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短期マクロ分析の基礎

短期の労働需要(労働需要関数)

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生産関数

財・サービスを生産するために用いられる資源を生産要素(factor of production)と呼びます。生産要素としては、原材料や機械、工場、土地などの資本(capital)と、働き手としての労働(labor)が存在します。

資本と労働を投入した場合、そこからどれだけの財・サービスが生み出されるかは、その経済全体の生産技術によって決定されます。そこで、経済全体の生産技術を生産関数(production function)と呼ばれる関数を用いて表現します。具体的には、労働を\(L\)だけ投入し、資本を\(K\)だけ投入した場合に、経済全体で実現する産出量の最大値\(Y\)を、\begin{equation*}Y=F\left( L,K\right)
\end{equation*}と表記します。

この生産関数\(F\left( L,K\right) \)は個々の具体的な企業の生産関数ではなく、経済全体を平均的に代表する架空の生産者の生産関数であり、経済全体の生産技術を表す関数であることに注意してください。したがって、生産関数が出力する値\(F\left( L,K\right) \)は特定の具体的な財・サービスの産出量ではありません。便宜上、経済全体で生産される多様な財・サービスをあたかも1つの代表的な財に統合されているものと仮定し、そのような複合財の産出量を、基準年の物価で評価した値を\(F\left(L,K\right) \)で表記します。つまり、\(Y\)は実質GDPであり、生産の文脈ではこれを実質産出(real output)と呼ぶこととします。

投入計画\(\left( L,K\right) \)における労働の限界生産力(marginal products of labor)は、\begin{equation*}F_{L}^{\prime }\left( L,K\right) =\frac{\partial F\left( L,K\right) }{\partial L}
\end{equation*}と定義されます。これは、\(\left( L,K\right) \)を出発点とした上で、\(K\)の投入量を固定したまま\(L\)の投入量を1単位追加した場合に、産出量がどれだけ増加するかを表す概念です。その上で、任意の\(\left( L,K\right) \)において労働の限界生産力は正であること、すなわち、\begin{equation*}F_{L}^{\prime }\left( L,K\right) =\frac{\partial F\left( L,K\right) }{\partial L}>0
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。さらに、\(L\)の投入量が増加するにともない労働の限界生産力は逓減していくものと仮定します。つまり、任意の\(\left( L,K\right) \)において、\begin{equation*}F_{L}^{\prime \prime }\left( L,K\right) =\frac{\partial ^{2}F\left(
L,K\right) }{\partial L^{2}}<0
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。資本が一定である状況で労働者だけを増やしていくと混雑効果が発生するため、追加的な労働者がもたらす産出量の増分は減少していくということです。

投入計画\(\left( L,K\right) \)における資本の限界生産力(marginal products of capital)は、\begin{equation*}F_{K}^{\prime }\left( L,K\right) =\frac{\partial F\left( L,K\right) }{\partial K}
\end{equation*}と定義されます。これは、\(\left( L,K\right) \)を出発点とした上で、\(L\)の投入量を固定したまま\(K\)の投入量を1単位追加した場合に、産出量がどれだけ増加するかを表す概念です。その上で、任意の\(\left( L,K\right) \)において資本の限界生産力は正であること、すなわち、\begin{equation*}F_{K}^{\prime \prime }\left( L,K\right) =\frac{\partial F\left( L,K\right) }{\partial K}>0
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。さらに、\(K\)の投入量が増加するにともない労働の限界生産力は逓減していくものと仮定します。つまり、任意の\(\left( L,K\right) \)において、\begin{equation*}F_{KK}^{\prime \prime }\left( L,K\right) =\frac{\partial ^{2}F\left(
L,K\right) }{\partial K^{2}}<0
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。労働が一定である状況で資本だけを増やしていくと資本を活用するに十分な労働が不足するため、追加的な資本がもたらす産出量の増分は減少していくということです。

