WIIS

ルベーグ積分

有界関数のルベーグ積分とリーマン積分の関係

目次

Mailで保存
Xで共有

有界閉区間上に定義された有界関数のルベーグ積分

実数空間\(\mathbb{R} \)および\(\mathbb{R} \)上のルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)に加えてルベーグ測度\(\mu :\mathfrak{M}_{\mu }\rightarrow \mathbb{R} _{+}\cup \left\{ +\infty \right\} \)からなる測度空間\begin{equation*}\left( \mathbb{R} ,\mathfrak{M}_{\mu },\mu \right)
\end{equation*}が与えられているものとします。\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界な閉区間\begin{equation*}\left[ a,b\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}を定義します。区間はルベーグ可測関数であるため\(\left[ a,b\right] \in \mathfrak{M}_{\mu }\)であり、なおかつその測度\begin{equation*}\mu \left( \left[ a,b\right] \right) =b-a
\end{equation*}は有限な実数です。さて、この区間上に定義された関数\begin{equation*}
f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が有界であるものとします。つまり、\(f\)の値域\begin{equation*}f\left( \left[ a,b\right] \right) =\left\{ f\left( x\right) \in \mathbb{R} \ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}が有界な\(\mathbb{R} \)の部分集合であるということです。言い換えると、以下の条件\begin{equation*}\exists U\in \mathbb{R} ,\ \exists L\in \mathbb{R} ,\ \forall x\in \left[ a,b\right] :L\leq f\left( x\right) \leq U
\end{equation*}が成り立つということです。ただし、\(U\)は\(f\)の値域の上界であり、\(L\)は下界です。

関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)は有限測度を持つルベーグ可測集合上に定義された有界関数であるため、上ルベーグ積分と下ルベーグ積分\begin{eqnarray*}\left( L\right) \ \overline{\int }_{\left[ a,b\right] }fd\mu &=&\inf
\left\{ \int_{\left[ a,b\right] }gd\mu \in \mathbb{R} \ |\ g\text{は}f\leq g\text{を満たす単関数}\right\} \\
\left( L\right) \ \underline{\int }_{\left[ a,b\right] }fd\mu &=&\sup
\left\{ \int_{\left[ a,b\right] }hd\mu \in \mathbb{R} \ |\ h\text{は}h\leq f\text{を満たす単関数}\right\}
\end{eqnarray*}がそれぞれ有限な実数として定まります。\(f\)が\(\left[ a,b\right] \)上においてルベーグ積分可能であることとは、\begin{equation*}\left( L\right) \ \overline{\int }_{\left[ a,b\right] }fd\mu =\left(
L\right) \ \underline{\int }_{\left[ a,b\right] }fd\mu
\end{equation*}が成り立つこととして定義されるとともに、\(f\)の\(\left[ a,b\right] \)上におけるルベーグ積分は、\begin{equation*}\left( L\right) \ \int_{\left[ a,b\right] }fd\mu =\left( L\right) \
\overline{\int }_{\left[ a,b\right] }fd\mu =\left( L\right) \ \underline{\int }_{\left[ a,b\right] }fd\mu
\end{equation*}と定義されます。

 

有界閉区間上に定義された有界関数のリーマン積分

\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界な閉区間上に定義された有界関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられた状況を想定します。

区間\(\left[ a,b\right] \)の分割\(P=\left\{x_{k}\right\} _{k=0}^{n}\)を選べば、\(f\)の上リーマン和は、\begin{equation*}U\left( f,P\right) =\sum_{k=1}^{n}\left( x_{k}-x_{k-1}\right) \cdot \sup
f\left( \left[ x_{k-1},x_{k}\right] \right)
\end{equation*}と定義され、\(f\)の下リーマン和は、\begin{equation*}L\left( f,P\right) =\sum_{k=1}^{n}\left( x_{k}-x_{k-1}\right) \cdot \inf
f\left( \left[ x_{k-1},x_{k}\right] \right)
\end{equation*}と定義されます。上リーマン和がとり得る値からなる集合は、\begin{equation*}
\left\{ U\left( f,P\right) \in \mathbb{R} \ |\ P\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\}
\end{equation*}ですが、\(f\)の\(\left[ a,b\right] \)上における上リーマン積分はこの集合の下限\begin{equation*}\left( R\right) \ \overline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx=\inf \left\{
U\left( f,P\right) \in \mathbb{R} \ |\ P\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\}
\end{equation*}として定義されます。一方、下リーマン和がとり得る値からなる集合は、\begin{equation*}
\left\{ L\left( f,P\right) \in \mathbb{R} \ |\ P\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\}
\end{equation*}ですが、\(f\)の\(\left[ a,b\right] \)上における下リーマン積分はこの集合の上限\begin{equation*}\left( R\right) \ \underline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx=\sup \left\{
L\left( f,P\right) \in \mathbb{R} \ |\ P\text{は}\left[ a,b\right] \text{の分割}\right\}
\end{equation*}として定義されます。

