完備情報の静学ゲームを表現する戦略型ゲームの混合拡張に直面したそれぞれのプレイヤーは、期待効用仮説にもとづいて混合戦略集合の中から自身の期待利得を最大化する混合戦略を選びます。

2019年2月27日:公開

期待効用仮説

完備情報ゲームではプレイヤーたちの意思決定に関して合理性を仮定しました。プレイヤーたちが純戦略を採用するとき、プレイヤーが合理的であることとは自身の利得を最大化するような純戦略を選ぶことを意味します。それぞれのプレイヤーは他のプレイヤーたちが選び得る純戦略のそれぞれの組に対して自分のそれぞれの純戦略が自分にもたらす利得を計算する能力を持っており、その計算にもとづいて自分の利得を最大化するような純戦略を選ぶということです。

一方、完備情報ゲームにおいてプレイヤーたちが混合戦略を採用する場合に合理性の仮定が成り立つことを保証するためには、そのゲームを表す戦略ゲーム\(G\)やその混合拡張\(G^{\ast }\)に関して以下を仮定する必要があります。混合戦略の可能性を考慮したこのような合理性の仮定を期待効用仮説(expected utility hypothesis)と呼びます。

  1. それぞれのプレイヤーは自分がプレーしているゲーム\(G\)において起こり得るすべての事象を把握しているものとする。つまり、プレイヤーはすべてのプレイヤーの純戦略集合の直積\(S_{I}\)に属するそれぞれの事象\(s_{I}\)と、そこから自分が得る利得\(u_{i}\left( s_{I}\right) \)を把握している。
  2. それぞれのプレイヤーはすべてのプレイヤーの混合戦略集合の直積\(\Delta \left( S_{I}\right) \)に属するすべての要素を把握している。さらに、混合戦略のそれぞれの組\(\sigma _{I}\in \Delta \left( S_{I}\right) \)に対して、そこからそれぞれの事象\(s_{I}\in S_{I}\)が起こる確率\(\sigma _{I}\left( s_{I}\right) \)を把握しており、なおかつ期待利得\(F_{i}\left( \sigma _{I}\right) \in \mathbb{R}\)を計算できる。その上で、自身の期待利得を最大化するような混合戦略\(\sigma _{i}\in \Delta \left( S_{i}\right) \)を選択する。

期待効用仮説を仮定することは、プレイヤーは起こり得る事象\(S_{I}\)を把握する情報収集能力を持ち、また、意志決定を行う時点において利用可能な情報をすべて活用し、さらに、自身が選択可能なそれぞれの混合戦略によって自分が得るであろう期待利得を計算する能力を備えていることを暗に仮定していることになります。

完備情報ゲームを表す戦略ゲーム\(G\)やその混合拡張\(G^{\ast }\)の要素はプレイヤーたちの共有知識です。一方、プレイヤーの合理性はゲームのルールとは異なる概念であるため、混合拡張\(G^{\ast }\)においてプレイヤーたちが期待効用仮説にもとづいて意思決定を行うことは共有知識であるとは限りません。多くの場合、期待効用仮説は相互知識であるものと仮定します。つまり、すべてのプレイヤーが期待効用仮説にもとづいて意志決定することをすべてのプレイヤーが知っていることを仮定します。ただし、期待効用仮説を共有知識と仮定する場合もあります。つまり、すべてのプレイヤーが期待効用仮説にもとづいて意志決定することをすべてのプレイヤーが知っており、なおかつその事実をすべてのプレイヤーが知っており、\(\cdots \)、という仮定を無限に積み重ねるということです。

 

混合戦略均衡

完備情報の静学ゲームを表現する戦略型ゲーム\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)に直面したそれぞれのプレイヤー\(i\)は、期待効用仮説にもとづいて混合戦略集合\(\Delta \left( S_{i}\right) \)の中から自身の期待利得を最大化する混合戦略を選びます。このような混合戦略を\(\sigma _{i}^{\ast }\)で表し、これをプレイヤー\(i\)の最適戦略(best strategy)と呼びます。

プレイヤーたちが最適戦略を選ぶ目的は自身の期待利得の最大化ですが、最適戦略の具体的な内容は戦略型ゲーム\(G\)や混合拡張\(G^{\ast }\)の要素とは別に外生的に定義する必要があります。つまり、ゲームの分析家は最適戦略の意味をあらかじめ規定した上で、そこで規定された最適戦略の概念のもとでプレイヤーたちが具体的にどのように振る舞い、そこからどのような結果がもたらされるかを分析するということです。したがって、同じ混合拡張\(G^{\ast }\)を分析対象とする場合でも、異なる最適戦略の概念のもとでは異なる分析結果が得られます。ですから、分析家がどのような最適戦略の概念を採用するかは非常に重要な問題です。

混合戦略を許容する場合に最適戦略の意味を定義することとは、それぞれの混合拡張\(G^{\ast }\)に対して、そこでの最適戦略の組\(\sigma _{I}^{\ast }=(\sigma _{i}^{\ast })_{i\in I}\in \Delta \left( S_{I}\right) \)を定める概念を特定することを意味します。そこで、そのような概念を均衡概念(equilibrium concept)や解の概念(solution concept)などと呼びます。また、均衡概念がそれぞれの混合拡張\(G^{\ast }\)に対して定める最適戦略の組\(\sigma _{I}^{\ast }\)を\(G^{\ast }\)の均衡(equilibrium)や混合戦略均衡(mixed strategy equilibrium)などと呼び、均衡\(\sigma _{I}^{\ast }\)を構成するプレイヤー\(i\)の最適戦略\(\sigma _{i}^{\ast }\)を\(i\)の均衡戦略(equilibrium strategy)と呼びます。さらに、混合拡張\(G^{\ast }\)の均衡が\(\sigma _{I}^{\ast }\)であるとき、それぞれの純戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)が実現する確率を規定する確率分布が定まり、さらに、それぞれの純戦略の組\(s_{I}\)に対してゲームのルールはゲームの結果を定めるため、結局、均衡\(\sigma _{I}^{\ast }\)が与えられるとそれぞれの結果が実現する確率を規定する確率分布が定まります。そのような確率分布が\(G^{\ast }\)の均衡結果に相当します。その上で、均衡結果からプレイヤーたちが得る期待利得の組を\(F^{\ast }=(F_{i}(\sigma _{I}^{\ast }))_{i\in I}\in \mathbb{R} ^{n}\)で表します。

ある均衡概念が外生的に与えられたとき、その均衡概念のもとで、任意の混合拡張\(G^{\ast }\)に対して混合戦略均衡は存在するとは限りません。また、混合戦略均衡が存在する場合にも、それは一意的に定まるとは限りません。したがって、完備情報の静学ゲームを混合拡張として表現するとき、均衡概念とはそれぞれの混合拡張に対してそこでの混合戦略均衡を定める対応として定式化されます。

次回からはナッシュ均衡について解説します。
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