さらに、一方の生産要素の投入量を増やせば、他方の生産要素の限界生産力が上昇するものと仮定します。つまり、任意の\(\left( L,K\right) \)において、\begin{eqnarray*}F_{KL}^{\prime \prime }\left( L,K\right) &=&\frac{\partial ^{2}F\left(
L,K\right) }{\partial L\partial K}>0 \\
F_{LK}^{\prime \prime }\left( L,K\right) &=&\frac{\partial ^{2}F\left(
L,K\right) }{\partial K\partial L}>0
\end{eqnarray*}が成り立つものと仮定します。特に、\(F\)が\(C^{2}\)級であるならば、クレローの定理より、任意の\(\left( L,K\right) \)において、\begin{equation*}F_{KL}^{\prime \prime }\left( L,K\right) =F_{LK}^{\prime \prime }\left(
L,K\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

これまでは一方の生産要素の投入量を固定した上で他方の生産要素の投入量を変化させる状況を想定しましたが、両者を同時に増加させる局面においては、任意の\(\left( L,K\right) \)および\(\lambda >0\)に関して、\begin{equation*}F\left( \lambda L,\lambda K\right) =\lambda F\left( L,K\right)
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。つまり、労働と資本の投入量をともに\(\lambda \)倍にすると、産出量もまた\(\lambda \)倍になるということです。このとき、規模に関して収穫一定(constant returns to scale)であると言います。

例(コブ・ダグラス型生産関数)
マクロ経済学の分析において広く用いられる生産関数は、以下の条件\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A>0 \\
&&\left( b\right) \ 0<\alpha <1
\end{eqnarray*}を満たす定数\(A,\alpha \in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}F\left( L,K\right) =AK^{\alpha }L^{1-\alpha }
\end{equation*}と表されます。これをコブ・ダグラス型生産関数(Cobb-Douglas production function)と呼びます。コブ・ダグラス型生産関数のもとでは、以下の関係\begin{equation*}
L=AK^{\alpha }L^{1-\alpha }
\end{equation*}が成り立つということです。このとき、任意の\(\left( L,K\right) \in \mathbb{R} _{++}\)および\(\lambda >0\)について、\begin{eqnarray*}F_{L}^{\prime }\left( L,K\right) &>&0 \\
F_{K}^{\prime }\left( L,K\right) &>&0 \\
F_{L}^{\prime \prime }\left( L,K\right) &<&0 \\
F_{K}^{\prime \prime }\left( L,K\right) &<&0 \\
F_{KL}^{\prime \prime }\left( L,K\right) &=&F_{LK}^{\prime \prime }\left(
L,K\right) >0 \\
F\left( \lambda L,\lambda K\right) &=&\lambda F\left( L,K\right)
\end{eqnarray*}がいずれも成り立ちます(演習問題)。

 

短期の生産関数

これまでは物価水準が固定された期間を短期と呼びましたが、生産の議論では、一部の生産要素の投入量を変更できない期間も短期(short run)と呼びます。

工場や機械労働などの資本ストックは、計画から稼働までに時間がかかるため、瞬時には\(K\)の投入量を調整できません。一方、労働量\(L\)は比較的容易に調整できます。そこで、生産者が\(L\)の投入量は調整できる一方で\(K\)の投入量を調整できないという意味における短期を分析対象とします。短期において生産者が直面する\(K\)の値を表す定数を、\begin{equation*}\overline{K}
\end{equation*}で表記します。その上で、これを生産関数\(F\left( K,L\right) \)に投入することにより得られる\(L\)に関する1変数関数\begin{equation*}F\left( L,\overline{K}\right)
\end{equation*}を短期の生産関数(short run production function)と呼びます。生産者は\(\overline{K}\)の値を所与としながら、\(L\)の値を選択する状況を想定するということです。

なぜ、資本投入量\(K\)を固定した短期の生産関数\(F\left( L,\overline{K}\right) \)を分析対象にするのでしょうか。マクロ経済学では、経済の変動を2つのタイムスパンに分けて分析します。

1つ目は、生産者が資本ストック\(K\)を蓄積することにより経済全体の生産能力そのものが増大していく長期的なプロセスであり、これを経済成長論(economic growth theory)と呼びます。

2つ目は、不況や好況といった経済の短期的な変動を分析する景気循環論(business cycles theory)です。不況とは工場などの資本ストックが消滅することを意味するのではなく、資本ストックは存在するものの、労働者が雇われずに資本ストックが完全には稼働していない状態です。つまり、景気循環論では、景気の波に対して生産者が現行の資本ストック\(\overline{K}\)をどの程度稼働させるかが問題になります。このような意味において、資本\(K\)を固定し、労働\(L\)の変動のみに焦点を当てることは、景気循環の本質を捉える上で理にかなっています。

