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ゲームの例

美人投票(平均の2/3の推測)

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美人投票

以下のようなゲームについて考えます。それぞれの参加者は\(0\)以上\(100\)以下の実数を1つを選び、それを紙に書いて投票します。投票の際には自分が書いた数字を他の人に見せてはいけません。全員の投票が終わったら開票を行い、全員が書いた数字の平均の\(\frac{2}{3}\)に最も近い数字を書いた人をゲームの勝者とし、それ以外の人をゲームの敗者と定めます。複数の人が同じ数字を書く可能性があるため、ゲームの勝者は1人であるとは限りません。勝者の間で総額\(1\)の賞金を等分します。敗者は賞金を得られません。以上のゲームを美人投票(beauty contest)やケインズの美人投票(Keynesian beauty contest)、もしくは平均の\(\frac{2}{3}\)の推測(guess \(\frac{2}{3}\) of the average)などと呼びます。

例(美人投票)
ゲームの参加者は3人であり、彼らを\(1,2,3\)とそれぞれ呼びます。参加者\(i\ \left( =1,2,3\right) \)が投票した数字を\(s_{i}\)で表します。以下の投票結果\begin{equation*}\left( s_{1},s_{2},s_{3}\right) =\left( 48,50,52\right)
\end{equation*}のもとで、全員の数字の平均の\(\frac{2}{3}\)は、\begin{equation*}\frac{2}{3}\cdot \frac{\left( 48+50+52\right) }{3}=33.333\cdots
\end{equation*}であるため、参加者\(1\)が勝者となり賞金\(1\)を獲得します。敗者である参加者\(2,3\)の賞金はいずれも\(0\)です。また、以下の投票結果\begin{equation*}\left( s_{1},s_{2},s_{3}\right) =\left( 48,50,48\right)
\end{equation*}のもとで、全員の数字の平均の\(\frac{2}{3}\)は、\begin{equation*}\frac{2}{3}\cdot \frac{48+50+48}{3}=32.444\cdots
\end{equation*}であるため、参加者\(1,3\)が勝者となり各々が賞金\(\frac{1}{2}\)を獲得します。敗者である参加者\(2\)の賞金は\(0\)です。

 

完備情報の静学ゲームとしての美人投票

美人投票が想定する状況をゲーム理論の意味におけるゲームと解釈します。プレイヤーたちが事前に話し合いを行い、投票する数字に関して何らかの約束を交わした場合においても、その約束には拘束力がないため、美人投票は非協力ゲームです。さらに、プレイヤーは他の人たちが書いた数字を観察できない状態で自身の数字を決定する必要があるため、美人投票は静学ゲームです。加えて、ゲームのルールがプレイヤーたちにとって共有知識であることを仮定するのであれば、美人投票は完備情報ゲームとして記述されます。

そこで、美人投票を以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\{1,\cdots ,n\}\)です。プレイヤーの人数\(n\)は有限であり、これは\(2\)以上の整数です。\(i\in I\)はプレイヤー\(i\)を表します。それぞれのプレイヤー\(i\)は\(0\)以上\(100\)以下の実数の中から1つを選ぶことを求められるため、純粋戦略集合は\(\mathbb{R} \)上の有界な閉区間\(\left[0,100\right] \)です。投票結果が\(s_{I}=\left( s_{i}\right) _{i\in I}\in \left[ 0,100\right] ^{n}\)であるとき、投票されたすべての数字の平均を、\begin{equation*}\overline{s}_{I}=\frac{1}{n}\sum\limits_{i=1}^{n}s_{i}
\end{equation*}で表記します。平均\(\overline{s}_{I}\)の\(\frac{2}{3}\)に最も近い数字を投票したプレイヤーが勝者になるため、投票結果が\(s_{I}\)であるときの勝者からなる集合を\(W\left( \overline{s}_{I}\right) \)で表記するのであれば、これは、\begin{equation*}W\left( \overline{s}_{I}\right) =\left\{ i\in I\ |\ \forall j\in
I:\left\vert s_{i}-\frac{2}{3}\overline{s}_{I}\right\vert \leq \left\vert
s_{j}-\frac{2}{3}\overline{s}_{I}\right\vert \right\}
\end{equation*}となります。勝者の人数に相当する集合\(W\left( \overline{s}_{I}\right) \)の要素の数を\(\left\vert W\left( \overline{s}_{I}\right) \right\vert \)で表記します。プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}:\left[0,100\right] ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)として様々な可能性がありますが、典型的なものは賞金額と利得を同一視するというものです。この場合、プレイヤーたちによる投票結果が\(s_{I}\in \left[ 0,100\right] ^{n}\)であるとき、そこからプレイヤー\(i\)が得る利得は、\begin{equation*}u_{i}\left( s_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\dfrac{1}{\left\vert W\left( \overline{s}_{I}\right) \right\vert } & \left(
if\ i\in W\left( \overline{s}_{I}\right) \right) \\
0 & \left( if\ i\not\in W\left( \overline{s}_{I}\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}となります。つまり、プレイヤー\(i\)が勝者である場合には賞金総額\(1\)を勝者の人数\(\left\vert W\left( \overline{s}_{I}\right) \right\vert \)で割った金額に相当する利得を獲得し、敗者である場合には利得\(0\)を獲得します。

