多変数関数の最大値と最小値
復習になりますが、実数空間\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合\(A\)が与えられたとき、その最大値\(\max A\)とは、以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \max A\in A \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in A:x\leq \max A
\end{eqnarray*}を満たす実数として定義されます。つまり、\(A\)の最大値とは\(A\)の任意の要素以上であるような\(A\)の要素に相当します。
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の値域は、\begin{equation*}f\left( X\right) =\left\{ f\left( x\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in X\right\}
\end{equation*}と定義されますが、これは\(\mathbb{R} \)の部分集合であるため、その最大値\begin{equation*}\max f\left( X\right)
\end{equation*}を考えることができます。これを関数\(f\)の\(X\)における最大値(maximum value of a function \(f\) on \(X\))と呼びます。定義より、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \exists x\in X:f\left( x\right) =\max f\left( X\right)
\\
&&\left( b\right) \ \forall x\in X:f\left( x\right) \leq \max f\left(
X\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立ちます。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域が、\begin{equation*}X=\left[ 0,1\right] \times \left[ 0,1\right] \end{equation*}である場合には、\begin{eqnarray*}
f\left( \left[ 0,1\right] \times \left[ 0,1\right] \right) &=&\left\{
f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ 0,1\right] \wedge y\in \left[ 0,1\right] \right\} \\
&=&\left\{ x+y\in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ 0,1\right] \wedge y\in \left[ 0,1\right] \right\} \\
&=&\left[ 0,2\right] \end{eqnarray*}であるため、\(f\)の\(\left[ 0,1\right]\times \left[ 0,1\right] \)における最大値は\(2\)です。一方、\(f\)の定義域が、\begin{equation*}X=\mathbb{R} ^{2}
\end{equation*}である場合には、\begin{eqnarray*}
f\left( \mathbb{R} ^{2}\right) &=&\left\{ f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\in \mathbb{R} \wedge y\in \mathbb{R} \right\} \\
&=&\left\{ x+y\in \mathbb{R} \ |\ x\in \mathbb{R} \wedge y\in \mathbb{R} \right\} \\
&=&\mathbb{R} \end{eqnarray*}であるため、\(f\)の\(\mathbb{R} ^{2}\)における最大値は存在しません。この例が示唆するように、関数\(f\)の最大値は定義域に依存して変化しますし、そもそも最大値は存在するとは限りません。
復習になりますが、実数空間\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合\(A\)が与えられたとき、その最小値\(\min A\)とは、以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \min A\in A \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in A:\min A\leq x
\end{eqnarray*}を満たす実数として定義されます。つまり、\(A\)の最小値とは\(A\)の任意の要素以下であるような\(A\)の要素に相当します。
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の値域は、\begin{equation*}f\left( X\right) =\left\{ f\left( x\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in X\right\}
\end{equation*}と定義されますが、これは\(\mathbb{R} \)の部分集合であるため、その最小値\begin{equation*}\min f\left( X\right)
\end{equation*}を考えることができます。これを関数\(f\)の\(X\)における最小値(minimum value of a function \(f\) on \(X\))と呼びます。定義より、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \exists x\in X:f\left( x\right) =\min f\left( X\right)
\\
&&\left( b\right) \ \forall x\in X:\min f\left( X\right) \leq f\left(
x\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立ちます。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域が、\begin{equation*}X=\left[ 0,1\right] \times \left[ 0,1\right] \end{equation*}である場合には、\begin{eqnarray*}
f\left( \left[ 0,1\right] \times \left[ 0,1\right] \right) &=&\left\{
f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ 0,1\right] \wedge y\in \left[ 0,1\right] \right\} \\
&=&\left\{ -x-y\in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ 0,1\right] \wedge y\in \left[ 0,1\right] \right\} \\
&=&\left[ -2,0\right] \end{eqnarray*}であるため、\(f\)の\(\left[ 0,1\right]\times \left[ 0,1\right] \)における最小値は\(-2\)です。一方、\(f\)の定義域が、\begin{equation*}X=\mathbb{R} ^{2}
\end{equation*}である場合には、\begin{eqnarray*}
f\left( \mathbb{R} ^{2}\right) &=&\left\{ f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\in \mathbb{R} \wedge y\in \mathbb{R} \right\} \\
&=&\left\{ -x-y\in \mathbb{R} \ |\ x\in \mathbb{R} \wedge y\in \mathbb{R} \right\} \\
&=&\mathbb{R} \end{eqnarray*}であるため、\(f\)の\(\mathbb{R} ^{2}\)における最小値は存在しません。この例が示唆するように、関数\(f\)の最小値は定義域に依存して変化しますし、そもそも最小値は存在するとは限りません。
最大値・最小値の定理
先に例示したように、一般に、多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)は定義域\(X\)において最大値や最小値を持つとは限りません。では、どのような条件のもとで\(f\)の最大値や最小値が存在するのでしょうか。順番に解説します。
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の定義域\(X\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であるとともに、\(f\)は定義域\(X\)上で連続であるものとします。このとき、\(f\)による\(X\)の像\begin{equation*}f\left( X\right) =\left\{ f\left( x\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in X\right\}