これから説明しようとするAD-ASモデルが明らかにしようとすることは経済成長ではなく景気循環であるため、ここでは短期の生産関数\(F\left( L,\overline{K}\right) \)を分析対象とします。

 

短期における利潤最大化問題

生産要素を調達するためには対価を支払う必要があります。生産要素の価格を要素価格(factor price)と呼びます。

労働市場において労働を調達するためには対価として賃金を支払う必要があります。そこで、労働の要素価格を賃金(wage)と呼び、それを、\begin{equation*}
W
\end{equation*}で表記します。ただし、\(W\)は労働者1単位に対して支払われる通貨額、すなわち名目賃金(nominal wage)であることに注意してください。労働の投入量が\(L\)である場合、それを調達するために必要な名目費用は、\begin{equation*}WL
\end{equation*}となります。

資本市場において資本を調達するためには賃料などを対価として支払う必要があります。そこで、資本の要素価格をレント(rent)と呼び、これを、\begin{equation*}
R
\end{equation*}で表記します。ただし、\(R\)は資本1単位に対して支払われる通貨額、すなわち名目レント(nominal rent)であることに注意してください。資本の投入量が\(\overline{K}\)である場合、それを調達するために必要な名目費用は、\begin{equation*}R\overline{K}
\end{equation*}となります。

短期において生産者が労働と資本を\(\left( L,\overline{K}\right) \)だけ投入した場合の実質産出は\(F\left( L,\overline{K}\right) \)です。それを物価\(P\)で評価すれば名目収入\begin{equation*}P\cdot F\left( L,\overline{K}\right)
\end{equation*}が得られます。収入から費用を差し引けば利潤が得られるため、労働を資本を\(\left( L,\overline{K}\right) \)だけ投入した場合に直面する名目利潤(nominal profit)は、\begin{equation*}\pi \left( L,\overline{K}\right) =P\cdot F\left( L,\overline{K}\right) -WL-R\overline{K}
\end{equation*}となります。短期において資本の投入量\(\overline{K}\)は一定であるため、生産者は自身の技術\(F\left( L,\overline{K}\right) \)を踏まえながら名目利潤を最大化するような労働投入量\(L\)を選択するものとします。

生産者は、完全競争市場において物価\(P\)を受け入れる価格受容者です。同様に、労働市場においても、名目賃金\(W\)は労働者との契約や市場の需給によってすでに決定されているものとして、生産者は\(W\)を受け入れるものとします。生産者は物価\(P\)と名目賃金\(W\)を市場から受け入れるのと同様に、資本の名目レント\(R\)も所与として受け入れるものとします。このような事情を踏まえると、短期かつ完全競争市場において生産者が直面する問題は、\(\overline{K},P,W,R\)の水準と自身の技術\(F\left( L,K\right) \)を所与としながら利潤を最大化するような\(L\)を選択すること、すなわち、以下の利潤最大化問題\begin{equation*}\max_{L}\ \pi \left( L,\overline{K}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\max_{L}\ P\cdot F\left( L,\overline{K}\right) -WL-R\overline{K}
\end{equation*}として定式化されます。

利潤最大化問題の解は以下の通りです。

命題(利潤最大化問題の解)
生産関数\(F\left( L,K\right) \)が以下の条件\begin{equation*}\frac{\partial ^{2}F\left( L,K\right) }{\partial L^{2}}<0
\end{equation*}を満たすものとする。短期かつ完全競争市場において生産者が直面する利潤最大化問題\begin{equation*}
\max_{L}\ P\cdot F\left( L,\overline{K}\right) -WL-R\overline{K}
\end{equation*}が与えられているものとする。労働投入量\(L\)が以下の条件\begin{equation*}\frac{\partial F\left( L,\overline{K}\right) }{\partial L}=\frac{W}{P}
\end{equation*}を満たすことは、\(L\)が利潤最大化問題の解であるための必要十分条件である。
証明

