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。一方、比例税を想定した場合、\(\left( 1\right) \)の右辺中の\(T\)の値が\(\Delta Y\)に依存して大きくなるため、定額税の場合と比べると、消費の下落幅がより大きくなります。その結果、\(\Delta Y\)を一定とした場合、\(\left( 1\right) \)を成り立たせるために必要な\(\Delta r\)の下落幅はより小さくて済みます。\(\Delta Y\)が一定の状況で\(\Delta r\)がより小さいということは、\(\left( Y,r\right) \)と\(\left( Y+\Delta Y,r+\Delta \right) \)を結ぶ線分の傾きがより緩やかであること、すなわちIS曲線の傾きがより緩やかであることを意味します。結論をまとめると、比例税の場合、所得が増えてもその一部が税として回収されるため消費がそれほど増えず、ゆえに総需要の反応も小さくなり、財市場を再び均衡させるために必要な投資の調整幅(利子率\(r\)の調整幅)も小さくて済むため、IS曲線の傾きはより緩やかになるということです。

 

演習問題

問題(IS曲線)
国民所得を\(Y\)で表記し、実質利子率を\(r\)で表記します。消費関数は、\begin{equation*}C\left( Y-T\right) =100+0.75\left( Y-T\right)
\end{equation*}であり、投資関数は、\begin{equation*}
I\left( r\right) =150-50r
\end{equation*}であるものとします。ただし、税は、\begin{equation*}
T=200
\end{equation*}であり、政府支出は、\begin{equation*}
G=250
\end{equation*}です。以下の問いに答えてください。

  1. IS曲線を求めてください。
  2. 問1で求めたIS曲線の傾きの経済学的な意味を説明してください。
  3. 政府支出\(G\)が\(100\)だけ増加した場合の新たなIS曲線を導出してください。
  4. 実質利子率を\(r=2\)に固定した場合、問3の財政政策が国民所得\(Y\)に与える影響を計算し、その経済的なメカニズムを説明してください。
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問題(IS曲線は右上がり)
本文中で示したように、IS曲線は右下がりですが、同じことを陰関数定理を用いて証明してください。つまり、財市場の均衡条件\begin{equation*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}に相当する方程式の陰関数を、\begin{equation*}
r=r\left( Y\right)
\end{equation*}で表記する場合、\begin{equation*}
\frac{dr\left( Y\right) }{dY}<0
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。ただし、陰関数定理が要求する条件はいずれも満たされるものとします。

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問題(政府支出の変化がIS曲線に与える影響)
本文中で示したように、政府支出を増やすとIS曲線は右側へ移動しますが、同じことを陰関数定理を用いて証明してください。つまり、財市場の均衡条件\begin{equation*}
Y=C\left( Y-T\right) +I\left( r\right) +G
\end{equation*}に相当する方程式の陰関数を、\begin{equation*}
Y=Y\left( r,G\right)
\end{equation*}で表記する場合、任意の\(r>0\)について、\begin{equation*}\frac{\partial Y\left( r,G\right) }{\partial G}>0
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。ただし、陰関数定理が要求する条件はいずれも満たされるものとします。

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問題(IS曲線の上方と下方の意味)
IS曲線よりも上方に存在する点\(\left( Y,r\right) \)では財市場が超過供給であり、IS曲線よりも下方に存在する点\(\left( Y,r\right) \)では財市場が超過需要であることの理由を説明してください。
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