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ホテリングの立地モデル(立地が所与の場合の価格競争)

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立地が所与である場合のホテリングの価格競争モデル

同一の商品を同一価格で販売する2つの企業による商業立地を通じた競争をホテリングの立地モデルと呼ばれる完備情報の静学ゲームとして表現するとともに、そこでの純粋戦略ナッシュ均衡を求めました。市場に消費者が一様に分布している状況においては、均衡においてそれぞれの企業の立地点が完全に一致し、結果として、空間的な差別化が行われないことになります。このような現象を最小差別化原理と呼びます。では、同様の市場において、2つの企業の立地点が所与であるという条件のもと、両企業が価格競争を行う場合には何が起こるでしょうか。そのような場合にもナッシュ均衡は存在するのでしょうか。また、ナッシュ均衡が存在する場合、それはどのような性質を備えているのでしょうか。

直線状の市場のいたるところに消費者が等しい密度で分布しているものと仮定し、それを有界閉区間\begin{equation*}
\left[ 0,1\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 0\leq x\leq 1\right\}
\end{equation*}上の連続一様分布にしたがう確率変数\(X\)を用いて表現します。つまり、\(X\)の確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して定める値は、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
1 & \left( if\ 0\leq x\leq 1\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}であるということです。例えば、市場内の地点\(t\in \left[ 0,1\right] \)を任意に選んだとき、区間\(\left[ 0,t\right] \)上に分布する消費者が全体に占める割合は、\begin{eqnarray*}\int_{0}^{t}f\left( x\right) dx &=&\int_{0}^{t}1dx\quad \because t\in \left[
0,1\right] \\
&=&\left[ x\right] _{0}^{t} \\
&=&t-0 \\
&=&t
\end{eqnarray*}となります。特に、\(t=1\)の場合には、\begin{equation*}\int_{0}^{1}f\left( x\right) dx=1
\end{equation*}となります。

2つの企業がこの市場に1店ずつ出店し、同一の商品を販売しようとしています。それぞれの企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が出店する立地点\(x_{i}\)は、\begin{eqnarray*}x_{1} &=&0 \\
x_{2} &=&1
\end{eqnarray*}であるものとします。つまり、2つの企業は問題としている市場の両端にそれぞれ出店するということです。もしくは、2つの企業の立地点に挟まれる領域を市場とみなすということです。企業\(1\)が地点\(x_{1}=0\)に立地する店を\(1\)と呼び、企業\(2\)が地点\(x_{2}=1\)に立地する店を\(2\)と呼ぶこととします。なお、各企業は競争相手の立地点を把握しているものとします。それぞれの企業\(i\)は商品の販売価格\begin{equation*}p_{i}>0
\end{equation*}を自由に選択できるものとします。ただし、各企業は競争相手が設定する価格を観察できない状態で自身の価格を決定しなければならない状況を想定します。

それぞれの消費者は高々\(1\)単位の商品を購入するものとします。つまり、店\(1\)から\(1\)単位の商品を購入するか、店\(2\)から\(1\)単位の商品を購入するか、もしくは商品を購入しないかのいずれかであるということです。消費者が商品を購入する場合、その商品を消費することにより効用\(v>0\)を得られるものとします。2つの店は同じ商品を販売しているため、消費者がどちらの店から商品を購入しても\(v\)の水準は一定です。また、消費者が店\(i\)から購入する場合には価格\(p_{i}>0\)を支払う必要があります。加えて、消費者が商品を購入するためにはどちらかの店へ移動する必要があり、それにともなう移動コストを負担する必要があるものとします。具体的には、市場内において消費者がいる地点が\(x\in \left[ 0,1\right] \)である場合、その地点と店\(i\ \left( =1,2\right) \)までの距離は\(\left\vert x-x_{i}\right\vert \)となりますが、これだけの距離を移動するために必要なコストが、\begin{equation*}t\cdot \left\vert x-x_{i}\right\vert \quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}だけかかるものとします。ただし、\(t>0\)は定数であり、これは単位距離あたりの移動コストに相当します。以上を踏まえた上で、地点\(x\)にいる消費者が店\(i\)から商品を購入した場合に得る利得を、\begin{equation*}v-p_{i}-t\cdot \left\vert x-x_{i}\right\vert \quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}と定義します。つまり、商品を消費することで得られる利得から、商品の価格と移動コストを差し引くことで得られる値が消費者の利得です。一方、商品を購入しない場合に消費者が得る利得を\(0\)と定めます。消費者は自身が得る利得を最大化するものと仮定します。

