WIIS

BLOG

モノの値段はどのように決まるのか?

目次

Twitterで共有
メールで共有

商品の需要曲線は右上がりのグラフ

モノの価格(price)はどのように決まるのでしょうか。好きな商品もしくはサービスを何か1つ思い浮かべてください。リンゴ、板チョコ、鶏肉、スマホ、ガソリン、映画のチケット、美容院でのヘアカット、何でも構わないので1つだけ選んでください。以降ではそれを「商品」と呼びます。

その商品を欲しているのはあなただけではないはずです。そこで、あなたを含め、その商品を購入できる環境下にあるそれぞれの人が「その商品を手に入れるためにいくらまでなら支払うことができるか」と自問自答したとします。人によって使える金額や、その商品を欲する程度は異なるため、質問に対する答えも違うはずです。

通常、同じ商品であれば、価格が下がるほど購入希望者は増えますし、同時に、一人当たりの希望購入量も増えます。したがって、全員の希望購入量の合計(これを「(market demand)」と呼びます)は、その商品の価格が下がるほど多くなります。そこで、平面座標の縦軸に問題としている商品の価格をとり、横軸にその商品の数量をとった上でその商品の需要をプロットすると、右下がりの曲線が得られます(下図の\(AD\))。市場の需要曲線は右下がりのグラフです。

図:需要曲線
図:需要曲線

 

商品の供給曲線は右下がりのグラフ

続いて、問題としている商品を生産できる環境下にあるそれぞれの企業が「その商品が売れるならばいくらまでなら値段を下げられるか」と自問自答したとします。企業によって技術やコストが異なるため、質問に対する答えも違うはずです。

通常、同じ商品であれば、価格が高くなるほど販売を希望する企業は増えますし、同時に、一社あたりの希望販売量も増えます。したがって、すべての企業の希望販売量の合計(これを「市場の供給(market supply)」と呼びます)は、その商品の価格が上がるほど多くなります。そこで、平面座標の縦軸に問題としている商品の価格をとり、横軸にその商品の数量をとった上でその商品の供給をプロットすると、右上がりの曲線が得られます(下図の\(AS\))。市場の供給曲線は右上がりのグラフです。

図:供給曲線
図:供給曲線

 

商品の値段は需要曲線と供給曲線の交点で落ち着く

問題としている商品の需要曲線と供給曲線が下図のように描かれているものとします。需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がりであるため、両者は1つの点において交わります。交点における価格を\(P^{\ast }\)で(これを「均衡価格(equilibrium price)」と呼びます)、交点における数量を\(Q^{\ast }\)でそれぞれ表します(これを「均衡数量(equilibrium quantity)」と呼びます)。

図:均衡価格と均衡数量
図:均衡価格と均衡数量

今、ある特定の商品について考えているため、それぞれの企業が異なる値段でその商品を売りに出せば、人々はより安い値段で売ってくれる企業から購入することになります。商品が同じであるならば、値段は安い方がいいからです。高い値段をつけた企業はお客をすべて他社に持っていかれてしまうため、自分もまた他社と同じ価格をつけざるを得ません。こうして商品の価格は統一されていきます。このような事情を踏まえた上で、以降では、すべての企業が同じ価格で商品を販売するものと考えます。では、商品の価格はどの水準で落ち着くでしょうか。

図:商品価格が均衡価格よりも高い場合
図:商品価格が均衡価格よりも高い場合

企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い場合、どのようなことが起こるでしょうか。上図において、価格が\(P\)であるときの市場の需要が\(Q_{D}\)で、市場の供給が\(Q_{S}\)でそれぞれ表されており、両者の間には、\begin{equation*}
Q_{D}<Q_{S}
\end{equation*}という関係が成立していることを確認できます。企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い場合には、\begin{equation*}
Q_{S}-Q_{D}>0
\end{equation*}だけ供給が需要を上回るということです。これを超過供給(excess supply)と呼びます(上図の\(ES\))。

超過供給が発生するということは、企業が価格を\(P\)に維持した場合、売りたい数量をすべて売りさばくことができないことを意味します。ただ、お客さんはより安い値段で販売する企業から商品を購入するため、ある企業だけが\(P\)よりも低い価格で商品を売れば、その企業は自身が売りたい数量をすべて売り捌けるようになる可能性があります。他の企業についても事情は同じです。したがって、価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い場合、それぞれの企業は\(P\)から値下げする動機があります。\(P\)が\(P^{\ast }\)を上回る限りにおいて、同様の議論が成立します。すべての企業が値下げを繰り返して\(P\)が\(P^{\ast }\)と一致する段階まで到達したとき、需要\(Q_{D}\)と供給\(Q_{S}\)が均衡数量\(Q^{\ast }\)と一致するため、すなわち、\begin{equation*}
Q_{D}=Q_{S}=Q^{\ast }
\end{equation*}という関係が成立するため、それぞれの企業は自身が売りたい数量をすべて売り切れています。これ以上値下げをしても損するだけですので、すべての企業は\(P^{\ast }\)に留まる動機があります。