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名目賃金\(W\)を物価\(P\)で割ることにより得られる、\begin{equation*}\frac{W}{P}
\end{equation*}は物価変動の影響を除いた賃金水準であるため、これを実質賃金(real wage)と呼びます。先に明らかになったように、利潤最大化問題の解\(L^{D}\)は以下の条件\begin{equation*}\frac{\partial F\left( L^{D},\overline{K}\right) }{\partial L}=\frac{W}{P}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left. \frac{\partial F\left( L,K\right) }{\partial L}\right\vert _{\left(
L,K\right) =\left( L^{D},\overline{K}\right) }=\frac{W}{P}
\end{equation*}を満たしますが、以上の事実は、最適な生産計画\(\left( L^{D},\overline{K}\right) \)における労働の限界生産力は実質賃金と一致することを意味します。

例(コブ・ダグラス型生産関数のもとでの利潤最大化問題)
コブ・ダグラス型生産関数\begin{equation*}
F\left( L,K\right) =AK^{\alpha }L^{1-\alpha }
\end{equation*}が与えられているものとします。ただし、\(A,\alpha \in \mathbb{R} \)は\(A>0\)かつ\(0<\alpha <1\)を満たす定数です。短期かつ完全競争市場において生産者が直面する利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{L}\ PAK^{\alpha }L^{1-\alpha }-WL-R\overline{K}
\end{equation*}です。労働の限界生産力は、\begin{equation*}
\frac{\partial F\left( L,K\right) }{\partial L}=\left( 1-\alpha \right)
A\left( \frac{K}{L}\right) ^{\alpha }
\end{equation*}であるため、利潤最大化問題の解\(L^{D}\)は、\begin{equation*}\left( 1-\alpha \right) A\left( \frac{\overline{K}}{L^{D}}\right) ^{\alpha }=\frac{W}{P}
\end{equation*}を満たします。このとき、\begin{equation*}
1-\alpha =\frac{WL^{D}}{P\cdot F\left( L^{D},\overline{K}\right) }
\end{equation*}が成り立つため、\(1-\alpha \)は労働分配率に相当します(演習問題)。

 

労働需要関数

短期かつ完全競争市場において生産者が直面する利潤最大化問題は、\begin{equation}
\max_{L}\ P\cdot F\left( L,\overline{K}\right) -WL-R\overline{K} \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されるとともに、その解\(L^{D}\)は以下の条件\begin{equation}\frac{\partial F\left( L^{D},\overline{K}\right) }{\partial L}=\frac{W}{P}
\quad \cdots (2)
\end{equation}を満たすことが明らかになりました。

実質賃金\(\frac{W}{P}\)と資本投入量\(\overline{K}\)は生産者にとって所与の条件ですが、条件\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)が変化すれば生産者が直面する利潤最大化問題\(\left( 1\right) \)も変化するため、それに応じて\(\left( 1\right) \)の解、すなわち\(\left( 2\right) \)を満たす\(L^{D}\)の値も変化します。つまり、\(L^{D}\)を\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)に関する関数とみなせるということです。では、\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)が変化すると\(L^{D}\)はどのように変化するのでしょうか。\(\left( 2\right) \)を\(L^{D}\)について解いて、\begin{equation*}L^{D}=L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right)
\end{equation*}と表現できるのであれば、\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)と\(L^{D}\)の関係を容易に理解できます。このような関数\(L^{D}\)を労働需要関数(labor demand function)や競争的労働需要関数(competitive labor demand function)と呼びます。労働需要関数\(L^{D}\)が\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)に対して定める値\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)は、\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)に直面した場合に利潤を最大化するような労働投入量です。

労働需要関数\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)が与えられたとき、\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)を出発点として実質所得\(\frac{W}{P}\)を1パーセント変化させた場合に労働需要が何パーセント変化するかを表す指標は、\begin{equation*}\varepsilon _{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) =\frac{\partial
L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) }{\partial \frac{W}{P}}\cdot
\frac{\frac{W}{P}}{L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) }
\end{equation*}と定義されます。これを\(\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)における労働需要に関する実質賃金の弾力性(real wage elasticity of labor demand)と呼びます。

