点列を用いた無限大におけるベクトル値関数の極限の定義
ベクトル値関数が無限大において収束することをイプシロン・デルタ論法を使って証明するのは面倒です。点におけるベクトル値関数の極限や片側極限と同様、無限大におけるベクトル値関数の極限もまた点列を用いて表現することができます。順を追って説明します。
ベクトル値関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)は限りなく大きい任意の点において定義されているものとします。その上で、点\(b\in \mathbb{R} ^{m}\)が与えられたとき、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow +\infty }f\left( x\right) =b
\end{equation*}が成り立つものとします。このとき、以下の条件\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\in X \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow +\infty }x_{v}=+\infty
\end{eqnarray*}をともに満たす数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)を任意に選びます。つまり、\(X\)の点を項とするとともに、正の無限大へ発散する数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)を任意に選ぶということです。この数列\(\left\{x_{v}\right\} \)の任意の項\(x_{v}\)は\(X\)の要素であるため、それに対して\(f\)は像\(f\left(x_{v}\right) \)を定めます。\(f\left(x_{v}\right) \)は\(\mathbb{R} ^{m}\)の点であるため、これを項とする\(\mathbb{R} ^{m}\)上の点列\(\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} \)を構成できます。このとき、この点列\(\left\{f\left( x_{v}\right) \right\} \)が\(b\)へ収束することが保証されます。
\end{equation*}が成り立つならば、先のように定義された任意の点列\(\left\{ f\left(x_{v}\right) \right\} \)について、\begin{equation*}\lim_{v\rightarrow +\infty }f\left( x_{v}\right) =b
\end{equation*}が成り立つ。
上の命題の逆もまた成立します。つまり、ベクトル値関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)と点\(b\in \mathbb{R} ^{m}\)が与えられたとき、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\in X \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow +\infty }x_{v}=+\infty
\end{eqnarray*}をともに満たす数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)を任意に選んだ上で、さらにそこから点列\(\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} \)を構成します。このように定義される任意の点列\(\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} \)が\(b\)へ収束する場合には、\(x\rightarrow +\infty \)のときに関数\(f\)が\(b\)へ収束することが保証されます。
\end{equation*}が成り立つならば、関数\(f\)について、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow +\infty }f\left( x\right) =b
\end{equation*}が成り立つ。
この命題について注意しなければならないのは、\(X\)の点を項とするとともに正の無限大へ発散する「任意の」数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)に対して、そこから構成される点列\(\left\{ f\left(x_{v}\right) \right\} \)が\(b\)へ収束することが前提条件になっているという点です。したがって、このような性質を満たす数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)が「存在する」ことを示しただけでは、上の命題が要求する前提条件を満たしたことにはなりません。
以上の2つの命題により、正の無限大におけるベクトル値関数の収束という概念は点列の収束概念を用いて以下のように特徴づけられることが明らかになりました。
\end{equation*}が成り立つことは、関数\(f\)について、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow +\infty }f\left( x\right) =b
\end{equation*}が成り立つための必要十分条件である。
負の無限大において収束するベクトル値関数についても同様の命題が成り立ちます。
\end{equation*}が成り立つことは、関数\(f\)について、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow -\infty }f\left( x\right) =b
\end{equation*}が成り立つための必要十分条件である。
以上の命題より、無限大におけるベクトル値関数の収束に関する議論を数列の収束に関する議論に置き換えられることが明らかになりました。
\end{equation*}を定めるものとします。\(x\rightarrow +\infty \)のときに\(f\)が収束するか判定します。そこで、\(\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)の点をとりながら正の無限大へ発散する数列を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\not=0 \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}=+\infty
\end{eqnarray*}を満たす数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)を任意に選ぶということです。このとき、点列\begin{equation*}\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} =\left\{ \left( \frac{1}{x_{v}},\frac{1}{x_{v}^{2}}\right) \right\}