\end{equation*}が\(\mathbb{R} \)上のコンパクト集合になることが保証されます。
\(\mathbb{R} \)の部分集合がコンパクト集合であることは、それが有界な閉集合であることと必要十分です。いずれにせよ、以上の命題から以下を導くことができます。これを最大値・最小値の定理(extreme value theorem)と呼びます。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域\(\left[ -1,1\right]\times \left[ -1,1\right] \)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上のコンパクト集合です。また、\(f\)は多変数の多項式関数であるため連続です。したがって先の命題より、\(f\)は\(\left[ -1,1\right] \times \left[ -1,1\right] \)上で最大値と最小値をとるはずです。実際、\begin{eqnarray*}f\left( \left[ -1,1\right] \times \left[ -1,1\right] \right) &=&\left\{
f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ -1,1\right] \wedge y\in \left[ -1,1\right] \right\} \\
&=&\left\{ x^{2}+y^{2}\in \mathbb{R} \ |\ x\in \left[ -1,1\right] \wedge y\in \left[ -1,1\right] \right\} \\
&=&\left[ 0,2\right] \end{eqnarray*}であるため、\begin{eqnarray*}
\max f\left( \left[ -1,1\right] \times \left[ -1,1\right] \right) &=&2 \\
\min f\left( \left[ -1,1\right] \times \left[ -1,1\right] \right) &=&0
\end{eqnarray*}となります。
最大値・最小値の定理が要求する条件の吟味
最大値・最小値の定理はコンパクト集合上に定義された関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域上において連続であることを条件として要求しています。最大値・最小値の定理が主張する結論が真であることを担保する上でこの条件は必須なのでしょうか。順番に考えます。
繰り返しになりますが、最大値・最小値の定理は関数\(f\)がコンパクト集合上に定義された連続関数であることを要求します。\(f\)の定義域がコンパクト集合ではない場合、\(f\)は定義域上において最大値や最小値をとるとは限りません。以下の例より明らかです。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域が、\begin{equation*}X=\left( 0,1\right) \times \left( 0,1\right)
\end{equation*}である場合、これは\(\mathbb{R} ^{2}\)上のコンパクト集合ではありません。他方で、\(f\)は多変数の多項式関数であるため連続です。このとき、\begin{eqnarray*}f\left( X\right) &=&\left\{ f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in \left( 0,1\right) \wedge y\in \left( 0,1\right) \right\} \\
&=&\left\{ x+y\in \mathbb{R} \ |\ x\in \left( 0,1\right) \wedge y\in \left( 0,1\right) \right\} \\
&=&\left( 0,2\right)
\end{eqnarray*}となるため、\(f\)は\(X\)上で最大値や最小値をとりません。
関数\(f\)の定義域がコンパクト集合である一方で\(f\)が連続関数ではない場合にも、\(f\)は定義域上において最大値や最小値をとるとは限りません。まずは\(f\)が定義域の内点において連続ではない例を挙げます。
\begin{array}{cl}
x^{2}+y^{2} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left( 0,0\right) \right)
\\
1 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域が、\begin{equation*}X=\left[ -1,1\right] \times \left[ -1,1\right] \end{equation*}である場合、これは\(\mathbb{R} ^{2}\)上のコンパクト集合です。\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)とは異なる\(X\)上の点において連続ですが、\(X\)の内点である点\(\left( 0,0\right) \)において連続ではありません。このとき、\begin{eqnarray*}f\left( X\right) &=&\left\{ f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) \in X\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\}
\right\} \cup \left\{ f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right\} \\
&=&\left\{ x^{2}+y^{2}\in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) \in X\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\}
\right\} \cup \left\{ 1\in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right\} \\
&=&(0,2]\cup \left\{ 1\right\}
\end{eqnarray*}となるため、\(f\)は\(X\)上において最小値をとりません。
続いて、\(f\)が定義域の境界点において連続ではない例を挙げます。
\begin{array}{cl}
x+y & \left( if\ \left( x,y\right) \in X^{i}\right) \\
-1 & \left( if\ \left( x,y\right) \in X^{f}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(X^{i}\)は定義域の内部であり、\(X^{f}\)は定義域の境界です。\(f\)の定義域が、\begin{equation*}X=\left[ 0,1\right] \times \left[ 0,1\right] \end{equation*}である場合、これは\(\mathbb{R} ^{2}\)上のコンパクト集合です。このとき、\begin{eqnarray*}X^{i} &=&\left( 0,1\right) \times \left( 0,1\right) \\
X^{f} &=&X\backslash X^{i}
\end{eqnarray*}となります。\(f\)は定義域の内部\(X^{i}\)において連続ですが、定義域の境界\(X^{f}\)において連続ではありません。このとき、\begin{eqnarray*}f\left( X\right) &=&\left\{ f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) \in X^{i}\right\} \cup \left\{ f\left( x,y\right) \in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) \in X^{f}\right\} \\
&=&\left\{ x+y\in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) \in X^{i}\right\} \cup \left\{ -1\in \mathbb{R} \ |\ \left( x,y\right) \in X^{f}\right\} \\
&=&\left( 0,2\right) \cup \left\{ -1\right\}
\end{eqnarray*}となるため、\(f\)は\(X\)上で最大値をとりません。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域\(X\)が3つの点\(\left( -1,1\right) ,\left( 3,-1\right) ,\left( -1,3\right) \)を結ぶ三角形とその内部であるものとします。\(f\)は\(X\)上で最大値や最小値をとるでしょうか。議論してください。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(X\)は\(f\)の定義域です。\(f\)は\(X\)上で最大値や最小値をとるでしょうか。議論してください。
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