WIIS

ゲームの例

ホテリングの立地モデル(価格が所与の場合の空間競争)

目次

関連知識

Mailで保存
Xで共有

ホテリングの立地モデル

商品の特性に対する消費者による好みの違いが線分上の分布として表現されるという想定のもと、ライバル関係にある2つの企業が商品の水平的差別化を行う状況をホテリングモデルとして定式化しましたが、同様のモデルを用いて企業間の商業立地を通じた競争を分析することができます。

直線状の市場のいたるところに消費者が等しい密度で分布しているものと仮定し、それを有界閉区間\begin{equation*}
\left[ 0,1\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 0\leq x\leq 1\right\}
\end{equation*}上の連続一様分布にしたがう確率変数\(X\)を用いて表現します。つまり、\(X\)の確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して定める値は、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
1 & \left( if\ 0\leq x\leq 1\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}であるということです。例えば、市場内の地点\(t\in \left[ 0,1\right] \)を任意に選んだとき、区間\(\left[ 0,t\right] \)上に分布する消費者が全体に占める割合は、\begin{eqnarray*}\int_{0}^{t}f\left( x\right) dx &=&\int_{0}^{t}1dx\quad \because t\in \left[
0,1\right] \\
&=&\left[ x\right] _{0}^{t} \\
&=&t-0 \\
&=&t
\end{eqnarray*}となります。特に、\(t=1\)の場合には、\begin{equation*}\int_{0}^{1}f\left( x\right) dx=1
\end{equation*}となります。

2つの企業がこの市場に1店ずつ出店し、同一の商品を販売しようとしています。それぞれの企業\(i\ \left( =1,2\right) \)は自身の店舗の立地点\begin{equation*}x_{i}\in \left[ 0,1\right] \end{equation*}を自由に選択できるものとします。企業\(1\)が地点\(x_{1}\)に立地する店を\(1\)と呼び、企業\(2\)が地点\(x_{2}\)に立地する店を\(2\)と呼ぶこととします。なお、各企業は競争相手が開く店の立地点を観察できない状態で自身の店の立地点を決定しなければならない状況を想定します。また、両企業の間で価格競争は行われず、両企業とも同一の価格\(p>0\)で商品を販売するものと仮定します。同一の商品を販売する状況を想定しているため、これはもっともらしい仮定です。価格競争を考慮したモデルについては、場を改めて解説します。

それぞれの消費者は高々\(1\)単位の商品を購入するものとします。つまり、店\(1\)から\(1\)単位の商品を購入するか、店\(2\)から\(1\)単位の商品を購入するか、もしくは商品を購入しないかのいずれかであるということです。消費者が商品を購入する場合、その商品を消費することにより効用\(v>0\)を得られるものとします。2つの店は同じ商品を販売しているため、消費者がどちらの店から商品を購入しても\(v\)の水準は一定です。また、消費者が商品を購入する場合には価格\(p>0\)を支払う必要があります。加えて、消費者が商品を購入するためにはどちらかの店へ移動する必要があり、それにともなう移動コストを負担する必要があるものとします。具体的には、市場内において消費者がいる地点が\(x\in \left[ 0,1\right] \)である場合、その地点と店\(i\ \left( =1,2\right) \)までの距離は\(\left\vert x-x_{i}\right\vert \)となりますが、これだけの距離を移動するために必要なコストが、\begin{equation*}t\cdot \left\vert x-x_{i}\right\vert \quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}だけかかるものとします。ただし、\(t>0\)は定数であり、これは単位距離あたりの移動コストに相当します。以上を踏まえた上で、地点\(x\)にいる消費者が店\(i\)から商品を購入した場合に得る利得を、\begin{equation*}v-p-t\cdot \left\vert x-x_{i}\right\vert \quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}と定義します。つまり、商品を消費することで得られる利得から、商品の価格と移動コストを差し引くことで得られる値が消費者の利得です。一方、商品を購入しない場合に消費者が得る利得を\(0\)と定めます。消費者は自身が得る利得を最大化するものと仮定します。