例(コブ・ダグラス型生産関数のもとでの労働需要関数)
コブ・ダグラス型生産関数\begin{equation*}
F\left( L,K\right) =AK^{\alpha }L^{1-\alpha }
\end{equation*}が与えられているものとします。ただし、\(A,\alpha \in \mathbb{R} \)は\(A>0\)かつ\(0<\alpha <1\)を満たす定数です。短期かつ完全競争市場において生産者が直面する利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{L}\ PAK^{\alpha }L^{1-\alpha }-WL-R\overline{K}
\end{equation*}です。労働需要関数は、\begin{equation*}
L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) =\left[ \frac{\left( 1-\alpha
\right) A}{\frac{W}{P}}\right] ^{\frac{1}{\alpha }}\overline{K}
\end{equation*}であり、労働需要に関する実質賃金の弾力性は、\begin{equation*}
\varepsilon _{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) =-\frac{1}{\alpha }
\end{equation*}です(演習問題)。

先の例では労働需要関数を具体的に特定できましたが、一般には、労働需要関数を具体的に特定できるとは限りません。つまり、利潤最大化問題の解が満たすべき条件\begin{equation}
\frac{\partial F\left( L^{D},\overline{K}\right) }{\partial L}=\frac{W}{P}
\quad \cdots (3)
\end{equation}を\(L^{D}\)について解けるとは限りません。言い換えると、方程式\(\left( 3\right) \)の陰関数を具体的に特定できるとは限りません。このような問題に対処するために陰関数定理を利用することにより以下の命題が得られます。

命題(労働需要関数の性質)
生産関数\(F\left( L,K\right) \)が以下の条件\begin{eqnarray*}\frac{\partial ^{2}F\left( L,K\right) }{\partial L^{2}} &<&0 \\
\frac{\partial ^{2}F\left( L,K\right) }{\partial K\partial L} &>&0
\end{eqnarray*}を満たすものとする。短期かつ完全競争市場において生産者が直面する利潤最大化問題\begin{equation*}
\max_{L}\ P\cdot F\left( L,\overline{K}\right) -WL-R\overline{K}
\end{equation*}が与えられているものとする。この問題に関する労働需要関数\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)は、\begin{eqnarray*}\frac{\partial }{\partial \overline{K}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) &>&0 \\
\frac{\partial }{\partial \frac{W}{P}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) &<&0
\end{eqnarray*}を満たす。

証明

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先の命題より、労働需要関数\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)に関して、\begin{eqnarray*}\frac{\partial }{\partial \overline{K}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) &>&0 \\
\frac{\partial }{\partial \frac{W}{P}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) &<&0
\end{eqnarray*}が成り立つことが明らかになりました。つまり、労働需要関数は資本ストック\(\overline{K}\)に関する狭義単調増加関数であり、実質賃金\(\frac{W}{P}\)に関する狭義単調減少関数です。以上の事実は、生産者による利潤最大化を前提とした場合、実質賃金\(\frac{W}{P}\)を固定して資本ストック\(\overline{K}\)を増やせば最適な労働投入量\(L^{D}\)が増加する一方で、資本ストック\(\overline{K}\)を固定して実質賃金\(\frac{W}{P}\)を上げれば最適な労働投入量\(L^{D}\)が減少することを意味します。

例(コブ・ダグラス型生産関数のもとでの労働需要関数の性質)
コブ・ダグラス型生産関数\begin{equation*}
F\left( L,K\right) =AK^{\alpha }L^{1-\alpha }
\end{equation*}が与えられているものとします。ただし、\(A,\alpha \in \mathbb{R} \)は\(A>0\)かつ\(0<\alpha <1\)を満たす定数です。短期かつ完全競争市場において生産者が直面する利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{L}\ PAK^{\alpha }L^{1-\alpha }-WL-R\overline{K}
\end{equation*}です。先に例を通じて確認したように、労働需要関数は、\begin{equation*}
L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) =\left[ \frac{\left( 1-\alpha
\right) A}{\frac{W}{P}}\right] ^{\frac{1}{\alpha }}\overline{K}
\end{equation*}であるため、\begin{eqnarray*}
\frac{\partial }{\partial \overline{K}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) &>&0 \\
\frac{\partial }{\partial \frac{W}{P}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) &<&0
\end{eqnarray*}がともに成り立ちます(演習問題)。

 