すべての消費者が商品を\(1\)単位ずつ購入することを保証するためにはどのような条件が満たされていればよいでしょうか。価格\(p_{1},p_{2}\)が与えられたとき、店\(1\)から商品を購入することで得られる利得\begin{eqnarray*}v-p_{1}-t\cdot \left\vert x-x_{1}\right\vert &=&v-p_{1}-t\cdot \left\vert
x-0\right\vert \quad \because x_{1}=0 \\
&=&v-p_{1}-t\cdot x\quad \because x\in \left[ 0,1\right] \end{eqnarray*}は\(x\)に関する減少関数であり、店\(2\)から商品を購入することで得られる利得\begin{eqnarray*}v-p_{2}-t\cdot \left\vert x-x_{2}\right\vert &=&v-p_{2}-t\cdot \left\vert
x-1\right\vert \quad \because x_{2}=1 \\
&=&v-p_{2}-t\cdot \left( 1-x\right) \quad \because x\in \left[ 0,1\right] \end{eqnarray*}は\(x\)に関する増加関数であるため、\begin{equation*}v-p_{1}-t\cdot x=v-p_{2}-t\cdot \left( 1-x\right)
\end{equation*}を満たす\(x\)に位置する消費者、すなわち、どちらの店で購入しても同じであるような消費者が最小の利得に直面します。そのような消費者の位置を特定すると、\begin{equation*}\hat{x}=\frac{p_{2}-p_{1}+t}{2t}
\end{equation*}となります。したがって、この地点\(\hat{x}\)にいる消費者が商品を購入することを保証すれば、すなわち、\begin{equation*}v-p_{1}-t\cdot \left\vert \frac{p_{2}-p_{1}+t}{2t}-x_{1}\right\vert \geq 0
\end{equation*}が成り立つことを保証すれば、他のすべての消費者もまた商品を購入することが保証されます。言い換えると、価格\(p_{1},p_{2}\)に対して以上の条件が満たされる場合、すべての消費者が商品を\(1\)単位ずつ購入することが保証されるということです。そこで、以上の条件が成り立つ場合、市場はカバーされている(market is covered)と言います。例えば、任意の消費者について\(v\)の水準が十分大きい場合には市場はカバーされます。

市場がカバーされている場合、それぞれの消費者は2つの店を比較して、どちらか一方から商品を購入します。具体的には、\begin{equation*}
v-p_{1}-t\cdot \left\vert x-x_{1}\right\vert >v-p_{2}-t\cdot \left\vert
x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
-p_{1}-t\cdot \left\vert x\right\vert >-p_{2}-t\cdot \left\vert
x-1\right\vert
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
p_{1}+t\cdot x<p_{2}+t\cdot \left( 1-x\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には店\(1\)で商品を購入し、逆に、\begin{equation*}p_{1}+t\cdot x>p_{2}+t\cdot \left( 1-x\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には店\(2\)で商品を購入します。また、\begin{equation*}p_{1}+t\cdot x=p_{2}+t\cdot \left( 1-x\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には等しい確率でどちらか一方の店から商品を購入します。

市場がカバーされている場合、企業\(1,2\)がそれぞれ価格\(p_{1},p_{2}\)を選択すると、それぞれの企業が得る消費者のシェアはどのように決定されるでしょうか。先の議論より、地点\begin{equation*}\hat{x}=\frac{p_{2}-p_{1}+t}{2t}
\end{equation*}に位置する消費者にとって2つの店は無差別であるため、\(\hat{x}\)より左側に分布する消費者はいずれも店\(1\)で商品を購入する一方で、\(\hat{x}\)より右側に分布する消費者はいずれも店\(2\)で商品を購入するため、連続一様分布の仮定より、この場合の企業\(1\)のシェアは、\begin{equation*}\hat{x}=\frac{p_{2}-p_{1}+t}{2t}
\end{equation*}であり、企業\(2\)のシェアは、\begin{equation*}1-\hat{x}=\frac{p_{1}-p_{2}+t}{2t}
\end{equation*}となります。

