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囚人のジレンマの例:対戦型オンラインゲームにおけるチート行為

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対戦型オンラインゲームにおけるチート行為

対戦型のオンラインゲームにおいて、プレイヤーが相手よりも優位に立つために行う不正行為をチート(cheat)と呼びます。具体的には、データを不正に改変して自身が操作するキャラクターを強くする、ゲーム内のアイテムやお金を増やす、通常のプレイでは起こり得ない現象を発生させるなど、様々な種類のチート行為が存在します。チート行為は犯罪になり得ますし、そもそも不正な手段を通じて相手より優位に立つことはマナーやモラルに反します。ただ、多くのゲームタイトルではチート行為が問題になっており、対戦型のオンラインゲームとチートは不可分の関係になっています。

オンラインゲームのプレイヤーが、チートを行うかどうかを選択する状況を想定します。他のプレイヤーたちがチートを行わない中で自分だけがチートを行う場合、自分だけがゲームを有利に進められます。逆に、自分がチートを行わず、他のプレイヤーたちがチートを行う場合、自分だけが不利になります。全員がチートを行う場合や、全員がチートを行わない場合には、いずれも誰かが有利になるわけではありません。ただ、全員がチートを利用するとゲームバランスそのものが崩壊してしまうため、それと比べると、全員がチートを行わない場合のほうが全員が楽しくゲームをプレーできます。

 

完備情報の静学ゲームとしてのチート問題

以上の状況を\(n\)人のプレイヤーが参加する(ゲーム理論の意味における)ゲームと解釈します。オンラインゲームを想定しているため、プレイヤーたちは不特定の人々からなる集団であり、しかも彼らは同じ場所に集まってプレーするわけではありません。したがって、プレイヤーたちは事前に話し合いをすることはできません。仮に話し合いが可能であるとして、そこでプレイヤーたちが「自分はチートをしない」と宣言しても、その発言には拘束力はありません。したがって、問題としている状況は非協力ゲームです。さらに、オンライン上のロビーに一定人数のプレイヤーが集まったタイミングでゲームが始まるような状況では、プレイヤーは他のプレイヤーたちがチートを行っているかを観察できない状況下において、自分がチートを行うかどうかを決定する必要があります。したがって、問題としている状況は静学ゲームです。さらに、以上の状況がプレイヤーたちにとっての共有知識であることを仮定するのであれば、問題としている状況を完備情報の静学ゲームとして記述することができます。

そこで、状況を以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、プレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,\cdots ,n\right\} \)です。\(n\)は有限な自然数であり、\(i\in I\)をプレイヤー\(i\)と呼びます。任意のプレイヤー\(i\)の純粋戦略集合は\(S_{i}=\left\{NC,C\right\} \)です。ただし、\(NC\)は「チートを行わない」という選択肢に相当し(Non-Cheaterの\(NC\))、\(C\)は「チートを行う」という選択肢に相当します(Cheaterの\(C\))。問題は、それぞれのプレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)をどのように記述するかです。

それぞれのプレイヤーが自分を除く\(n-1\)人のプレイヤーを個人として区別しないのであれば、プレイヤー\(i\)の利得関数を、自分が選ぶ純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)と、自分を除く\(n-1\)人のプレイヤーの中でチートを行わない人数\(c\ \left( =0,1,\cdots ,n-1\right) \)を変数として持つ関数\begin{equation*}u_{i}:S_{i}\times \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として定式化しても一般性は失われません。では、効用関数\(u_{i}\)に対してどのような性質を要求すべきでしょうか。

前提として、プレイヤーは自分が勝利することを目的にゲームをプレーするものとします。自分以外のプレイヤーたちの中でチートを行わない人たちが何人であるかに関わらず、自分はチートを行えば、そうでない場合よりも有利になるため勝つ確率は上昇します。以上を踏まえた上で、任意のプレイヤー\(i\in I\)について、\begin{equation*}\forall c\in \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} :u_{i}\left( C,c\right)
>u_{i}\left( NC,c\right)
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。

全員がチートを行う場合と、全員がチートを行わない場合を比べると、両方において特定のプレイヤーが有利になるわけではありません。したがって、ゲームに勝つ確率という観点から評価すると、プレイヤーにとって両方の場合に差はありません。ただ、全員がチートを行うとゲームバランスが崩壊してしまうため、ゲーム体験という観点から評価すると、プレイヤーにとって全員がチートを行わない場合の方が望ましいと言えます。以上を踏まえた上で、任意のプレイヤー\(i\in I\)について、\begin{equation*}u_{i}\left( NC,n-1\right) >u_{i}\left( C,0\right)
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。