2つの店の立地点\(x_{1},x_{2}\)に関わらず、すべての消費者が商品を\(1\)単位ずつ購入することを保証するためにはどのような条件が満たされていればよいでしょうか。最も極端な状況は、ある消費者と2つの店の距離がともに\(1\)であるようなケースであり、この消費者が商品を購入することを保証するためには以下の条件\begin{equation*}v-p-t\cdot \left\vert 1\right\vert \geq 0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
v\geq p+t
\end{equation*}が満たされている必要があります。言い換えると、以上の条件が満たされる場合、2つの店の立地点\(x_{1},x_{2}\)に関わらず、すべての消費者が商品を\(1\)単位ずつ購入することが保証されるということです。そこで、以上の条件が成り立つ場合、市場はカバーされている(market iscovered)と言います。例えば、任意の消費者について\(v\)の水準が十分大きい場合には市場はカバーされます。

市場がカバーされている場合、それぞれの消費者は2つの店を比較して、どちらか一方から商品を購入します。具体的には、\begin{equation*}
v-p-t\cdot \left\vert x-x_{1}\right\vert >v-p-t\cdot \left\vert
x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left\vert x-x_{1}\right\vert <\left\vert x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}が成り立つ場合には店\(1\)で商品を購入し、逆に、\begin{equation*}\left\vert x-x_{1}\right\vert >\left\vert x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}が成り立つ場合には店\(2\)で商品を購入します。つまり、消費者は自分から近い店で商品を購入するということです。2つの店までの距離が等しい場合、すなわち、\begin{equation*}\left\vert x-x_{1}\right\vert =\left\vert x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}が成り立つ場合には等しい確率でどちらか一方の店から商品を購入します。

市場がカバーされている場合、企業\(1,2\)がそれぞれ立地点\(x_{1},x_{2}\in \left[ 0,1\right] \)を選択すると、それぞれの企業が得る消費者のシェアはどのように決定されるでしょうか。\(x_{1}<x_{2}\)の場合、2つの立地点の中点\(\frac{x_{1}+x_{2}}{2}\)より左側に分布する消費者はいずれも店\(1\)で商品を購入する一方で、中点\(\frac{x_{1}+x_{2}}{2}\)より右側に分布する消費者はいずれも店\(2\)で商品を購入するため、連続一様分布の仮定より、この場合の企業\(1\)のシェアは\(\frac{x_{1}+x_{2}}{2}\)であり、企業\(2\)のシェアは\(1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2}\)となります。\(x_{1}=x_{2}\)の場合、いずれの消費者にとっても2つの店は同じ程度好ましいため、消費者は等しい確率でどちらか一方の店で商品を購入します。したがって、この場合の企業\(1\)のシェアは\(\frac{1}{2}\)であり、企業\(2\)のシェアも\(\frac{1}{2}\)となります。\(x_{1}>x_{2}\)の場合、先と同様に考えることにより、この場合の企業\(1\)のシェアは\(1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2}\)であり、企業\(2\)のシェアは\(\frac{x_{1}+x_{2}}{2}\)となります。

消費者が商品を高々\(1\)単位ずつ購入する状況を想定しているため、消費者の総数は商品への潜在的な総需要と等しくなります。加えて、消費者の総数を\(1\)と表現するのであれば、企業が得る消費者のシェアと需要を同一視しても一般性は失われません。以上を踏まえた上で、両企業が提示する立地点の組\(\left(x_{1},x_{2}\right) \)に対して、そのときにそれぞれの企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が得る需要\(d_{i}\left( x_{1},x_{2}\right) \)を特定する関数を、\begin{equation*}d_{i}:\left[ 0,1\right] ^{2}\rightarrow \left[ 0,1\right] \end{equation*}と表記するのであれば、市場がカバーされている場合、これはそれぞれの\(\left( x_{1},x_{2}\right)\in \left[ 0,1\right] ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}<x_{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x_{1}=x_{2}\right) \\
1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}>x_{2}\right)
\end{array}\right. \\
d_{2}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{
\begin{array}{cc}
1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}<x_{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x_{1}=x_{2}\right) \\
\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}>x_{2}\right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}を定めます。