関数\(f\)が区間\(\left[ a,b\right] \)上において有界である場合、上リーマン積分と下リーマン積分はそれぞれ有限な実数として定まりますが、両者は一致するとは限りません。上リーマン積分と下リーマン積分の値が一致する場合には、すなわち、\begin{equation*}\left( R\right) \ \overline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx=\left(
R\right) \ \underline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(f\)は\(\left[ a,b\right] \)上においてダルブー積分可能であると言います。さらに、\(f\)が\(\left[ a,b\right] \)上においてダルブー積分可能であることと、\(f\)が\(\left[ a,b\right] \)上においてリーマン積分可能であることは必要十分であるとともに、この場合、\(f\)の\(\left[ a,b\right] \)上における定積分が、\begin{equation*}\left( R\right) \ \int_{a}^{b}f\left( x\right) dx=\left( R\right) \
\overline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx=\left( R\right) \ \underline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx
\end{equation*}として定まります。

 

ルベーグ積分としての上リーマン積分と下リーマン積分

上リーマン積分と下リーマン積分をそれぞれ階段関数のルベーグ積分を用いて以下のように表現できます。

命題(ルベーグ積分としての上リーマン積分と下リーマン積分)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された有界関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているものとする。\(f\)の\(\left[ a,b\right] \)上における上リーマン積分について、\begin{equation*}\left( R\right) \ \overline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx=\inf \left\{
\left( L\right) \ \int_{\left[ a,b\right] }gd\mu \in \mathbb{R} \ |\ g\text{は}f\leq g\text{を満たす階段関数}\right\}
\end{equation*}が成り立つ。また、\(f\)の\(\left[ a,b\right] \)上における下リーマン積分について、\begin{equation*}\left( R\right) \ \underline{\int }_{a}^{b}f\left( x\right) dx=\sup \left\{
\left( L\right) \ \int_{\left[ a,b\right] }hd\mu \in \mathbb{R} \ |\ h\text{は}h\leq f\text{を満たす階段関数}\right\}
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

リーマン積分可能な関数はルベーグ積分可能

\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界な閉区間上に定義された有界関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が\(\left[ a,b\right] \)上でリーマン積分可能である状況を想定します。つまり、\(f\)の\(\left[ a,b\right] \)上における定積分\begin{equation*}\left( R\right) \ \int_{a}^{b}f\left( x\right) dx
\end{equation*}が有限な実数として定まるということです。この場合、\(f\)は\(\left[a,b\right] \)上においてルベーグ積分可能であるとともに、ルベーグ積分の値は定積分と一致することが保証されます。つまり、\begin{equation*}\left( L\right) \ \int_{\left[ a,b\right] }fd\mu =\left( R\right) \
\int_{a}^{b}f\left( x\right) dx
\end{equation*}が成り立つということです。

命題(リーマン積分可能な関数はルベーグ積分可能)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義された有界関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているものとする。\(f\)が\(\left[ a,b\right] \)上でリーマン積分可能であるならば、\(f\)は\(\left[ a,b\right] \)上でルベーグ積分可能であるとともに、以下の関係\begin{equation*}\left( L\right) \ \int_{\left[ a,b\right] }fd\mu =\left( R\right) \
\int_{a}^{b}f\left( x\right) dx
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

ルベーグ積分可能な関数はリーマン積分可能であるとは限らない(ディリクレの関数)

有界閉区間上に定義された有界関数がリーマン積分可能である場合にはルベーグ積分可能であるとともに、ルベーグ積分の値は定積分と一致することが明らかになりました。したがって、ルベーグ積分はリーマン積分の一般化です。

逆の主張は成り立つとは限りません。つまり、有界閉区間上に定義された有界関数がルベーグ積分可能である場合、その関数はリーマン積分可能であるとは限りません。以下の例より明らかです。

例(ディリクレの関数)
関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ 0,1\right] \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left[ 0,1\right] \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\in \mathbb{Q} \right) \\
0 & \left( if\ x\not\in \mathbb{Q} \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。これはディリクレの関数(Dirichlet function)と呼ばれる関数です。この関数\(f\)は\(\left[ 0,1\right] \)上においてルベーグ積分可能である一方でリーマン積分可能ではありません(演習問題)。

 

演習問題

問題(ディリクレの関数)
関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ 0,1\right] \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \left[ 0,1\right] \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\in \mathbb{Q} \right) \\
0 & \left( if\ x\not\in \mathbb{Q} \right)\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は\(\left[ 0,1\right]\)上においてルベーグ積分可能である一方でリーマン積分可能ではないことを示してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録