消費者が商品を高々\(1\)単位ずつ購入する状況を想定しているため、消費者の総数は商品への潜在的な総需要と等しくなります。加えて、消費者の総数を\(1\)と表現するのであれば、企業が得る消費者のシェアと需要を同一視しても一般性は失われません。以上を踏まえた上で、両企業が提示する価格の組\(\left(p_{1},p_{2}\right) \)に対して、そのときにそれぞれの企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が得る需要\(d_{i}\left( p_{1}p_{2}\right) \)を特定する関数を、\begin{equation*}d_{i}:\mathbb{R} _{++}^{2}\rightarrow \left[ 0,1\right] \end{equation*}と表記するのであれば、市場がカバーされている場合、これはそれぞれの\(\left( p_{1}p_{2}\right)\in \mathbb{R} _{++}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\frac{p_{2}-p_{1}}{2t}+\frac{1}{2} \\
d_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\frac{p_{1}-p_{2}}{2t}+\frac{1}{2}
\end{eqnarray*}を定めます。特に、\(p_{1}=p_{2}\)である場合には、すなわち両企業が同一水準の価格を設定する場合には、\begin{equation*}d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) =d_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) =\frac{1}{2}
\end{equation*}となり、両企業は需要を二等分することになります。

特筆すべきは、それぞれの企業\(i\)が得る需要\(d_{i}\left( p_{1}p_{2}\right) \)は2つの企業の価格\(p_{1},p_{2}\)をともに変数として持っているということです。つまり、企業\(1\)は自身が選ぶ価格\(p_{1}\)を変化させることを通じて自身が得る需要を変化させることができますが、同時に、競争相手である企業\(2\)が選ぶ価格\(p_{2}\)もまた自身が得る需要に影響を与えます。企業\(2\)の立場からも同様のことが言えます。つまり、それぞれの企業にとって、自身が得る需要は自身の行動だけでなく相手の行動によっても左右されるという意味において、プレイヤーである両企業の間には戦略的相互依存関係が成立しています。このような事情もあり、この市場はゲーム理論の分析対象となります。

続いて、この市場において商品を供給する2つの企業の生産コストがどのように決まるかを記述します。企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は自身のそれぞれの生産量\(q_{i}\geq 0\)に対して、\begin{equation*}c_{i}\left( q_{i}\right) =c\cdot q_{i}
\end{equation*}という費用を定めるものとします。ただし、\(c\)は正の定数です。つまり、企業\(i\)が商品を\(q_{i}\)だけ市場に供給する場合、費用が\(c_{i}\left( q_{i}\right) \)だけかかるということです。企業\(i\)が商品を生産しない場合の費用は\(c_{i}\left( 0\right) =0\)ですが、これは企業の固定費用が\(0\)であることを意味します。また、任意の\(q_{i}\geq 0\)において、\begin{equation*}\frac{dc_{i}\left( q_{i}\right) }{dq_{i}}=c
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、企業は生産量に依存しない共通の限界費用\(c>0\)を持つということです。これをテクニカルに表現すると、両企業はともに規模に関して収穫一定の技術を持つということです。

以上の状況において、それぞれの企業\(i\)は自身の利潤を最大化するように価格\(p_{i}\)を選択するものとします。ただし、両企業はカルテルを結ぶことはできず、価格に関する拘束的合意が成立しないものとします。企業\(1,2\)がそれぞれ価格\(p_{1},p_{2}\)を提示すると企業\(1\)は需要\(d_{1}\left(p_{1},p_{2}\right) \)を獲得するため、そこから収入\(p_{1}\cdot d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) \)を得ます。その一方で、商品を\(d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) \)だけ供給するために企業\(1\)が負担すべき費用は\(c_{1}\left( d_{1}\left(p_{1},p_{2}\right) \right) \)であるため、価格の組\(\left( p_{1},p_{2}\right) \)のもとで企業\(1\)が得る利潤は、収入から費用を差し引いて得られる、\begin{eqnarray*}p_{1}\cdot d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) -c_{1}\left( d_{1}\left(
p_{1},p_{2}\right) \right) &=&p_{1}\cdot d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right)
-c\cdot d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) \quad \because c_{1}\text{の定義} \\
&=&\left( p_{1}-c\right) \cdot d_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) \\
&=&\left( p_{1}-c\right) \left( \frac{p_{2}-p_{1}}{2t}+\frac{1}{2}\right)
\quad \because d_{1}\text{の定義}
\end{eqnarray*}となります。同様に、価格の組\(\left( p_{1},p_{2}\right) \)のもとで企業\(2\)が得る利潤は、\begin{eqnarray*}p_{2}\cdot d_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) -c_{2}\left( d_{2}\left(
p_{1},p_{2}\right) \right) &=&p_{2}\cdot d_{2}\left( p_{1},p_{2}\right)
-c\cdot d_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) \quad \because c_{2}\text{の定義} \\
&=&\left( p_{2}-c\right) \cdot d_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) \\
&=&\left( p_{2}-c\right) \left( \frac{p_{1}-p_{2}}{2t}+\frac{1}{2}\right)
\quad \because d_{2}\text{の定義}
\end{eqnarray*}となります。