図:商品価格が均衡価格よりも低い場合
図:商品価格が均衡価格よりも低い場合

逆に、企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い場合、どのようなことが起こるでしょうか。上図において、価格が\(P\)であるときの市場の需要が\(Q_{D}\)で、市場の供給が\(Q_{S}\)でそれぞれ表されており、両者の間には、\begin{equation*}
Q_{S}<Q_{D}
\end{equation*}という関係が成立していることを確認できます。企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い場合には、\begin{equation*}
Q_{D}-Q_{S}>0
\end{equation*}だけ需要が供給を上回るということです。これを超過需要(excess demand)と呼びます(上図の\(ED\))。

超過需要が発生するということは、企業が価格を\(P\)に維持した場合、市場では品不足が発生してしまうことを意味します。お客さんの中には\(P\)よりも高い金額を支払ってもよいと考えている人たちがいるため、ある企業が\(P\)よりも高い価格へ値上げしても、その企業は相変わらず自身が売りたい数量をすべて売りさばくことができます。他の企業についても事情は同じです。したがって、価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い場合、それぞれの企業は\(P\)から値上げする動機があります。\(P\)が\(P^{\ast }\)を下回る限りにおいて、同様の議論が成立します。すべての企業が値上げを繰り返して\(P\)が\(P^{\ast }\)と一致する段階まで到達したとき、需要\(Q_{D}\)と供給\(Q_{S}\)が均衡数量\(Q^{\ast }\)と一致するため、すなわち、\begin{equation*}
Q_{D}=Q_{S}=Q^{\ast }
\end{equation*}という関係が成立するため、相変わらず、それぞれの企業は自身が売りたい数量をすべて売りさばけています。これ以上値段を上げると売れ残りが発生するだけですので、すべての企業は\(P^{\ast }\)に留まる動機があります。

議論を整理しましょう。商品の価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)を上回るとき、すべての企業は値下げを行う動機がありますが、そのような動機は\(P=P^{\ast }\)が成立した時点において消失します。逆に、商品の価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)を下回るとき、すべての企業は値上げを行う動機がありますが、そのような動機は\(P=P^{\ast }\)が成立した時点において消失します。こうして、商品の価格は均衡価格\(P^{\ast }\)で落ち着きます。商品の価格は需要曲線と供給曲線が交わる点で定まるということです。

 

生産者余剰と消費者余剰

通常、商品の値段はその需要曲線と供給曲線が交わる点における価格、すなわち均衡価格\(P^{\ast }\)で落ち着くことが明らかになりました。

商品はすべて同一の均衡価格\(P^{\ast }\)で売買されますが、その購入体験から購入者が得る利益の大きさは人によって様々です。繰り返しになりますが、人によって使える金額や、その商品を欲する程度は異なるため、「その商品を手に入れるためにいくらまでなら支払うことができるか」という問いに対する答えも様々です。ある購入者は、その商品を手に入れるために均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い金額\(P\)を支払ってよいと考えている場合でも、実際に支払う金額は\(P^{\ast }\)であるため、購入体験によって差し引きで\(P-P^{\ast }>0\)だけ追加的に得することになります。これを消費者余剰(consumer surplus)と呼びます。すべての購入者が得た消費者余剰の合計は下図に記されています(下図の\(CS\))。

図:消費者余剰
図:消費者余剰

同様に、商品はすべて同一の均衡価格\(P^{\ast }\)で売買されますが、その販売体験から販売者が得る利益の大きさは企業によって様々です。繰り返しになりますが、企業によって技術やコストが異なるため、「その商品が売れるならばいくらまでなら値段を下げられるか」という問いに対する答えも様々です。ある企業は、その商品を均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い価格\(P\)で売ってもよいと考えている場合でも、実際の販売額は\(P^{\ast }\)であるため、販売体験によって差し引きで\(P^{\ast }-P>0\)だけ追加的に得することになります。これを生産者余剰(producer surplus)と呼びます。すべての販売者が得た生産者余剰の合計は下図に記されています(下図の\(PS\))。