特筆すべきは、それぞれの企業\(i\)が得る需要\(d_{i}\left( x_{1},x_{2}\right) \)は2つの企業の立地点\(x_{1},x_{2}\)をともに変数として持っているということです。つまり、企業\(1\)は自身が選ぶ立地点\(x_{1}\)を変化させることを通じて自身が得る需要を変化させることができますが、同時に、競争相手である企業\(1\)が選ぶ立地点\(x_{2}\)もまた自身が得る需要に影響を与えます。企業\(2\)の立場からも同様のことが言えます。つまり、それぞれの企業にとって、自身が得る需要は自身の行動だけでなく相手の行動によっても左右されるという意味において、プレイヤーである両企業の間には戦略的相互依存関係が成立しています。このような事情もあり、この市場はゲーム理論の分析対象となります。

続いて、この市場において商品を供給する2つの企業の生産コストがどのように決まるかを記述します。企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は自身のそれぞれの生産量\(q_{i}\geq 0\)に対して、\begin{equation*}c_{i}\left( q_{i}\right) =c\cdot q_{i}
\end{equation*}という費用を定めるものとします。ただし、\(c\)は正の定数です。つまり、企業\(i\)が商品を\(q_{i}\)だけ市場に供給する場合、費用が\(c_{i}\left( q_{i}\right) \)だけかかるということです。企業\(i\)が商品を生産しない場合の費用は\(c_{i}\left( 0\right) =0\)ですが、これは企業の固定費用が\(0\)であることを意味します。また、任意の\(q_{i}\geq 0\)において、\begin{equation*}\frac{dc_{i}\left( q_{i}\right) }{dq_{i}}=c
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、企業は生産量に依存しない共通の限界費用\(c>0\)を持つということです。これをテクニカルに表現すると、両企業はともに規模に関して収穫一定の技術を持つということです。加えて、限界費用\(c\)と商品の価格\(p\)の間には、\begin{equation*}p>c
\end{equation*}という関係が成り立つものとします。つまり、企業は市場に参入し続けることが可能であるということです。

以上の状況において、それぞれの企業\(i\)は自身の利潤を最大化するように立地点\(x_{i}\)を選択するものとします。ただし、両企業はカルテルを結ぶことはできず、立地点に関する拘束的合意が成立しないものとします。企業\(1,2\)がそれぞれ立地点\(x_{1},x_{2}\)を提示すると企業\(1\)は需要\(d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) \)を獲得するため、そこから収入\(p\cdot d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) \)を得ます。その一方で、商品を\(d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) \)だけ供給するために企業\(1\)が負担すべき費用は\(c_{1}\left(d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) \right) \)であるため、立地点の組\(\left(x_{1},x_{2}\right) \)のもとで企業\(1\)が得る利潤は、収入から費用を差し引いて得られる、\begin{eqnarray*}p\cdot d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) -c_{1}\left( d_{1}\left(
x_{1},x_{2}\right) \right) &=&p\cdot d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) -c\cdot
d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) \quad \because c_{1}\text{の定義} \\
&=&\left( p-c\right) \cdot d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。ただし、企業\(1\)にとって\(p\)と\(c\)の水準は所与であるとともに\(p>c\)すなわち\(p-c>0\)であることを仮定しているため、企業\(1\)が自身の利潤\(\left( p-c\right) \cdot d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) \)を最大化することは、自身が得る需要\(d_{1}\left(x_{1},x_{2}\right) \)を最大化することと実質的に等しくなります。

企業\(1\)は競争相手である企業\(2\)による立地点\(x_{2}\)を操作できないため、\(x_{2}\)の値を所与としながら自身の利潤を最大化するような立地点\(x_{1}\)を選択します。つまり、企業\(1\)が解くべき最大化問題は、それぞれの\(x_{2}\)に対して、\begin{equation*}\max_{x_{1}\in \left[ 0,1\right] }d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right)
\end{equation*}となります。同様に考えると、企業\(2\)が解くべき最大化問題は、それぞれの\(x_{1}\)に対して、\begin{equation*}\max_{x_{2}\in \left[ 0,1\right] }d_{2}\left( x_{1},x_{2}\right)
\end{equation*}となります。

このような状況において各企業はどのような意思決定を行うでしょうか。このような空間競争モデルをホテリングの立地モデル(Hotelling’s location model)やホテリングモデル(Hotelling model)、メインストリートモデル(main street model)、線形都市モデル(linear city model)などと呼びます。ホテリングの立地モデルは米国の経済学者であるハロルド・ホテリング(Harold Hotelling)が1929年に発表したモデルです。