企業\(1\)は競争相手である企業\(2\)による価格\(p_{2}\)を操作できないため、\(p_{2}\)の値を所与としながら自身の利潤を最大化するような価格\(p_{1}\)を選択します。つまり、企業\(1\)が解くべき最大化問題は、それぞれの\(p_{2}\)に対して、\begin{equation*}\max_{p_{1}\in \mathbb{R} _{++}}\left( p_{1}-c\right) \left( \frac{p_{2}-p_{1}}{2t}+\frac{1}{2}\right)
\end{equation*}となります。同様に考えると、企業\(2\)が解くべき最大化問題は、それぞれの\(p_{1}\)に対して、\begin{equation*}\max_{p_{2}\in \mathbb{R} _{++}}\left( p_{2}-c\right) \left( \frac{p_{1}-p_{2}}{2t}+\frac{1}{2}\right)
\end{equation*}となります。このような状況において各企業はどのような意思決定を行うでしょうか。

 

完備情報の静学ゲームとしてのホテリングの価格競争モデル

ホテリングの価格競争モデルが想定する状況を2つの企業をプレイヤーとするゲームと解釈します。2つの企業の間には価格に関する拘束的合意が成立しない状況を想定しているため、ホテリングの価格競争モデルは非協力ゲームです。さらに、2つの企業は相手企業が決定する価格を観察できない状態で自身の価格を決定する必要があるため、ホテリングの価格競争モデルは静学ゲームです。また、消費者の分布と行動原理、両企業の費用関数、さらに両企業の目的が利潤の最大化であることなど、ゲームのルールの要素が両企業にとって共有知識であれば、ホテリングの価格競争モデルは完備情報ゲームとして記述されます。

そこで、ホテリングの価格競争モデルを以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,2\right\} \)です。ただし、\(i\in I\)は企業\(i\)を表します。また、企業\(i\)の純粋戦略集合を\(\mathbb{R} _{++}\)と定めます。つまり、それぞれの企業\(i\)は正の実数であるような価格\(p_{i}\in \mathbb{R} _{++}\)を選択します。プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}:\mathbb{R} _{++}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)として様々な可能性がありますが、典型的な利潤を利得と同一視するというものです。この場合、両企業が選択する純粋戦略からなる組\(\left(p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)に対してプレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}\)が定める値は、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\left( p_{1}-c\right) \left( \frac{p_{2}-p_{1}}{2t}+\frac{1}{2}\right) \\
u_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\left( p_{2}-c\right) \left( \frac{p_{1}-p_{2}}{2t}+\frac{1}{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。ただし、\(t>0\)かつ\(c>0\)です。

 