図:生産者余剰
図:生産者余剰

消費者余剰と生産者余剰の合計を総余剰(total surplus)や社会的余剰(social surplus)と呼びます(下図の\(CS+PS\))。

図:総余剰
図:総余剰

以上でモノの価格がどのように決まるかが明らかになりました。次回はモノの価格が変化する理由を解説します。

次へ進む
Twitterで共有
メールで共有
PICK UP

人気のテキスト

ユダヤ教が規範宗教であり民族宗教であることの意味

ユダヤ教はキリスト教やイスラム教徒と同様、唯一絶対の神から与えられた啓典を信仰の基盤にする啓典宗教です。ユダヤ教の特徴は、集団救済の宗教であり、外的規範の実践を重視する規範宗教であるという点です。その意味を解説します。

指数関数

感染症の拡大プロセスと指数関数の関係

感染症が拡大していくプロセスは指数関数を用いて記述できます。感染症が急速に拡大する背景には複利の効果と同様のメカニズムが存在します。

ナッシュ均衡

ボランティアのジレンマ(公共財の供給と傍観者効果)

自身がわずかなコストを負担して全員に利益をもたらすか、もしくは他の人が行動するのかを待つか、以上の選択肢に直面したプレイヤーたちの間に成立する戦略的状況を描写するゲームをボランティアのジレンマと呼びます。

写真の発明が印象派の画家たちに与えた影響

写真が本格的に発達した19世紀の中頃は、絵画を中心に印象派が勃興した時代でもあります。印象派の作風は写実主義の対極にあるように見えますが、実は、その成り立ちは写真の発明や普及と深い関係があることが指摘されています。写真が普及するまでの歴史的経緯を追いながら、印象派に及ぼした影響について解説します。

単一財オークション

1つの商品をめぐって複数の買い手たちが入札を行うオークションにおいて、それぞれの入札者は商品に対する評価額、すなわち商品に対して支払ってもよい金額を持っていますが、これは私的情報です。以上の状況において望ましいオークションルールを考察します。

囚人のジレンマ

囚人のジレンマの例:軍拡競争

冷戦期に行われた米ソ間の軍拡競争は囚人のジレンマとしての側面を持っていることを解説した上で、そこでのナッシュ均衡を求めます。また、両国の軍事負担が過大である場合、軍拡競争を鹿狩りゲーム(stag hunt)と解釈することもできます。

アメリカの西進を支えた「明白な使命」とは何か?

もともとメキシコ領であったカリフォルニアからテキサスへ至る領域は、テキサス併合やメキシコ・アメリカ戦争(米墨戦争)などを経てアメリカへ編入されます。こうした動きを正当化するスローガンとして叫ばれたのが「明白な使命(マニフェスト・デスティニー)」。その意味を、時代背景やアメリカという国の成り立ちとともに解説します。

イロ・レーティングの意味と求め方を完全解説

対戦競技におけるプレイヤーの実力を表す指標をレーティングと呼びます。対戦競技には相手がいるため、レーティングは実際の対戦結果から決定すべきです。イロ・レーティングシステムは1対1の対戦競技におけるレーティング決定ルールであり、チェスや将棋、囲碁、アメフト、サッカー、テニスなどの様々な対戦競技において採用されています。

日本銀行

金融緩和とは何か?:金利引き下げと量的緩和

金利とは何でしょうか?また、経済に大きな影響を与える金利は長期の実質金利ですが、それはなぜでしょうか?金利の水準はどのように決まるでしょうか?また、中央銀行である日銀が行う金利引き下げと量的緩和とはどのような政策であり、それはどのような効果を持つのでしょうか。以上のポイントについて分かりやすく解説します。

オイラー

数学者がオイラーの等式の美しさを称える理由

オイラーの数、三角関数、虚数単位、円周率などの概念は互いに独立しているようで実は相互に関係しており、オイラーの等式はその関係をシンプルな 1 つの式で綺麗に表現しています。オイラーの等式の意味と、その導出方法を解説します。

実数の定義

実数を無限小数として定義する場合、実数に関する議論はすべて無限小数に関する議論として行うことになり面倒です。そこで代替的な方法として公理主義的なアプローチのもとで実数を定義します。ここでは実数を特徴づける公理について解説します。

LATEST MATERIALS

最新の教材

単関数
多変数の単関数の定義と具体例

ユークリッド空間上のルベーグ可測集合上に定義された多変数関数がルベーグ可測であるとともに、その値域が有限集合である場合、そのような関数を単関数と呼びます。

ルベーグ可測関数
多変数の特性関数(指示関数)の定義と具体例

ユークリッド空間の部分集合が与えられれば、変数がその集合に属する場合には1を返し、変数がその集合に属さない場合には0を返す多変数関数が定義可能です。これを特性関数と呼びます。特性関数がルベーグ可測関数であることと、特性関数を定義する集合がルベーグ可測集合であることは必要十分です。

ワイズの理念とサービス内容。

REGISTER

プレミアム会員登録はこちらから。