完備情報の静学ゲームを表現する戦略型ゲームの混合拡張に直面したそれぞれのプレイヤーは、期待効用仮説にもとづいて混合戦略集合の中から自身の期待利得を最大化する混合戦略を選びます。

期待効用仮説

繰り返しになりますが、ゲーム理論では、ゲームに参加するプレイヤーはそれぞれ明確な目的を持ち、その目的を達成するために最適な戦略を選択するものと仮定します。特に、完備情報の静学ゲームを戦略型ゲームとして定式化したとき、それぞれのプレイヤーは自己の利得を最大化するために最適な純粋戦略を選択するものと仮定します。これを合理性の仮定と呼びます。つまり、それぞれのプレイヤーは、自分を含めた全員の純粋戦略集合を把握するに十分な情報理解力を持っており、他のプレイヤーたちが選び得る純粋戦略のそれぞれの組に対して自分のそれぞれの純粋戦略が自分にもたらす利得を計算する能力を持っており、その計算にもとづいて自分の利得を最大化するような純粋戦略を選ぶに足る知能を持っているということです。

プレイヤーたちが純粋戦略を採用する場合、それぞれのプレイヤーは、他のプレイヤーたちが選択する純粋戦略を事前に観察できないという意味での不確実性に直面します。しかし、ひとたび全員の純粋戦略が定まれば、ゲームのルールはそれに対して結果を 1 つずつ確定的に定めます。一方、同じゲームにおいてプレイヤーたちが混合戦略を採用する場合、それぞれのプレイヤーは二重の意味での不確実性に直面します。1 つ目は、他のプレイヤーたちが選択する混合戦略を事前に観察できないという意味での不確実性です。もう 1 つは、全員の混合戦略が定まった場合でも、そのときに起こり得るゲームの結果は一意的に定まらないという意味での不確実性です。プレイヤーたちの混合戦略の組が与えられたとき、それが規定する確率分布にもとづいて、何らかのゲームの結果がランダムに実現します。このような二重の意味に直面するそれぞれのプレイヤーは、自身の期待利得を指標に意思決定を行います。

以上を踏まえると、プレイヤーたちが混合戦略を採用する場合の合理性とは、自己の期待利得を最大化するために最適な混合戦略を選択することとして表現されます。これを期待効用仮説(expected utility hypothesis)と呼びます。期待効用仮説が実際に成り立つことを保証するためには、戦略型ゲーム\(G=\left\{ I,\left\{ S_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ u_{i}\right\} _{i\in I}\right\} \)、そしてその混合拡張\(G^{\ast }=\left\{ I,\left\{ \Delta \left( S_{i}\right) \right\} _{i\in I},\left\{ F_{i}\right\} _{i\in I}\right\} \)に関して、少なくとも以下を要求する必要があります。

  1. それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は、自分がプレーしている戦略型ゲーム\(G\)において起こり得るすべての結果を把握している。プレイヤーたちが選択する純粋戦略の組\(s_{I} \in S_{I}\)に対してゲームの結果が 1 つずつ定まるため、純粋戦略の組を結果と同一視するのであれば、この仮定は、それぞれのプレイヤーが、自分を含めた全員の純戦略集合を把握するに十分な情報理解力を持っていることを要求する。
  2. それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は、ゲームにおいて起こり得るそれぞれの結果\(s_{I}\in S_{I}\)から自身が得る利得\(u_{i}\left( s_{I}\right) \)を把握するに十分な知能を持っていることを要求する。
  3. それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は、プレイヤーたちが選択する混合戦略の組\(\sigma _{I}\in \Delta \left( S_{I}\right) \)に対して、それぞれの純粋戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)が起こる確率\(\sigma _{I}\left( s_{I}\right) \)や、期待利得\(F_{i}\left( \sigma _{I}\right) \)を計算する能力を持っており、その上で、自身の期待利得を最大化するような混合戦略\(\sigma _{i}\in \Delta \left( S_{i}\right) \)を特定するに十分な知能を持っていることを要求する。

完備情報の静学ゲームを戦略型ゲーム\(G\)やその混合拡張\(G^{\ast }\)として定式化するとき、そのすべての要素はプレイヤーたちの共有知識とみなされます。一方、プレイヤーの合理性は\(C\)や\(G^{\ast }\)の要素ではないため、「プレイヤーたちが合理的である」という事実は、プレイヤーたちの共有知識であるとは限りません。