 

美人投票のナッシュ均衡

美人投票ゲームでは「全員がゼロを投票する」という純粋戦略の組が狭義の純粋戦略ナッシュ均衡になります。

命題(美人投票のナッシュ均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,2,\cdots,n\right\} \)であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(\left[ 0,100\right] \subset \mathbb{R} \)であり、利得関数\(u_{i}:\left[ 0,100\right] ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(s_{I}=\left( s_{i}\right)_{i\in I}\in \left[ 0,100\right] ^{n}\)に対して、\begin{equation*}u_{i}\left( s_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\dfrac{1}{\left\vert W\left( \overline{s}_{I}\right) \right\vert } & \left(
if\ i\in W\left( \overline{s}_{I}\right) \right) \\
0 & \left( if\ i\not\in W\left( \overline{s}_{I}\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとする。ただし、\begin{equation*}
\overline{s}_{I}=\frac{1}{n}\sum\limits_{i=1}^{n}s_{i}
\end{equation*}かつ\begin{equation*}
W\left( \overline{s}_{I}\right) =\left\{ i\in I\ |\ \forall j\in
I:\left\vert s_{i}-\frac{2}{3}\overline{s}_{I}\right\vert \leq \left\vert
s_{j}-\frac{2}{3}\overline{s}_{I}\right\vert \right\}
\end{equation*}である。このゲーム\(G\)には狭義の純粋略ナッシュ均衡\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast}\right) _{i\in I}\)が存在し、\begin{equation*}\forall i\in I:s_{i}^{\ast }=0
\end{equation*}となる。

証明

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美人投票における支配される戦略の逐次消去による解

美人投票を描写する戦略型ゲーム\(G\)には狭義の純粋戦略ナッシュ均衡\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)が存在し、それは、\begin{equation*}\forall i\in I:s_{i}^{\ast }=0
\end{equation*}であることが明らかになりました。つまり、全員がゼロを投票することは狭義の純粋戦略ナッシュ均衡であるということです。実は、このゲーム\(G\)は純粋戦略によって狭義支配される戦略の逐次消去によって解くこともできます。一般に、戦略型ゲームが有限ゲームであり、なおかつ純粋戦略によって狭義支配される戦略の逐次消去によって解くことができる場合、その解は問題としているゲームの唯一の純粋戦略ナッシュ均衡であることが保証されます。ただ、美人投票を描写する戦略型ゲーム\(G\)におけるプレイヤーの純粋戦略集合\(\left[ 0,100\right] \)は有限集合ではなく、したがって\(G\)は有限ゲームではないため、先の事実をそのまま適用できません。そこで、ゲーム\(G\)に対して実際に逐次消去を適用し、その解がナッシュ均衡と一致することを確認します。

命題(美人投票における狭義支配される戦略の逐次消去の解)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,2,\cdots,n\right\} \)であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(\left[ 0,100\right] \subset \mathbb{R} \)であり、利得関数\(u_{i}:\left[ 0,100\right] ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(s_{I}=\left( s_{i}\right)_{i\in I}\in \left[ 0,100\right] ^{n}\)に対して、\begin{equation*}u_{i}\left( s_{I}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\dfrac{1}{\left\vert W\left( \overline{s}_{I}\right) \right\vert } & \left(
if\ i\in W\left( \overline{s}_{I}\right) \right) \\
0 & \left( if\ i\not\in W\left( \overline{s}_{I}\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとする。ただし、\begin{equation*}
\overline{s}_{I}=\frac{1}{n}\sum\limits_{i=1}^{n}s_{i}
\end{equation*}かつ\begin{equation*}
W\left( \overline{s}_{I}\right) =\left\{ i\in I\ |\ \forall j\in
I:\left\vert s_{i}-\frac{2}{3}\overline{s}_{I}\right\vert \leq \left\vert
s_{j}-\frac{2}{3}\overline{s}_{I}\right\vert \right\}
\end{equation*}である。このゲーム\(G\)は純粋戦略によって狭義支配される戦略の逐次消去によって解くことができ、その解\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)は\(G\)における狭義の純粋戦略ナッシュ均衡と一致する。すなわち、\begin{equation*}\forall i\in I:s_{i}^{\ast }=0
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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戦略型ゲーム\(G\)が純粋戦略によって狭義支配される戦略の逐次消去によって解ける場合、プレイヤーたちの合理性が共有知識であれば、プレイヤーたちが実際にその解をプレーすることが保証されます。上の命題より、美人投票のプレイヤーたちにとってお互いの合理性が共有知識である場合、彼らはナッシュ均衡に相当する以下の純粋戦略の組\begin{equation*}\forall i\in I:s_{i}^{\ast }=0
\end{equation*}を実際にプレーすることが理論的に予測されます。この予想は現実の人間の行動を正確に描写しているでしょうか。美人投票ゲームの実験は数多く行われています。次回はそれらの実験について解説します。

 

演習問題

問題(美人投票)
美人投票ゲームにおいてそれぞれのプレイヤーは\(0\)以上\(100\)以下の任意の「実数」を選択できるのではなく、\(1\)以上\(100\)以下の任意の「整数」を選択できるものとルールを変更した場合、均衡もまた変化するでしょうか。議論してください。

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