労働需要曲線

労働需要関数\begin{equation*}
L^{D}=L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right)
\end{equation*}が与えられた状況を想定します。資本投入量\(\overline{K}_{0}\)を任意に選んで固定すれば、労働需要曲線は実質賃金\(\frac{W}{P}\)に関する1変数関数\begin{equation*}L^{D}=L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}_{0}\right)
\end{equation*}になります。横軸に労働投入量\(L^{D}\)をとり、縦軸に実質賃金\(\frac{W}{P}\)をとった上で描かれる1変数関数\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}_{0}\right) \)のグラフを\(\overline{K}_{0}\)のもとでの労働需要曲線(labor demand curve)と呼びます。

図:労働需要曲線は右下がり
図:労働需要曲線は右下がり

労働需要関数\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)は実質賃金\(\frac{W}{P}\)に関する狭義単調減少関数であるため、資本投入量\(\overline{K}\)を固定したまま実質賃金\(\frac{W}{P}\)を上昇させると労働需要\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)は減少します。以上の事実は、労働需要曲線\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}_{0}\right) \)が右下がりの曲線であることを意味します。

図:労働需要曲線のシフト
図:労働需要曲線のシフト

労働需要関数\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) \)は資本投入量\(\overline{K}\)に関する狭義単調増加関数であるため、\(\overline{K}_{1}>\overline{K}_{0}\)を満たす異なる資本投入量\(\overline{K}_{0},\overline{K}_{1}\)を任意に選んだ場合、任意の\(\frac{W}{P}\)のもとで、\begin{equation*}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}_{1}\right) >L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}_{0}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。以上の事実は、資本投入量を\(\overline{K}_{0}\)から\(\overline{K}_{1}\)まで増加させると、貨幣需要曲線は\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}_{0}\right) \)から\(L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}_{1}\right) \)へ右側にシフトすることを意味します。

 

演習問題

問題(コブ・ダグラス型生産関数のもとでの短期の利潤最大化)
コブ・ダグラス型生産関数\begin{equation*}
F\left( L,K\right) =AK^{\alpha }L^{1-\alpha }
\end{equation*}が与えられているものとします。ただし、\(A,\alpha \in \mathbb{R} \)は\(A>0\)かつ\(0<\alpha <1\)を満たす定数です。以下の問いに答えてください。

  1. 任意の\(\left( L,K\right) \in \mathbb{R} _{++}\)および\(\lambda >0\)について、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ F_{L}^{\prime }\left( L,K\right) >0 \\&&\left( b\right) \ F_{K}^{\prime }\left( L,K\right) >0 \\
    &&\left( c\right) \ F_{L}^{\prime \prime }\left( L,K\right) <0 \\
    &&\left( d\right) \ F_{K}^{\prime \prime }\left( L,K\right) <0 \\
    &&\left( e\right) \ F_{KL}^{\prime \prime }\left( L,K\right) =F_{LK}^{\prime
    \prime }\left( L,K\right) >0 \\
    &&\left( f\right) \ F\left( \lambda L,\lambda K\right) =\lambda F\left(
    L,K\right)
    \end{eqnarray*}が成り立つことを証明してください。
  2. 利潤最大化問題\begin{equation*}\max_{L}\ F\left( L,K\right) -WL-R\overline{K}
    \end{equation*}の解\(L^{D}\)が、\begin{equation*}\left( 1-\alpha \right) A\left( \frac{\overline{K}}{L^{D}}\right) ^{\alpha }=\frac{W}{P}
    \end{equation*}を満たすことを証明してください。
  3. 問2の結果を踏まえた上で、パラメータ\(1-\alpha \)の意味を解釈してください。
  4. 労働需要関数が、\begin{equation*}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) =\left[ \frac{\left( 1-\alpha
    \right) A}{\frac{W}{P}}\right] ^{\frac{1}{\alpha }}\overline{K}
    \end{equation*}であることを証明してください。
  5. 労働需要関数が、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \frac{\partial }{\partial \overline{K}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) >0 \\
    &&\left( b\right) \ \frac{\partial }{\partial \frac{W}{P}}L^{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) <0
    \end{eqnarray*}をともに満たすことを証明してください。
  6. 労働需要に関する実質賃金の弾力性が、\begin{equation*}\varepsilon _{D}\left( \frac{W}{P},\overline{K}\right) =-\frac{1}{\alpha }
    \end{equation*}であることを証明してください。
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