例(立地差別)
長さ\(1\)キロの真っ直ぐな海岸に海水浴客が一様に分布しているものとします。2つのアイスクリーム屋がこの海岸で店を出そうとしており、どこに立地すべきか検討しています。2つの店が販売するアイスクリームの種類と値段は同じであるため、客にとっての違いは店の立地だけです。したがって、それぞれの海水浴客は自分がいる場所から近い方の店でアイスクリームを1つだけ購入するものとします。

 

完備情報の静学ゲームとしてのホテリングの立地モデル

ホテリングの立地モデルが想定する状況を2つの企業をプレイヤーとするゲームと解釈します。2つの企業の間には、店の立地点に関する拘束的合意が成立しない状況を想定しているため、ホテリングの立地モデルは非協力ゲームです。さらに、2つの企業は相手企業が決定する立地点を観察できない状態で自身の立地点を決定する必要があるため、ホテリングの立地モデルは静学ゲームです。また、消費者の分布と行動原理、両企業の費用関数、さらに両企業の目的が利潤の最大化であることなど、ゲームのルールの要素が両企業にとって共有知識であれば、ホテリングの立地モデルは完備情報ゲームとして記述されます。

そこで、ホテリングの立地モデルを以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,2\right\} \)です。ただし、\(i\in I\)は企業\(i\)を表します。また、企業\(i\)の純粋戦略集合を\(\left[ 0,1\right] \)と定めます。つまり、それぞれの企業\(i\)は自身が開く店の立地点\(x_{i}\in \left[ 0,1\right] \)を選択します。プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}:\left[ 0,1\right] ^{2}\rightarrow \left[ 0,1\right] \)として様々な可能性がありますが、典型的な利潤を利得と同一視するというものです。この場合、両企業が選択する純粋戦略からなる組\(\left(x_{1},x_{2}\right) \in \left[ 0,1\right] ^{2}\)に対してプレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}\)が定める値は、\begin{equation*}u_{i}\left( x_{1},x_{2}\right) =\left( p-c\right) \cdot d_{i}\left(
x_{1},x_{2}\right)
\end{equation*}となります。ただし、\(d_{i}:\left[ 0,1\right] ^{2}\rightarrow \left[ 0,1\right] \)は企業\(i\)が得る需要を特定する関数であり、市場がカバーされている場合、これはそれぞれの\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \left[ 0,1\right] ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}<x_{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x_{1}=x_{2}\right) \\
1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}>x_{2}\right)
\end{array}\right. \\
d_{2}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{
\begin{array}{cc}
1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}<x_{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x_{1}=x_{2}\right) \\
\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}>x_{2}\right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}を定めます。また、\(p,c>0\)はいずれも定数であり、\(p>c\)が成り立ちます。

 

市場がカバーされている場合のナッシュ均衡

ホテリングの立地モデルにおいて市場がカバーされている場合、以下のような純粋戦略ナッシュ均衡が存在します。

命題(ホテリングモデルの純粋戦略ナッシュ均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,2\right\} \)であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(\left[ 0,1\right] \)であり、利得関数\(u_{i}:\left[ 0,1\right]^{2}\rightarrow \left[ 0,1\right] \)はそれぞれの\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \left[ 0,1\right] ^{2}\)に対して、\begin{equation*}u_{i}\left( x_{1},x_{2}\right) =\left( p-c\right) \cdot d_{i}\left(
x_{1},x_{2}\right)
\end{equation*}を定めるものとする。ただし、\(d_{i}:\left[ 0,1\right]^{2}\rightarrow \left[ 0,1\right] \)はそれぞれの\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \left[ 0,1\right] ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}d_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}<x_{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x_{1}=x_{2}\right) \\
1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}>x_{2}\right)
\end{array}\right. \\
d_{2}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{
\begin{array}{cc}
1-\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}<x_{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x_{1}=x_{2}\right) \\
\frac{x_{1}+x_{2}}{2} & \left( if\ x_{1}>x_{2}\right)
\end{array}\right.
\end{eqnarray*}を定める。また、\(p,c>0\)かつ\(p>c\)である。このゲーム\(G\)には狭義の純粋戦略ナッシュ均衡\(\left(x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \)が存在し、それは、\begin{equation*}x_{1}^{\ast }=x_{2}^{\ast }=\frac{1}{2}
\end{equation*}を満たす。また、このゲーム\(G\)には他に純粋戦略ナッシュ均衡は存在しない。
証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