プレイヤーがチートを行う場合、他のプレイヤーの中でチートを行わない人たちの数が多いほど自分はより有利になるため、ゲームに勝利する確率も上昇します。以上を踏まえた上で、任意のプレイヤー\(i\in I\)について、関数\begin{equation*}u_{i}\left( C,\cdot \right) :\left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}は変数\(c\)に関する狭義の単調増加関数であるものと仮定します。一方、プレイヤーがチートを行わない場合、他のプレイヤーの中でチートを行わない人たちの数が多いほど自分はより不利ではなくなるため、ゲームに勝利する確率も上昇します。以上を踏まえた上で、任意のプレイヤー\(i\in I\)について、関数\begin{equation*}u_{i}\left( NC,\cdot \right) :\left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}は変数\(c\)に関する狭義の単調増加関数であるものと仮定します。

以上によってチート問題を描写する戦略型ゲーム\(G\)の定義とします。改めて整理すると、このゲームのプレイヤー集合は\(I=\left\{1,\cdots ,n\right\} \)であり、任意のプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(S_{i}=\left\{ NC,C\right\} \)です。ただし、\(NC\)はチートを行わないこと、\(C\)はチートを行うことをそれぞれ意味します。それぞれのプレイヤー\(i\)の利得関数は、自分が選ぶ純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)と、自分以外の\(n-1\)人のプレイヤーの中で\(NC\)を選ぶ人数\(c\in \left\{0,1,\cdots ,n-1\right\} \)を変数として持つ関数\(u_{i}:S_{i}\times \left\{ 0,1,\cdots,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)であり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall c\in \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\}
:u_{i}\left( C,c\right) >u_{i}\left( NC,c\right) \\
&&\left( b\right) \ u_{i}\left( NC,n-1\right) >u_{i}\left( C,0\right) \\
&&\left( c\right) \ u_{i}\left( C,\cdot \right) \text{と}u_{i}\left(
NC,\cdot \right) \text{は}c\text{に関する狭義単調増加関数}
\end{eqnarray*}をすべて満たすものとして定義されます。

利得関数に関する仮定\(\left( a\right) ,\left( b\right) ,\left( c\right) \)より、チート問題を描写する以上の戦略型ゲーム\(G\)は\(n\)人囚人のジレンマに他なりません。つまり、以上のゲームにおける\(NC\)が囚人のジレンマにおける協調戦略に対応し、\(C\)が囚人のジレンマにおける裏切り戦略に対応します。

 

チート問題における均衡

チート問題を描写する戦略型ゲームにおいて、すべてのプレイヤーがチート行為を行うことが狭義の支配戦略均衡になります。

命題(チート問題における狭義の支配戦略均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,\cdots,n\right\} \)であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(S_{i}=\left\{ NC,C\right\} \)であり、利得関数\(u_{i}:S_{i}\times \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下のすべての条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall c\in \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\}
:u_{i}\left( C,c\right) >u_{i}\left( NC,c\right) \\
&&\left( b\right) \ u_{i}\left( NC,n-1\right) >u_{i}\left( C,0\right) \\
&&\left( c\right) \ u_{i}\left( C,\cdot \right) \text{と}u_{i}\left(
NC,\cdot \right) \text{は}c\text{に関する狭義単調増加関数}
\end{eqnarray*}を満たすものとする。ただし、\(c\)はプレイヤー\(i\)を除く\(n-1\)人のプレイヤーの中で戦略\(NC\)を選ぶ人数である。このゲーム\(G\)には狭義の支配戦略均衡が存在し、それはすべてのプレイヤーが\(C\)を選ぶことである。
証明

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戦略型ゲーム\(G\)に狭義の支配戦略均衡が存在する場合、プレイヤーたちが合理的であるという事実が共有知識でない場合においても、それぞれのプレイヤーが合理的でありさえすれば、プレイヤーたちはその均衡をプレーします。チート問題を描写する上述のゲームでは全員がチートを行うことが狭義の支配戦略均衡であるため、それぞれのプレイヤーが合理的であれば、彼らはその均衡を実際にプレーすることが予測されます。

チート問題においてそれぞれのプレイヤーは、他のプレイヤーたちが選択する行動がいかなるものであっても、自分はチートを行った方がチートを行わない場合よりも大きな利得を得られます(\(C\)が\(NC\)を狭義支配する)。したがって、プレイヤーが合理的である限りにおいてチートを行います。しかし、全員がチートを行う場合に自分が得る利得は、全員がチートを行わない場合に得る利得よりも小さくなってしまいます。他のプレイヤーたちにとっても事情は同じであるため、自分だけでなく他のプレイヤーたちにとっても全員がチートを行わないことは全員がチートを行うことよりも望ましいはずです。つまり、それぞれのプレイヤーが自己の利得を最大化するために行動する場合、得られる結果は他のプレイヤーにとってだけでなく自分にとっても最適なものにならないという意味において、チート問題は興味深い例になっています。

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