\end{equation*}の極限について、\begin{eqnarray*}
\lim_{v\rightarrow \infty }f\left( x_{v}\right) &=&\lim_{v\rightarrow
\infty }\left( \frac{1}{x_{v}},\frac{1}{x_{v}^{2}}\right) \quad \because
\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} \text{の定義} \\
&=&\left( \lim_{v\rightarrow \infty }\frac{1}{x_{v}},\lim_{v\rightarrow
\infty }\frac{1}{x_{v}^{2}}\right) \quad \because \text{点列の極限と座標数列の極限} \\
&=&\left( \frac{1}{+\infty },\frac{1}{+\infty }\right) \quad \because \left(
a\right) ,\left( b\right) \\
&=&\left( 0,0\right)
\end{eqnarray*}となるため、先の命題より、\begin{equation*}
\lim_{x\rightarrow \infty }f\left( x\right) =\left( 0,0\right)
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。
ベクトル値関数が無限大において収束しないことの証明
先の諸命題は、ベクトル値関数が無限大において収束しないことを示す際にも有用です。関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が与えられたとき、\(X\)の点を項とするとともに正の無限大\(+\infty \)へ発散する数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)を適当に選びます。このとき、点列\(\left\{ f\left(x_{v}\right) \right\} \)が\(\mathbb{R} ^{m}\)の点へ収束しないのであれば、先の命題より、\(x\rightarrow +\infty \)のときに\(f\)は\(\mathbb{R} ^{m}\)の点へ収束しません。同様に、\(X\)の点を項とするとともに負の無限大\(-\infty \)へ発散する数列\(\left\{ x_{v}\right\} \)を適当に選んだ場合、点列\(\left\{f\left( x_{v}\right) \right\} \)が\(\mathbb{R} ^{m}\)の点へ収束しないのであれば、先の命題より、\(x\rightarrow -\infty \)のときに\(f\)は\(\mathbb{R} ^{m}\)の点へ収束しません。
\end{equation*}を定めるものとします。\(x\rightarrow +\infty \)のときに\(f\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)の点に収束しないことを示します。一般項が、\begin{equation*}x_{v}=v
\end{equation*}で与えられる数列\(\left\{x_{v}\right\} \)に注目します。この数列は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\not=0 \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}=+\infty
\end{eqnarray*}をともに満たします。その一方で、点列\begin{equation*}
\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} =\left\{ \left( \frac{1}{x_{v}^{2}},x_{v}+1\right) \right\}
\end{equation*}の第2座標数列\(\left\{ x_{v}+1\right\} \)について、\begin{eqnarray*}\lim_{v\rightarrow \infty }\left( x_{v}+1\right) &=&\lim_{v\rightarrow
\infty }\left( v+1\right) \quad \because \left\{ x_{v}\right\} \text{の定義} \\
&=&+\infty
\end{eqnarray*}となり有限な実数へ収束しないため、点列\(\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} \)もまた\(\mathbb{R} ^{2}\)の点へ収束しません。したがって、先の命題より、\(x\rightarrow 0\)のときに\(f\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)の点へ収束しないことが明らかになりました。
ベクトル値関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が与えられたとき、\(X\)の点を項とするとともに正の無限大へ発散する2つの数列\(\left\{x_{v}\right\} ,\left\{ y_{v}\right\} \)を適当に選びます。このとき、点列\(\left\{ f\left( x_{v}\right) \right\} ,\left\{f\left( y_{v}\right) \right\} \)が異なる\(\mathbb{R} ^{m}\)の点へ収束するのであれば、先の命題より、\(x\rightarrow +\infty \)のときに\(f\)は\(\mathbb{R} ^{m}\)の点へ収束しません。負の無限大における極限についても同様の主張が成り立ちます。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。\(x\rightarrow +\infty \)のときに\(f\)が\(\mathbb{R} ^{2}\)の点へ収束するか、点列を用いて判定してください。
\end{equation*}を定めるものとします。\(x\rightarrow +\infty \)のときに\(f\)が\(\mathbb{R} ^{2}\)の点へ収束するか、点列を用いて判定してください。
\end{equation*}を定めるものとします。\(x\rightarrow +\infty \)のときに\(f\)が\(\mathbb{R} ^{2}\)の点へ収束するか、点列を用いて判定してください。
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