ただ、ゲーム理論では多くの場合、プレイヤーの合理性は相互知識であるものと仮定した上で分析を行います。つまり、すべてのプレイヤーが合理的であることをすべてのプレイヤーが知っていることを仮定します。プレイヤーの合理性を共有知識と仮定する場合もあります。つまり、すべてのプレイヤーが合理的であることをすべてのプレイヤーが知っており、なおかつ、その事実をすべてのプレイヤーが知っており、\(\cdots \)、という仮定を無限に積み重ねるということです。後ほど明らかになるように、プレイヤーたちの合理性を共有知識とみなすか、相互知識とみなすか、その仮定の強さによって得られる結論も変わってくるため、注意が必要です。

 

混合戦略均衡

戦略型ゲーム\(G^{\ast }\)の混合拡張\(G^{\ast }\)として表現される完備情報の静学ゲームに直面したそれぞれのプレイヤー\(i\)は、期待効用仮説のもとで、自身が選択可能な混合戦略の集合\(\Delta \left( S_{i}\right) \)の中から自身の期待利得を最大化する混合戦略を選ぶものと仮定します。このような混合戦略を\(\sigma _{i}^{\ast }\)で表し、これをプレイヤー\(i\)の最適戦略(best strategy)と呼びます。

プレイヤーたちが最適戦略を選ぶ目的は自身の期待利得の最大化ですが、最適戦略の具体的な内容は戦略型ゲーム\(G\)や混合拡張\(G^{\ast }\)の要素とは別に外生的に定義する必要があります。つまり、ゲームの分析家は最適戦略の意味をあらかじめ規定した上で、そこで規定された最適戦略の概念のもとでプレイヤーたちが具体的にどのように振る舞い、そこからどのような結果がもたらされるかを分析するということです。したがって、同じゲーム\(G^{\ast }\)を分析対象とする場合でも、異なる最適戦略の概念のもとでは異なる分析結果が得られます。分析家がどのような最適戦略の概念を採用するかは非常に重要な問題です。

混合戦略を許容する場合に最適戦略の意味を定義することとは、それぞれの混合拡張\(G^{\ast }\)に対して、そこでの最適戦略の組\(\sigma _{I}^{\ast }=(\sigma _{i}^{\ast })_{i\in I}\in \Delta \left( S_{I}\right) \)を定める概念を特定することを意味します。そこで、そのような概念を均衡概念(equilibrium concept)や解の概念(solution concept)などと呼びます。また、均衡概念がそれぞれの混合拡張\(G^{\ast }\)に対して定める最適戦略の組\(\sigma _{I}^{\ast }\)を\(G^{\ast }\)の均衡(equilibrium)や混合戦略均衡(mixed strategy equilibrium)などと呼び、均衡\(\sigma _{I}^{\ast }\)を構成するプレイヤー\(i\)の最適戦略\(\sigma _{i}^{\ast }\)を\(i\)の均衡戦略(equilibrium strategy)と呼びます。さらに、混合拡張\(G^{\ast }\)の均衡が\(\sigma _{I}^{\ast }\)であるとき、それぞれの純粋戦略の組\(s_{I}\in S_{I}\)が実現する確率を規定する確率分布が定まり、さらに、それぞれの純粋戦略の組\(s_{I}\)に対してゲームのルールはゲームの結果を定めるため、結局、均衡\(\sigma _{I}^{\ast }\)が与えられるとそれぞれの結果が実現する確率を規定する確率分布が定まります。そのような確率分布が\(G^{\ast }\)の均衡結果に相当します。その上で、均衡結果からプレイヤーたちが得る期待利得の組を\(F^{\ast }=(F_{i}(\sigma _{I}^{\ast }))_{i\in I}\in \mathbb{R} ^{n}\)で表します。

ある均衡概念が外生的に与えられたとき、その均衡概念のもとで、任意の混合拡張\(G^{\ast }\)に対して混合戦略均衡は存在するとは限りません。また、混合戦略均衡が存在する場合にも、それは一意的に定まるとは限りません。したがって、完備情報の静学ゲームが混合拡張として表現されるとき、均衡概念とは、それぞれの混合拡張に対してそこでの混合戦略均衡を定める対応として定式化されます。

次回からは支配戦略均衡について解説します。

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