市場がカバーされている場合のナッシュ均衡

ホテリングの価格競争モデルにおいて市場がカバーされている場合、以下のような純粋戦略ナッシュ均衡が存在します。

命題(ホテリングの価格競争モデルの純粋戦略ナッシュ均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,2\right\} \)であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(\mathbb{R} _{++}\)であり、利得関数\(u_{i}:\mathbb{R} _{++}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( p_{1},p_{2}\right)\in \mathbb{R} _{++}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\left( p_{1}-c\right) \left( \frac{p_{2}-p_{1}}{2t}+\frac{1}{2}\right) \\
u_{2}\left( p_{1},p_{2}\right) &=&\left( p_{2}-c\right) \left( \frac{p_{1}-p_{2}}{2t}+\frac{1}{2}\right)
\end{eqnarray*}を定めるものとする。ただし、\(t>0\)かつ\(c>0\)である。このゲーム\(G\)には純粋戦略ナッシュ均衡\(\left( p_{1}^{\ast },p_{2}^{\ast }\right) \)が存在し、それは、\begin{equation*}p_{1}^{\ast }=p_{2}^{\ast }=t+c
\end{equation*}を満たす。また、このゲーム\(G\)には他に純粋戦略ナッシュ均衡は存在しない。
証明

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市場支配力の源泉としての移動コスト

ホテリングの価格競争モデルにおいて市場がカバーされている場合、純粋戦略ナッシュ均衡が存在するとともに、両企業は均衡において同じ価格\begin{equation*}
p_{1}^{\ast }=p_{2}^{\ast }=t+c
\end{equation*}を設定することが明らかになりました。したがって、両企業は均衡において総需要を二等分します。\(t\)は均衡価格\(p_{i}^{\ast }\)と限界費用\(c\)の差であるため、これは市場独占力の大きさを表す指標です。実際、均衡\(\left( p_{1}^{\ast },p_{2}^{\ast }\right) \)において両企業が得る利潤は、\begin{eqnarray*}u_{1}\left( p_{1}^{\ast },p_{2}^{\ast }\right) &=&\left( p_{1}^{\ast
}-c\right) \left( \frac{p_{2}^{\ast }-p_{1}^{\ast }}{2t}+\frac{1}{2}\right) =\frac{t}{2} \\
u_{2}\left( p_{1}^{\ast },p_{2}^{\ast }\right) &=&\left( p_{2}^{\ast
}-c\right) \left( \frac{p_{1}^{\ast }-p_{2}^{\ast }}{2t}+\frac{1}{2}\right) =\frac{t}{2}
\end{eqnarray*}であり、これは\(t\)に関する増加関数です。つまり、\(t\)が大きいほど均衡価格\(p_{i}^{\ast }\)は限界費用\(c\)を大きく上回るため、両企業が得る利潤はより大きくなります。これは何を意味するのでしょうか。

消費者の地点が\(x\in \left[ 0,1\right] \)である場合、その地点と店\(i\ \left( =1,2\right) \)までの距離は\(\left\vert x-x_{i}\right\vert \)となりますが、消費者がそれだけの距離を移動するために必要なコストを、\begin{equation*}t\cdot \left\vert x-x_{i}\right\vert \quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}と定義しました。つまり、\(t\)は単位距離あたりの移動コストを表す指標です。したがって、\(t\)の水準が大きいことは、消費者にとって移動コストが高くつくことを意味します。この場合、消費者は「価格が多少高くても、より近い方の店舗で購入しよう」というマインドになるため、企業はそのマインドを逆手にとって、より高い価格を設定できるようになります。単位距離あたりの移動コストを表す指標\(t\)が市場独占力の源泉になり得る背景にはこのようなメカニズムがあります。

逆に、\(t\)の水準を\(0\)へ近づける場合には移動コストもまた\(0\)へ限りなく近づきますが、これは消費者にとって2つの店の立地の違いが与える影響の大きさが無視できるほど小さくなることを意味します。つまり、\(t\)を\(0\)に限りなく近づけることは、2つの店が同じ場所に立地しているものとみなすことと実質的に等しいということです。この場合、企業間の競争は純粋な価格競争、すなわちベルトラン競争になります。実際、\(t\)を\(0\)に限りなく近づける場合の均衡価格は、\begin{equation*}\lim_{t\rightarrow 0}p_{i}^{\ast }=\lim_{t\rightarrow 0}\left( p+c\right) =p
\end{equation*}であり、均衡利潤は、\begin{equation*}
\lim_{t\rightarrow 0}u_{i}\left( p_{1}^{\ast },p_{2}^{\ast }\right)
=\lim_{t\rightarrow 0}\left( \frac{t}{2}\right) =0
\end{equation*}となりますが、これはベルトラン均衡における均衡価格および均衡利潤とそれぞれ一致します。

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