ホテリングの立地モデルにおいて市場がカバーされている場合、純粋戦略ナッシュ均衡が存在するとともに、両企業は均衡において同じ場所に立地することが明らかになりました。したがって、両企業は均衡において総需要を二等分します。両企業が商品を同一価格で販売している状況では、消費者は自分から近い場所にある店で商品を購入します。加えて、市場に消費者が一様に分布している状況においては、均衡においてそれぞれの企業の立地点が完全に一致し、結果として、空間的な差別化が行われないことになります。このような現象を最小差別化原理(principle of minimum differenciation)と呼びます。

 

ホテリングの立地モデルを製品差別化モデルとして解釈する

ホテリングの立地モデルは企業間の商業立地を通じた競争を描写したものですが、モデルの解釈を変えることにより、企業間の製品差別化を通じた競争を描写したモデルとみなすこともできます。具体的には以下の通りです。

ライバル関係にある2つの企業がある商品を新たに販売しようとしていますが、その商品のある特性に関して消費者ごとに好みが異なることが判明しているため、企業はその特性を通じて製品差別化を図ろうとしています。問題としている特性に対する消費者たちの好みが等しい密度で分布しているものと仮定し、それを有界閉区間\begin{equation*}
\left[ 0,1\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 0\leq x\leq 1\right\}
\end{equation*}上の連続一様分布にしたがう確率変数\(X\)を用いて表現します。つまり、\(X\)の確率密度関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して定める値は、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
1 & \left( if\ 0\leq x\leq 1\right) \\
0 & \left( otherwise\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}であるということです。

それぞれの企業\(i\ \left(=1,2\right) \)は自身が販売する商品の特性\begin{equation*}x_{i}\in \left[ 0,1\right] \end{equation*}を自由に選択できるものとします。ただし、各企業は競争相手が選択した特性を観察できない状態で自身の特性を決定しなければならない状況を想定します。また、両企業の間で価格競争は行われず、両企業とも与えられた同一の価格\(p>0\)で商品を販売するものと仮定します。

それぞれの消費者はどちらか一方の企業から商品を\(1\)単位だけ購入します。ただし、消費者は自身の好みに近い商品を好むものとします。つまり、消費者の好みが\(x\in \left[ 0,1\right] \)である場合、自身の好みと企業\(i\)が販売する商品の特性\(x_{i}\)の乖離の度合いは\(\left\vert x-x_{i}\right\vert \)となりますが、この消費者が企業\(i\)の商品を購入する際に感じる嫌悪感を、\begin{equation*}t\cdot \left\vert x-x_{i}\right\vert \quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}で表現します。ただし、\(t>0\)は定数です。消費者が自身の好みに近い商品を好むこととは、以上の嫌悪感がより小さい商品を好むことを意味します。以上を踏まえた上で、好みが\(x\)である消費者が企業\(i\)から商品を購入する場合にかかるコストを、\begin{equation*}p+t\cdot \left\vert x-x_{i}\right\vert \quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}と定義します。つまり、商品の価格と購入した商品への嫌悪感の和が消費者のコストです。一方、商品を購入しない場合に消費者にかかるコストを\(0\)と定めます。消費者は自身が負担するコストを最小化するものと仮定します。具体的には、\begin{equation*}p+t\cdot \left\vert x-x_{1}\right\vert <p+t\cdot \left\vert
x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left\vert x-x_{1}\right\vert <\left\vert x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}が成り立つ場合には店\(1\)で商品を購入し、逆に、\begin{equation*}\left\vert x-x_{1}\right\vert >\left\vert x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}が成り立つ場合には店\(2\)で商品を購入します。また、\begin{equation*}\left\vert x-x_{1}\right\vert =\left\vert x-x_{2}\right\vert
\end{equation*}が成り立つ場合には等しい確率でどちらか一方の店から商品を購入します。これはホテリングの立地モデルに登場する消費者の行動と実質的に同じであるため、得られる結果も同じになります。つまり、均衡において両企業は、\begin{equation*}
x_{1}^{\ast }=x_{2}^{\ast }=\frac{1}{2}
\end{equation*}を選択するため、最小差別化原理が成立します。

関連知識

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

ゲームの例